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盛平

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ティティア

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 ティティアはとても貧しい少女だった。ティティアの母は病弱で、ティティアの父は、母の薬代のために必死に働いた。だが母の薬代はとても高価で、おいそれと買えるものではなかった。父の働きも虚しく、ティティアが幼い時母は亡くなった。父は働く気力を失ってしまったようで、しばらくして母の後を追うように亡くなった。ティティアは天涯孤独になってしまった。

 ティティアは孤児院を転々として大きくなっていった。ティティアは不幸な身の上だったが、ただ一つ誇れるものを持っていた。ティティアはとても美しい少女だった。ティティアが自身の美しさに気がついたのは、孤児院での壮絶なイジメからだった。

 ティティアは孤児院の少女たちから執拗なイジメを受けていた。当初ティティアは、どうして自分ばかりイジメられるのかわからず泣いていたが、次第に状況が飲み込めてきた。孤児院の少女たちがティティアをイジメると、孤児院の少年たちがティティアを助けてくれるのだ。そこでティティアは気づいたのだ、まさに天啓といっても良かった。私は美しい。

 ティティアは自身の美しさを証明するため、孤児院の少年に命令したのだ。私をイジメるあの女をこらしめて、と。その少年はティティアの指示通り、ティティアをイジメていた少女に暴力をふるったのだ。その少年は暴力が原因で孤児院を追い出された。ティティアをイジメていた少女は、ティティアを恐れてイジメをする事はなくなった。ティティアは孤児院の頂点に君臨したのだ。

 ある時ティティアは養女にもらわれる事となった。養父は脂ぎった金持ちの男だった。その時ティティアがいた孤児院は、子供たちの養い親を積極的に探していた。だが本当は、この孤児院は売れそうな美しい子供を金持ちに売っていたのだ。孤児院はティティアを売って金を得たのだろう。

 ティティアは金持ちの養父の元で教育を施され、淑女としてのマナーを叩き込まれた。ティティアは誰もが息を飲む美しい女性になった。ティティアの養父は金で男爵の爵位を得ていたので、ティティアを社交界にも連れて行った。そこである子爵と知り合った。

 その子爵は高齢だったが領地も有していた。ティティアはこの子爵に目をつけた。ティティアは養父である男爵をたきつけて子爵への仲立ちを頼んだ。すでに養父の男爵は、ティティアの思いのままだった。男爵は泣く泣くティティアを子爵の愛人にする事にした。

 ティティアは子爵を籠絡して、子爵の夫人と子供たちを追い出して、自らが子爵夫人にのし上がった。そして高齢な子爵が亡くなった後、子爵の全てはティティアの物になった。子爵は領土の中にトーリャという街を有していて、その領主でもあった。

 ティティアは女領主になったのだ。だがティティアは土地を治める事などできない。かねてより愛人にしていた子爵の腹心だった部下に統治を任せ、ティティアは莫大な資金力で美しいドレスや宝石を買いあさった。だがティティアの行動は、思わぬ副産物を生んだ。トーリャの街は、商業が盛んになり、トランド国の東では特に発展した街になったのだ。

 ティティアはこの世の春を謳歌していた。だが順風満帆のティティアに暗い影を落とし始めた。美の化身のようなティティアにも抗えないものがあった。それは老いだ。ティティアは国中の美容の薬や方法を探し求めた。だが結果ははかばかしくなかった。

 ティティアは自身の豪華な部屋の椅子に座り、手鏡の中を覗き込んでいた。この間より目元のシワが深くなっているようだ。ティティアは怒りのあまり手に持っていた手鏡を壁に叩きつけた。ガシャンと音がした後、ティティアが顔を上げると、そこには深くローブを被った老人が立っていた。突然現れた老人に、ティティアは怒りのまま叫んだ。

「無礼な!誰の許しを得てここに入った?!」

 ローブの老人は怒るティティアにものともせずしわがれた声で話し出した。

「ティティアさま、私は貴女の願いを叶えられる者です」
「わらわの願いだと?」
「はい、永遠の若さと美しさをお約束します」
「な、何!できるのか?」
「勿論でございます。魔物と契約すれば」
 
 ティティアはこの老人に初めて恐怖を覚えた。部屋の鍵はしっかりとかけていた。それなのにこの老人はドアを壊す事もなく室内に入ってきたのだ。どう考えても異常だ。だが同時に抗いがたい誘惑にもかられた。永遠の若さと美しさ。ティティアが喉から手が出るほど欲しいものだ。ティティアはゴクリとツバを飲み込んでから老人に言った。

「そのほうの望みはなんだ?」
「はい、ティティアさまのお命でございます」
「な、なんじゃと!」

 老人はクスリと笑って言った。

「いえすぐにとは申しませぬ。ティティアさまの寿命が尽きてから魂をいただくのです。ティティアさまは寿命が尽きるまで若さと美しさを保つ事ができるのです」

 ティティアは考えた、死んでしまったら何も残らない。ティティアはこの世の最期の日まで楽しく暮らしたいのだ。悲しいだけで死んでしまった両親のようにはなりたくなかった。ティティアは老人の申し出を承諾した。

 ティティアは老人のうながすままに、魔法陣の上に立ち、老人の呪文を復唱した。すると激しい光がティティアを包んだ。あまりの眩しさに、ティティアは固く目をつむった。しばらくしてティティアが恐る恐る目を開くと、光は消えていた。

 老人が気分はどうかと聞く。ティティアは身体の中から力が溢れ出しそうになるのを感じた。老人がティティアに手鏡を手渡す。それは先ほどティティアが叩き割った手鏡だった。ティティアは手鏡を覗き込んで、息を飲んだ。ティティアの肌は朝露を受けた果物のように水々しく、張りがあった。ティティアは若さを手に入れたのだ。

 ティティアが手に入れたのは若さと美しさだけではなかった。ある時ティティアの元に、生糸の販売の許可を求める商いの男がたずねて来た。ティティアが何気なくその商いの男を見ると、その男はとても美しかった。トーリャの街では珍しく黒い髪と黒い瞳をしていた。ティティアは、この男が欲しくてたまらなくなった。

 するとおかしな事に、それまでしきりに自分の買い付けた生糸の良さを話していた男が急に動きを止めたのだ。ティティアが不思議そうに男を見ていると、男はイスからスクッと立ち上がった。そしてティティアの足元にひざまずくと、ティティアの手をとって口づけをして言った。

「美しいティティアさま、私は貴女の奴隷です」

 男は全く感情のこもらない瞳でティティアを見つめたのだ。ティティアはおかしくなってクスクス笑いだした。そしてその笑いは高らかと室内にこだました。

 それからというもの、ティティアは街にいる好みの男を館に招いては奴隷にしていった。その数が増えるに従って、ティティアの仕事のパートナーである子爵の部下が苦言をていするようになった。

 この男はティティアの元愛人であり、事実上トーリャの街を支配していた。そのためティティアに意見する事も多かった。ティティアはこの男がうとましくなっていたが、街を治めるためにはこの男が不可欠だ。ティティアは男をにらんだ。すると、男の目は途端に濁って動かなくなった。そしてゆっくりした動作で膝をついて言った。

「ティティアさまのご意思のままに」

 これでティティアに意見する者は誰もいなくなった。
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