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ドワーフの怒り

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 プリシラはタップを抱いたまま、クサリで縛られているドワーフの側にしゃがみこんだ。

 プリシラが腕の中のタップに視線を向けると、タップはこころえたようにうなずいてから、プリシラの知らない言葉を話し出した。

〔よぉ、気分はどうだ?〕
〔・・・。お前は霊獣だな?何故愚かな人間などに加担している〕
〔俺は人間なんかに加担なんかしてねぇよ。俺はプリシラの味方なんだよ〕
〔プリシラ?〕
〔この人間の女だ。とっても心が綺麗なやつでよ、俺が守ってやらねぇと、危なっかしいんだ。おい、プリシラが聞きたがってる。ドワーフ族は何だって人間に危害を加える?〕
〔危害だと?!人間がどんどん森を切りひらいて、わしらの土地を奪ったのだ。わしらは人間を森から追い出そうとした。だが人間は数が多すぎる。わしはおめおめと人間に捕まってしまった。おい、霊獣。人間に伝えろ、わしらドワーフ族とエルフ族は死ぬまでこの森を守る。たとえ最後の一人となってもだ〕
〔エルフ族だって?お前ら犬猿の仲だろ?よく協力したな?〕
〔お互い利害が一致したのだ〕

 タップはドワーフと話してから、フウッとため息をついた。プリシラはドワーフとの話しが気になって、タップにせっついて聞いた。

「ねぇ、タップ。ドワーフさんは何と言っているの?」
『ドワーフたちはな自分たちの住んでいる森を守っているんだ。ドワーフ族はエルフ族と手を組んで、人間と戦うと言っている。こいつら一度決めたら死ぬまで攻撃をやめねぇぞ?プリシラ、人間たちに言って、森を奪うのをやめさせたらどうだ?』
「そうだったのね?ドワーフさんとエルフさんたちの住んでる森に私たち人間が踏み込んでしまったのね?それは私たちが悪いわ。ドリスさまとネリオさんに話してみるわ」

 プリシラはスクッと立ち上がると、ドリスとネリオに向かって話した。

「ドリスさま、ネリオさん。ドワーフさんは自分たちの住んでいる森を守るために戦っていると言っています。この森はずっと昔から、ドワーフさんとエルフさんの森でした。この森は、人間が踏み入ってはいけないのです。どうか兵士たちを撤退させてください!」

 ドリスは驚いたような顔をしてから、不安そうにネリオを見上げた。ネリオはくちびるを噛みしめながら答えた。

「プリシラ、それはできません。何故ならウィード国王がこの森を我が国の領土にすると決めたのです。私たちは国王の言う通りに森への進軍を続けるしかないのです」

 プリシラはヒュッと息を飲んだ。これではドワーフとエルフ、そして人間たちに多くの犠牲者が出てしまう。どうしたらよいのか、プリシラが立ち尽くしていると、突然若い兵士が剣を振り上げ、ドワーフに向かって来た。

「俺たちはお前らなんかに負けない!ギリムの仇!」

 若い兵士は身動きの取れないドワーフに斬りかかろうとしているのだ。プリシラはそう理解した瞬間、抱いているタップをとなりにいたエスメラルダに渡し、ドワーフにおおいかぶさった。
 
 
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