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あかり
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アスランはまるで夢の中にいるようだった。美しい女に手を引かれ、庭園までやって来た。もしかしたらこれは全部夢で、この女は幻なのではないだろうか。アスランはふわふわした気持ちで、美しい女とベンチに腰をおろした。美しい女がアスランに微笑んで言った。
「ふぅっ。ダンスは楽しかったけど、疲れるわね」
アスランはそこではたと気がついた。アスランは女性と二人きりになるのは初めての事だった。何か気の利いた言葉を言わなければと思うのだが、頭が真っ白になってしまって何も思い浮かばなかった。グリフならこんな時、女性を喜ばせるほめ言葉の一つや二つすぐに出てくるだろう。そうだ、この女性の美しさをほめなければ。アスランは意を決して女に言った。
「綺麗だ」
言葉に出してからアスランは固まった。何が綺麗か言うのを忘れた。いや、彼女の美しさをたたえるには正しい言葉なのだろうが、初めて会った男から急に綺麗だと言われたら警戒されないだろうか。最初はドレスなどからほめるべきではなかっただろうか。アスランが混乱した思考をめぐらせていると、女は微笑んで答えた。
「ありがとう。このドレス、グリフが魔法で作ってくれたのよ?」
どうやら女はアスランがドレスをほめたと思ったようだ。アスランはホッとし過ぎて、女が続けて言った事を聞いていなかった。
「でもグリフとアスランが作ってくれたグリーンのドレスもとっても素敵よ?」
やはりこの女はグリフと深い仲のようだ。一体どういう関係なのだろうか。アスランはそこで重大な事に気づいた。アスランは彼女の名前を知らないのだ。アスランは女に聞いた。
「あ、あの。貴女の名前を教えてくれませんか?」
女はアスランの顔をびっくりした表情で見つめてから、心配そうに言った。
「アスラン、どうしたの?貴方本当に変よ?具合でも悪い?」
女は名乗るのをしぶっているようだった。やはり急に名前を聞くのは失礼だっただろうか。アスランがオタオタしていると、女は考えるそぶりをし、そしてイタズラを思いついた少女のような顔になって言った。
「そうね。私は、私の名前はあかりよ」
あかり。アスランは口の中でつぶやくように彼女の名前を繰り返した。聞いた事のない名前だが、綺麗な音だと思った。アスランはあかりと名乗る女性にせっついて聞いた。
「あかり、また会えるかい?」
あかりは驚いた顔をしてから答えた。
「さびしい事言わないでよ。会いに来てちょうだい。アポロンに乗って」
アスランは、あかりがまた会ってくれるという言葉に安どして、何故彼女がアスランの愛馬アポロンの事を知っているのかという事に気づかなかった。
あかりはアスランに色々話しかけてくれていたが、アスランは頭がずっとふわふわしていて、彼女の話をよく理解できなかった。アスランは飽きずにあかりの愛らしい笑顔や鈴の鳴るような笑い声を堪能していた。アスランはあかりの美しい顔を見ながら誰かに似ているとずっと考えていた。艶やかな黒髪、黒曜石のような瞳。そこでやっと思い出した、あかりはメリッサに似ているのだ。メリッサがもう少し成長すれば、あかりのような美しい女性になるのかもしれない。だからアスランはあかりを一目見た瞬間に好感を持ったのだろう。アスランはようやく納得がいって心から安心した。
あかりは、何を話しかけてもアスランが上の空なのに次第に困惑したようで、ついに立ち上がってグリフたちを呼びに行くと言ってどこかに行ってしまった。アスランはあかりがいなくなってしまった事を残念に思ったが、気の利いた事を一つも言えず、焦っておかしな事を口ばしるよりいいかと思い、彼女を見送った。あかりにはきっとまたすぐに会えると思ったからだ。
アスランがそのままベンチでぼぉっと座っていると、小さくなった白馬のアポロンが飛んで来た。
『アスラン、大丈夫か?』
「やぁアポロン、どうしたんだい?」
『どうしたもこうしたもあるか。アスランが中々戻って来ないから心配で探しに来たのだ』
「?、アポロン、あかりは?」
『あかり?何だそれは』
アポロンの言葉にアスランはがく然とした。あかりはグリフたちを呼びに行くと言っていたから、てっきりグリフの側にいるのかと思っていたのだ。アスランは慌てて立ち上がると、アポロンにうながされてグリフたちの所へ急いだ。
アスランがグリフたちの所へ行くと、グリフはぐっすり眠っているメリッサを抱っこしながらキビシイ視線をアスランに向けて言った。
「どこほっつき歩いていたんだアスラン。メリッサが疲れて眠っちまっただろう」
メリッサはグリフの首に腕を回し、幸せそうに眠っていた。グリーンのドレスのフリルから、メリッサの形の良い足がスラリと伸びている。メリッサの足からは白い靴が落ちそうだった。アスランはムッとしてグリフに言った。
「グリフ、メリッサの靴がブカブカじゃないか。こんな大きな靴をはかせてメリッサが転んでケガをしたらどうするんだ」
グリフはアスランをさもバカにしたように笑いながら答えた。
「ちゃんとメリッサの足に合うように魔法で調節しましたぁ。今サイズが合わないのは、アスランの帰りが遅すぎて魔法が解けただけですぅ。ああ、その靴は俺の私物だからメリッサから脱がして持っていろ、ていねいに扱えよ」
アスランはイライラしたがグリフの言う通りにした。このダイヤモンドがちりばめられた白い靴はグリフの私物だというが、これはどう見ても女物だ。グリフには女装の趣味でもあるのだろうか。アスランはそんな事をぼんやり考えていたが、ある事に思いいたった。メリッサにはかせた靴は、グリーンのドレスに合わせてグリーンの靴だったはずだ。だが何故かメリッサは白い靴をはいていた。アスランはその事を不思議に思ったが、考える事をやめてしまった。それよりも考えなければいけない事があったからだ。
この場にはあの美しい女、あかりの姿はなかった。アポロンにそれとなく聞くが、あかりとりいう女なんて知らないと言われてしまった。アスランはまるで幻の魔法にかけられたような気分だった。グリフはメリッサを寝かせるためにスタスタとあてがわれた屋敷に戻ろうとしている。その後ろをティグリスとグラキエースが翼をパタパタさせてついて行く。アスランは仕方なくアポロンと彼らの後に続いた。
「ふぅっ。ダンスは楽しかったけど、疲れるわね」
アスランはそこではたと気がついた。アスランは女性と二人きりになるのは初めての事だった。何か気の利いた言葉を言わなければと思うのだが、頭が真っ白になってしまって何も思い浮かばなかった。グリフならこんな時、女性を喜ばせるほめ言葉の一つや二つすぐに出てくるだろう。そうだ、この女性の美しさをほめなければ。アスランは意を決して女に言った。
「綺麗だ」
言葉に出してからアスランは固まった。何が綺麗か言うのを忘れた。いや、彼女の美しさをたたえるには正しい言葉なのだろうが、初めて会った男から急に綺麗だと言われたら警戒されないだろうか。最初はドレスなどからほめるべきではなかっただろうか。アスランが混乱した思考をめぐらせていると、女は微笑んで答えた。
「ありがとう。このドレス、グリフが魔法で作ってくれたのよ?」
どうやら女はアスランがドレスをほめたと思ったようだ。アスランはホッとし過ぎて、女が続けて言った事を聞いていなかった。
「でもグリフとアスランが作ってくれたグリーンのドレスもとっても素敵よ?」
やはりこの女はグリフと深い仲のようだ。一体どういう関係なのだろうか。アスランはそこで重大な事に気づいた。アスランは彼女の名前を知らないのだ。アスランは女に聞いた。
「あ、あの。貴女の名前を教えてくれませんか?」
女はアスランの顔をびっくりした表情で見つめてから、心配そうに言った。
「アスラン、どうしたの?貴方本当に変よ?具合でも悪い?」
女は名乗るのをしぶっているようだった。やはり急に名前を聞くのは失礼だっただろうか。アスランがオタオタしていると、女は考えるそぶりをし、そしてイタズラを思いついた少女のような顔になって言った。
「そうね。私は、私の名前はあかりよ」
あかり。アスランは口の中でつぶやくように彼女の名前を繰り返した。聞いた事のない名前だが、綺麗な音だと思った。アスランはあかりと名乗る女性にせっついて聞いた。
「あかり、また会えるかい?」
あかりは驚いた顔をしてから答えた。
「さびしい事言わないでよ。会いに来てちょうだい。アポロンに乗って」
アスランは、あかりがまた会ってくれるという言葉に安どして、何故彼女がアスランの愛馬アポロンの事を知っているのかという事に気づかなかった。
あかりはアスランに色々話しかけてくれていたが、アスランは頭がずっとふわふわしていて、彼女の話をよく理解できなかった。アスランは飽きずにあかりの愛らしい笑顔や鈴の鳴るような笑い声を堪能していた。アスランはあかりの美しい顔を見ながら誰かに似ているとずっと考えていた。艶やかな黒髪、黒曜石のような瞳。そこでやっと思い出した、あかりはメリッサに似ているのだ。メリッサがもう少し成長すれば、あかりのような美しい女性になるのかもしれない。だからアスランはあかりを一目見た瞬間に好感を持ったのだろう。アスランはようやく納得がいって心から安心した。
あかりは、何を話しかけてもアスランが上の空なのに次第に困惑したようで、ついに立ち上がってグリフたちを呼びに行くと言ってどこかに行ってしまった。アスランはあかりがいなくなってしまった事を残念に思ったが、気の利いた事を一つも言えず、焦っておかしな事を口ばしるよりいいかと思い、彼女を見送った。あかりにはきっとまたすぐに会えると思ったからだ。
アスランがそのままベンチでぼぉっと座っていると、小さくなった白馬のアポロンが飛んで来た。
『アスラン、大丈夫か?』
「やぁアポロン、どうしたんだい?」
『どうしたもこうしたもあるか。アスランが中々戻って来ないから心配で探しに来たのだ』
「?、アポロン、あかりは?」
『あかり?何だそれは』
アポロンの言葉にアスランはがく然とした。あかりはグリフたちを呼びに行くと言っていたから、てっきりグリフの側にいるのかと思っていたのだ。アスランは慌てて立ち上がると、アポロンにうながされてグリフたちの所へ急いだ。
アスランがグリフたちの所へ行くと、グリフはぐっすり眠っているメリッサを抱っこしながらキビシイ視線をアスランに向けて言った。
「どこほっつき歩いていたんだアスラン。メリッサが疲れて眠っちまっただろう」
メリッサはグリフの首に腕を回し、幸せそうに眠っていた。グリーンのドレスのフリルから、メリッサの形の良い足がスラリと伸びている。メリッサの足からは白い靴が落ちそうだった。アスランはムッとしてグリフに言った。
「グリフ、メリッサの靴がブカブカじゃないか。こんな大きな靴をはかせてメリッサが転んでケガをしたらどうするんだ」
グリフはアスランをさもバカにしたように笑いながら答えた。
「ちゃんとメリッサの足に合うように魔法で調節しましたぁ。今サイズが合わないのは、アスランの帰りが遅すぎて魔法が解けただけですぅ。ああ、その靴は俺の私物だからメリッサから脱がして持っていろ、ていねいに扱えよ」
アスランはイライラしたがグリフの言う通りにした。このダイヤモンドがちりばめられた白い靴はグリフの私物だというが、これはどう見ても女物だ。グリフには女装の趣味でもあるのだろうか。アスランはそんな事をぼんやり考えていたが、ある事に思いいたった。メリッサにはかせた靴は、グリーンのドレスに合わせてグリーンの靴だったはずだ。だが何故かメリッサは白い靴をはいていた。アスランはその事を不思議に思ったが、考える事をやめてしまった。それよりも考えなければいけない事があったからだ。
この場にはあの美しい女、あかりの姿はなかった。アポロンにそれとなく聞くが、あかりとりいう女なんて知らないと言われてしまった。アスランはまるで幻の魔法にかけられたような気分だった。グリフはメリッサを寝かせるためにスタスタとあてがわれた屋敷に戻ろうとしている。その後ろをティグリスとグラキエースが翼をパタパタさせてついて行く。アスランは仕方なくアポロンと彼らの後に続いた。
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