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連載

１８９、沙織さんの秘蔵コレクション

「うわぁ！　可愛いです！　何なんですかこれ！？」

　沙織さんが用意したものにメイは夢中になっている。
　その様子を眺めながら、沙織さんはうんうんと頷いた。

「メイちゃんは分っているわね。どれも私の秘蔵コレクションよ！　サイン入りのポスターやＤＶＤもあるんだから」

　ナビ子が若干引き気味に俺に言った。

「あのぉ、対象年齢を見ると子供になってますけど、沙織さんは成人なんですよね？　カズヤさん」

「当たり前だろうが」

　沙織さんは心外だという顔でナビ子に抗議する。

「何言ってるのよナビ子ちゃん！　最近の子供向けアニメは、大人のお友達も楽しめるように作られているのよ！」

　……大人のお友達って貴方。
　まあ確かに日本のアニメは良くできてるからな。
　子供から大人まで楽しめる作品が多いのは事実だが、そこまで胸を張って答えられるとこちらが照れる。
　ある意味清々しい。

　メイはアニメのポスターに描かれた、可愛らしいキャラクターたちに夢中になっている。
　漫画やアニメなんて見たことがないだろうからな。
　いわゆる魔法少女と、その使い魔らしき動物の描かれたポスターに釘付けになっていた。

「格好いいです！　パトリシアお姉ちゃんに似てます！」

「ふむ、そうだろうか？」

　そう言ってパトリシアやアンジェリカを振り返るメイを見て、沙織さんは大きく頷いた。
　その仕草で、メイの考えていることが分かったのだろう。

「でしょでしょ？　初めて見た時から思ってたのよね。パトリシアちゃんならきっと似合うって！　うふふ、着てみてくれる？　パトリシアちゃん」

　にっこりと笑って、沙織さんはパトリシアに衣装を差し出した。
　いわゆるコスプレってやつだ。
　しかも出来が良すぎて、ネットでも謎のコスプレイヤーとして話題になっているほどだ。
　沙織さん自身が目を引くような美人だからな。
　マスターの強い意向で身バレはしないようにしているそうだが、俺を含め常連客は知っている。

「……すまんな、カズヤ」

「はは、いいって。慣れてるからさ」

　パトリシアは手渡されたコスプレ衣装を見て、俺に言う。

「勇者殿、これを着ればいいのだな？」

「あ、ああ。嫌ならそう断ってもいいんだぞパトリシア」

「どうして嫌なのだ？　可愛い服ではないか。舞踏会ではドレスも、勇者殿は似合ってると言ってくれた」

　そう言って、ひらひらのフリルが沢山ついた衣装を眺めるパトリシア。
　着替え用に沙織さんが用意した幕の後ろで、着替え始める。

「意外とノリノリですね、パトリアさん。舞踏会でカズヤさんにドレスを褒められたのがよっぽど嬉しかったんでしょうね」

「ああ、それが良かったんだか悪かったんだか」

　アンジェリカもメイと一緒にアニメのポスターを眺めている。
　メイが立ち止まるとアンジェリカに言う。

「はう、この子アンジェリカお姉ちゃんに似てるです！」

「ちょ！　メイ、私こんなに意地悪な顔しないわよ！」

　そのポスターに描かれているのは、パトリシアに似たキャラが主人公のアニメのライバルキャラの一人だ。
　ツンとした感じの美少女で、年頃はアンジェリカと同じぐらいなのだが見事なほどにまな板である。
　ナビ子が俺に言う。

「確かに色んな意味で似てますね」

「ああ」

　俺は思わずアンジェリカの胸を見た。
　アンジェリカは真っ赤な顔で俺を睨む。

「……カズヤ、殺すわよ。今どこ見てたのよ！」

　沙織さんが、早速アンジェリカにも衣装を渡す。
　やはり、アンジェリカにはこのキャラに扮して欲しいのだろう。

「はい、アンジェリカちゃんの衣装はこれよ。着てくれるかしら？　アンジェリカちゃんの為に作ったのよ」

　俺はアンジェリカにそれを伝える。

「ちょ！　やっぱり、あの格好をしろっていうの？　わ、私の方が胸だってずっと大きいし可愛いわ！」

「ずっと大きいって、アンジェリカさん現実を見つめて下さい」

「ナビ子……あんたも死にたいの？」

「ほら、そういう顔がそっくりです！」

　おいやめろ。
　本当に殺されるぞ。
　アンジェリカは頬を膨らませながらも、期待に胸を躍らせている様子の沙織さんを見て溜め息をついた。

「し、仕方ないわね。沙織にはお世話になっているもの。言っておくけど好きで着るわけじゃないんだからね！」

　どうやら、先程のプリンの賄賂が意外と有効だったようだ。
　渋々と、パトリシアが着替えている幕の後ろに行って着替え始めるアンジェリカ。

　そんな中、セレスリーナはにっこりと微笑みながら俺に尋ねた。

「あのぉ、勇者様。それで、私はなにをすればよろしいんですか？」