最後の未来の手紙

盛平

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信子と恵梨香

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  家に帰り、両親に姉の手紙を渡すが、両親は素っ気なかった。私たちはまだいいわ、加奈持ってて。母は加奈子に見向きもしないで言った。きっとまだ美奈子を思い出す事が辛いのだろう。

 加奈子も、そう。と相槌を打って、この話は終了した。夕食をとって加奈子は自室に戻り、姉の美奈子の手紙を改めて見つめた。美奈子らしいシンプルなレターセット。今まで加奈子は姉の美奈子しか知らなかった。だが当然ながら友達の美奈子、彼女の美奈子が存在するのだ、加奈子はそんな美奈子の姿が知りたいと思った。

 姉の美奈子が亡くなってから初めての気持ちだった。信子は別れ際、何かあったら連絡してと、加奈子に連絡先を書いたメモを渡してくれた。加奈子が手紙を読んでそんな気持ちになる事が分かっていたようだ。加奈子は早速携帯で会いたいとメールを送る。同窓会だから返信は遅いだろうと覚悟していたが、信子の返事は早かった。話はトントン拍子に進み、今度の日曜日に会える事となった。

  加奈子が指定された喫茶店に行くと、信子はもう既に来ていた。加奈子に気がつくと大きく手を振ってくれた。信子は保育士の仕事ををしているという、優しい雰囲気の信子にぴったりだと思った。

  「それ美奈にも言われた、信子は子供に安心されるから保母さんが似合ってるって。私は自分が向いてるなんて思ってなかったけど、美奈の言葉で保母になろうって決めたんだ」
 
  聞けば姉の美奈子と信子は中学生の頃からの友達らしい。

  「私、こんな外見でしょ?中学生の頃いじめられててさ、そんな時美奈と同じクラスになって。美奈は私がいじめられている女の子グループに、私を一緒にいじめようと誘われたんだって。美奈はグループの子たちにすごく怒ってくれたの、貴女たちのやっている事はくだらないって。その時から私は美奈の友達になった」

  加奈子は姉らしいと思った。美奈子は正義感に熱い所があって、弱い者いじめが大嫌いだった。その為小学校の頃は、いじめられっ子をかばって、逆にいじめられる事もあった。だが美奈子は毅然として一度も小学校を休む事はなかった。だから加奈子の知っている美奈子の親しい友達は、信子が初めてだった。信子を見ていると、美奈子の言う心があるかという言葉の意味が分かる気がした。

  「姉は恵梨香さんとも仲良かったですよね。タイムカプセルを掘り起こす時、信子さんと恵梨香さんあまり親しくしてなかったですよね?」

  信子と話して、大分打ち解けた頃、加奈子は疑問に思っていた事を聞いた。笑顔だった信子はバツが悪そうに口ごもった。加奈子は聞いてはいけない事だったのかと焦った。
  

  「やっぱり気になるよね、恵梨香は高校の時の同級生だったんだ。美奈と恵梨香は馬があったみたいだけど、私と恵梨香はそんなに仲よかった訳でもないんだよね。私あの子苦手だったんだ」
  「あっ、私も。姉が信子さんと恵梨香さんを連れて来た時、信子さんは優しいから好きだったけど。なんか恵梨香さんは怖くって」
  「あはは、だよね。あの子ツリ目の三白眼だから見た目怖いんだよね。しかも人見知り激しいしさ。加奈ちゃんの事は嫌ってたってより、年下の子にどう接していいかわからなかったんだろうね」

  信子はニヤニヤとイタズラの共犯者のような顔で加奈子に笑いかけた。

  「恵梨香はさぁ、中学の時荒れててね、いわゆるヤンキーだったんだよね。高校の時クラスで財布盗まれたって騒いだ女の子がいて、恵梨香が一番に疑われてさ、その時美奈が怒ってね。証拠も無いのに人を疑うな、持ち物検査をするなら皆一緒だって言い出して。皆鞄の中と、机の中を見られてさ、でも結局財布失くした女の子は、駅で財布落としてて、駅から電話があったんだよね。それ以来恵梨香は美奈が大好きで。あっ、変な意味じゃないよ、むしろ崇拝に近かったかな。私と恵梨香は美奈で繋がっていたの、美奈があんな事になってからは恵梨香とは会わなくなったわ。あの日タイムカプセルを掘り出す時に久しぶりに会ったんだ」

  そこで信子は言葉をきって、言いにくそう続けた。

  「校門の前に集まった時、皆加奈ちゃんの事ジロジロ見て嫌な気持ちだったよね?」

  加奈子は、信子に言われて、皆の強張った表情を思い起こす。

  「皆、加奈ちゃんが、二十歳の時の美奈にそっくりでびっくりしちゃったんだよ」
  「私、お姉ちゃんに似てますか?あまり言われた事ないです」

  加奈子は小さい頃から母や親戚に、美奈子ちゃんは美人なのに。と言われ続けていたので、姉の美奈子とは似ていないと思っていた。

  「雰囲気がね、恵梨香なんか加奈ちゃんの事見て泣き出しちゃってね。あの子化粧濃いから、おばけみたいな顔になっちゃってさ。私たち同窓会には行かないで、恵梨香が泣き止むまでファミレスにいたの」
  「私のせいで信子さん同窓会に行けなかったんですか?!」
  「ううん、私元々同窓会行くつもり無かったの。加奈ちゃんが美奈の手紙を受け取りに来なければ、私が加奈ちゃん家に届けるつもりでいたの。これは友達の私の役目たと思ってたから」

  おっとりと話す信子の声色が強くハッキリとした。信子は美奈子がいなくなっても友達でい続けてくれているのだ。その気持ちが加奈子には嬉しかった。加奈子がメールをした時、すぐに返事が返ってきたのは、信子がファミレスにいたからだったのだ。

  「でもね。恵梨香に、加奈ちゃんに会えて良かったねって言ったら、恵梨香泣きながら頷いてた」

  加奈子は心が熱くなった気持ちがした。信子も、そして恵梨香も今でも美奈子を大切に思ってくれているのだ。加奈子が物思いにふけっていると、再び信子が話し出した。

  「ねぇ加奈ちゃん、私に会いに来たのは渉くんの事聞きたかったからじゃない?」
  「・・・渉さん。お姉ちゃんの彼氏」
  「うん。溝上渉くん」
  「お姉ちゃん、手紙で渉さんと結婚しているって書いてました」
  「そうだね美奈、渉くんにぞっこんだったからね」
  「でも渉さんはお姉ちゃんをフッた。信子さん、渉さんてどんな人なんですか?」
  「加奈ちゃんは、渉くんを見てどう思った?」
  「なんかぬぼぉっとして、頼りなさそうで、なんでこんな人がお姉ちゃんの彼氏なんだろ?ていつも思ってました」
  「うん、美奈と渉くんが付き合い出したのは、高二の時だった。渉くんは、加奈ちゃんの言った通りぼぉ、とした無口な男の子だった。緊張しいだから、よくどもってたな。遅刻も結構多くて、担任のワタバン、あっ、渡部先生。加奈ちゃんわかる?」
  「はい、生徒のえこひいきが多くて嫌われてました」
  「だよね、渉くんワタバンに目の敵にされてて、よく叱られてた。でも、渉くんが遅刻したのには理由があったんだ。渉くん、困っている人がいたら、放っておけないっていうか、要領も悪いんだけどね。朝駅のホームで、具合が悪くなった妊婦さんに会ってね、手を貸して椅子に座らせてあげて、その後どうしたらいいのか分からなくって、側でオロオロしてたんだって。中々出来る事じゃないよね、皆通勤、通学途中で見て見ぬ振りしている人たちばかりだったのにね。その時美奈が渉くんに気付いたんだって。美奈が妊婦さんの側にいてあげて、渉くんに駅員さん呼びに行かせて。その後駅の救護室まで付き添ってあげて、妊婦さんの家族が迎えに来るまで一緒にいてあげたんだって。当然美奈と渉くんは学校に遅刻したわ、美奈はワタバンに正直に言ったの。妊婦さんを手助けをしていて遅れたって。ワタバンって才色兼備な美奈の事気に入っていたから、学校で表彰しようなんて言い出して。そこで美奈が啖呵を切ったの。最初に妊婦さんに気付いて手を差し伸べたのは溝上くんです、って。表彰するなら溝上くんです。溝上くんは以前も遅刻した時困っている人を助けていて遅くなったんです。それを先生は溝上くんの話も聞かないで頭ごなし叱責しましたねって。それから美奈と渉くんは親しくなって、付き合う事になったのよね」

  加奈子は意外な思いでこの話を聞いていた。姉の美奈子は、渉くんの事を心のある人だといっていた。姉の言った、心があるという言葉の意味が少し分かった気がした。

  「あの、渉さんに会う事ってできますか?」

  恐る恐る聞いた加奈子に対し、待ってましたと言わんばかりに信子は大きく頷いた。

  「うん、渉くんに連絡取ってみる。渉くんの了解がとれたら加奈ちゃんに、渉くんのアドレス教えるから、加奈ちゃんの都合のいい時に会ってみて」
  「あの、いいんですか?私が渉さんにいきなり会っても」

  自分から言い出した事なのに決心が揺らぐ。信子は加奈子をジッと見つめてから、困ったように微笑んだ。

  「渉くんね、美奈のお葬式行けなかったんだって。喪服着て、斎場まで行ったんだけど、足がすくんで行けなかったんだって」

  美奈子の葬儀に参列した人たちの名簿は父が管理していて、加奈子は目を通した事はなかった。その為姉の美奈子の友人知人、どんな人たちが来てくれたか分からないのだ。気持ちにくぎりがついたら自分も目を通さなければと思った。

  「加奈ちゃんと渉くんが会って、どうなるかは分からない。二人共前向きになれるのかもしれない、もしかしたらもっと辛くなるかもしれない。でも加奈ちゃんと渉くんは会って話した方が私はいいと思う」

  加奈子と同じように渉も、美奈子の死を受け入れられないのかもしれない。思えば加奈子も、姉の手紙を手にしてから、美奈子の死に向き合う気持ちにやっとなれたのだ。加奈子がぼんやり物思いにふけっていると、信子の自分を見つめる視線に気付いた。

  「ごめんなさい信子さん、私ぼぉっとしちゃって」
  「ううん、私こそジロジロ見ちゃってごめんね。加奈ちゃん、美奈と似てないって言ってたけど、やっぱり姉妹だね、考え込んでいる時鼻触るクセとかさ、笑うとエクボできるとこ・・・、っ、ごめんね」

  加奈子は焦った、信子が急に泣き出したからだ。信子は両手で顔をおおっている。

  「の、信子さん、私と友達になってくれませんか?!」

  加奈子は自分で言った言葉にびっくりした。信子は姉の友達だ、加奈子とは五歳も歳が離れている、信子からしたら迷惑かもしれない。信子も、加奈子の突拍子もない発言に驚いたのか、泣きはらした顔を加奈子に向けている。

  「加奈ちゃん、いいの?私加奈ちゃんよりずっと年上だよ?」
  「私こそ、いつもお姉ちゃんに、アンタは年上への礼儀がなっとらん。って、言われてて」
  「あはは、出た、美奈のオヤジ語り」
  「そうそう、お姉ちゃん何か嫌な事あるとオジサン口調になるんですよね」

  そこで加奈子は両親ともできなかった、美奈子の思い出を話してハッとした。自分は今、姉の美奈子の話題で笑っている。そう気付いた瞬間、加奈子の瞳からボロボロと涙が溢れ、止める事ができなかった。

  「の、信子さんごめ、うぇぇん」
  「いいの加奈ちゃん、美奈の話できるの、悲しいけど嬉しいね」

  信子の言葉に加奈子は泣きながら、うんうんとしきりに頷いた。

  それから加奈子と信子は年の離れた友達になった。
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