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女領主の疑惑
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あかりの指摘にグリフとアスランは初めて顔の痛みに気づいたようで、パンパンに晴れた顔に自ら治癒魔法をほどこし、二人共元のハンサムな顔に戻った。さてこれから皆で宿を探そうとしていた所、突然グリフの服の袖を掴んだ人物がいた。
「トビー!探したのよ!」
その人物は若い女性だった。グリフは一瞬驚いた顔をしたが、相手が若く美しい女性だとわかると途端に笑顔になって言った。
「どうしましたか?お嬢さん」
女性は、グリフが探していた相手ではない事に気づき落胆した表情で謝ってきた。女性のただならない様子に、グリフは訳を聞くべく彼女を市場から離れた噴水のある広場のベンチに座らせた。
彼女の名前はサーラと言った。この街の出身で、花屋をやっていた。サーラには婚約者がいた。その青年トビーは絹織物の行商を生業にしていた。トビーがある時彼女に言ったのだ。トーリャの女領主は美しいものに目がないから、自分の仕入れた絹織物を買ってもらおうと。その売ったお金を結婚資金にしようと言われたのだ。サーラは婚約者のトビーの提案に軽い気持ちでうなずき、彼を送り出したのだ。所が、トビーは領主の屋敷に行ったきり待てど暮らせと帰ってこないのだ。
あかりは悲しみのあまりうなだれているサーラか可哀想で彼女に質問した。
「ねぇサーラ、トビーはグリフに似てるの?」
サーラは涙を浮かべた顔でグリフを見てから言った。
「ええ、彼は黒髪の長身なの。だからこの人の後ろ姿を見て勘違いしてしまったの」
グリフはサーラの足元にひざまずき、彼女の手を取って言った。
「美しいお嬢さん。貴女に涙は似合いませんよ。そうだ、こう考えてはどうでしょう。貴女の婚約者はお金を稼ぐために長い旅に出た。いつ帰るかわかりません。貴女はもっと気楽に彼を待ったらいい。もし気になる男性に声をかけられたら、誘い乗ってみるのもいいですよ」
グリフの言葉にサーラの瞳は次第にぼんやりし出した。グリフは話し終わるとパチンッと指を鳴らした。するとサーラはハッと我に返ったようだ。そしてサーラはベンチから立ち上がると、明るい声であかりたちに言った。
「そうね、くよくよしていてもしょうがないわよね!トビーの事は気楽に待つ事にするわ。話を聞いてくれてありがとう」
そう言ってサーラは気分良く帰って行った。あかりは彼女の後ろ姿をポカンと見つめていた。アスランがグリフの胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「グリフ!何で彼女に違う記憶を植えつけたんだ?!」
「はぁ?決まってんだろ、そんなの」
グリフはアスランの掴んだ手を振り払うと、あかりを呼んだ。
「メリッサ、こっちにおいで」
あかりがグリフの近くに行くと、くるりと向きを変えられ、あかりはグリフに背中を向ける形になった。グリフは大きな手であかりの耳をふさいだ。おそらくあかりに聞かせたくない話なのだろう。グリフはアスランに何か言った。
「トビーがどうなったかなんて明らかだろう?トビーは若い男ざかりだし、女領主は歳をとっていてもすげぇ美人なんだ。ねんごろになったって事だろう」
グリフは小声でアスランに言ったので、あかりには聞こえなかった。だがあかりは前世の記憶があり、二十歳だった前世と、現世の六年間を足せば、あかりの精神年齢は二十六歳になる。グリフが言いにくい事にも察しがつく。つまりサーラの婚約者トビーは、女領主と愛人関係になったから帰ってこないのだとグリフは考えているのだ。アスランは理解できないのか首をかしげている。
「ネンゴロつてとういう意味だい?グリフ」
「はぁ?何でわかんねぇのかわかんねぇよ!なぁアポロン!お前のご主人なんでこうなったの?!」
『二十年間山奥で剣の修行だけしてたらこうなった』
グリフがアポロンに大声で聞いている。アポロンは何か答えたのだろうが、グリフに耳をふさがれたあかりには聞こえなかった。
とりあえずあかりたちは宿を探そうと歩き出した。しばらくすると、グリフの服の袖を誰かが掴んだ。
「探したのよエリック!」
驚いたグリフが振り向くと、若い女性は落胆したように顔を下に向けた。グリフは引きつった顔で女性に質問した。女性は涙ながらに話し出した。
女性の名前はマイヤといった。マイヤの恋人が、女領主の屋敷に行ったまま帰ってこないというのだ。アスランはグリフに言った。
「グリフ、どうやらネンゴロではなさそうだぞ?」
「黙ってろアスラン!」
あかりはうなだれているマイヤに聞いた。
「ねぇマイヤ。エリックとグリフは似ているの?」
「ええ彼は黒髪の長身で、この人の後ろ姿を見て勘違いしてしまったのよ」
グリフに似た男性が二人も行方不明になるとは。しかも女領主の屋敷に行ったまま帰らないのはどう考えてもおかしい。あかりたちはトーリャの冒険者協会に足を運んだ。
やはり冒険者協会の依頼を確認すると、行方不明者捜索の依頼がかなりの量をしめていた。グリフが受付のヒゲ面の男に確認する。
「おい、何でこんなに行方不明者が出ているのにそのままにしておくんだよ?!」
協会の受付の男は面倒臭そうにグリフに答えた。
「このトーリャではティティアさまは女王さまなんだよ。ティティアさまの屋敷に行ったまま男が何人も帰ってこなくても俺たち街の人間はどうしようもないの。そういゃあ行方不明者の多くは黒髪で黒い目の、あんたみたいな男前だそうだよ?ティティアさまの屋敷に行ってみたら真相がわかるかもな。まぁ帰ってこれるかわからねぇけどな」
受付のヒゲ面の男はグリフを見てニヤニヤと笑った。グリフは男をにらみながら言った。
「よし!この依頼受けてやる!」
「トビー!探したのよ!」
その人物は若い女性だった。グリフは一瞬驚いた顔をしたが、相手が若く美しい女性だとわかると途端に笑顔になって言った。
「どうしましたか?お嬢さん」
女性は、グリフが探していた相手ではない事に気づき落胆した表情で謝ってきた。女性のただならない様子に、グリフは訳を聞くべく彼女を市場から離れた噴水のある広場のベンチに座らせた。
彼女の名前はサーラと言った。この街の出身で、花屋をやっていた。サーラには婚約者がいた。その青年トビーは絹織物の行商を生業にしていた。トビーがある時彼女に言ったのだ。トーリャの女領主は美しいものに目がないから、自分の仕入れた絹織物を買ってもらおうと。その売ったお金を結婚資金にしようと言われたのだ。サーラは婚約者のトビーの提案に軽い気持ちでうなずき、彼を送り出したのだ。所が、トビーは領主の屋敷に行ったきり待てど暮らせと帰ってこないのだ。
あかりは悲しみのあまりうなだれているサーラか可哀想で彼女に質問した。
「ねぇサーラ、トビーはグリフに似てるの?」
サーラは涙を浮かべた顔でグリフを見てから言った。
「ええ、彼は黒髪の長身なの。だからこの人の後ろ姿を見て勘違いしてしまったの」
グリフはサーラの足元にひざまずき、彼女の手を取って言った。
「美しいお嬢さん。貴女に涙は似合いませんよ。そうだ、こう考えてはどうでしょう。貴女の婚約者はお金を稼ぐために長い旅に出た。いつ帰るかわかりません。貴女はもっと気楽に彼を待ったらいい。もし気になる男性に声をかけられたら、誘い乗ってみるのもいいですよ」
グリフの言葉にサーラの瞳は次第にぼんやりし出した。グリフは話し終わるとパチンッと指を鳴らした。するとサーラはハッと我に返ったようだ。そしてサーラはベンチから立ち上がると、明るい声であかりたちに言った。
「そうね、くよくよしていてもしょうがないわよね!トビーの事は気楽に待つ事にするわ。話を聞いてくれてありがとう」
そう言ってサーラは気分良く帰って行った。あかりは彼女の後ろ姿をポカンと見つめていた。アスランがグリフの胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「グリフ!何で彼女に違う記憶を植えつけたんだ?!」
「はぁ?決まってんだろ、そんなの」
グリフはアスランの掴んだ手を振り払うと、あかりを呼んだ。
「メリッサ、こっちにおいで」
あかりがグリフの近くに行くと、くるりと向きを変えられ、あかりはグリフに背中を向ける形になった。グリフは大きな手であかりの耳をふさいだ。おそらくあかりに聞かせたくない話なのだろう。グリフはアスランに何か言った。
「トビーがどうなったかなんて明らかだろう?トビーは若い男ざかりだし、女領主は歳をとっていてもすげぇ美人なんだ。ねんごろになったって事だろう」
グリフは小声でアスランに言ったので、あかりには聞こえなかった。だがあかりは前世の記憶があり、二十歳だった前世と、現世の六年間を足せば、あかりの精神年齢は二十六歳になる。グリフが言いにくい事にも察しがつく。つまりサーラの婚約者トビーは、女領主と愛人関係になったから帰ってこないのだとグリフは考えているのだ。アスランは理解できないのか首をかしげている。
「ネンゴロつてとういう意味だい?グリフ」
「はぁ?何でわかんねぇのかわかんねぇよ!なぁアポロン!お前のご主人なんでこうなったの?!」
『二十年間山奥で剣の修行だけしてたらこうなった』
グリフがアポロンに大声で聞いている。アポロンは何か答えたのだろうが、グリフに耳をふさがれたあかりには聞こえなかった。
とりあえずあかりたちは宿を探そうと歩き出した。しばらくすると、グリフの服の袖を誰かが掴んだ。
「探したのよエリック!」
驚いたグリフが振り向くと、若い女性は落胆したように顔を下に向けた。グリフは引きつった顔で女性に質問した。女性は涙ながらに話し出した。
女性の名前はマイヤといった。マイヤの恋人が、女領主の屋敷に行ったまま帰ってこないというのだ。アスランはグリフに言った。
「グリフ、どうやらネンゴロではなさそうだぞ?」
「黙ってろアスラン!」
あかりはうなだれているマイヤに聞いた。
「ねぇマイヤ。エリックとグリフは似ているの?」
「ええ彼は黒髪の長身で、この人の後ろ姿を見て勘違いしてしまったのよ」
グリフに似た男性が二人も行方不明になるとは。しかも女領主の屋敷に行ったまま帰らないのはどう考えてもおかしい。あかりたちはトーリャの冒険者協会に足を運んだ。
やはり冒険者協会の依頼を確認すると、行方不明者捜索の依頼がかなりの量をしめていた。グリフが受付のヒゲ面の男に確認する。
「おい、何でこんなに行方不明者が出ているのにそのままにしておくんだよ?!」
協会の受付の男は面倒臭そうにグリフに答えた。
「このトーリャではティティアさまは女王さまなんだよ。ティティアさまの屋敷に行ったまま男が何人も帰ってこなくても俺たち街の人間はどうしようもないの。そういゃあ行方不明者の多くは黒髪で黒い目の、あんたみたいな男前だそうだよ?ティティアさまの屋敷に行ってみたら真相がわかるかもな。まぁ帰ってこれるかわからねぇけどな」
受付のヒゲ面の男はグリフを見てニヤニヤと笑った。グリフは男をにらみながら言った。
「よし!この依頼受けてやる!」
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