ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太

文字の大きさ
20 / 73

20、アランの気持

しおりを挟む
(くそっ!! この馬鹿野郎が!!!)

 俺、アラン・リンドグルームは歯が折れそうなぐらい強く自分の頬を拳で殴りつけた。
 今でも身体が震える。
 俺の前で土下座をしていたあいつの気持ちを考えると……

 思えばあいつが、ロイが俺に頼みごとをすることなど殆ど無い。
 本当に良く出来た息子だ。
 まだ二歳にもなっていないあの日、俺の真似事をして庭にある小さな岩を切り裂いた時は、正直腰を抜かすかと思った。

 あいつは本当の天才だ。

 ビクトルードの紅の騎士と呼ばれている、あの炎帝の一人娘よりも凄いかもしれない。
 俺にはもったいないぐらいの大事な息子だ。

(どんな気持ちであいつは頭を下げてたんだ!!)

 貴族の馬鹿息子に蹴り飛ばされて、痛みにのた打ち回っていたあの子を守る為に、あいつは勇気を振り絞って戦った。
 ロイは強い。
 だがあいつだってまだ10歳の子供だ……
 きっとあいつは一人だった、誰も味方をしてくれない静寂の中であいつは勇敢に立ち向かったに違いない。
 ラフィーネはロイが震えていたと言っていた。
 それでも逃げることなく立ち向かって。

 俺は涙が出た。

(なんて情けない親父だ!!)

 あいつは何も言わなかった。
 事情を聞かないでくれと。
 一生の頼みだと俺に頭を下げた。

 ただでさえ辛い思いをしたあの子に、これ以上恥をかかせないように口をつぐんだのだろう。
 だから自分のわがままだと言い張ったに違いない。

 俺が10歳の頃そんなことが出来たのか!?
 ただの他人の為にあいつは……
 俺にはもったいない息子だ。

 何故俺はもっとよく事情を聞かなかったんだ!
 俺を信じて全て話せと。

 なぜ頭ごなしに叱ったりした。
 他の誰でも無い、あのロイがあれほどまでに頼んでいるのに!!
 お前がこれほど頼むにはそれなりの理由があるはずだと、何故聞いてやらなかった。

「俺には世界は救えない、だが目の前の人は決して見捨てない!」

 俺が16歳の頃、エルディやラフィーネの前で格好つけてそう言った。
 もちろん嘘じゃない、そういう男になりたかった。

 この世界を救えるような英雄になれなくったっていい。
 でも、俺は大切な仲間や目の前で困っている人間を平気な顔で見捨てるような奴にだけはなりたくない。
 その為に強くなるのだと。
 そう思っていた。

 そして、俺が勇者と呼ばれるようになったのは18の頃。
 魔物から小さな村を救ったことでそう呼ばれるようになった。

 なんだかこそばゆかった、でも嬉しかったのを覚えている。
 だけど10歳の頃なんて俺は人を救うなんてことを考えたことも無い。
 自分の事で必死だった。

 それなのにロイは……

 貴族のろくでなしどもをぶちのめしたことを自慢げに誇ることもなく、何も言わずに。
 あいつは本当に凄い奴だ。

 俺の自慢の息子だ。

 俺もあいつの自慢の父親でありたい!!
 俺はそう思うと、もう一度自分の頬を殴りつけて、今日からこの家の家族になるあの子に嫌われないように精一杯の笑顔を作る練習をした。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在4巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...