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グリフとメリッサ
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楽団の演奏が終了し、踊っていた沢山の男女がその場で止まった。メリッサはダンスが気に入ったようで、もう三度も続けて踊っていた。さすがに休憩をさせなければと、グリフはメリッサの手を引いて踊りの輪から外れた。すると、グリフに声をかける者がいた。グリフが振り向くと、声の主はかっぷくのいい脂ぎった老人だった。
「やぁグリフィス、久しぶりだな。フォスター子爵、いや君の兄上もさぞお喜びだろう」
「ありがとうございます。ボーム男爵」
グリフは舌打ちしたいのをなんとかこらえて笑顔で返した。グリフはこのボーム男爵が大嫌いだった。グリフが幼少の頃、ボーム男爵はグリフの父フォスター子爵の所に用もないのにやってきてゴマをすっていた。そしてグリフの兄オーランドにも。彼が将来フォスター子爵の名を継ぐからた。そのためグリフは見向きもされなかった。現在は兄のオーランドがフォスター子爵の爵位を継いでいる。グリフが勇者の称号を授与されてもオーランドは喜ばないだろう。たとえグリフがトランド国の王になってもそうだろう。それだけグリフは兄に嫌われているのだ。その事はいい、何よりグリフがボーム男爵を嫌いな理由は、彼が無類の女狂いだからだ。グリフの屋敷にやって来る時も、グリフの母をいやらしい目で見ていた。そしてボーム男爵は、高齢にもかかわらず息子に家督をゆずらないのだ。最後の最後まで権力に固執する姿も、グリフには無様にうつった。
ボーム男爵はグリフの後ろにいるメリッサに気がついたようだ。ボーム男爵がグリフに言った。
「グリフィス、その可愛らしいお嬢さんはどなたかな?」
グリフは仕方なくメリッサの背中に手をそえて紹介した。
「娘のメリッサです。メリッサ、ごあいさつを」
メリッサは素直におじぎをした。
「メリッサと申します」
ボーム男爵が、メリッサの若さと美しさに息を飲むのがわかった。なんと美しい。ボームの口が動くのが見えた。その瞬間、グリフはボーム男爵をぶん殴ってやりたい衝動にかられた。この男は、大切なメリッサをいやらしい目で見たのだ。だがグリフはこぶしを握りしめて、笑顔でボーム男爵との会話を打ち切り、メリッサを会場のはじにあるソファへと連れて行った。
メリッサをソファに座らせ、グリフは飲み物を取りに言った。メリッサにはアップルジュースを、自分には白ワインを持ってきた。メリッサはのどが渇いていたとみえて、美味しそうにジュースを飲んでいた。グリフも白ワインを一口飲むが、何とも苦味のある味がした。城で出されたワインだ、悪い品なわけがない。グリフの心持ちがそう感じさせているのだ。グリフは心底貴族という存在をけいべつし、貴族であった自分を捨てていたつもりでいた。だが実際には、貴族であったグリフィス・フォスターは心の底にしぶとく存在して、このいやらしい貴族同士のやりとりを平然と続けているのだ。グリフは胸がムカムカして吐きそうな気分になった。
すると、グリフの頬にスルリと小さな手がそえられた。グリフが正面を見ると、メリッサがソファから立ち上がって、グリフの頬を撫でていた。彼女は心配そうにグリフに聞いた。
「グリフ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
グリフは、メリッサの小さな手を自分の手で包み込んで頬ずりしてから、ゆっくりと放した。メリッサが心配そうに言葉を続ける。
「ごめんなさい。私が舞踏会に出たいなんてワガママ言ったから、グリフとアスランに迷惑をかけてしまったわ」
「いいや、メリッサのせいじゃないよ。本来勇者の称号を授与された者たちは、もっとかくしきばった所で貴族たちにお披露目をしなければいけないんだ。だがトランド国王のとりはからいで、かんりゃく的に舞踏会でのお披露目にしてくれたんだ」
グリフはささくれ立った心がスウッと軽くなっていくのを感じた。メリッサの手と声はまるで魔法だ。メリッサは魔力が非常に少ないのに、彼女の手に触れられた頬はじんわりと温かくなり、彼女の声を耳にしたら苦しかった心がフワリと軽やかになってしまったのだ。グリフが微笑むと、メリッサも安心したように笑った。
しばらくするとメリッサがグリフに言った。
「アスランはまだ帰ってこられないわね」
グリフがダンス会場中央に視線を向けると、アスランはかわるがわる貴族の娘と踊っていた。アスランの周りには貴族の娘がわらわらと集まっていて、このままでは夜が明けてもアスランは解放されないだろう。グリフがメリッサに視線を移すと、彼女は心配そうにアスランを見つめていた。グリフは自分でアスランを追い払ったのに、メリッサを心配させるアスランが憎たらしくなった。何故アスランはメリッサの側にいてやらないのだと。
グリフはメリッサを見ながらしんみりと考えた。メリッサは今十六歳だ、いずれ好きな男ができて結婚するかもしれない。グリフは一応メリッサの父親という地位を獲得したので、メリッサが結婚する時には報告くらいしてくれるだろう。メリッサはどんな男を選ぶのだろう。浮気する男は問題外だ、家庭を崩壊させる。事実グリフが家庭を壊した。メリッサが変な男を選ぶとは思わないが、もしグリフが気に入らない奴だったら嫌だな、と思った。
ふとグリフは思った。アスランならどうだろうか、アスランは頭は空っぽのポンコツだが浮気はしないだろう。いや、浮気は頭の回転が速くないとできないからアスランにはまず無理だろう。それならメリッサの相手はアスランであるほうがほんの少しだけマシなのではないだろうか。そんな考えが浮かんで、グリフはメリッサに話しかけた。
「メリッサ、アスランが心配か?」
メリッサは大きくて真っ黒な瞳でグリフを見上げて言った。
「ええ、アスランずっとダンスしっぱなしだもの。きっと疲れているわ」
グリフは大きくうなずいて答えた。
「よしメリッサ、アスランを助けに行こう」
グリフは、キョトンとした瞳でグリフを見上げているメリッサの手を取って歩き出した。
「やぁグリフィス、久しぶりだな。フォスター子爵、いや君の兄上もさぞお喜びだろう」
「ありがとうございます。ボーム男爵」
グリフは舌打ちしたいのをなんとかこらえて笑顔で返した。グリフはこのボーム男爵が大嫌いだった。グリフが幼少の頃、ボーム男爵はグリフの父フォスター子爵の所に用もないのにやってきてゴマをすっていた。そしてグリフの兄オーランドにも。彼が将来フォスター子爵の名を継ぐからた。そのためグリフは見向きもされなかった。現在は兄のオーランドがフォスター子爵の爵位を継いでいる。グリフが勇者の称号を授与されてもオーランドは喜ばないだろう。たとえグリフがトランド国の王になってもそうだろう。それだけグリフは兄に嫌われているのだ。その事はいい、何よりグリフがボーム男爵を嫌いな理由は、彼が無類の女狂いだからだ。グリフの屋敷にやって来る時も、グリフの母をいやらしい目で見ていた。そしてボーム男爵は、高齢にもかかわらず息子に家督をゆずらないのだ。最後の最後まで権力に固執する姿も、グリフには無様にうつった。
ボーム男爵はグリフの後ろにいるメリッサに気がついたようだ。ボーム男爵がグリフに言った。
「グリフィス、その可愛らしいお嬢さんはどなたかな?」
グリフは仕方なくメリッサの背中に手をそえて紹介した。
「娘のメリッサです。メリッサ、ごあいさつを」
メリッサは素直におじぎをした。
「メリッサと申します」
ボーム男爵が、メリッサの若さと美しさに息を飲むのがわかった。なんと美しい。ボームの口が動くのが見えた。その瞬間、グリフはボーム男爵をぶん殴ってやりたい衝動にかられた。この男は、大切なメリッサをいやらしい目で見たのだ。だがグリフはこぶしを握りしめて、笑顔でボーム男爵との会話を打ち切り、メリッサを会場のはじにあるソファへと連れて行った。
メリッサをソファに座らせ、グリフは飲み物を取りに言った。メリッサにはアップルジュースを、自分には白ワインを持ってきた。メリッサはのどが渇いていたとみえて、美味しそうにジュースを飲んでいた。グリフも白ワインを一口飲むが、何とも苦味のある味がした。城で出されたワインだ、悪い品なわけがない。グリフの心持ちがそう感じさせているのだ。グリフは心底貴族という存在をけいべつし、貴族であった自分を捨てていたつもりでいた。だが実際には、貴族であったグリフィス・フォスターは心の底にしぶとく存在して、このいやらしい貴族同士のやりとりを平然と続けているのだ。グリフは胸がムカムカして吐きそうな気分になった。
すると、グリフの頬にスルリと小さな手がそえられた。グリフが正面を見ると、メリッサがソファから立ち上がって、グリフの頬を撫でていた。彼女は心配そうにグリフに聞いた。
「グリフ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
グリフは、メリッサの小さな手を自分の手で包み込んで頬ずりしてから、ゆっくりと放した。メリッサが心配そうに言葉を続ける。
「ごめんなさい。私が舞踏会に出たいなんてワガママ言ったから、グリフとアスランに迷惑をかけてしまったわ」
「いいや、メリッサのせいじゃないよ。本来勇者の称号を授与された者たちは、もっとかくしきばった所で貴族たちにお披露目をしなければいけないんだ。だがトランド国王のとりはからいで、かんりゃく的に舞踏会でのお披露目にしてくれたんだ」
グリフはささくれ立った心がスウッと軽くなっていくのを感じた。メリッサの手と声はまるで魔法だ。メリッサは魔力が非常に少ないのに、彼女の手に触れられた頬はじんわりと温かくなり、彼女の声を耳にしたら苦しかった心がフワリと軽やかになってしまったのだ。グリフが微笑むと、メリッサも安心したように笑った。
しばらくするとメリッサがグリフに言った。
「アスランはまだ帰ってこられないわね」
グリフがダンス会場中央に視線を向けると、アスランはかわるがわる貴族の娘と踊っていた。アスランの周りには貴族の娘がわらわらと集まっていて、このままでは夜が明けてもアスランは解放されないだろう。グリフがメリッサに視線を移すと、彼女は心配そうにアスランを見つめていた。グリフは自分でアスランを追い払ったのに、メリッサを心配させるアスランが憎たらしくなった。何故アスランはメリッサの側にいてやらないのだと。
グリフはメリッサを見ながらしんみりと考えた。メリッサは今十六歳だ、いずれ好きな男ができて結婚するかもしれない。グリフは一応メリッサの父親という地位を獲得したので、メリッサが結婚する時には報告くらいしてくれるだろう。メリッサはどんな男を選ぶのだろう。浮気する男は問題外だ、家庭を崩壊させる。事実グリフが家庭を壊した。メリッサが変な男を選ぶとは思わないが、もしグリフが気に入らない奴だったら嫌だな、と思った。
ふとグリフは思った。アスランならどうだろうか、アスランは頭は空っぽのポンコツだが浮気はしないだろう。いや、浮気は頭の回転が速くないとできないからアスランにはまず無理だろう。それならメリッサの相手はアスランであるほうがほんの少しだけマシなのではないだろうか。そんな考えが浮かんで、グリフはメリッサに話しかけた。
「メリッサ、アスランが心配か?」
メリッサは大きくて真っ黒な瞳でグリフを見上げて言った。
「ええ、アスランずっとダンスしっぱなしだもの。きっと疲れているわ」
グリフは大きくうなずいて答えた。
「よしメリッサ、アスランを助けに行こう」
グリフは、キョトンとした瞳でグリフを見上げているメリッサの手を取って歩き出した。
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