私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

文字の大きさ
40 / 82
本編

緑の海域-7

しおりを挟む
「ま、それはそれとして。距離置いてる間に、カスミは自分の気持ちもちょっと整理した方がいいかもね」
「うん?」
「娘だって言われたの、なんで嫌だったの?」

 問われて、奏澄はあの時の気持ちを思い返した。服装のことを言われた時は一度堪えたのに、何故娘扱いは耐え切れなかったのか。

「子ども扱いされたのが、ショックだったから、かな」

 一度は歳相応に評価してもらえたと思ったのに、そこからの落差があったことも要因だろう。

「でも、前にメイズは家族みたいなものって言ってたじゃないか。父親は嫌なの?」
「あれは……」

 奏澄は口ごもった。あくまで、あえて言うなら家族が近い、というニュアンスだった。あの時は、それ以外に言い方が見つからなかったからだ。

父娘おやこだと、保護者と被保護者になっちゃうでしょ。もうちょっと、対等な関係でいたいというか」
「メイズはカスミの護衛なんでしょ。守ってもらうだけじゃ嫌?」

 言われて、奏澄は考え込んだ。護衛なのだから、役割としては、守る者と守られる者になる。そういう意味では、保護者と被保護者というのもあながち間違いではない。
 武力でも、生活面でも、奏澄はメイズに敵わない。それでも、船長として、できることを頑張ってきたつもりだ。乗組員を守ることは、船長の務めだと思っている。そこには、メイズも含まれる。

「私は、船長だから。メイズのことも、守ってあげたいと、思ってる」
「あんなに強いのに?」
「それは、戦闘面じゃ私の出る幕なんてないよ。でも、そういうことじゃなくて。嫌なこととか、悲しいこととか、そういうのからは……なるべく、遠ざけてあげたい」
「それは、他の乗組員も同じ?」
「もちろん。みんな、笑ってて欲しいし、幸せになってほしい」

 自分に関わることになったせいで、不幸になどなってほしくない。大変な思いをさせているからこそ、幸せになってほしいと思っている。

「じゃぁ、カスミの知らないところで、誰かのおかげでメイズが幸せになったとして、カスミは嬉しい?」
「メイズが幸せなら、嬉しいよ」

 即答したが、僅かに喉が引き攣った。
 奏澄はメイズの幸せを望んでいる。メイズが幸せになるというのなら、場所も過程もましてや相手など、関係無い。だというのに、小骨が刺さったようなこの違和感は、なんなのか。
 メイズとは、決して離れないと約束した。奏澄の一番近くに居続ける限り、メイズが他の誰かと特別親密になることは難しいだろう。だからだろうか。別の誰かがメイズを幸せにできるのなら、奏澄は必要ない。奏澄はメイズがいないと生きられないが、メイズは奏澄がいなくても生きられる。それが、怖いのだろうか。
 眉を顰めて首を捻る奏澄に、マリーは苦笑した。

「フィルターが強いねぇ」
「え?」
「いや。ま、時間はありそうだし、よーく考えるといいよ。この旅の終着点を考えれば、自分の気持ちがうやむやなままだと、後悔するかもしれないからね」

 どういう意味か、と聞こうとして、船に大きな音が響き渡った。それに、背筋がひやっとする。これは、警戒態勢の合図だ。直後、船が揺れた。慌ただしい空気が伝わる。
 マリーがドアを開け放ち、廊下に向かって叫んだ。

「何事だい!」
「マリー、敵襲だ! お前は船長と船室に隠れててくれ!」
「わかった!」

 居合わせたラコットの舎弟と言葉を交わし、マリーは部屋に戻った。
 敵襲。その言葉に、奏澄は青ざめた。未だに、慣れない。鼓動が速くなり、手が震える。

「カスミ、カスミ」

 落ちつかせるように、マリーがカスミの背を軽く叩いた。

「大丈夫だよ。戦闘員も増えたんだし、腕の見せどころじゃないか」
「うん……。そう、だよね。みんな強いし、大丈夫」
「そうそう。ほら、一応手当ての準備でもしとこうか」
「うん。ありがとう、マリー」

 マリーとて、全く不安が無いわけではないはずだ。マリーの部下も戦闘訓練に参加していたということは、おそらく実地訓練で今回の戦闘にも出ているだろう。怪我をするかもしれない。
 それでも、カスミがいるから。マリーはカスミを任されたから、この場を離れて部下の様子を見に行くことも、不安な顔を見せることもしないのだ。
 だったら奏澄にできることは。例え強がりでも、気丈に振る舞い、マリーを不安にさせないこと。そして、戦闘から戻った乗組員を労わることだ。
 万が一怪我を負った乗組員がいた時のために、奏澄とマリーは医療用具の準備をした。



 敵襲の知らせから暫くして、戦闘終了の合図が響いた。ほっとして、奏澄はマリーと上甲板に出る。
 戦闘の跡が見える様子に、奏澄は一瞬くらりとしたが、何とか踏みとどまる。
 ざっと見渡したところ、大怪我をしている乗組員はいなさそうだ。マリーの部下たちは戦闘経験が浅いことから、今回は後方支援に回ったと見えた。全員無傷のようで、マリーがそっと息を吐くのを、奏澄は視界の端で捉えた。

「おいカスミ、こいつ頼めるか」
「! イーサン!」

 ラコットが呼んだ方へ慌てて行くと、ラコットの舎弟の一人、イーサンが腕を押さえていた。

「切られたんですか」
「自業自得なんだよ。自分から突っ込んでいきやがって」
「やー、つい興奮しちゃって」

 軽い調子で笑っているが、要するに本来負わなくて済む怪我を、無茶な戦い方によって負った、ということだ。イーサンは舎弟たちの中でも年若い。血気に逸ったのだろう。奏澄は黙って手当てをした。

「あざっす、船長。……船長?」

 黙ったまま俯く奏澄を覗き込んで、イーサンはぎょっとした。奏澄が、声一つ上げずにぼろぼろと涙を零していたからだ。

「え、せ、せんちょ」
「イーサン、一つ約束してください」

 奏澄は、イーサンの怪我をした方の掌を、両手でぎゅっと握った。

「戦闘がある以上、怪我をするなとは言いません。でも、自分の身を危険に晒すような戦い方はしないでください」
「う、うっす」
「本当にわかりましたか?」

 軽い返事に、奏澄がずいと顔を近づけると、イーサンはその分体を引いた。

「わ、わかったわかりました!」
「約束ですよ」

 涙を拭って、奏澄は他に怪我人がいないかどうか見回りに行った。
 残されたイーサンは、大きく息を吐いた。

「は~~、びびった」
「お前役得だなぁ」
「役得とか言ってらんねっすよぉ、罪悪感ハンパないっす」
「んじゃ怪我しねぇことだな。安心しろ、明日からビシバシ鍛えてやっから」
「俺怪我人なんで勘弁してください……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】

日下奈緒
恋愛
後宮に入り、妃となって二年。 それなのに一度も皇帝に抱かれぬまま、沈翠蘭は“お飾りの妃”としてひっそりと日々を過ごしていた。 ある日、文部大臣の周景文が現れ、こう告げる。 「このままでは、あなたは後宮から追い出される」 実家に帰れば、出世を望む幼い弟たちに顔向けできない――。 迷いの中で手を差し伸べた彼にすがるように身を預けた翠蘭。 けれど、彼には誰も知らない秘密があった。 冷たい後宮から始まる、甘くて熱い溺愛の物語。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳 どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。 一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。 聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。 居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。 左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。 かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。 今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。 彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。 怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて ムーライトノベルでも先行掲載しています。 前半はあまりイチャイチャはありません。 イラストは青ちょびれさんに依頼しました 118話完結です。 ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...