見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

生け贄

　あかりたちはゼキーグの求めに応じ、生け贄を渡す事にした。生け贄になる者はアスラン、グリフ、そしてあかり。村の者からは村長の息子と有志の男たちが五人だ。ゼキーグの要望で、女を生け贄にすれば男二人分の価値があるのだそうだ。あかりたちはゼキーグの豪華な屋敷に向かった。

　あかりはとても不安だった。生け贄とは一体どういう意味なのだろうか。生け贄の本来の意味は、天災があった時に神に捧げるものだ。そして生け贄はその命を持って責務を全うしなければならない。高齢な村長を無慈悲に傷つけたゼキーグだ。それまでの生け贄にされた人たちにもきっとひどい事をしたに違いない。

　あかりたちがゼキーグの屋敷に到着すると、屋敷の使用人だろうか一人の男が待っていた。あかりたちにこちらに来るようにうに動作で示した。あかりはその男を見るともなく見て、キャッと声をあげた。その男は顔が真っ黒で目も鼻も口も無かったのだ。あかりが気味悪げに使用人の男を見ていると、グリフがコソリとあかりに言った。

「あれは魔法でヘドロを人形にして操っているんだ」

　グリフは、心配ないとあかりの背中に手そえて歩くよううながした。あかりたちはゼキーグの屋敷ではなく、そのとなりに隣接した石造りの建物の中に案内された。石造りの建物はおかしな作りで窓は無く、出入り口はあかりたちが入った鉄の扉しかなかった。石の壁には、何に使うのかノコギリやペンチなど沢山の器具がぶら下げてあった。

　ヘドロの使用人が出入り口のドアを閉めると、途端に室内の空気が澱んだ。あかりは室内に充満するすえたような臭いをかいで吐き気をもよおした。ほんのわずかな時間でもこの室内にいたくなかった。早くこの部屋から逃げ出したかった。あかりがこわごわしながら辺りを見回していると、こつ然と目の前に男が現れた。この部屋は出入り口が一つしかないのに、その男はまるで床から湧いて出てきたようだった。その男はやせ型で鼻はわし鼻、目が細くつりあがっていた。その男はあかりたち生け贄を見てニタリと気味の悪い笑顔を浮かべたのだ。


　ゼキーグは拷問部屋に閉じ込めた生け贄たちをニヤニヤしながら眺めた。そこにはゼキーグの村の村人と、村長の息子。そして見たことのない二人の男たちがいた。村の者たちではない、村長が用意した奴隷か何かだろうか。その男たちは長身で、しかも大層見た目が良かった。ゼキーグはとても喜んだ。ゼキーグは自身の外見にコンプレックスを持っていた。ゼキーグは美しい外見ではなかったからだ。だから美しい男たちを拷問する事が楽しくてしょうがないのだ。

　ゼキーグはニタニタと嬉しそうに生け贄の人数を数えた。すると八人しかいなかった。ゼキーグは怒りに震えた。村長め、人数をごまかしたなと思ったのだ。だがよく見ると、長身の黒髪の男の後ろにへばりついているように少女がいた。その少女は息を飲むほど美しかった。ゼキーグは喜びのあまり大声で笑い声をあげた。ゼキーグは若い娘の悲鳴が大好きなのだ。ゼキーグは恐怖に顔を引きつらせている少女のまろやかな頬に触れようとしながら言った。

「美しい娘だ。どう料理してやろうか？」

　すると黒髪の男が、娘を背に隠しながら言った。

「俺の娘に汚い手で触るな」

　ゼキーグはハッとした。この美しい娘と黒髪の男は親子だというのだ。何という幸運なのだろう。美しい娘はきっと父親を拷問すればゼキーグに許しを請い、父親を助けてくれとこん願するだろう。そしてゼキーグは娘の願いを聞き入れるフリをするのだ。娘が希望を持った途端、父親をなぶり殺してやろう。そうすればきっと娘は発狂し、悲しげな声で泣き叫ぶだろう。

　ゼキーグは想像しただけで愉快でたまらなかった。だが妄想の中だけではなく実際に言葉に出していたようだ。黒髪の男がゼキーグに何かを言って、右手の人差し指をゼキーグに向けた。すると黒髪の男の指から攻撃魔法が飛び出した。その魔法は、確実にゼキーグの心臓を狙っていた。ゼキーグはそれまで感じた事のない痛みでその場に倒れた。