最後の未来の手紙

盛平

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姉の友達

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  美奈子の高校の場所はすぐに分かった、何故なら加奈子もこの高校の卒業生だからだ。加奈子が同窓会の日に、約束の時間に高校の校門の前に行くと、既に数人の人々が集まっていた。あの、と加奈子が声を声をかけると皆一様に加奈子を振り向いた。和やかな雰囲気が一瞬で凍りつくのが分かった。

 加奈子はそこで、しまったと思った。タイムカプセルの手紙を取りに来ないかというのは社交辞令だったのかもしれない。ここにいるのは姉の美奈子の同級生なのだ、加奈子はこの中では異分子に他ならない。加奈子が途方にくれて固まっていると、突然呼びかけられた。

  「加奈ちゃん?!」

  加奈子が声のした方に目を向けると、見覚えのある女の人が立っていた。小太りで丸メガネの人だった。確か美奈子の高校の時の友達だ。

  「私の事覚えてる?私白石信子よ、あの時以来ね。加奈ちゃん綺麗になったねぇ」
    「信子さん?お久しぶりです」

  白石信子は美奈子の友達で、家にも何度か遊びに来た事があった。信子はおっとりとした優しい雰囲気の女の人で、加奈子も好ましく思っていた。信子が声をかけてくれたおかげで、おかしな緊迫感がなくなった。

 信子の言う、あの時以来とは、美奈子の葬式以来という事だ。美奈子の葬式の時は、父が喪主を務めた。加奈子はというと、手を離せばくずおれてしまいそうな母の腕を掴みながら、子供のように泣きじゃくっているだけだった。その為信子が葬式に来てくれた事すら気付かなかった。

 ようやく人数が集まり、校門からタイムカプセルを埋めた花壇に移動した。男性たちが、学校の用務員室からシャベルを借りて、穴を掘り出した。加奈子は信子と一緒に後ろからその様子を眺めていた。ふと、加奈子は自分を見つめる視線に気付いた。

 視線の先に目を向けると、やはり見覚えがある女性がいた。化粧が濃い、つり目の女性だ。彼女も美奈子の友達で、信子と同じように家に来た事があった。確か山西恵梨香と言ったか。加奈子は恵梨香という姉の友達が苦手だった。いつもツンケンして、怖かったのだ。

 加奈子は恵梨香の視線に気づかない振りをしながら、無感動な目でタイムカプセルを掘り出そうと騒いでいる人々を見やった。まるで夢の中にいるような非現実感だった。ここにいる人々は姉の美奈子と同い年、本来ならば美奈子もこの場にいて、賑やかに騒いでいたに違いない。

 何で美奈子なのだろう、善良で責任感のある美奈子が死んで、何故ここにいる近所迷惑も考えず大声を張り上げて騒いでいる連中は楽しそうに生きているのだろう。信子が加奈子の背中に手をおいていてくれなければ、その場にくずおれてしまいそうだった。信子の手の温かさがかろうじてここが現実だということを教えてくれている。

  「一ノ瀬さん」

  加奈子は声をかけられてハッと顔を上げた。そこには、この同窓会の幹事である寺本隆が立っていた。寺本は一通の手紙を差し出した。一ノ瀬美奈子様。姉の大きなしっかりとした字だ、五年振りの美奈子の文字。加奈子はすぐにこの場からいなくなりたかった、幸せいっぱいの彼らの前でなど泣きたくはなかった。これは加奈子の意地だった。信子の、駅まで送っていこうかという言葉への礼もおざなりに、加奈子は二人にお辞儀をすると、その場から逃げるように歩き出した。

  加奈子は高校から、自宅までの電車の中で、姉の美奈子の手紙に目を通したかった。息をつめながら急ぐように手紙を開封する。

  『十年後の私へ     
  十年後の私はバリバリのキャリアウーマンです。そして渉くんと結婚して、子供は二人、女の子と男の子。とっても可愛いです。』

  加奈子は涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。姉の美奈子の字だ、この手紙の中では、美奈子は鮮やかに生きていた。

  『そして、信子と恵梨香とずっと友達です。』

  信子と恵梨香は美奈子の高校時代の友達だ。美奈子が生きていた頃、よく三人で旅行や、遊びに行った事を話していた。しかし、タイムカプセルを掘り出している時、恵梨香は信子に話しかけるそぶりもなかった。

  読み進めるにつれ、両親の事、加奈子の事が書かれていた。美奈子の将来は希望に輝いていた。その中で気になったのが、渉くんだ。姉の美奈子の高校時代の彼氏、加奈子が中学生の時にも、家に遊びに来ていた。黒縁メガネのぬぼぉっとした少年で、パッとしなくて加奈子はよく残念だなと思った。姉の美奈子は身内のひいき目を抜きにしても美人だった。もうちょっとかっこいい彼氏ができるだろうに、美奈子は渉くんにゾッコンだった。

  「心がないからよ」

  姉の美奈子の言葉に、当時の加奈子はカチンときた。美奈子が、学年で一番のイケメンに告白された事を聞きつけた時に言われた言葉だ。

 美奈子が高校三年生の時、学年一カッコイイと噂される同級生に告白された事があった。何故中学生の加奈子が知っているかというと、加奈子の同級生に、美奈子と同じ学校に通っている兄を持つ女の子がいた。その子が教えてくれたのだ。

 加奈子ちゃんのお姉ちゃん、学年一のイケメンに告白されてフッちゃったんだって。加奈子は美奈子に聞いたのだ、何故学年一カッコイイ男の人の事をふったのかと。その時に言われたのだ。

  「いい?人間に一番大事なものは心があるかって事なの。あの人は顔はいいのかもしれない、でも心がないわ。見た目の事ばっかり。それでいうと私の渉くんは違うわ、大切な事がちゃんと分かっているの」

  自分だってまだ高校生なのに知ったような事を言って。当時反抗期真っ盛りの加奈子は、姉の美奈子の言葉にことごとく反発していた。

 当時の美奈子は渉くんと付き合っていた。周りからは、釣り合わない格差カップルだといわれていた。そんな美奈子は渉くんにフラれた。たしか美奈子が二十二歳の頃だっただろうか。加奈子は意外に思った、フるならば姉の方からだと思っていたからだ。美奈子の落ち込みようは激しく、周りが手がつけられないくらい泣いていた。加奈子はふと思った、渉くんに会ってみたいと。




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