不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく

桜乃マヒロ

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旅行と祭りと壮行会と

傷心旅行の選択肢 後編

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『明日、もう一回聞いてみて』
「もう一回……?」
『今度は、最近悩んでる理由じゃなくて、目を合わせてくれない理由を、どうしてなのか』
「それは……」

 美咲は自分の答えを出した後、私に一つの道を示してみせた。
 頼りになる存在からの提案は、どこまでも正しく効率的で、そして同時に私には茨の道にも思えた。

「そんなすぐ……」
『でも、明日を逃すともうしばらく聞けなくなっちゃうよ』
「…………」
『修学旅行。明日を逃せば、もう明後日から三泊四日、護君とは会えなくなるんだからね?』

 修学旅行。
 その名前は今のところ、私にとって仕事を急がないといけない原因になった事や、護としばらく会えなくなった事、おまけにこれ以上ないくらい間の悪い時期に行われたりと、つくづく悪い印象しか持てないイベントだった。

『電話は出来るだろうけど、今回ばっかりは顔を突き合せて話した方がいいよ』
「それは……そうだろうけど」
『折角の旅行で、しかも三泊四日もあるのに、なにも解決しないまま旅行が始まっちゃうと全然楽しい旅も楽しめなくなっちゃうでしょ?』
「うん……」

 美咲は諭すように優しい声音で私を導いてくれる。
 それに、もし明日何とかできなければ、離れてしまった四日間はモヤモヤし続けたままだし、その間護にどんな変化があるか分かったもんじゃない。

『大丈夫。二人なら話せばきっとちゃんと誤解は解けるよ。護君に嫌われてないって確信できてたら、もう他に怖い事なんて何もないでしょ?』
「……でも、万が一があったら……、やっぱりちょっと怖いよ……」
「護君の気持ちに関してはあり得ないくらい自信過剰でいていいんだよ。護君は私のことが絶対に好きだって、盲信していい。私の知る限り、護君の柊和への想いはそれが正当になるくらい重くて真っ直ぐだった」

 美咲の言う通り、私と違って純粋な形だけど、護も私のことを好きでいてくれた。総じて評するならば、確かに護の想いは重いし直球だった。
 自分がシスコンであると言って憚らないし、むしろそうである事が正しいと信じ込んでいた節さえあって。
 でもだからこそ、そんな護が私にあんな表情を向けたことは酷く衝撃的だったわけだけど。

『折角の思い出を、傷心旅行にしたくないでしょ? もっと自分達の信頼に自信を持って、さっさと仲直りしちゃってよね』
「そっか、そうだよねぇ……うん、もうちょっと信じてみないとだよね……?」
『うん、そうするといいよ。それに、これは確信のない話ではあるんだけど……』
「……?」

 そう前置きして、まだ美咲は何か私に伝えようとしている。

『多分、護君も今、柊和と同じかそれ以上に悩んでるんじゃないかって思うんだ。じゃなかったら、護君が柊和にそんな顔を見せるなんて、まずあり得ないと思うから』
「護……も?」

 私は最初、美咲から確信のない話との前置きを聞いて何の気なしに耳を傾けた。
 けど、蓋を開けばことのほか無視できない内容で。

『もし本当に護君が今の柊和と同じ以上に悩んでるなら……柊和はその辛さも想像できるでしょ? なら、お姉ちゃんとしてすぐにでも救ってあげないとじゃない?』
「——っ‼︎」

 今日、美咲に色々と励ましてもらって、本当にたくさんの言葉をかけてもらったけど……。
 今の『護を救ってあげないと』って言葉が、これまでで一番、強く私の胸に自信と決意をもたらしてくれた。
 
「そっか……なら悩んでる暇なんか無いよね……」
『…………』
「ねえ美咲。私、『護のため』なら何をするのも怖くないよ……!」
『そっか、なら柊和──』

 本来の自分の在るべき姿勢を思い出し完全に立ち直った私に、美咲は最後の提案を私にする。

『明日に備えて今日はもう寝よう。流石に十二時過ぎに部屋押しかけてももう寝てるでしょ?』

 最後の提案……。

「…………」
『あれ? 聞こえてるー?』
「聞こえてる。それに言ってる事も分かるけど……なんか、折角盛り上がって来てたのに、すごい肩透かしかも」
『いいじゃん、さっきまでのウジウジした状況からみたら肩透かしを感じる余裕があるだけ凄い進歩でしょ?』
「そうだけどさぁ……」
『自信がついたのはいいけど、勢いで解決することでもなし。もし護君が悩んでるかもしれないなら、尚の事丁寧に真っ直ぐ向き合ってあげないとダメだよ。それで本当に悩んでたって分かれば、柊和は護君を悩み事、包み込んであげればいいの』

 私は美咲の言葉を受けて、少し感動に近い衝撃を覚えていた。
 だって……。

「美咲って……そんな大人っぽい余裕に溢れてたっけ? なんか、今までになく尊敬しちゃいそう……」
『それって褒めてるより、貶してる割合の方が大きいよね?』
「ちゃんと褒めてるよ! 本当にありがとう、おかげで明日は護とまた話す決心がついたから」   
『な~んだ。いつまでも柊和がウジウジしてたら、いよいよ私がお姉ちゃんの座を奪う時だと思ってたのに』
「そんなことさせないし!」

 護のことを異性として好きだと認めているくせに、美咲は未だ姉を目指しているらしい。
 まあ、私はそれを非難する方は出来ないんだけど。

『なんてね……。まあ、多分私じゃ何も出来ないと思うな。どう考えても柊和と護くんの問題だし、柊和が動かないんじゃどうしようもないよ』

 美咲は肩をすくめると、少し自嘲するような口調でそんなことを言う。
 言い終えると、少し寂しそうな顔をした。

『……私は……少し離れた位置にいるから、当事者の柊和よりもちょっと視野が広く俯瞰できてるだけだよ。私は、こうして柊和の相談に乗るので限界だから……』
「美咲……」

 少しだけ、美咲の声が沈む。
 本当は美咲だって護のことが好きなのに、なぜ私に遠慮して自分は控えるような真似をしているのか。

『ねえ柊和……明日はなんなら全部話し合ってきちゃってもいいからね』
「全部……?」
『私なら……傷心旅行になっても、ずっと前から覚悟はできてるから……ね?』

 この先何が起こると想定しているのか。
 美咲は決して教えてはくれないけど、その言葉の響きだけで、美咲の感情が私にも痛いほど伝わってくるようだった。
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