鉄風雷火のフレームライダー ~少女たちの機影は遥か~

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戦闘記録:「殲滅者《ヘルンヴォータ》が降ってくる」

舞い踊る鴉羽 対 射貫く鷹の目:Ⅱ

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 その砲撃を皮切りに、エッダの視界内に存在する敵機たちの行動が、勢いの消沈した状態から、積極的で統一性のあるものへと変化していく。
「不味いね。敵機の動きに勢いが戻っている……」
 投影される映像内で変化を続ける状況に、情報の修正のために手元の仮想キーボードを打ち始める。同時に、コルネールの視界の端に並んでいた表示が書き換わり、先程とは違うプランが複数提示された。
「一先ず、こんな感じになるね。砲撃を回避しつつ戦闘を継続する。かなり際どい部分があると思うけれど、まだ避けられないわけでもないから」
「了解しました。取り敢えずは、敵を倒し続ければいいと言うことよね?」
 そう言いながらコルネールは手元を動かし、目の前を走っていた戦車を腕部ブレードの一撃で焼き潰した。
「うん、それでいいと思う。でも短時間の戦闘に留めた方が良いかも知れない」
 コルネールが、機体を縦横に走らせながら敵機を潰している最中も、エッダは一切手を休めることなく仮想キーボードを打ち続け、先程の砲撃から得られたデータを分析する。
「さっきので分かったけど、狙ってきたMFモビルフレームのライダーは、こっちの移動先を予測して狙える技量を持ってる。どのくらいで目星を立てて弾道修正して来るかは不明だけど、急いだ方が良いのは確かだね」
「なら、ある程度数を減らしてから基地に後退する、で良いのかしら?」
「うん。向こうの目的が少しだけ不透明な所もあるけど。ともかく、砲撃が来る時はルートも伝えるから、回避は任せるよ?」
「はーい」
 穏やかに会話を終えた二人は、互いの行動指針に則った機体制御へと戻っていった。

 想定外の出来事で、速度こそ大きく鈍ったものの、黒いMFの持つ戦闘能力自体に問題はなく、前線に存在している戦車群やMLメタルレイバー群の数は着実に減らされていく。
「砲撃、来るよ!着地したら、前にジャンプすると見せかけて宙返りして!」
「また難しい注文ですわね!でも、アクロバットな動きも、嫌いじゃないわ!」
 その間に襲い来る精密砲撃も、エッダの分析に従い、機体性能の高さとコルネールの制御能力に物を言わせた、半ば強引な挙動によって回避し続ける。
 時に幅跳びのように、時に宙返りで、時に無理矢理に制動を掛けて。
「ぬ…うぅ! ?よ,よし!これで、四回目!敵の数はどう?」
 宙返りしたことで、上下が反転したコルネールの視界の向こう側で、先程回避した砲弾が地面に着弾。一瞬の放電現象の後、まるで大地が噴火を引き起こしたような爆炎を上げる。
 その砲弾の炸裂に伴う衝撃の余波で、機体が揺さぶられ、着地地点がわずかにずれた。
「ぐ……敵戦力、初期の六十パーセントにまで減少。もう少し減らしておきたいけど」
 しかし、振動で機体があおられ、視界が目まぐるしく変わるような中でも、エッダの分析と仮想キーボードへの打ち込みは鈍らない。
「おきたい、けど?」
「次の回避は厳しいかも知れない。さっきの砲弾、着弾位置が近いうえに、エネルギー放射榴弾だった。次は恐らく、さっきの砲弾を至近弾で撃ってくる……」
「やられるの?私たちが?」
 エッダの分析を聞きながら、コルネールの額から冷や汗が流れ始めた。
「いや。装甲の強度を考えれば、破壊は無いと思う。でも、戦闘継続は不可能になるね。それだけは避けないと」
「敵集団との距離も、いつの間にか離されてしまいましたから、これは退き時ですわね」
 コルネールは、装置に覆われた手足を動かし、自分への狙いだけは絞らせないように機体を動かし続ける。
「でも、基地への攻撃は大丈夫ですの?あのMFがもし基地も狙ってくるのなら……」
「いや、それは無いと思う。もしそれが狙いなら、とっくに私達を無視して基地を攻撃してるよ。多分、不測の事態への対処を依頼されてるだけなんだと思う」
「なるほど。それなら、妨害しかしていない行動にも辻褄が合いますわね」
 地形の起伏を利用して射線を切りながら、コルネール達は更に移動を続ける。
「さて。では次はどう動いたものかしら……」
 そして、エッダの行った様々な分析を加味し、次の行動へと移ろうとした、その時だった。
 コクピット内部に、飛翔体の接近を知らせるビープ音が鳴り響いた。
「ッ!警告!複数の飛翔体を確認!」
「複数ですの! ?」
 突然の警報と報告に驚くも、コルネールは機体の操作を止めることなく、次に予想される事態への対応に備えた。
「これは……多弾頭ミサイル!コルネール、地面すれすれの飛行で離脱を!射線が通らないように!」
「了解しましたわ!」
 エッダの指示に従い、コルネールは機体背部の砲撃用パーツを、全て推進力として利用できるように翼状に変形させる。同時に、腰部と脚部に備わっている飛行用補助ブースターに点火。青白い噴射炎を輝かせる。
(早く……、早く……!)
 視覚情報に映る戦域図に表示された飛翔体の反応が、刻一刻と自機に向けて迫っている様子を見据えながら、コルネールは祈りを呟く。
 すると、ふわりと機体が空中に浮遊し、翼状に展開した背部パーツにも徐々に白い噴射炎が輝き始める。
「点火終了。多弾頭ミサイルの危険域接近まで、あと二十秒!コルネール!」
「よし!全推進装置、緊急噴射!エッダ、舌を噛まないよう、歯を食いしばって下さいな!」
 気迫のこもったコルネールの言葉と同時に、機体は急発進。その影響で、二人の体が、ぐっとシートに向けて押し付けられる。
 二人の視覚映像には、相変わらず接近し続ける飛翔体の反応が点滅しており、低空飛行を始めた機体を的確に追従し続けていることを伝えている。
(地形の起伏が邪魔だけど、これを出たら間違いなく砲撃される。でも、今の状態だとミサイルを完全には避け切れない。弾頭次第では命中しても大丈夫だけど……)
 エッダは、飛翔体から全力で逃避する機体の情報を確認しながら、次に打つべき一手を、油断なく模索していく。
(いや駄目だ。エネルギー放射榴弾なんて特殊な兵装を使ってくるような相手だ。何の弾頭を積んでいるか分かったものじゃない。避けるしかない)
 けたたましく響き続ける警報を聞きながら、仮想キーボードを叩く。
 すると。
「エッダ!このままだと追いつかれる!次の起伏から一度顔を出して、一気に振り切るしかないわ!」
「駄目だよ。危険すぎる!もし直撃を受けたら……!」
「分かってますわ。砲撃とミサイルを両方受けて、まず行動不能ね。それでも……。ここは私を、信じて?」
「……」
 警報の轟音をかき消すような、コルネールの力強い声。
 そして、一瞬だけ止まる、仮想キーボードを打つ音。
「ふぅ……」
 その一瞬。わずかに出来た停滞が、エッダの思考に余裕を生んだ。
「ルートは示すけれど、確実とは言い切れない。良い?」
「ふっふー。そう来なくては!このコルネールにお任せ!」
 ため息混じりに口にされたエッダの言葉に、コルネールは心底嬉しそうに笑うのだった。

 同時刻。
 黒いMFに対して、砲撃による圧力を掛け続けていたクロエ達のコクピットに、相手の意外な反応が伝えられた。
「……クロエ。目標が高度を上げようとしています」
 どうにも理解できないという風情で、ゼラが送られてきたデータを読みあげる。
「ふふ、やっぱりねぇ。ほら、言った通りでしょ?ミサイルは、たまにこう言うブラフみたいな使い方も出来るんだよね」
 しかし、クロエの方は、まるで初めから黒いMFがそうすると分かっていた、と言うように、笑みを浮かべて見せた。
「確かに、これまでに使った砲弾の特殊性から、ミサイルの種類を警戒して全力で回避するかも知れない、とは思っていましたが。またリスクの高い方を選びましたね」
 ゼラは淡々と、状況を報告するように感想を口にした。
「なら、甘んじてこのトスを受けるとしましょうかね。当たれば大金星。外れてもまあ、私が悔しいだけで問題なし。さぁて?」
 その声を聴きながら、クロエは視覚映像に映っている砲撃用の照準へと目を向け、戦域図と同期した精密射撃の態勢へと入る。
 それに合わせ、機体の肩部に見える長大な砲塔が角度を変え、遥か彼方の獲物を見据えるように動いていく。
 そうして、十数秒後。その砲口から轟音と共に、一発の赤白色の光弾が放たれた。

 一方。
「砲撃警報!着弾まで、あと七!」
 エッダの声に、コルネールの手足に力が入る。額には冷や汗が浮かび、頬を伝って流れ落ちる。
「五……四……三……」
 カウントが進み、鼓動はそれ以上に速く進んでいく。
 頭の中で、この後に自分が取るべき行動を反芻する。
 そして。
「今っ!」
 黒いMFは翼を翻して空を舞い、飛来した赤白色の光弾と交錯した。

     ――――――――――――――――――――

 全ての作戦が終了して、少し経った後。
「これは。結果は痛み分けって感じかなぁ。こっちは進攻部隊の四十パーセント喪失して半壊状態。向こうは基地を維持できて万々歳って感じ?」
 敗走するように撤収していく部隊を見送りながら、クロエが呟く。
「私達も、依頼内容である『不測の事態への対応』も、殲滅者《ヘルンヴォータ》レプリカを撤退に追い込んだことで達成。向こうは渋々と言う感じでしたが」
 ゼラは、淡白に事実のみを口にしながら、仮想キーボードを打って事後処理用の資料を纏めている。
「はー……。いやー、まさかあれを紙一重で回避されるとか。侮ってたつもりはなかったけど、本物にも引けを取らない化け物だよ、あれは」
「ええ。あまり遭遇したくはない相手ですね。私達の狙撃をああも躱され続けては、弾薬が幾らあっても足りません。精進してくださいね、クロエ」
「ほーい……って。いやいや!あれは流石にノーカウントでしょ!」
「いいえ。クロエにはもっと上を目指してもらいたいので。その素地もあるのですから」
「はー。我が相方ながら、スパルタ教育で泣けてくるね。まあ、善処はするよ」
「そうしてください。今後も背中は、私が預かりますので」
 表情は隠れて見えないものの、そのゼラの声音は、何処か優しげに感じられた。
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