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第3話 もう一度、あの赤を探して
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俺はいつもより早く目覚めた。
今日も昨日の場所に行ってみよう。
時計は午前6時を回ったところ。
「こんなに朝早く行っても会えるわけないのは分かっているさ」
昨日の夜のことは夢じゃない。
あのとき感じた感覚は今までとは違う。
後に思う。
このときはまだ、彼女に恋したというよりも、自分の気持ちを確かめたかったことのほうが大きかったのかもしれない。
もちろん、マッキーのことが気になっていたことには間違いはなかったのだが……
俺はお気に入りのタンクトップと半パンに急いで着替え、通勤ラッシュが始まる前の電車に飛び乗った。
ガタゴトと電車が揺れる。
電車の揺れにリズムよく動きを合わせながら、俺は車窓に映る自分を眺め、過去を振り返った。
俺は、フリーのプログラマーをしている。
大学のころから数々の賞を総なめにしてきた。
ゼミの教授の手助けもあり、学生の頃、起業し、ありがたいことに、卒業した今では安定して様々な企業から仕事の依頼がくる。
そんな俺に、今まで近づいて来た女性は少なめに数えても両手では足りなかった。
誤解しないで欲しい。
プレイボーイよろしく、複数人とつきあったり、弄んだりなんてしない。
ちゃんと一人の女性と向き合い付き合ってきた。
……でも、いつもどこか変だった。
興味があるのは、俺の名声と金だけ。
何人かと縁あってお付き合いしたが、みんな俺自身に興味があるわけではなかったみたいだ。
「なんか、いまいちだけど金持ってるからさあ」
「何でも、欲しいって言ったら金出すしね」
「結婚しても、あれはATMよね。
他に男作ってもバレそうにないしさ」
……こんな女性ばかりだった。
俺も幼かったと思う。
彼女らばかりが悪いわけではなかったろう。
それに、こんな考え方の人ばかりじゃないことも十分わかってはいるつもりだった。
でも……
理屈じゃないんだよな。
陰口を耳にするたびに俺の心は壊れていった。
いつしか、心から人を信用できなくなった。
仕事以外では必要以上に他人に近づかない。
心だけでなく、この体さえも冷たく凍結してしまえば、傷つくこともない。
そして寒空にタンクトップ、半パンが普段着となったんだ。
我ながらバカだと思う。
だが、身も心も冷たく閉ざす。
それが、俺の選択だった。
今思えば、誰かに寄り添って欲しかったのかも知れない。
抱きしめて欲しかったのかも知れない。
そっと氷を溶かして欲しかった……
きっとそうだ……
マッキーに出会ったあの夜はなかなか眠れなかったのを覚えている。
心臓を捕まれたような感覚。
瞳を閉じても、はっきりとあの儚い笑顔が瞼の裏に映し出されてしまう。
どれぐらいぶりだろう、理屈抜きで他人のことが気になって仕方ないのは……
マッキーに出会った次の日、もう一度彼女に会いたくて会いたくて、俺は意味もなく電車の中で先頭車両まで走った。
――南藤・マッキー・春夫
名前を思い出すだけで、胸がチクリと痛む。
彼女は今までの人とは違う。
……かもしれない……
「……会いたいな」
――マッキーはどこで働いてるのかな?
とりあえず、昨日のあの場所に行くしかないな。
「もう少し、色々聞いておけばよかったかなあ?
でも、そんな雰囲気じゃなかったよなあ」
俺と似たような匂いがした。
人恋しいのに、傷つきたくないがために距離をとる。
辛いのに他人を気遣い、無理に作ったであろう優しくもあり、儚くもある笑顔。
もう一度会って確かめたい。
今までの人とは違う、俺と同じ匂いを持つ君。
時刻はまだ、午前6時半。
俺は新宿二丁目へ来ている。
昨日の雪はだいぶ溶けて、道路には薄い水の膜が光っていた。
濡れたアスファルトが日に照らされ、独特の匂いを放つ。
「……ここにマッキーは倒れていたんだよな」
俺はそっと、マッキーが倒れていた地面を撫でた。
どれぐらいの時間、そこにしゃがみ込んでいたたろうか、いつしか新宿二丁目には人通りが増え始め、一時の静寂は終わりを告げた。
今からこの街は昼の顔、やがて夜の帳が下りれば別の顔を覗かせることだろう。
「今日は一日仕事になるかなぁ?
闇雲に歩き回っても仕方ないしな。
ここで張り込むのが得策かな?
刑事かよ!
いや、ストーカーか?
捕まえるほうから捕まるほうになっちゃったよ。
アハハ」
俺はひとり、自分に突っ込んだ。
「あの辺りのカフェなら、ちょうどこの場所が見えるよね。
あまり一つの店にずっといても迷惑だろうし、今日はこの辺一帯のお店をハシゴだな」
――赤いコートの儚い笑顔。
俺は窓の外にずっとその姿を探している。
けれども時間だけが過ぎていく。
窓の向こうに赤いコートは見つからない。
俺はずっと窓に映る泣きそうな自分を眺めているだけだ。
――半べそかいた子供みたい……
「きっと大丈夫」
小さな声で自分に言い聞かせた。
やがて、時計の針は19時を回る。
「もう、12時間以上いるんだよなぁ。
そりゃ、約束したわけじゃないから簡単に会えないだろうけどさ」
俺は昨日、彼女に触れた手のひらを見つめた。
「マッキー、また会いたいよ……」
気づけば、声に出ていた。
いつしか窓の外には白い粒がゆっくりと舞っている。
昨日、この白い雪の中に溶け込んで行くマッキーの背中を見送った。
ねえ、マッキー、今度はこの白い世界に赤い人影が……現れる気がしてならないんだよ。
今日も昨日の場所に行ってみよう。
時計は午前6時を回ったところ。
「こんなに朝早く行っても会えるわけないのは分かっているさ」
昨日の夜のことは夢じゃない。
あのとき感じた感覚は今までとは違う。
後に思う。
このときはまだ、彼女に恋したというよりも、自分の気持ちを確かめたかったことのほうが大きかったのかもしれない。
もちろん、マッキーのことが気になっていたことには間違いはなかったのだが……
俺はお気に入りのタンクトップと半パンに急いで着替え、通勤ラッシュが始まる前の電車に飛び乗った。
ガタゴトと電車が揺れる。
電車の揺れにリズムよく動きを合わせながら、俺は車窓に映る自分を眺め、過去を振り返った。
俺は、フリーのプログラマーをしている。
大学のころから数々の賞を総なめにしてきた。
ゼミの教授の手助けもあり、学生の頃、起業し、ありがたいことに、卒業した今では安定して様々な企業から仕事の依頼がくる。
そんな俺に、今まで近づいて来た女性は少なめに数えても両手では足りなかった。
誤解しないで欲しい。
プレイボーイよろしく、複数人とつきあったり、弄んだりなんてしない。
ちゃんと一人の女性と向き合い付き合ってきた。
……でも、いつもどこか変だった。
興味があるのは、俺の名声と金だけ。
何人かと縁あってお付き合いしたが、みんな俺自身に興味があるわけではなかったみたいだ。
「なんか、いまいちだけど金持ってるからさあ」
「何でも、欲しいって言ったら金出すしね」
「結婚しても、あれはATMよね。
他に男作ってもバレそうにないしさ」
……こんな女性ばかりだった。
俺も幼かったと思う。
彼女らばかりが悪いわけではなかったろう。
それに、こんな考え方の人ばかりじゃないことも十分わかってはいるつもりだった。
でも……
理屈じゃないんだよな。
陰口を耳にするたびに俺の心は壊れていった。
いつしか、心から人を信用できなくなった。
仕事以外では必要以上に他人に近づかない。
心だけでなく、この体さえも冷たく凍結してしまえば、傷つくこともない。
そして寒空にタンクトップ、半パンが普段着となったんだ。
我ながらバカだと思う。
だが、身も心も冷たく閉ざす。
それが、俺の選択だった。
今思えば、誰かに寄り添って欲しかったのかも知れない。
抱きしめて欲しかったのかも知れない。
そっと氷を溶かして欲しかった……
きっとそうだ……
マッキーに出会ったあの夜はなかなか眠れなかったのを覚えている。
心臓を捕まれたような感覚。
瞳を閉じても、はっきりとあの儚い笑顔が瞼の裏に映し出されてしまう。
どれぐらいぶりだろう、理屈抜きで他人のことが気になって仕方ないのは……
マッキーに出会った次の日、もう一度彼女に会いたくて会いたくて、俺は意味もなく電車の中で先頭車両まで走った。
――南藤・マッキー・春夫
名前を思い出すだけで、胸がチクリと痛む。
彼女は今までの人とは違う。
……かもしれない……
「……会いたいな」
――マッキーはどこで働いてるのかな?
とりあえず、昨日のあの場所に行くしかないな。
「もう少し、色々聞いておけばよかったかなあ?
でも、そんな雰囲気じゃなかったよなあ」
俺と似たような匂いがした。
人恋しいのに、傷つきたくないがために距離をとる。
辛いのに他人を気遣い、無理に作ったであろう優しくもあり、儚くもある笑顔。
もう一度会って確かめたい。
今までの人とは違う、俺と同じ匂いを持つ君。
時刻はまだ、午前6時半。
俺は新宿二丁目へ来ている。
昨日の雪はだいぶ溶けて、道路には薄い水の膜が光っていた。
濡れたアスファルトが日に照らされ、独特の匂いを放つ。
「……ここにマッキーは倒れていたんだよな」
俺はそっと、マッキーが倒れていた地面を撫でた。
どれぐらいの時間、そこにしゃがみ込んでいたたろうか、いつしか新宿二丁目には人通りが増え始め、一時の静寂は終わりを告げた。
今からこの街は昼の顔、やがて夜の帳が下りれば別の顔を覗かせることだろう。
「今日は一日仕事になるかなぁ?
闇雲に歩き回っても仕方ないしな。
ここで張り込むのが得策かな?
刑事かよ!
いや、ストーカーか?
捕まえるほうから捕まるほうになっちゃったよ。
アハハ」
俺はひとり、自分に突っ込んだ。
「あの辺りのカフェなら、ちょうどこの場所が見えるよね。
あまり一つの店にずっといても迷惑だろうし、今日はこの辺一帯のお店をハシゴだな」
――赤いコートの儚い笑顔。
俺は窓の外にずっとその姿を探している。
けれども時間だけが過ぎていく。
窓の向こうに赤いコートは見つからない。
俺はずっと窓に映る泣きそうな自分を眺めているだけだ。
――半べそかいた子供みたい……
「きっと大丈夫」
小さな声で自分に言い聞かせた。
やがて、時計の針は19時を回る。
「もう、12時間以上いるんだよなぁ。
そりゃ、約束したわけじゃないから簡単に会えないだろうけどさ」
俺は昨日、彼女に触れた手のひらを見つめた。
「マッキー、また会いたいよ……」
気づけば、声に出ていた。
いつしか窓の外には白い粒がゆっくりと舞っている。
昨日、この白い雪の中に溶け込んで行くマッキーの背中を見送った。
ねえ、マッキー、今度はこの白い世界に赤い人影が……現れる気がしてならないんだよ。
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