転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください

木野葛

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世界はとても残酷で(特にご飯が)

娘。ー父親視点ー

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 人には相性がある。
 知人や親戚なら上辺だけの付き合いができるが、親子の間で相性が悪ければ最悪だ。
 親か子供かどちらかが抑圧され、子供が自立するまでそれが続く。
 が、幸か不幸か、女児であればその抑圧から解放される術がある。
 
「無理」

 妻である結菜はその一言で、娘を捨てた。
 ままぁ、ままぁと泣く娘を放置して、無邪気に話しかける次男にばかり構い、遠慮がちな長男の頭を撫でる。

 もちろん最初からこうだった訳ではない。
 妊娠中にお腹の中の子が女の子であるとわかった時から、
 長男と次男も何故大人たちが喜んでいるのか分からないまま、一緒に喜んでいた。
 
 どんどんと歯車が狂っていったのはそこからだと思う。

 裕一郎が楽しげに女の子のベビードレスを買ってくる。
 将生は女の子らしいスタイを用意した。
 俺は、女の子が喜びそうな可愛らしいベッドメリーを買った。

 少しだけ、結菜が不機嫌になった気がしたが、浮かれていて蔑ろにしたのだと思う。
 それぞれの実家に伝えれば、おめでとうと大喜びされる。
 プレゼントは自分ではなく、腹の中の娘へ。
 気遣われ、自分が一番のお姫様であるはずなのに、それが産まれてすらいない娘に奪われる。
 もちろん、妊娠中のに対しての気遣いは当然行った。
 しかし、出産準備中に増える女の子向けのベビー用品に何とも言えない顔をしていた。
 、女の子が生まれることは喜ばしいことだ。
 、今まで産んだことのない性別の子を育てられるか分からない不安が募る。
 、自分以外の雌が縄張に入ってこようとするのが気に食わない。

 当時の彼女が心情を推測するとこんな感じだろうか。
 自覚があるかどうかは分からないが、周囲の浮かれ具合に反して、結菜はどんどん機嫌が悪くなっていった。

 予定日から三日過ぎに出てきた娘を見て、結菜はほっと安堵した様な顔を見せた。
 子供がちゃんと産まれたことに安堵したのだろうと思った。

「あー、ようやく産まれた…女の子…コレで最低限の仕事はしたわ…」

 娘が看護師に検査に連れて行かれた途端に結菜は呟く。
 女性は女性なりに、女を産まないといけないという重圧の中で生きている。
 それから解放されたおかげで、出産後だが結菜は晴れ晴れとした表情だ。

「名前はどうする?」

 顔を見たら決めようと、それぞれ夫三人でいくつか候補を出している。

「実で良いわ」

 それぞれ考えた名前を書いた紙を見せると、ちらっと見ただけで一番上に書かれた名前を告げた。
 自分が考えた名前だった。

 娘の顔立ちは妻に似て可愛らしい反面、夫の誰が父親なのかは分かりにくい。
 だからこそ、みんな可愛がりやすかった。
 
 男の子との違いを感じながら育てていれば、どんどん妻は不機嫌になる。流石に子供たちに当たり散らすような真似はしないが、長男次男との差はあからさまだ。
 長男次男が甘えれば抱きしめるのに、娘が抱っこを催促しようが、泣こうが長男にパパの誰か呼んできてと言うだけ。
 虐待するほど興味がない。
 妻は体が落ち着けば娘には母乳を与えるだけで、時折ペットを可愛がるように長男次男を愛で、あとは美容室やエステ、映画やドラマを楽しむような生活へともどっていった。
 産後に体を労わるのは当然だが、思った以上に娘への興味が薄い。
 時々気まぐれに人形遊びをする様に着せ替えをするのが母娘の唯一のコミュニケーションだが、娘は普段放って置かれる分、母親に構われて嬉しそうだった。
 薄氷を履むような生活は娘のイヤイヤ期で崩壊した。

 娘はミルクはよく飲んだが、味のついた離乳食を食べ始めてからどんどん食欲が少なくなった。
 どこも悪くないし、アレルギーもない。
 男三人で頭を抱えていると、「無理に食べさせなくても良いじゃない」と結菜は軽く言った。

「健康を害するほどじゃないでしょ。そのうち食べるわよ」

 ファッション雑誌から顔を上げず、悩んでも無駄と言わんばかりだった。

「やぁ、ちぁい!」

 娘は特にシリアルバーが苦手で食べたがらない。白粥の方が、嫌そうにしながらもまだ食べる。
 その日は機嫌が悪かったのか、野菜のペーストも受け付けない。
 困ったように裕一郎がスプーンを持って狼狽えている。

「いやかー、じゃあ、何なら食べたいー?」
「ごぁん」
「ご飯はここにあるよー?」
「ちゃうぅぅ!!!」

 コレとは違うご飯とは?
 裕一郎と顔を見合わせる。女性の我儘には付き合わなくてはならない。
 息子だったら、違うご飯?今度な。の一言で終わるのだが。

「もうイヤ」

 娘の泣く声が響く部屋の中で、静かに妻の声が響いた。

「無理」
「その子、要らないわ」

 食事時は特に癇癪が酷い娘に苛立っていることは知っていた。対処をしなかったのは、夫側に問題があるだろう。
 それでも、娘を施設にやるのは拙いと思い、食事時間をずらしたり、結菜がリビングにいる時は長男たちと子供部屋で遊ばせたりと工夫をしたものの、事態が良くなることは無かった。

 娘が三歳になる頃には、関係の修復は今は無理だろうと夫三人の中で結論付けられる。
 母娘の関係に影響されたのか、次男が娘に対して小突くような仕草を見せたのことで諦めがついた。
 母娘の間で関係性がうまく行かないことはよくあるらしく、役所に相談すれば兄弟にもその影響ができたなら一時的でも引き離す方が良いこともあると言われた。
 結果、娘を施設にやることが決定した。


 娘を施設にやることで、目に見えて苛立っていた結菜は落ち着きを取り戻す。その点は安堵したが、問題は娘の方だ。
 急に知らない場所に連れて行かれたせいか、泣き続けて熱を出し、食欲もないままだと雇ったベビーシッターである木崎が報告する。
 頭を抱えたものの、実には環境に慣れてもらうしかない。
 何もできない上、娘を捨てたのだと言う苦々しさが心を蝕んだ。

 どうにかしたいと思いながら過ごし、関係改善もできないまま二年。
 娘はいつしかお家に帰りたいと言わなくなり、お父さんとは呼ばれるものベビーシッターである木崎の方を信頼して家族のように思っているのが分かる。
 我儘ではあるが、女の子であるならこんなものだろう。

 もう一人産んでも良いと妻が言い、その妻が妊娠中期になったあたりから徐々に実の食費が増えていった。
 光熱費と雑費も増えている。
 不思議に思って他の二人と相談したが何も知らないという。
 ああ、そう言えば葛木さんという方と知り合って料理を習い始めたとかいう報告が来てたな。
 料理?
 この時代に?
 なんて無駄なことをと思いながら、久しぶりに娘の顔を見に行くことにした。


「コレはどういうことだ」

 今までの増えた出費の内容説明を求めれば、食材を買うだけではなく調理器具や皿も買っていたことで雑費が増えていたようだ。

「お父さん、みのりが言ったの!お料理してみたいって」

 少しだけ、驚いた。
 趣味を持つ女性もいるが、この年で親に言われた習い事以外に自発的に何かを始める子どもは少ない。
 特に食事など、自分も妻も意識したことはない。もちろん他の二人も同様だろう。
 それが何故か食事に興味を持つ娘。
 ふと、この子の興味を持ったものに興味を持った。
 食事なんてシリアルバーとサプリで十分だろう?
 でも、この子は【食事】に興味をもったのだ。
 
 そこで気がついた。
 この子に親として興味があったのは、だから。

 娘本人に対しては興味が薄い…というか型に嵌めて育てていたように思う。
 女の子なら華やかな色が好みだろう。スカートかワンピースならどちらが良いか?部屋も可愛らしく、人形よりもぬいぐるみの方が好みのようだ。
 その程度。
 
 食事をし初めてから、色々なことが分かってきた。
 レトルトのお粥よりは炊いた硬めのご飯の方が好き。パンとご飯ならご飯派。好き嫌いは少ないが、娘曰く好き嫌いできるほどの食材がない。出汁も好きだが洋食も好き。
 オシャレよりも本を読む方が好き。
 正直、パパたちは保護者だと認識しているようだがママはどうでもいい。
 
 夢中になれるものを見つけて、ベビーシッターとの関係も良好。
 料理を教えてくれる先生もいて、年に数回しか会わない母親など親族として認識しているだけでも良いのかもしれない。

「家に戻ってくる気はあるか?」
「わたしじゃなくて、ママの問題だよぉ」
「だよな…」
「残念だね。お父さん、コレ新作だよ、元気出して」

 いつのまにか手に入れていたバターを使って作ったというクッキーは、市販のものとは比べものにならないぐらい美味しかった。

 コレを結菜に食べさせたら、関係修復をいけそうな気がするが…。
 実が頷くわけがないな。






 …娘が戻って来れば、いつでも美味しいものが食べれると思ったが無理か、そうか…。

 
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