36 / 73
36、筆頭試験
しおりを挟む
「ねえ、ティア聞いた?」
「何を?」
私、ティア・ファーレンは友人のその言葉に首を傾げる。
午前中の授業も終わり、私たちはいつも通りこの学園の食堂にいる。
「さっき、用事があって少し職員室に行ってたんだけど、その時、先生たちの中で例のあの子のことが噂になってて」
私はチラリと友人の顔を見る。
「はしたないわよ、盗み聞きするような真似をして。私は別に興味はないわ」
「そっか、今朝もあんなことがあったしティアも聞きたいかなって思ったんだけどな」
「あれは生徒会の副会長として規律を守る為にしたことよ。そう言ったでしょう?」
なによ、もったいぶってないで早く話しなさいよ!
他の友人たちがうずうずしたような顔で待っている中、私もそわそわしながらクールを装ってそう言った。
どうせ、この子も話したくて仕方ないっていう顔をしているもの。
分かってるんだから。
駄目と言っても話し始めるに決まってる。
「まあいいわ。それで何があったの?」
意外と辛抱強い友人に私の方が痺れを切らしてそう促す。
「もう、ティアったらクールなんだから。ねえ、聞いて! あの子、午前中の運動テストの短距離走で新入生の最高記録を出したんですって! 2秒1よ、2秒1! 凄くない!?」
それを聞いて周りの友人たちも声を上げた。
「はや!」
「嘘でしょ! 新入生でそんなタイムが出せるなんて。幾ら身体強化を使ったとしてもありえなくない?」
「でしょ! ねえ、ティアはどう思う?」
私は声が上ずらないように注意しながら答える。
「まあ、中々やるわね。今の私より少し遅いぐらいかしら、でも新入生なら上出来だわ」
「もう! そりゃティアと比べたらそうだけど。新入生の中では歴代最速よ。なんでも稲妻のロイって呼ばれてるらしいわ!」
あの子の情報を誇らしげに話す友人を見つめながら、私は昼食についてきた紅茶を飲んだ。
稲妻のロイって言う通り名はどうかと思うけど、でも確かに速い。
貴族の子供たちはクラス分けの前半の試験には参加しないから、歴代最速とまでは言い切れないけどそれにしても最高レベルの成績であることは間違いないわ。
今の私のタイムが2秒フラット。
それに迫るタイムだもの。
普通の新入生に出せる数字じゃない。
「決まりね」
私がそう言うと友人たちは首を傾げる。
「ティア、決まりって何が?」
彼女たちに私は答える。
「新入生の試験の後半には、筆頭を決める実戦のテストがあるわ。それも戦闘形式のね。彼は間違いなくそこに参加することになる。生徒会への参加を懸けた祭りへの招待状を勝ち取るためにね」
「筆頭試験ね! 去年はティアが筆頭になったけど、今年は誰になるのかしら。やっぱりあの子?」
「どうかしら、アンドニウスが妙に大人しいのが気になるわ」
今朝は姿を見せなかったけど、あいつが、あのまま黙っているとはとても思えない。
氷帝の息子である自分以外が新入生の筆頭になるなんて、あいつは絶対に認めないだろう。
それも貴族以外の子が。
それに筆頭試験の日には、あいつの父親である氷帝ドバイン・フォーゲルも観戦にやってくる。
フォーゲル家の威信にかけても筆頭を取りに来るに違いない。
「面倒なことにならなければいいけど」
私はそう呟きながら、昼食を食べ始めた。
「何を?」
私、ティア・ファーレンは友人のその言葉に首を傾げる。
午前中の授業も終わり、私たちはいつも通りこの学園の食堂にいる。
「さっき、用事があって少し職員室に行ってたんだけど、その時、先生たちの中で例のあの子のことが噂になってて」
私はチラリと友人の顔を見る。
「はしたないわよ、盗み聞きするような真似をして。私は別に興味はないわ」
「そっか、今朝もあんなことがあったしティアも聞きたいかなって思ったんだけどな」
「あれは生徒会の副会長として規律を守る為にしたことよ。そう言ったでしょう?」
なによ、もったいぶってないで早く話しなさいよ!
他の友人たちがうずうずしたような顔で待っている中、私もそわそわしながらクールを装ってそう言った。
どうせ、この子も話したくて仕方ないっていう顔をしているもの。
分かってるんだから。
駄目と言っても話し始めるに決まってる。
「まあいいわ。それで何があったの?」
意外と辛抱強い友人に私の方が痺れを切らしてそう促す。
「もう、ティアったらクールなんだから。ねえ、聞いて! あの子、午前中の運動テストの短距離走で新入生の最高記録を出したんですって! 2秒1よ、2秒1! 凄くない!?」
それを聞いて周りの友人たちも声を上げた。
「はや!」
「嘘でしょ! 新入生でそんなタイムが出せるなんて。幾ら身体強化を使ったとしてもありえなくない?」
「でしょ! ねえ、ティアはどう思う?」
私は声が上ずらないように注意しながら答える。
「まあ、中々やるわね。今の私より少し遅いぐらいかしら、でも新入生なら上出来だわ」
「もう! そりゃティアと比べたらそうだけど。新入生の中では歴代最速よ。なんでも稲妻のロイって呼ばれてるらしいわ!」
あの子の情報を誇らしげに話す友人を見つめながら、私は昼食についてきた紅茶を飲んだ。
稲妻のロイって言う通り名はどうかと思うけど、でも確かに速い。
貴族の子供たちはクラス分けの前半の試験には参加しないから、歴代最速とまでは言い切れないけどそれにしても最高レベルの成績であることは間違いないわ。
今の私のタイムが2秒フラット。
それに迫るタイムだもの。
普通の新入生に出せる数字じゃない。
「決まりね」
私がそう言うと友人たちは首を傾げる。
「ティア、決まりって何が?」
彼女たちに私は答える。
「新入生の試験の後半には、筆頭を決める実戦のテストがあるわ。それも戦闘形式のね。彼は間違いなくそこに参加することになる。生徒会への参加を懸けた祭りへの招待状を勝ち取るためにね」
「筆頭試験ね! 去年はティアが筆頭になったけど、今年は誰になるのかしら。やっぱりあの子?」
「どうかしら、アンドニウスが妙に大人しいのが気になるわ」
今朝は姿を見せなかったけど、あいつが、あのまま黙っているとはとても思えない。
氷帝の息子である自分以外が新入生の筆頭になるなんて、あいつは絶対に認めないだろう。
それも貴族以外の子が。
それに筆頭試験の日には、あいつの父親である氷帝ドバイン・フォーゲルも観戦にやってくる。
フォーゲル家の威信にかけても筆頭を取りに来るに違いない。
「面倒なことにならなければいいけど」
私はそう呟きながら、昼食を食べ始めた。
14
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます
長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました
★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★
★現在4巻まで絶賛発売中!★
「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」
苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。
トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが――
俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ?
※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる