私、ハンクラー!今、ダンジョン にいるの

木野葛

文字の大きさ
27 / 41
ダンジョン学校編

昼休憩とちょっとの失敗

 武器は講師の一時預かりとなり、生徒たちは昼食に行く。昼食を食べたら昼休憩が入り、一時十分にロビーに集合して、バスに乗って三〇分強ほどかかる菖蒲沼レジャーランドのダンジョンまでいくという流れになっている。
 昼は、アラビアータとコンソメスープ、サラダといった軽めの昼食にした。小川はいつもの食事量よりも少なめで、なんとなく緊張していることが伝わってきた。
 いつもはバラバラに座っているのだが、今日ばかりは全員で同じテーブルを囲む。おしゃべりな神田と佐藤の口数も少ない。
 男の子らしくトンカツをがっつり食べてた東山が、ふと顔をあげて作菜をじっと見た。

「あの、野上さん。意外と落ち着いてるっすね」

 東山の言葉に作菜は口の中に入っていたものを飲み込み、水を飲んだ後にうんと軽く頷いた。

「ダンジョン入ったことあるからね。雰囲気はなんとなくだけど分かっているから、みんなよりは多少は落ち着いてられるかな」
「さっさん、ダンジョン入ったことあんの!?」

 驚いたように、みんなの視線が集まった。
 作菜の容姿は至って平凡だ。ダンジョンで行うダイエットには興味はあっても、ダンジョン自体には興味のないOLといった評価だろう。実際のところダイエット目的のぽっちゃり気味で一見運動音痴そうだけど結構動けるおねーさん、というのがダンジョン参加者の中の作菜の印象だ。
 そんな彼女が、自分から目的もなく積極的にダンジョンに行ったという事実にみんな驚いていた。
 注目されている本人は、軽く苦笑いしてお茶で喉を潤している。

「と、言っても、大学時代に冷やかしで入って一時間ぐらいで出てきたんだけどね」

 その言葉に、一同はああ、と納得する。年齢や住んでいる住所などの事情も相まって、ダンジョンが解禁された時にダンジョンに入った人は実は少ない。中にはたまたまダンジョンの近くに住んでいて好奇心から入ったというケースはよくあるため、そのルートだろうなと全員が納得した。

「モンスターは倒した?」
「倒すも何も、ダンジョンが初めて解放された日に入ったけど、誰か一人がモンスター見つけるとわっと人が集まってリンチ状態」

 モンスターは見かけただけ、というとはぁーと数人がため息を吐き出した。
 それでも気になるのか、視線は外してもらえない。サラダに入ったミニトマトをぷすりとフォークで刺したが、口に入れる前に佐藤が質問をしてくる。

「怪我なく帰ってきたんですかぁ?」
「怪我なんてする暇なかったよ。レンタルした剣持ってぶらぶら散歩しただけって感じ」

 怪我人は出たのかもしれないが、少なくとも作菜は見ていない。と、いうか見る暇もなくモンスターはボコられていた。

「そっかぁ、やっぱ一階は楽勝なんだ!」

 神田の明るい口調の言葉に、全員の雰囲気がゆるっとしてしまった。一気に変わった雰囲気に、少し焦る。緊張がほぐれれば良いと思って話したが、緊張感を失わせて良いものではないと思う。一階だろうとも油断は怪我の元になる。
 失敗したなと思いながらキュッと作菜は眉間にシワを寄せて、わざとらしいかもしれないが顰めっ面を作って見せた。

「比べられるもんじゃないと思うよ。モンスター一匹に対して何人も群がってリンチしてたんだから」

 今から行くダンジョンとは、条件が何もかも違う。確かにダンジョンに入り慣れた講師がいるとしても、十人以上でダンジョンを歩くわけではない。
 舐めて怪我をされても迷惑だから、と一応忠告はしたものの、緊張した雰囲気はあまり戻ってこなかった。気が抜けたように話し始めたみんなを見ながら、失敗したなと少し落ち込んだ。

 元は温泉客の送迎に使われていただろう、小さなバスに揺られること数十分。
 その元レジャーランドが、姿を現した。小雨の降っている中見る廃墟の遊園地はなかなかのホラーで、廃墟マニアなら涎を垂らしそうなほど雰囲気があった。
 バスから降りると、雨に打たれたアスファルト特有の匂いがした。学校で貸し出していた透明なビニール傘をさすと、パタパタと雨が当たって音を立てる。

「不気味ぃ」

 小さく佐藤が言う。その言葉に「雰囲気あるよな」と、神田が同意した。
 全員がバスから降りると、それぞれの武器の入った袋やケースを受け取る。武器を持ったのを確認するとこっちだと小野川が先導して歩き出す。錆びたレジャーランドのゲートは、【菖蒲沼レジャーランド】の文字だけが妙にはっきりとしていた。アスファルトは意外としっかりしていて歩きにくくはない。そんな雨の中の廃墟の遊園地を歩くこと数分、シャッターの閉められた売店を横目に歩くと遠くからも見えていた錆びた観覧車が近くなる。菖蒲沼レジャーランドという名前だけあって菖蒲沼と呼ばれる沼がレジャーランドのシンボルとなっているが、水辺というのが一層廃墟のレジャーランドの不気味さを引き立たせる。
 元々ダンジョンができたときにはすでに閉園されていたレジャーランドだったのだが、元オーナーである土地の所有者の男性がまさかと思って見回ったところ発見されたダンジョンだ。元レジャーランドというだけあって土地が広いため、どこからでも誰でも侵入しやすくトラブルにつながりやすく何かあっても責任が取れないということで、すぐに国に売られた。それなりにトラブルがあったものの、現在では優良なダンジョン学校の実習場となっている。
 レジャーランドの入り口には監視カメラ、周りは森に囲まれているため入り込みやすそうで入りにくいのが特徴だ。
 肝心のダンジョンへの入り口は、ちょうどメリーゴーランドのあたりにあった。
 周りは草が生い茂っているのに、ダンジョンへの入り口だけ整備されていて一角だけ浮いていた。畑のダンジョンよりも大きな穴は、人工的に広げられていて屋根がついていて屋根の下には、ベンチと自動販売機、傘立てが置いてあり、とりあえずの配慮が現れている。

 ダンジョンの入り口は畑のダンジョンとは違って階段が作られていた。雨が入ってこないため、歩きやすくなっている。穴の中には落ち葉が溜まっていて湿り気を帯びた独特の土の匂いがした。
 階段正面にダンジョンへの入り口である横穴があって、小野川を先頭に生徒全員で入っていく。横穴は畑のダンジョンと同じくらいの長さで、すぐに大きな水晶クラスターのようなステータスチェッカーのある小ホールに出た。ダンジョン特有のひんやりとした空気が頬を刺す。
 畑のダンジョンとは異なり、ロッカーとベンチがいくつか備え付けられている。ロッカーに貴重品を入れるように言われたため、それぞれ財布やスマートフォンなどを入れていく。鍵をこの中に入れろと、小さめのボディバックが配られた。
 ゴロゴロと中に何か入っているボディバックのジッパーを開けると、ポーションが二本入れられていた。

「ポーションは保険だ。しかし、怪我をしないように気を付けろ」

 一階で使われることはほとんど使われることはないと、小野川は告げた。
 それぞれボディバックの中に、ポーションが入っているのかをチェックし、ロッカーの鍵を入れると講義が始まる。

「知っているかと思うが、これがステータスチェッカーだ。これに触れることによって、自分の現在の能力を数値化して見ることができる」

 そういって小野川がぺたりと無造作にステータスチェッカーに触れた。特に何が起こるわけでもなく、ステータスとやらが現れることもない。

「ステータスが見れるのは、本人と許可を与えたものだけだ。基本的にステータスは、他人に簡単に教えないほうがいい」

 トラブルの原因になる、と言葉が続けられる。
 特に注意したいのがスキルで、人によってはレベルアップするとその人だけの特殊なスキルが発現することもあり、それが原因で監禁されたり、未成年にもかかわらず奴隷労働のような働きをさせられたという事件も実はあったと伝えられた。

(ダンジョン怖い)

 思わず作菜は噛みしめるように思った。特殊なスキルがあったとしても、誰にも言わないでおこう。

「じゃ、ステータスチェックしてみろ。口に出してもいいし、心の中で思うだけでステータスは確認できる」

 小野川のその言葉に、それぞれが好きにぺたりとステータスチェッカーに触れる。

(ステータス)

 心の中で言ってみると、目の前にダブレットサイズの四角い板のようなものが現れた。ゲームのステータス画面とそっくりだ。レベルだけではなく体力・筋力・俊敏・器用・魔力・精神・運が並んでいる。女性の平均はどれぐらいかがわからないためなんとも言えないが、全体的に自分のステータスは良くないのだろうな、と作菜は考えた。若干、ガッカリしている自分はいるが、器用だけ妙に高いのは趣味の影響だろうかと疑問に思った。

「せんせー、これって平均どれぐらいなんすっかー?」

 学生のように手をあげて小川が聞く。それに小野川があー…と言いにくそうに声を上げる。
 不都合でもあるのだろうか、と生徒の視線が講師に向いた。

「確かに数値化されているから気になるトコロだろうが、データを集めたのは男女ともに自衛官と警察官のものだ」

 常日頃鍛えている方々と一般人では比較にならない。

「一般人のデータは今集めているところだな。みんな秘密にしたがる傾向にある。プライバシーに関わるので、あまり政府も突っ込めない部分だ。任意で初期ステータスなら提出してもいいなら、あとで数値を書いてくれ」

 微妙な対応が、とても日本的な話だった。
 

あなたにおすすめの小説

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった

歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。 病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も—— 全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。 十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。 「もう用済みだ、出ていけ」 フィーネは静かに屋敷を去った。 それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。 「前のお嬢様を返してください」

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結