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盛平

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ヴイヴィアンとアスラン

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 あかりはすっとんきょうな声をあげて言った。

「アスランのお姉さん!どうしてこんな所に?」

 アスランの姉ヴイヴィアンは、東へ行くと言って猛然と西に走って行ってしまったはずだ。ヴイヴィアンと出会った場所より東にあるトーリャの街に彼女がいるはずないのだ。ヴイヴィアンは笑顔で答えた。

「ああ、真っ先に東へ進まなければならなかったのだか、西の方にあるカゴという街の冒険者協会から依頼が来てな。ならばカゴの依頼を先に片付けようと西に進んだはずなんだが、ここはカゴの街ではなくトーリャの街だというのだ。全く解せぬ」
「・・・」

 ヴイヴィアンの話にあかりは言葉を失った。どうやらヴイヴィアンは、アスランの言う通りものすごい方向音痴のようだ。ヴイヴィアンの話をよく聞いてみると、ヴイヴィアンは勇者の称号を二つ獲得しているため、冒険者協会からの信頼は厚く依頼が引っ張りだこなのだそうだ。

 冒険者協会からの依頼はどうやってくるのかと聞くと、各町の冒険者協会はアスランの魔法の伝書鳩を数羽保有して、ヴイヴィアンに依頼をするらしい。ヴイヴィアンは忌々しげに言う。

「カゴの冒険者協会の奴ら、手紙を読んだらその場で待っていろなどとぬかしおって。私は迷子になるほど子供ではないわ!」

 ヴイヴィアンの言葉にあかりは苦笑いした。きっとヴイヴィアンに依頼をした冒険者協会は、ヴイヴィアンが方向音痴で協会にも、依頼した目的地にも着けないでいる事にいつも困っているのだろう。あかりはヴイヴィアンをカゴの街に送るため、ティグリスにお願いしようとすると、ヴイヴィアンがあかりにある提案した。

「ここで会ったのも何かの縁だ。娘、着いてこい」

 あかりたちはヴイヴィアンに連れられて食堂に入った。ヴイヴィアンがあかりにご馳走してくれたのは、そば粉を薄く伸ばして焼いたクレープに、色とりどりのフルーツをのせて、はちみつをかけたスイーツだった。山育ちのあかりはこのような美味しいお菓子を食べたのは初めてだった。嬉しくて大声で美味しいと叫んでしまった。

 それを見た、あかりの向かいに座っていたヴイヴィアンは優しく微笑んだ。その笑顔はとても美しくて、あかりは思わず見とれてしまった。あかりが最初に見た、弟のアスランに向けていた猛々しい笑いとはまるで違っていた。ヴイヴィアンはアスランと姉弟というだけあってよく似ていた。そして魔法薬で女性になったアスランとそっくりだった。ヴイヴィアンはあかりに名をたずねた。

「メリッサです。あの、ヴイヴィアンさん」
「ヴイヴィでいい。弟が世話になったようだな。礼をいう」

 あかりはヴイヴィアンにもう一度会って確信した事があった。それをおずおずとヴイヴィアンに質問してみた。

「あの、ヴイヴィはどうしてアスランを憎んでいるような態度をとっているの?本当はアスランの事大好きでしょうがないのに」

 ヴイヴィアンは、あかりの質問に一瞬驚いた顔をしてから豪快に笑って言った。

「ははっ何故そう思う。メリッサ」
「私にも弟がいるからわかるわ。ヴイヴィはアスランが強くなってくれてとても嬉しいの。アスランが気弱で剣を振るえないんじゃないかって心配で仕方ないんだわ」

 ヴイヴィアンはニヤリと笑ってから言った。

「たとえ私が弟を大切に思っていようと、アスランはそうは思っておるまい。私がアスランに私を恨むよう仕向けたのだからな」

 あかりは理由がわからず、どうしてという顔になった。それを察したヴイヴィアンが言葉を続けた。

「アスランが普通の子供だったならば、私はアスランを弟として慈しんだだろう。だがアスランは普通の子供ではなかった。私は父から将来勇者になるべく厳しく育てられていた。あの時は私が六歳、アスランが三歳の時だった。私とアスランは母に頼まれて、森に薬草を採りに行ったのだ。だがどういう訳か、母といつも行っている森なのに、私たちは道に迷ってしまったのだ」

 あかりはヴイヴィアンの話を聞きながら思った。そんな小さな頃もやはり方向音痴だったのだなと。ヴイヴィアンは苦笑いしたあかりに構わず話を続ける。

「私は幼いアスランの手を引いて何とか帰り道を探そうとした。だがどんどん山深い場所まで分け入ってしまっていた。途方にくれていると、林からガサガサと音がして、一頭の大きな猪が出て来たのだ。その猪は、一目で興奮しているのがわかった。私たちを威嚇しているようだった。私は腰に下げていた模擬刀を抜いて、剣を構えたが恐怖のあまり身体が震えていた。だが幼い弟を守らなければ勇者ではないと、必死に構えていた。猪は私たちに向かって一気に突進して来たのだ。その時私は一瞬で頭が真っ白になってしまった。すると私の後ろにいたアスランが私の前に飛び出し、猪めがけて走りだしたのだ。そして高く跳躍すると、猪に一太刀浴びせたのだ。猪はその場に倒れた。倒れた猪を見たアスランはワーワー泣きだした。私はアスランがケガをしたのかと思い、慌てて駆け寄った。アスランにどうして泣いているのか聞くと、猪をケガさせてしまって可哀想だと泣いていたのだ。私はアスランを見て驚いた、アスランが猪を倒すために持っていた物は、小さな小枝だったのだ。私は母から治癒魔法を習っていたので魔法で猪を治した。ケガか治った猪は森に帰っていった。その後ろには小さな子供の猪が数頭いたのだ。猪は子供を守るため私たちを追い払おうとしたのだ」

 ヴイヴィアンの話を聞いたあかりが口をはさんだ。

「アスランはそんな小さい頃から強かったのね」
「ああ、アスランは二歳の頃から父の手ほどきを受けていたが、そんなに物覚えのいい子供ではなかった。だが猪を倒した時のように、その場に守る対象がいればものすごい力を発揮できる子だった。父も私も、アスランは将来すごい勇者になるだろうと思い厳しく育てた。だがアスランの甘さと気の弱さはちっとも治らなかった」

 そう言うとヴイヴィアンは寂しそうに笑った。あかりはヴイヴィアンに向かって口を開いた。

「ヴイヴィ、確かにアスランは人を傷つけるのを怖がるわ、でもアスランは強いだけじゃない。強くて優しい人よ」

 ヴイヴィがあかりを見ると、少し驚いて、そして笑って言った。

「メリッサ、アスランを好いてくれているのだな」
「ええ私アスランの事好きよ。アスランは私の弟みたいなの、臆病で弱虫。だけどとっても優しいの」
「・・・、弟?。まぁそうだな。アスランは情けないものな」

 あかりの言葉にヴイヴィアンはガックリしたような顔をしてから困ったように笑った。何か落胆させてしまったようだが仕方がない。本当はアスランの事を姉のように思っているとは言えない。ヴイヴィアンは話題を変えた。

「時にメリッサと一緒にいた黒髪の男は何者だ?」
「グリフの事?彼は魔法使いよ?」
「そうか、アスランとは歳も近そうだ。よき友となってくれたらよいな」

 あかりは返事ができなかった。グリフは見た目よりも大分歳を取っているだろうし、グリフとアスランはとても仲が悪いのだ。あかりが口ごもっていると、ヴイヴィアンは何かを察したのか、笑って言った。

「ああ、アスランとグリフはライバルなのだろうな?メリッサを取り合う」
「そうなの、私をだしにしていつもケンカするの」

 ヴイヴィアンはクスクス笑って答えた。

「それはメリッサが可愛いから仕方がないな」
「私、可愛くなんかない!」

 あかりは思わず大きな声が出てしまい、目の前のヴイヴィアンを驚かせてしまった。あかりはヴイヴィアンに詫びてから言葉を続けた。

「可愛いっていうのは、金髪で青い瞳のヴイヴィみたいな人の事を言うんだよ」

 あかりの言葉にヴイヴィアンは一瞬びっくりした顔をしてから、優しく微笑んだ。


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