見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平

文字の大きさ
67 / 118

現在のグリフ

しおりを挟む
 グリフはアーニャと同じ、黒い髪、黒い瞳の少女を見つけた。グリフはまるで引き寄せられるようにその少女を追いかけた。その少女はメリッサと言った。

 メリッサは好奇心おうせいで、活発な少女だった。グリフが娘を亡くした事をメリッサが知った時、彼女は食い入るようにグリフを見つめた。まるで迷い森の中で、やっと仲間を見つけたような目だった。そこでグリフは気がついた。メリッサもまた、グリフと同じように大切な人との別れを経験しているのだと。

 グリフとメリッサは言葉を交わしたわけでもなく、自然と役割を決めていた。グリフはメリッサの父親に、メリッサはグリフの娘を演じた。まるで娘のアーニャとやったままごとのようだ。そう、これはゴッコ遊びなのだ。グリフは時にメリッサをしかり、時に甘やかした。メリッサはグリフにわがままを言い、そして拗ねて甘えた。グリフとメリッサは共犯者のように目線を合わせてこのゴッコ遊びを遂行した。

 メリッサの同行者だったアスランという若者は、グリフがメリッサに触れるたびにかんしゃくを起こした。まるで大切にしていた宝物を取り上げられた子供のようだった。アスランは自身がメリッサという少女に心惹かれているというのに、自身ではまるで気づいていないようだ。アスランは姉と仲が悪く、可愛い妹がほしかったからメリッサを可愛がっているのだと独自の見解をひけらかしている。だがグリフから見れば、好いている少女をグリフにとられ、わめいている情けない男にしか見えなかった。

 若者の名前を聞いてすぐにわかった。アスラン・カルヴィン。勇者の称号を五個獲得した伝説の勇者エリオス・カルヴィンの息子だ。息子のアスランが勇者の称号を獲得したという話は聞かない。会ってみれば、アスランはとんでもない甘ったれた性格をした男だった。

 だが潜在魔力と剣技においては、勇者エリオスをしのぐほどの才能だった。勇者エリオスはアスランの性格を見てさぞガッカリした事だろう。アスランはまっすぐで純粋な若者だ。グリフのようにねじ曲がった性格ではない。家族に愛情を持って育てられた事がうかがえる。それなのにアスランは、愛情と期待がかけられているのにもかかわらず、剣を振るう事を嫌がっていた。

 幼かったグリフが心底欲しがった家族の愛情と期待を一身に受けていたというのに。グリフはアスランの事が大嫌いになった。ただの八つ当たりだと自分でもよくわかっているのだが、アスランへの態度を改める事はできなかった。

 メリッサたちと旅を続けているうちに、偶然懐かしい人の住まいの近くに着いた。イーサン・エルナンデス子爵。幼かったグリフの精神的な支えになってくれた恩人だ。グリフが霊獣ノックスと追いかけっこのような生活をしている時に、イーサンが剣技大会で対戦相手を殺め、東の地に幽閉された事を聞いた。

 本当はすぐにでも会いに行きたかった。だが、イーサンが今のグリフを見てどう思うだろうと考えた。グリフは最愛の娘も守れなかった、落ちぶれた男になり下がっていたからだ。自分の夢をグリフに託して背中を押してくれたイーサンに合わせる顔がなかった。

 懐かしい恩人に出会って、グリフは間に合わなかったのだと悟った。イーサン・エルナンデスは、魔物と契約して人ならざる者となってしまったのだ。イーサンは自分の執事さえも攻撃しようとしていた、グリフはたまらず執事を守った。そして執事を保護してイーサンから逃げる時、キラリと光る物を見つけ、反射的に拾った。グリフが手のひらのそれを見ると、懐かしい祖母の形見のブローチだった。グリフはすべてのかたがついた後、執事のトーマスにブローチの事を聞いた。

「旦那さまはそのブローチを常に身につけておいででした。女性のアクセサリーでしたので不思議に思い質問した事がありました。すると旦那さまはこうおっしゃったのです。友との約束なのだ。と」

 グリフは胸が締めつけられる思いだった。イーサンはグリフとの約束をずっと守ってくれていたのだ。子供のたあいもない約束を。グリフは執事のトーマスに、イーサンの形見としてもらえないかと聞いた。トーマスはグリフの顔をしげしげと眺め、ハッとしたような顔になり、深々と礼をしてしょうだくしてくれた。

 グリフは一人になると事あるごとに祖母とイーサンの形見となったブローチを見ていた。心を占める感情は、後悔の念であふれていた。イーサンはグリフを見て、幼いグリフィスの成れの果てだと気づいただろうか。いや、気づかなかったのだろう。だからグリフに一言も言葉を発しなかったのだ。グリフは気づかれなくて良かったと思った。

 ある時アスランが唐突に話し出した。それはグリフたちが、遠くで剣の稽古をしているメリッサをぼんやり見ている時だった。

「僕はずっと考えていたんだけど、あの時エルナンデス子爵は殺気を出していなかったんだ」

 あまりの脈絡のない発言に、グリフは渋面を作って聞き返す。

「あんだよアスラン、意味わかんねぇよ、最初っから話せよ」

 アスランはしごく真面目な顔をしてグリフに言った。

「僕はずっと疑問に思っていたんだ。僕と執事のトーマスが玄関で騒いでいただろう?その時エルナンデス子爵は強力な攻撃魔法を僕たちに放った。その時僕はビックリしたんだ」
「エルナンデス子爵が自分の執事すらも危険にさらそうとしたからだろ?」

 グリフの問いにアスランは首を振って応えた。

「いいやそうじゃないんだ。僕はずっと剣の道を歩んでいるからわかるんだ。エルナンデス子爵が攻撃魔法を放とうとすれば、殺気ですぐに防御魔法を発動させられるはずだった。だが僕は反応できなかった。だけどグリフはすぐに反応して僕とトーマスを守ってくれた。その時僕はエルナンデス子爵の顔を見たんだ。彼はとても嬉しそうだった。よく理解できないんだけど、エルナンデス子爵はグリフが魔法を使うところをとても嬉しそうに見ていたんだ」

 グリフはアスランの言葉を聞いて、鼻の奥がツンとするのがわかった。イーサンはグリフに気づいてくれたのかもしれない。そう思った途端、グリフの目からポロポロと涙がこぼれた。デリカシーのかけらもないアスランは、不思議そうにグリフの顔を覗き込もうとした。

 グリフはとっさにアスランの顔面を殴った。キレたアスランがグリフに殴りかかる。グリフとアスランの殴り合いに気づいたメリッサが、グリフたちの間に入って止めようとする。顔面の痛みでグリフの涙は止まった。これはアスランの個人的見解で、真実ではないのかもしれない。だがグリフはイーサンに気づいてもらえたかもしれないと知って嬉しかったのだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...