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296、約束の時

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「エイジ、お前が知る必要はあるまい? どうせお前はここで死ぬのだ」

 祭壇の上に立つラエサルの笑い声が、辺りに響いていく。
 再び距離を取ったエイジは、リイムが言った言葉を思い出す。

(あの剣か? あれが、ラエサルさんを……)

「みんな……下がっててくれ! 今のラエサルさんは普通じゃない。リイムが言っているんだ、あの剣から何かを感じるって!」

 瞳に涙を浮かべているアンジェが、声を上げた。

「あの剣が!? エイジ、見たでしょ? さっき一瞬だけどいつもラエサルに戻ったのを」

「ああ、きっとアンジェの声が聞こえたんだ。あの剣さえ壊せばきっと!」

 それを聞いてエリクがエイジを止める。

「無理です、エイジ! いくら貴方でも彼には敵いません、見なさいあのヒュドラを。次元が違うのです」

「「エイジ!」」

 エリスとリアナが叫ぶ。
 エイジの頬に冷たい汗が流れ落ちる。
 祭壇の上に立つ男から感じる気配は、確かに異質のものだ。
 動けば即座に斬り捨てられそうな威圧感。

(でも、逃げることは出来ない)

 背を向けたところで命は無いだろう。
 それに自分が倒れれば、ここにいる全ての者の命の保証はない。
 まるで黒い牙を持つ狼のように、漆黒の剣を持ったラエサルが静かに祭壇を下りてくるのが見える。

(やるしかない! 戦うしかないんだ!!)

 エイジは皆を守るように一歩前に踏み出した。
 オリビアはそれを見て思わず叫ぶ。

「駄目! エイジ!!」

 幼い頃から剣の道に身を捧げているオリビアには分かった。

(無理よ、エイジは強いわ。でもあの男は別格、まるで異次元の強さだわ。もしあの男が本気を出したら、エイジでも一瞬で……)

 その瞬間──
 オリビアの瞳には、霞むように消えるラエサルの姿が見えた。
 Sランクの領域に足を踏み入れている自分でさえ、全くとらえることが出来ない程の速さ。

「「「「エイジ!!」」」」

 仲間たちの悲痛な声。
 漆黒の剣がエイジを切り裂く。
 誰もがそう思ったその刹那!

 ギィイインンン!!

 強烈な音が、衝撃波のように辺りに広がっていく。
 エイジを切り裂くと思われた漆黒の剣。
 それが、青く輝く大剣と激しく鍔迫り合いをしている。

(そんな、どうやったの? あの動きを捉えるなんて! それにエイジ、貴方のその姿は一体……)

 オリビアの視線の先には、黄金に輝く少年の背中があった。
 凄まじいと闘気に逆立つエイジの黄金の髪。
 そして、黄金の光を帯びるその瞳。
 ラエサルはそれを見て不敵に笑った。

「くくく、エイジそれがお前の本当の力か? いいだろう。約束通り、お前の一分確かに俺が貰うとしよう」
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