追放王子の英雄紋! 追い出された元第六王子は、実は史上最強の英雄でした

雪華慧太

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3巻

3-1

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 1 黒い紋章もんしょう


 辺境の小国バルファレストの第六王子として生まれたレオン。
 彼は母親が平民であったことで、腹違いの兄たちからことあるごとに嫌がらせを受けていた。
 そして、父である国王が亡くなった翌日、レオンは彼らにその命さえも狙われる。兵士たちに囲まれ絶体絶命の状況の中、レオンの右手に輝き始める真紅しんく英雄紋えいゆうもん。そう、レオンは二千年前に最強と呼ばれていた四英雄の一人、獅子王ししおうジークの生まれ変わりだったのだ。
 無慈悲むじひ性悪しょうわるな兄たちを完膚かんぷなきまでに打ちのめしたレオンは、かつての仲間を探すために大国アルファリシアへと旅に出る。
 そこで出会ったハーフエルフのシスターのティアナや、元翼人よくじんの聖騎士ロザミアと冒険者パーティを組んだレオンは、目覚ましい活躍を見せた。
 その結果、大国の女将軍ミネルバや剣聖けんせいの娘レイア、そして王女オリビアの目に留まり、王宮に招待される。
 王女の護衛として王宮の舞踏会ぶとうかいでも活躍した彼は、アルファリシアの特級名誉騎士の称号を得るのだった。
 前途洋々ぜんとようように思えたそんな矢先、冒険者ギルドから依頼を受けてとある現場に駆け付けると、人狼じんろうれをひきいる女王と戦うことになる。
 前世で受けた呪いの影響で未だ真の力を発揮出来ないでいるレオンは、九つの尾を持つ恐るべき力を秘めた女王を前に、苦戦をいられた。
 女王の攻撃につらぬかれ、敗北をきっしたと思われたその時、ティアナの悲痛な叫びに応えるように呪いを打ち破ったレオン。
 わずかな時ではあったが、彼は本来の自分――獅子王ジークの姿を取り戻し、人狼の女王の首をね、皆の窮地を救ったのだった。


「あれが獅子王ジーク……レオンの本当の姿なのか?」

 レイアは思わずそう呟いた。
 二千年前──
 強力な魔物がはびこっていたこの世界、ミルドレディン。
 そこには闇をほふり魔を倒す、倒魔人とうまにんと呼ばれる存在がいた。
 その中でも最強と呼ばれる者たちを、人々は四英雄と呼んでたたえたと言う。
 一人は燃え上がるような紅蓮ぐれんの髪をなびかせ、四英雄最強と呼ばれた男、獅子王ジーク。
 そして、彼に肩を並べるほどの強さを誇ったと言われる雷の紋章を持つ男、雷神らいじんエルフィウス。雷が如きその動きは、常人が捉えることは決して叶わなかったと言う。
 また、水の紋章を持ち、水の女神と呼ばれたエルフの聖女せいじょアクアリーテは多くの者をいやし、最後の一人についてはどの伝承にも書き残されていない。
 いずれも多くの謎に包まれた、二千年前の英雄たちだ。
 剣聖の娘であるレイアは、伝承に描かれたそんな昔話を思い出した。
 そして、異次元の強さを誇る人狼の女王をこともなげに打ち倒した、炎のように赤い髪を持つ青年の姿を。

(あれが四英雄……信じられない強さだった。あの黒い宝玉ほうぎょくが何かは分からないが、あれを呑み込んだ女王の強さは尋常じんじょうではなかった。この周囲一帯が、奴の闇の結界の一部になってしまうほどの恐るべきものだ。それを、たった剣の一振りで……)

 闇の眷属けんぞくの中でも、あれほどの力を持つ者は稀有けうだろう。
 少なくとも、大国アルファリシアで銀竜騎士団の副長を務めるレイアでさえ、あそこまでの闇の力を感じたことは、これまでなかった。

(あの女は、二千年前と同じことがこの地で起きようとしていると言っていた。二千年前に起きるはずだったこととは何だ? 一体、このアルファリシアで何が起きようとしているのだ)

 人魔錬成じんまれんせいを行う闇の術師、そして普段は群れることのない人狼を率いる女王の存在。
 あの黒い宝玉のこともある。
 急速に、レイアは不安に駆られていた。
 そんな中、ティアナはレオンの胸にしっかりと頬を寄せて、ロザミアはレオンが生きていたことが嬉しくて仕方ない様子で、泣きながらレオンを抱きしめる。

「主殿! 主殿!! ぐす……よかった、私を置いて死んだりしたら許さない」

 そんなロザミアの頭を撫でるレオンの姿を見て、レイアは少しうらやましく思えた。
 自分が同じ年頃なら、きっとロザミアと同じようにしていたに違いない。
 べそをかくロザミアを優しく撫でながら、レオンは肩で息をする。

「泣くなよロザミア。にしても、今回は流石さすがに少々疲れたぜ……」

 ティアナは、自分を抱きかかえながら治療を行っていたレオンの膝が、地面につくのを感じた。
 普段は見せることのない苦しげな表情をする彼に気が付いて、思わず声を上げる。

「レオンさん! どうしたんですか? レオンさん!?」
「はは、心配するなよティアナ。少し休めばなんとかなる……さ」

 レイアは、そう言ったレオンの右手の紋章が、黒く染まっていくのを見た。

「レオン! その紋章は!?」

 彼女の問いかけに返答はなく、レオンの体はゆっくりと前のめりに地面に倒れた。
 それを見て悲痛な声を上げるティアナとロザミア。

「レオンさん!!!」
「主殿!! どうしたのだ? 主殿!!?」

 必死に呼びかける二人。
 レオンの周りには、彼の相棒ともいえる精霊のシルフィとフレアの姿も見える。
 ロザミアは彼女たちに向かって叫んだ。

「シルフィ! フレア! 主殿が!!」

 精霊たちはレオンの紋章を眺めながら答えた。

「恐らくはレオンがかつて受けた呪いの影響ね。フレア、貴方はどう思う?」
「間違いないわね。わずかな時とはいえ、レオンは確かに呪いを打ち破った。その代償だいしょうだとしたら頷けるわ」

 紋章を染める黒い色は次第に右手の甲から、手首、そしてもう腕にまで侵食しており、レオンが完全に意識を失っているのが分かる。
 シルフィとフレアはそれを見て唇を噛みしめた。

「どうするのフレア、このまま放っておいたら危険よ? 命に関わるわ」
「そんなこと分かってるわよ、シルフィ!」

 それを聞いてレイアは青ざめた。

「呪いの代償だと!? 一体どうすれば良いのだ、私が出来ることなら何でもする!!」

 青い髪をなびかせたりんとした美貌に、断固たる決意が浮かんでいる。
 ゆっくりと、だが確実に黒いあざのようなものが広がっていくレオンの右腕を見て、レイアは思う。
 それがこのまま進めば、レオンの命をむしばむことになるのは、精霊たちの様子からも明らかだ。

(私の命をささげても彼を救わなくては。この国のため、そしてミネルバ様やオリビア様のためにも)

 指先でそっと触れたレオンの体が、冷たくなっていくのが分かる。
 自然に何かが彼女の頬を伝っていった。
 冷厳れいげんの騎士と呼ばれた女剣士の涙。
 その時レイアは気が付いた。

(……いや、違う。私が彼に死んで欲しくないんだ)

 ティアナとロザミアも泣きながら精霊たちに救いを求めた。

「私も何でもします! だからレオンさんを!!」
「フレア! シルフィ!!」

 その時、一人の男が金切り声を上げた。

「な、何を言っている! い、今は仕事の最中だ! は、早くみやこに戻るのが先に決まっているだろう!? あんな、化け物がいたんだぞ! 俺は報告のためにギルドに戻る! お、お前たちも一緒に来い、俺たちの護衛をしろ!!」

 声を上げたのはアーロンだ。
 冒険者ギルドではギルド長のジェフリーに次ぐSSランクの地位を持つ男だが、うぬぼれが強く傲慢ごうまんだ。レオンに戦いを挑み、みじめに敗れ去ったことを根に持っている。
 彼はティアナとロザミアに叫ぶ。

「この隊のリーダーは俺だ! 俺の命令に従え!! そいつよりも、この俺の命を守るんだ!」

 レオンのお蔭で命を救われた冒険者たちも、次第に目を覚ましていく。
 アーロンは彼らにも同調を求めた。

「お前たちもそう思うだろうが? 今はこんな奴よりも俺たちの命の方が大事だ!!」

 大きく腕を振って、仲間の冒険者たちにそう主張するアーロンの姿。それを冒険者たちは冷たい目で見ている。
 そして口々に言った。

「……クズ野郎」
「アーロン。もうお前の命令に従う気はない。この人は俺たちのために戦ってくれた。隊を率いるべきリーダーであるお前が逃げようとした時にな」
「俺たち冒険者だって、恩人を捨てて逃げるほどくさっちまったら終わりだ」

 アーロンはそれを聞いて怒りの声を上げた。

「何言ってやがる! 俺はSSランクだぞ! 俺の命には価値があるんだ! お前たちみたいなやつらとは違うんだ!!」

 そう口走って、アーロンは遅れて口をつぐむ。
 後衛を務めていた女性の魔導士たちが、氷のように冷たい目で彼を見つめる。

「最低ね」
「一人で帰りなさいよ」
「ジェフリーギルド長なら絶対に彼を置いて帰ったりしない。私たちにだって冒険者としての誇りがある。彼は私たちのために戦ってくれたわ! 貴方にはそんなことさえ分からないの!!?」

 自分が率いてきたはずの冒険者たちの軽蔑けいべつ眼差まなざしに、アーロンはその場にぺたんと腰を落とすとガクリとうなだれる。
 そんなアーロンには見向きもせずに、冒険者たちは申し出た。

「俺たちにも出来ることがあれば何でも言ってくれ!」
「彼は命の恩人よ! 彼のためなら私たちも何でもするわ!」

 ティアナとロザミア、そしてレイアも再び精霊たちに願う。

「お願いフレアさん、シルフィさん! レオンさんを助けて!!」
「主殿のためならば命など惜しくはない!」
「ああ、ティアナ、ロザミア!」

 冒険者たちと三人の真剣な瞳を受けて、二人の精霊は見つめ合う。
 そして、静かに頷いた。

「分かったわ。上手くいくかどうかは分からないけど、一つだけ方法があるかもしれない」

 シルフィのその言葉にフレアも頷くと、ティアナたちに言う。

「あれをやるのね、シルフィ」

 シルフィは力を解放して白い狼の姿へと変わる。

「ええ、もう時間がないわよフレア!」
「分かってるわ!」

 フレアは大粒のルビーを天にかかげる。
 それは、あの舞踏会の後でセーラから受け取ったものだ。

「これがあって良かったわ。一度きりしか使えないけれど、レオンを救うためなら惜しくないもの!」

 その宝石の中に小さな炎が湧き上がると、それはまるでフレアに力を与えるかのように燃え盛っていく。
 炎の強さが極限まで達した時、大粒のルビーはその輝きに耐えかねたように砕け散ると、解放された力がフレアの炎に吸い込まれた。

「私の真の姿を見せてあげる。ティアナ、ロザミア、それにレイア。貴方たちの命、私たちに預けてもらうわよ!」

 強力な魔力を放ち始めるフレアの言葉に、ティアナたちは迷いなく大きく頷いた。
 大粒のルビーに秘められた力が、フレアが身にまとう炎に吸い込まれていくと同時に、小さな妖精のような彼女の外見に変化が生じていく。
 ティアナが思わず声を漏らした。

「フレアさんの姿が!」

 ロザミアとレイアも頷く。

「ああ!」
「あの姿……それにこの力は!?」

 レイアでさえそう口にするほど、フレアが身に纏う炎には強烈な力が宿っている。
 彼女の周囲に湧き上がる炎が、新たな姿を作り出したかのように、そこには赤い髪を炎のようになびかせた少女が立っていた。
 レオンの肩に乗るほどの大きさだったフレアは、今では十歳ほどの人間の姿をしている。
 だが、もっと特徴的なのはそのひたいだ。
 強烈な力を生み出しているのは、フレアの額から生えた一本の角だ。
 そこから放たれる強力な力が、彼女を中心に、地上にくれないの魔法陣を描いていく。
 凄まじい力を宿した少女の姿を見て、ロザミアが呟いた。

「この力、そしてあの額の角。フレアはもしや……」

 ロザミアの顔は、かつて翼人の聖騎士だった頃の凛とした精悍せいかんさを取り戻している。


 その横でレイアが頷いた。

「ああ、私も聞いたことがある。はるか東方のヤマトと呼ばれる大地に、人に似てはいるが額に角がある『鬼』と呼ばれる者たちがいると。彼らの中には神通力じんつうりきという強烈な力を身に宿している者もいると聞くが」

 シルフィは彼女たちに答えた。

「ええ、あれがフレアの本当の姿よ。正確に言えば、精霊になる前のフレアの姿と言った方がいいかしら。精霊と化すほどの鬼の中には、かつて土地神とちがみと呼ばれていた者もいるわ」
「土地神だと? フレアがそうだというのか」

 レイアは思う。

(土地神というのは、小さな集落や村の守り神のような存在だ。そんな存在を従わせるなどと。一体四英雄とはどれほどの力の持ち主なのだ。だが、先程の戦いぶりを見ればそれも頷ける)

 フレアはレオンの姿を見つめると叫んだ。

「シルフィ、もう時間がないわ。始めるわよ!」

 レオンを侵食する痣は、まるで黒い炎のごとく全身へと広がり始めていた。

「分かってるわよ相棒!」

 そう言って大きく吠えた白狼がレオンの傍に立つと、彼女を中心に風の魔法陣が描かれていく。
 そこから生じる風の流れが、黒い炎のようなものを、少しずつフレアが立つ場所へと運んでいった。
 レイアは思わず声を上げた。

「あれは、レオンの魔力か!」

 シルフィは頷く。

「ええ、呪いに侵食されているレオンの魔力。それを浄化じょうかしてもう一度レオンの肉体に戻すのよ。それしか、方法が思いつかない」

 ロザミアはシルフィに尋ねた。

「浄化するだと? 一体どうやって!? 主殿でさえ解けぬ呪いなのだろう!」

 その問いに、シルフィに代わって、フレアが真っすぐにロザミアを見つめて答えた。

「分かってるわ。でも、やるしかないのよロザミア。そうしなければレオンは死ぬ。貴方はそれでいいの?」

 フレアの言葉にロザミアは拳を握り締める。
 そして思い出した。
 卑劣ひれつな手段でヴァンパイアの支配下に置かれた自分を、レオンが元の姿に戻してくれたあの時のことを。
 その時にもう決めていたことがあるのだと。

「いいはずがない! 主殿が死ぬ時は、私が死ぬ時だ。あの時、私はそう決めたのだ。私の力も使ってくれ、主殿のためならこの命、惜しくなどない」
「分かったわロザミア。力を貸して頂戴ちょうだい

 そう言って差し出されるフレアの手を、ロザミアはしっかりと握る。
 そんな二人の前に、ティアナの手が差し出された。

「私の力も使ってください。レオンさんがいなければ今、ここに私はいなかった。あの子たちだって、きっとレオンさんが帰ってくるのを待ってるもの!」
「ティアナ……」

 フレアは孤児院の子供たちの顔を思い出す。
 そしてティアナの手を取った。

「そうね。きっと待ってる!」

 手を取り合い、フレアが地上に作り出した紅の魔法陣の中央に立つ三人。
 レイアもその輪の中に加わった。

「オリビア殿下やミネルバ様もな。子供たちと一緒に入った温泉は楽しかった。また一緒に入りたい、そうだろう? みんな」

 その言葉に皆は頷いた。

「「「「ええ! またみんなで一緒に!!」」」」

 願いを込めて手と手を取り合い、輪になった彼女たちは決意を込めた眼差しで、それぞれの魔力や闘気とうきを高めていく。
 それが繋いだ手からフレアへと伝わっていった。

(レオン、感じる? みんなこんなにも貴方のことを思ってる。私たちだけじゃ帰れない。貴方と一緒じゃなければ、決してね!)

 さらに高まっていくフレアの力。
 気が付くと、彼女たちを取り囲むように、レオンに救われた冒険者たちも手を繋ぎ、輪を作っている。

「私たちの力も!」
「この人は命の恩人だ! ここで命をけられなきゃ、ジェフリーギルド長に合わせる顔がねえ!!」
「「「ええ!!」」」

 フレアはそれを見て小さく頷いた。
 額の角がまるでその力の象徴のように、輝きを増していく。
 そして輝きが限界に達した時、フレアは叫んだ。

「いくわよ! 対呪術術式! くれないじん!!」

 その刹那せつな、大地に描かれた魔法陣が紅の輝きを放つ。
 同時にシルフィの作り出した風が、レオンの魔力をそこへ流し込んでいく。
 レオンの英雄紋を侵食している黒い炎のようなものが、フレアが作り出す火炎と混じり合って、それをも黒く塗りつぶすように呑み込もうとしているのが分かった。

「ううう!!」

 思わずレイアは唇を噛みしめた。嘔吐おうとしそうになるほどの悪寒おかんが全身を駆け抜けていく。

(これが、レオンにかけられている呪いか!? 一体何者がこんな呪いを、なんというおぞましさだ)

 銀竜騎士団の副長を務めるほどの女騎士であるレイアの美貌びぼうが、苦しげに歪む。
 冒険者たちの中には、膝をついて実際に嘔吐している者も多い。

「ぐっ! ぐううう!!」
「な、何なのこの感覚!!」

 次々と膝を屈していく彼らの中で、ロザミアとティアナは必死に唇を噛みしめていた。

「くっ!」
「レオンさん!」

 ティアナは震える膝に力を入れて、仲間の手を握り締める。
 レイアも必死に彼女たちの手を握り返した。
 それがこうそうしたのか、次第に黒い炎はフレアが作り出した炎に呑み込まれていく。
 そして、真紅に燃え上がる炎は、再びシルフィが作り出した風に乗って、新鮮な血液のようにレオンの肉体に運ばれていった。
 ゆっくりと、だが確実に浄化されていく黒い炎。
 まるで時が止まっているかのように、時間が長く感じられる。
 レイアはそう思った。
 必死に力を振り絞るも、立っていられるのがもう限界だと感じられたその時──
 レオンの右手の紋章が真紅の輝きを取り戻していくのが見えた。
 ロザミアが思わず声を上げた。

「見ろフレア! 主殿の紋章の色が変わっていく!!」

 術のかなめであるフレアも、それを見て目を輝かせた。

「ええ! ロザミア、みんな! もう少しよ! 頑張って頂戴!!」
「「「ええ!!!」」」

 紋章の色の変化が、彼女たちに再び希望の灯をともした。
 冒険者たちが次々に気を失っていく中、三人は歯を食いしばりながら最後の力を振り絞る。

「レオンさん!」
「主殿!!」
「レオン!!」

 願いを込めた叫びがフレアの耳に届くと、彼女も声を上げる。

「はぁああああああ!! いけぇええええええ!!」

 小さな体を震わせて、全身全霊ぜんしんぜんれいの力を込めたフレア。その頭上に渦を巻く炎がシルフィの風と溶け合い、一気に残りの黒い炎を焼き尽くしていく。
 同時に、黒炎を呑み込み生み出された美しい赤い炎が、レオンの体の中に吸い込まれていった。
 次第にレオンの英雄紋が完全に元の色を取り戻す。
 そして、レオンの心臓の鼓動が再び強く打ち始めるのを、精霊たちは感じた。
 シルフィが歓喜の声を上げる。


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