私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

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本編

ヴェネリーア島-9

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 約束の二日が経ち、奏澄とアントーニオはレオナルドの元へ向かっていた。勿論、メイズも共に。
 色々あったので、修理品を引き取るだけだし来なくて大丈夫だとやんわり伝えたのだが、当然のように却下された。
 気まずい時間を過ごしながらも、三人はルーナブルーへ到着した。

「こんにちは」

 中に人影が見えたので、奏澄は一声かけて、そのまま扉を開けて中へと入る。続いて、アントーニオとメイズが入り、メイズは前回と同じく入口近くで立ち止まった。

「ああ、いらっしゃい」

 答えたレオナルドは、店内の掃除をしていた。

「……あれ?」

 違和感を覚えて、奏澄は店内を見回した。陳列してあった商品が、一つも無い。

「頼まれてた品ならそこね。金貰ってないし、納品書無いけどいいよな」
「え、あ、はい。あの、お店どうしたんですか?」
「閉めるから、片付けた」
「え!?」

 奏澄は驚いて大きな声を上げた。アントーニオも目を丸くしている。

「どうして」

 このタイミングで閉店、と言われれば、奏澄が無関係だとは思えない。責任を感じてしまい、焦ったように奏澄が尋ねると、レオナルドは平然と答えた。

「あんたについて行こうかと思って」

 言われた言葉がすぐには飲み込めず、奏澄は目が点になった。

「荷物もまとめてある。工房の管理も職人仲間に頼んであるし、今日にでも出れるぜ」
「ちょ、ちょっと、待ってください。展開が早すぎて、何がなんだか」

 こめかみに指を当てる奏澄を、おかしそうに見るレオナルド。

「元の世界に帰るための旅なんだろ? あんたが帰るところを、見たいと思った」
「……それは」
「別に、俺が向こうに行けるとは思ってないよ。あわよくば、覗けないかなくらいには思ってるけど」

 冗談めかして笑うレオナルドに、奏澄は笑い返せなかった。
 母親の故郷を、一目見たい。それが理由だとしたら、奏澄には断れない。
 
 いや。断れない、のではない。断りたくない。叶えたい。

「わかりました。歓迎します、レオナルドさん」

 しっかりと言い切って、奏澄は手を差し出した。

 これが同情でないとは、言い切れない。それでも、流されて、受け入れるわけではない。
 彼の母親に対する想いを。あの時の、震えた声を。縋る手を。覚えている。
 独りの怖さを、知っている。ここに彼を独りでいさせたくない。
 一歩踏み出すきっかけを、手助けできるのなら。

 奏澄の表情に、どこか眩しそうにしながら、レオナルドは手を握り返した。

「おい」
「いいじゃない。手先の器用な人は重宝するでしょ。船の修理も頼めるかも」

 レオナルドと握手を交わしながら、口を挟んだメイズに答える奏澄。

「自分で言うのも何だけど、結構便利だと思うぜ俺」

 レオナルドの台詞に、メイズは顔を歪めた。心情的には断りたいが、正当な理由が見当たらない、といったところか。

「そんなに心配しなくても、人の女に手を出すほど野暮じゃないつもりだけど」

 びし、と何かに亀裂が入ったような音が聞こえた。気がする。

「……そういうのじゃない」
「ああ、違うんだ。どっちかなーとは思ってたんだ。露店に来た時から、恋人っぽくはなかったもんな。じゃ、何も気にすることないわけだ」

 唸るように低く答えたメイズに、レオナルドは挑発するような調子で返した。
 その台詞の中に不穏な言葉が聞こえた気がして、奏澄は首を傾げた。
 くるりと奏澄に顔を向け、レオナルドが問いかける。

「あんたの船、恋愛禁止?」
「え? いや、特には。常識の範囲内で」
「そ。良かった」

 ――何が良かった……?

 何故そんなことを確認したのか。疑問符だらけの奏澄に対して、メイズの方は明らかに苛立っている。可哀そうに間に挟まれているアントーニオは何も言えずに冷や汗をかいている。

「危害を加えるなら容赦しないと、警告はしてある」
「危害なんか加えないさ。ちょっかいは出すけど」

 びし、という音が、今度こそ聞こえた。

「カスミ、こいつやめとけ」
「まぁまぁ。ラコットさんと似たようなもんだって」

 宥めながらも、奏澄もほんの僅かに後悔していた。ラコットとは違う、ということは薄々わかっている。
 おそらくレオナルドの場合は、奏澄に母親を重ねているのだ。しかし、それは奏澄が同胞だと気づいたからで、初対面からそうだったわけではない。つまり、顔貌や空気がサクラと似ている、というわけではないのだ。
 ということは、すぐにわかるだろう。全く別の人間だということも、その気持ちが一過性でしかないことも。
 だから大した問題にはならない、と奏澄は結論づけた。
 この時は本当に、そう思っていた。



*~*~*



「新しい仲間のレオナルドさんです。皆さん、よろしくお願いします」

 出航前、コバルト号の上甲板にて。奏澄はレオナルドを乗組員たちへ紹介した。
 メイズは文句ありげだったが、船長の決定には逆らえないので、レオナルドは無事たんぽぽ海賊団の仲間入りを果たした。
 ほとんどの乗組員は奏澄とレオナルドの間にあったことを知らないので、奏澄の連れてきた新入りということで、何の疑念も無く歓迎した。
 ざわざわとした出航準備の音を聞きながら、奏澄はレオナルドに向き直った。
 
「夜に歓迎会をする予定なので、自己紹介とかはそこで改めて」
「ああ、どーも」

 返事をして、まじまじと奏澄を見るレオナルドに、奏澄は居心地悪そうにした。

「何か?」
「いや、あんた本当に船長だったんだなーと」
「何だと思ってたんですか」

 ふくれる奏澄に、レオナルドは手を伸ばして髪をくしゃりと撫でた。

「拗ねるなよ」

 その声色に、手の感触に、奏澄は一瞬動きを止めた。 

「そうだ。なぁ、あとで船の中案内してくんない?」
「それはオレが案内してやるよ!」

 突如割って入った声に、奏澄は驚いた顔でその人物の名を呼んだ。

「ライアー」
「男同士の方が都合がいいだろ。わざわざがすることないし」

 圧を感じるライアーの態度は気になるが、正直助かったので奏澄はほっとした。

「うん。ありがとう、ライアー。お願いできる?」
「任せて。いろいろ、しっかり、教えておくから」

 やけに念を押すような言い方をするライアーに、レオナルドはさして興味もなさそうに「ふぅん」と漏らした。

「なんだ、船では普通に砕けて話してるんだ。なら俺もそうしてよ。名前もみんなレオって呼んでたし」
「船では、というか、相手によりけりで」
「俺がその方が嬉しいんだけど。だめ?」

 駄目か、と問われれば、駄目だと言う理由も無い。
 ずるい言い方だ、と思いながら奏澄は溜息を吐いた。

「わかった。わかったから、今はライアーの指示に従って。
「よーし、オレが船の仕事を教えてやるからなー!」

 自分よりも身長の高いレオナルドを引きずっていくライアーに、奏澄は苦笑しながら手を振った。

「またえらいクセの強そうな美形だね」
「マリ~……!」

 レオナルドがいなくなるのを見計らったかのように、マリーが現れた。

「なんかあったらしい、ということはエマとローズから聞いてるけど。詳しく聞いた方がいい?」
「夜に是非……!」
「オッケー」

 マリー自身も興味があるのだろう、楽しげに笑った彼女に、奏澄も自然と笑みを返した。
 大丈夫だ。今の自分には、頼れる仲間たちがいる。一人で不安を抱えることも、一人で立ち向かうこともない。
 自分の決断を、間違っていない、と思わせてくれる人たちがいる。
 
「よしっ!」

 顔を上げて、奏澄も自分の仕事に取りかかった。
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