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女領主の屋敷への潜入

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 翌日あかりたちはトーリャの女領主の屋敷に行く事にした。冒険者がゾロゾロと屋敷をたずねるのはカドが立つ。グリフは商人の一行として屋敷に行く事を提案した。グリフが商人で、アスランは用心棒、あかりは商人の娘という役どころだ。

 グリフは土魔法で自身の服を裕福な商人の姿に変えた。金持ち然とした姿はグリフによく似合っていた。グリフは土魔法で美しい絹織物を取り出し、馬車を出し、アポロンに引かせた。ティグリスとグラキエースは馬車の中で待機する事になった。


 グリフたち商人一行が女領主の屋敷に到着すると、門番がグリフを止め、何用かたずねる。グリフは前もって決めておいた事を話した。自分はここから西のカゴの街で商売をしていて、トーリャの評判を聞いて、この街でも商売をすべく女領主に取り次いでほしいと説明した。

 しぶる門番に、グリフはすばやく金貨を握らせた。門番の顔色がニヤリと笑顔になる。門番が屋敷の中に入り、しばらくすると中へ通された。グリフは女領主への手土産の絹織物を小わきにかかえ、アスラン、メリッサを連れて女領主の待つ部屋に入った。

 女領主の部屋に入って驚いた。そこは大きな広間で、奥に豪華な椅子が一脚あり、そこにしなだれかかるように一人の女が座っていた。まるで女王だ。グリフは内心で舌打ちをする。グリフたちは女王然とした女領主ティティアの前まで行くとうやうやしく膝をついて低頭した。グリフは芝居がかった声で言った。

「ティティアさまお初にお目にかかります、噂にたがわぬ美しさだ。わたくしは絹織物の商いをしておりますグリフと申します。こちらが娘のメリッサ、こちらが用心棒のアスランと申します」

 グリフは女領主への手土産の絹織物を使用人に手渡した。その使用人は、黒髪で黒い瞳の美しい青年だったが、瞳はにごっていて生気がまるで感じられなかった。ティティアは使用人から絹織物を受け取り、一べつしてから使用人に持たせた。ティティアはおうように言った。

「グリフとやら、このトーリャで商いをしたいそうだな」
「はい、トーリャの街の繁栄もティティアさまの手腕もカゴの街では評判になっております」

 グリフは顔を上げてティティアを見てギクリとした。ティティアはグリフの顔をジッと見ていた。まるで品定めをされているような、いやそれよりも悪い、肉食動物が小さな草食動物を見る目だ。

 トーリャの女領主ティティアは確かに人間離れした美しさだ。ティティアの年齢はもう四十を越えているはずだが、肌の美しさは十代の娘のように水々しい。それが返って不自然だ。それに、グリフが鑑定魔法でティティアを見た途端、背中がゾクゾクと寒くなった。ティティアの潜在魔力は人間のそれをはるかに超えていた。間違いない、ティティアは魔物と契約して人ならざる者になっているのだ。

 ティティアはグリフを見てニヤリと笑うと口を開いた。

「グリフとやら。そなたの黒い髪、黒い瞳、とても美しい。それにとなりの金髪に青い瞳の男も美しいな。特別に二人共わらわのコレクションに加えてやろう」

 グリフとティティアの会話はまったく噛み合わない、それがさらに恐怖を助長させる。グリフはゾッと肝が冷えるのがわかった。すると横で片膝をついていたアスランがグリフに言った。

「なぁグリフ、この人は姉さんに似てないぞ?」

 突然のアスランの言葉にグリフは、はぁっ?と声を荒げた。アスランは、グリフがイライラしている事にまったく気づかず話を続ける。

「グリフは僕の姉さんを見て美人と言ったじゃないか?だけどこの人の事も美しいと言った。だけどこの人と姉さんはちっとも似ていない」

 グリフはアスランの事をぶん殴りたかった。この緊急時に、何を訳の分からない事を。メリッサが小声でアスランに説明している。

「ねぇアスラン。美人っていうのは一人の人に言う言葉じゃないよの。美しい女の人の総称なの。だからグリフはヴイヴィも美人と言うし、ティティアさんも美しいって言ったのよ」

 アスランはやはり納得がいかないのか首をかしげていた。そしてとんでもない事を言い出した。

「僕はこのティティアって人を美しいとは思わないなぁ。何かとても嫌な感じがする」

 グリフは心の中で大声で叫んだ。アスランの大馬鹿野郎、と。アスランのとなりに膝をついているメリッサも顔がこわばっている。ティティアを見ると、美しい顔を歪めてアスランをにらんでいた。その視線にまったく気がつかないアスランはまた口を開いた。

「僕が美人と思うのはメリッサだな!メリッサは美人で心もとっても綺麗だ」

 アスランはそう言って、横で顔を引きつらせているメリッサの頭を優しく撫でた。グリフだってそう思う、メリッサはとても可愛いくて将来きっとすごい美人になるだろう。だが、それを言うのは今じゃなくていいだろう。



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