追放王子の英雄紋! 追い出された元第六王子は、実は史上最強の英雄でした

雪華慧太

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3巻

3-2

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「やった! 成功よ!!」

 フレアもふらつきながら笑みを浮かべた。

「ええ、シルフィ! やったわ、みんな!! もう大丈夫、きっとすぐに目を覚ますわ」

 次第に顔色が良くなっていくレオンを見て、ティアナたちは安堵あんどの吐息を漏らした。

「レオンさん、良かった……」
「主殿、目が覚めたら私をギュッとしてくれ。頑張ったのだぞ」

 レイアはそれを聞いて、思わず笑顔になる。
 先程まで感じていた悪寒おかんはもうない。
 フレアの炎があの黒い炎を完全に焼き尽くしたのだろう。

「ふふ……そうだな。私もギュッとしてもらいたい」

 安心のあまり、冷厳の騎士と呼ばれる彼女としてはあり得ない言葉が口に出た。
 思いがけないレイアの言葉に、ティアナとロザミアはレイアを見つめる。
 その視線に気が付いて慌てるレイア。

「な! 軽い冗談だ! き、決まってるだろう?」

 真っ赤になっていくレイアを見て、ティアナは噴き出した。

「もう、レイアさんったら」

 一方でロザミアは、白い翼を羽ばたかせて頬を膨らませた。

「むぅ! 私が先にギュッとしてもらうのだからな!」

 そんな中、フレアが首を横に振って肩をすくめる。

「悪いけど一番最初は私よ。せっかくこの姿に戻ったんだもの。元の体に戻らないうちにね」

 シルフィが諦めたとばかりに溜め息をつく。

「はぁ、私が最初って言いたいけど、今回ばっかりはフレアが一番の功労者だもんね。仕方ない、ゆずってあげるわ」
「そうですね。じゃ、じゃあ私も最後にギュッとしてもらおうかなぁ」

 ティアナのその言葉に、皆は顔を見合わせると笑った。
 すっかり顔色が良くなったレオンを嬉しそうに見つめる。
 まだ顔が少し赤いレイアは、コホンと咳払いをして、話をらすかのようにフレアに尋ねる。

「それにしても、あれほどの力。フレアとレオンがどうやって出会ったのか興味があるな」

 フレアはその問いには答えずに肩をすくめると、レオンに歩み寄る。

「レオン……いいえ獅子王ジークには借りがあるのよ。とても大きなね」
「借り?」

 レイアがそう問い返した時──
 フレアの目が見開かれる。

「そんな……どうして?」

 そう呟くフレアに、ロザミアが尋ねる。

「どうしたのだ? フレア」

 フレアの視線の先を見て、彼女たちは凍り付いた。
 ティアナとレイアが呻く。

「そんな……」
「レオンの紋章が」

 その言葉通り、レオンの英雄紋に再び変化がしょうじていく。
 美しい真紅の紋章に小さな黒い染みが出来たと思うと、それがじわじわと広がっていった。
 シルフィが悲痛な声を上げた。

「そんな! どうして? 完全に浄化したはずよ!!」

 その瞬間──
 紋章の色が一気に黒く染まると、先程よりも激しくレオンの体を侵食し始める。

「レオン! うぐぅ!!!」

 レオンのすぐ傍に歩み寄っていたフレアが呻き声を上げた。
 ティアナたちが悲鳴を発する。

「きゃぁあああ! フレアさん!!」
「フレア!!」

 まるで黒い大蛇のような黒炎が、レオンの体から溢れ出てフレアを締め上げていく。
 少女姿の鬼の華奢きゃしゃな体がビクンと痙攣けいれんした。
 フレアの鮮やかな赤い髪が黒く侵食されていくのが見える。

「くう! うぁ!!」

 かえるフレアの体と、ぴんと伸ばされる手足。

「フレア!!」

 彼女を救おうと駆け寄るシルフィを、黒い炎の渦がはねのける。
 次第に黒炎に包まれていくフレアの姿。
 そして、ついにはその力の象徴ともいえる角までが黒く染まっていった。
 レイアはあまりの光景に呆然とする。
 今感じる悪寒は先程よりも遥かに強い。

「そ、そんな……」

 絶望的な状況に彼女たちが立ち尽くす中、鬼の少女の姿は完全に黒い炎に包まれて、フレアの意識はそこで途切れた。



 2 土地神


 私の名前はフレア。
 いいえ、違う。
 二千年前のあの日、私には名前さえもなかった。
 私は鬼の血を引いて生まれた。
 鬼に襲われた母から生まれた、呪われた娘。
 私を産んだ後、母は角が生えている私の姿を見たショックで命を落としたという。
 母の父と母は私を憎んで、いつも太い棒切れで私のことを殴った。
 酷く打ち据えても殺すことはせずに、まるでもっと苦しめといわんばかりに。
 私が生まれてきたこと自体が罪なのだと、彼らは言った。
 痛くて、悲しくて私は泣いた。
 とても辛くて、ある日、祖父と祖母の目を盗んで逃げ出した。
 まだ六歳だった私は、まるで獣のように野を駆け、生まれた土地を離れた。
 普通の人間なら死んでいただろう。
 皮肉なことに私の命を救ったのは、この体に流れる呪われた鬼の血だ。
 寒さに震えながらも洞窟どうくつに身を隠し、山で木の実を食べ、川で魚を獲ってえをしのいだ。
 一人で洞窟の中にいると涙ばかりが出た。

「わたしは……罪……おかあさん……殺した」

 野山を渡り歩く日々の中で、私は小さな集落と村人たちを見かけた。
 人間が怖くて、私は彼らの様子を遠くから見守っていた。
 私と同じぐらいの歳の子供たちの手を握って微笑む、女の人の姿。
 子供はその人のことを嬉しそうに「お母さん」と呼んでいた。
 私がそれが悲しくて、山の奥に入って叫んだ。

「あああああああ!!!」

 私の手を握ってくれる人は誰もいない。
 私が鬼だから。
 私が生まれてきたことが罪だから。
 ボロボロと涙がこぼれた。
 心が引き裂かれてしまいそうで、いつまでもその場に立ち尽くしていた。
 そんなある日、私が身をひそめていた洞窟の傍に、木こりたちがやってきた。
 怖くて、でも人恋しくて、物陰に身を隠しながら私は彼らの話を聞いていた。

「ほんとうに、この地の者がこうして穏やかに暮らせるのも、土地神様のお蔭じゃのう」
「まったくだ。村の人間が魔物を恐れずに生きていけるのも、山のやしろにおられる土地神様のお蔭だからな」

 彼らは土地神と呼ばれる誰かの話をしていた。
 そして、一人の木こりが言った。

「また社に願掛がんかけをしに行かねばな。お礼も届けねばならんし」
「ああ、土地神様ならば、これからも我らの願いを聞き届けてくださるに違いない」

 土地神という神様が願いを聞いてくれる。
 彼らはそう話していた。
 私は、こっそりと彼らの後をつけて、山奥にある社に向かった。
 彼らは山で捕らえた獲物を社に並べてうやうやしく礼をすると、願いを口々に語って山を下りて行った。
 私はその後、ねぐらの洞窟に戻って、大事にとっておいた木の実を手にいっぱいに抱えた。
 そして、川に行って魚を捕った。それを葉で包むと、私は木の実と一緒に腕に抱えて社に向かって走った。
 息を切らして、胸の高鳴りを隠し切れずに。
 木こりたちが言っていたから。
 土地神様は願いを聞いてくれると。
 だから走った、今私が持っているものを全部腕に抱えて。
 私は再び社にたどり着くと、木こりたちがやっていたようにそなえ物を社の軒下のきしたに並べて祈った。
 私の願いを、心を込めて。

「どうしたんだい? そんなに必死に祈って」

 どれぐらい経ったのだろう。
 気が付くと、私の前に一人の女性が立っていた。
 声をかけられたことに驚いて逃げようとすると、彼女は言った。

「何で逃げるんだい? チビ助。あんた、私に願い事があってわざわざこんな山奥まで来たんだろう?」

 その言葉に私は足を止めた。
 この人が、木こりたちが言っていた土地神様なんだって分かったから。
 恐る恐る、もう一度しっかりと彼女を見上げる。
 こちらを不思議そうに眺めるその女性の額には、私と同じ鬼の角があった。
 あちらも私の角に気が付いたのか、口を開いた。

「何だい、あんたも鬼の血を引いているみたいだね。いいさ、願いを言ってみな。聞いてやるからさ」

 それを聞いて私の胸は再び高鳴った。
 そして、彼女を見上げながら願いを口にした。

「私、人間になりたい! 人間になりたいの!!」

 私が鬼だからお母さんは死んだ。
 鬼だから生きているのが罪だと言われた。
 だから、私は人間になりたかった。
 土地神様ならきっと願いを叶えてくれる。
 そう信じて。
 でも、彼女は私にこう言った。

「人間になりたい? 困ったね。私にそんな器用な真似は出来ないよ。悪いが私は荒事あらごと専門でね。村を襲う魔物を退治するってんならお手のもんなんだけどさ」

 それを聞いて私は落胆らくたんした。
 神様なら私を救ってくれると思っていたから。
 私がうつむいていると、彼女は言った。

「美味そうな魚だね。丁度腹が空いてたんだ。だけど願いが叶えてやれないなら食っちまうわけにもいかないか」

 彼女のその言葉に、私は首を横に振った。
 すると彼女は私に尋ねた。

「食べてもいいのかい?」

 私はこくりと頷いた。
 他に私の願いを聞いてくれる神様はいない。
 この供え物を持っていく場所はもうないのだから。

「魚食べる……私、準備する」

 私は落ち葉や小さな枯れ木を集めて、手のひらに力を込めると小さな炎で火をつけた。
 それを見て土地神様は驚いたように声を上げた。

「へえ、あんた神通力が使えるんだね。鬼の中でも使える者は珍しい。それに炎の神通力か、私と同じだね」
「土地神さま……と?」

 彼女は私を眺めながら肩をすくめると頷く。

「ああ、そうさ。チビ助、あんた名前はなんて言うんだい?」
「私……名前ない」

 私はまた俯いた。
 誰も名前なんて付けてくれなかったから。

「そうかい、困ったね。供え物を持ってきてくれたってのに、いつまでもチビ助ってわけにもいかないし。そうだ、名前がないなら私が決めてやるよ」

 その言葉に私は彼女を見上げた。
 彼女はウインクすると私に言った。

「フレアってのはどうだい? 私はほむらって言うのさ。炎と書いてほむら。西の大地じゃ炎のことをフレアって言うらしいからね。ほむらとフレア、炎の神通力を持つ者同士、お揃いってわけさ」

 私は驚いて彼女を見上げた。

「フレア……」
「どうしたんだい、そんな顔して。気に入らないかい?」

 私は首を大きく横に振った。
 そして、叫んだ。

「フレア! 私、フレア!!!」

 嬉しくて私はその場を駆け回った。
 私にも名前が出来たんだ。
 誰かが私のことを呼んでくれた、それが嬉しくて。

「はは、どうやら気に入ったようだね」

 ほむらと名乗った土地神様の言葉に、私は大きく頷いた。
 魚を焼いた後、彼女は私の手を取ると二人で並んで社の軒先に座る。
 そして、一緒に魚を食べた。

「こりゃ美味いね」

 その言葉に私も頷く。

「おいしい……美味しいね」

 ぼろぼろと涙が出た。
 それを見てほむらは慌てたように頭を掻いた。

「どうしたんだい? 困ったね。私が願いを叶えてやれなかったことが、そんなに悲しいのかい?」

 私は首を強く横に振った。
 ほむらはもう私の願いを叶えてくれていたから。
 私は人間になりたかったんじゃない。
 ただ、誰かに私の手を握って欲しかっただけなんだって。
 こうして寄り添って、話を聞いて欲しかっただけなんだって。
 それから、私はほむらと暮らすことになった。
 洞窟を出て、ほむらの社で一緒に暮らした。
 幸せな時が経つのはあっという間で、気が付けば一年が経ち、私も七歳になっていた。
 ほむらは私に色々教えてくれた。
 たどたどしかった言葉も直してくれて、そして文字や神通力の使い方も。

「私も初めは母さんに言葉や文字を教わったからね」

 ほむらのその言葉に、私は首を傾げると尋ねた。

「ほむらのお母さん?」
「ああ、そうさ。捨てられていた私を育ててくれたんだ。ふもとの村の人間でね、もう百年は前の話さ。鬼を育てるなんて村人たちも反対してね。こうして山に入って一人、私を育ててくれたのさ」

 ほむらが麓の村を守っているのはそれが理由だと知った。
 自分を育ててくれた母が生まれた村を守るために、百年経った今でも、山に社を建ててずっとここに暮らしているんだって。
 人間と鬼の寿命じゅみょうは全く違う。
 だからもう、お母さんはお墓の中なんだということも。

「お母さんと会えなくて、ほむら寂しい?」

 私がそう尋ねると、ほむらは少し目を細めて頷いた。

「そうだね。やっぱり寂しいね」

 その言葉に私は俯いた。
 ほむらが悲しいことは私も悲しいから。
 でも、そんな私の頭に、ほむらはぽんと手を置いた。

「でも今はあんたがいるだろ? フレア。今度一緒に母さんの墓に連れて行ってやるよ。母さんにあんたのことを紹介しないとね」
「うん!!」

 何日か後、私はほむらに連れられて、ほむらのお母さんのお墓にお参りをした。
 見晴らしのいい、山の頂上の綺麗な場所に作られた、小さな白いお墓。
 ほむらのお母さんが一番好きだった場所だと聞いた。
 私たちはお花を手向たむけて一緒に手を合わせた。

「母さん、フレアっていうんだ。昔の私みたいで放っておけなくてね。育ててるんだ、母さんがしてくれたみたいにさ。ガサツな私なんかにうまく出来るかどうかなんて分からないんだけどね」

 静かにそう母親に報告するほむらの横顔を、私は見ていた。
 そして、そっと私の手を握るほむらの手を、しっかりと握り返す。
 ほむらは私に幸せをくれた。きっと、ほむらのお母さんが昔ほむらにしてあげたように。

「ほむら! 私もほむらみたいに立派な土地神様になる! 一緒にお母さんとほむらの大切な村を守るから!!」

 それを聞いてほむらは笑った。

「こりゃ頼もしいね、フレア!」
「うん!!」

 私は山の上から広がる光景を、ほむらといつまでも一緒に眺めていた。
 私は幸せだった。
 こんな私にも生きる目的が出来たから。
 そして、隣で私の手を握ってくれる人が出来たから。


「少し熱っぽいね、フレア。あんたが病気だなんて珍しい」

 そう言って、布団の中にいる私の額に手を当てるほむら。
 いつの間にか私はもう十歳になっていた。
 その日、珍しく私は熱を出して、布団の中で大人しくしていた。
 眉根を寄せるほむらを見つめて、私は答える。

「心配しないで、私大丈夫だから」

 優しく髪を撫でてくれるほむらの手が心地いい。
 しっかりとした口調の私に、ほむらは少し安心したように微笑む。

「そうかい? そういえば私も、あんたと同じ年の頃に熱を出して母さんに心配をかけたことがあるんだ。額の角が少し伸びて、神通力も強くなった時だったか。そういえば最近、あんたの神通力も日増しに強くなってきているからね」
「ほんとに?」

 嬉しくて私は思わず体を起こす。
 苦笑して再び私を布団に寝かせるほむら。
 ほむらに比べたらまだまだだけど、私はほむらに術や神通力の使い方を沢山教わった。

「ほらほら、大人しくしてな。本当さ、私が教えた術もすっかり覚えたし、神通力だって出会った時とは比べ物になりゃしない。今じゃ村の連中もあんたのことを、小さな土地神様、なんて呼んでるぐらいだからね」

 それを聞いて私は嬉しくなった。
 ほむらと一緒に、ほむらの大好きなお母さんの村を守る。
 それが私の夢だから。
 嬉しくなって私はまた身を起こす。

「ほんと!? 私、頑張るから!!」

 そんな私を見て、ほむらは指で優しく私の額を弾く。

「こら、大人しく寝てなって言ってるだろ? そうさね、あの時はゆっくり寝たら熱も下がって元気になってさ。母さんに美味しいものを沢山作ってもらってさ、そしたらまた角が伸びて力もついたんだ」

 優しく微笑むほむらの顔を見つめて、私はもう一度布団に潜り込んだ。
 とても温かい。
 ほむらはゆっくりと立ち上がる。
 そして、出支度でじたくをした。

「少し出かけてくるよ。あんたが目を覚ましたら、美味しい山のさち、いっぱい食わせてやらなきゃね」

 きっとほむらのお母さんはそうしてくれたんだろう。
 私は布団の中で小さく頷く。
 そして、社の出口に向かうほむらの背に声をかけた。

「ありがとう……お……お母さん」

 とても照れくさくて、消え入りそうな声で。
 ほむらは振り返ると不思議そうに首を傾げた。

「フレア、何か言ったかい?」

 私は布団に潜り込んで答えた。

「ううん、何でもない! 早く帰ってきてね」
「はは、変な子だね。一体どうしたんだい。分かってるさ、あんたが好きなものいっぱいとって、すぐに戻るさ」
「うん!!」

 気恥ずかしくて私は布団から顔だけ出してそう答えた。
 社を出ていくほむらの姿。
 帰ってきたらもっとしっかり伝えるんだ。
 ほむらに、お母さんって。
 血は繋がってないけど、ほむらにとってほむらのお母さんがそうであるように、私にとってほむらは大好きなお母さんだから。
 きっと、神様が巡り合わせてくれた大切なお母さんなんだ。
 そう思えたから。
 そんな風に心を決めたらなんだか嬉しくて。
 私はほむらが帰ってくるのがとても待ち遠しくなった。
 さっき、出て行ったばかりなのに。


 少しだけ眠った後、私は社の外が騒がしいことに気が付いた。

「何だろう?」

 思わず布団から身を起こす。
 外から何人かの声が聞こえた。

「土地神様!!」
「土地神様! どうかお助けくださいませ!!」

 切羽詰せっぱつまったような人たちの声。
 私はまだ少し熱っぽい体で立ち上がると、慌てて社の外に出る。
 そこには数人の村人たちがいた。彼らの顔は見たことがある。私がこの社に来るきっかけを作ってくれた木こりたちだ。

「どうしたの?」

 私が尋ねると彼らは言う。

「フレア様!」
「土地神様は! ほ、ほむら様はどこに!?」
「村が大変なのです!!」

 彼らの言葉を聞いて私は慌てて問い返す。

「村が!? 一体何があったの?」

 木こりたちは口々に言う。

「突然何者かに襲われて……」
「我らはなんとか逃げ延びてここまでようやく……」

 それを聞いて私は青ざめた。
 一体どうして?
 土地神のほむらの力を恐れて、魔物は村やこの辺りには近づかないはずなのに。
 私は山の方を振り返る。
 そして唇を噛みしめた。

「ほむらは今、山の奥に入ってるの! 貴方たちはほむらを探して! 私は先に村に行くから!!」

 そう言って私は駆け出した。

「「「フレア様!!」」」

 彼らの声があっという間に遠ざかる。
 私は木々の間をうようにして風のように走った。
 鬼の力。
 人にはないこの力が私にはある。

「守るんだ、ほむらの大事な村を! ほむらのお母さんの大事な村を!!」

 それが私に幸せをくれたほむらに出来る、たった一つの恩返しだから。
 一気に崖を下り、村の方向へと走る。
 そして、私が村にたどり着いた時、そこには多くの村人が命を奪われて横たわっているのが見えた。


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