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盛平

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アスランの気持ち

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 これで一体何回目のダンスなのだろうか。アスランには判断がつかなかった。この舞踏会会場に入って、ジョセフィーヌという貴族の娘に引っ張り出されてダンスを踊った後、他の貴族の娘と何度も何度もダンスを踊っている。

 貴族の娘たちは、アスランとダンスを踊りだすと、決まって自己紹介から始まる。自身の名前、父親の爵位、歌が得意だとかダンスが得意だとか、真っ赤にぬられた赤いくちびるがペチャペチャひっきりなしに動いて気持ち悪かった。

 貴族の娘たちとダンスをして一番嫌だったのが臭いだ。娘たちは皆独特の香水を身にまとっていて、とにかくクサイ。アスランはずっと山育ちだったので鼻がすごくいいのだ。先ほどから胸がムカムカしている。メリッサが、舞踏ではきっと美味しいご飯が沢山出るだろうから、昼食をガマンしていこうと言っていた。その通りにしてよかった。もし昼食を食べていたら、間違いなく目の前の娘の顔に胃の中のものをぶちまけていただろう。

 アスランはもう限界だった。今すぐにでもダンスをやめて逃げ出したかった。だがアスランとのダンスを待っている貴族の娘たちは長蛇の列を作っているのだ。いつになったら終わるのか見当がつかない。列の後ろの方では娘たちが取っ組み合いのケンカをしていた。何か別な事を考えなければ、アスランはダンスが嫌いだったが踊る事ができた。何故なら勇者になると貴族と会う機会が増えて、ダンスを踊る機会もあるかもしれないと習わされたのだ。

 ダンスの相手はいつも姉のヴイヴィアンで、姉の足を踏むたびに殴られていた。アスランはダンスの練習が大嫌いだった。だが今日に限っては、ダンスが好きになれそうな気がしていた。それは、可愛い妹のメリッサとダンスを踊れると思ったからだ。メリッサとダンスをしたらきっと楽しかっただろう。今日のメリッサはアスランの作ったドレスを着てくれて、とびきり可愛かった。会場内を見回してもメリッサの姿は見つけられなかった。もしかしたら疲れて帰ってしまったのかもしれない。

 アスランの限界が極限にまで達した瞬間、アスランの目の前に一人の女性が現れた。とても美しい女性だった。彼女は、凛とした声で言い放った。

「アスラン、いつまで待たせるの?私とダンスを踊ると約束したでしょ?」

 アスランとのダンスを待っていた貴族の娘たちは気色ばんだ。自分の番をひたすら待っていたのに、急に別な女が現れたのだ。ちゃっかりともう一度ダンスの列に並んでいたジョセフィーヌが叫んだ。

「あなた、何を突然横入りして。皆順番に待っているのよ?!」

 突然現れた女性は、とびきりの笑顔で言った。

「順番?それなら私が一番最初よ?アスランは会場に入る前に私にダンスを申し込んだの。それなのに、ジョセフィーヌ。貴女が突然やってきてアスランを連れて行ってしまった。私はずっと待ってたのよ?だけどこのままでは夜が明けてしまうわ」

 美しい女性はアスランの目をジッと見てから、スッと右手をアスランに差し出した。アスランはまるで操られているように、それまで踊っていた娘から離れて美しい女の手を取った。そして女の細い腰に手を回し、ダンスを再開した。

 女はとても美しかった。黒い黒曜石のような瞳、健康的な肌、小さく形のよいくちびる。そして何より彼女のまとう香りが好ましかった。彼女は香水をつけていない、彼女自身の香りだ。草の香り、花の香り、太陽の香りだ。彼女は魅力的な笑顔で言った。

「私ダンスは初めてだから足を踏んだらごめんなさい」

 アスランは慌てて言葉を返した。

「そんな事ない、とても上手だよ?」
「本当?さっきグリフに習ったのよ?」

 この美しい女性はグリフの知り合いなのだ。一体グリフとどのような関係なのだろう、恋人なのだろうか。だがグリフならもっと派手な女性を選ぶのではないか。目の前の女性には野の花のような可憐さがあった。

 美しい女はアスランとダンスをしながらドンドン壁ぎわに移動していった。アスランは不思議そうに女の動きについて行った。アスランは女に大きな窓の側に連れて行かれた。大きな窓は空気の入れ替えのためかわずかに開いていた。その窓はバルコニーにつながっていた。女はアスランの手を引いてバルコニーに出た。アスランは不思議に思って彼女に聞いた。

「どうしてここへ?」

 美しい女は笑って答えた。

「アスラン、貴方ひどい顔よ。ずっとダンスを踊って疲れたんでしょ?」

 アスランはハッとした。彼女はアスランを窮地から救ってくれたのだ。アスランは彼女に礼を言わなければと思った途端、彼女はとんでもない事をしだした。彼女はバルコニーの手すりに飛び乗ったのだ。このバルコニーは一階に取り付けられているので、高さはそこまでないが、手すりに乗ればかなりの高さになる。彼女は何のちゅうちょもなくバルコニーの手すりからヒラリと飛び降りた。女のドレスがフワリと広がった。まるで白い花がパッと花開いたように見えた。見事に着地した女は、バルコニーにいるアスランに手を振った。こっちに来いといっているのだ。アスランは彼女にならってバルコニーから飛び降りた。
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