転移した世界で最強目指す!

RozaLe

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第三十話 ほの暗い防衛線戦

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 海エルフのみやこであるシアは、成立以前は海底に設けられた前哨基地だったそうだ。当時は水中で使える道具や物資は少なく、必然的に開拓は思うように進まなかった。実際、彼らの祖先であるエルフはその人生の半分以上を土地の整備に費やした。だが、それ以上に厄介な問題だったのがモンスターの存在だった。
 だがまずは、過去にプライトルの直面していた問題を知ってほしい。プライトルの海及びシア近辺の海底地形は、恐ろしい程の断崖だった。俺達がギースのシャボンによって降りて来た時も殆ど真下へ沈降していた事からも分かる。
 昔の人達は、いきなり深海への入り口が目の前に迫った事で、暗黒と未知への恐怖が現れ探究心を鈍らせた。またプライトルも大きくなる前だったので、浅瀬の弱いモンスターすらも倒せないままの状態だった。無論当時に覆鎧なんて物は存在しない。
 それを解消する為のエルフ軍団として祖先の者達が派遣された訳だった。彼らは瞬く間に海に適応し、一呼吸で何十分と潜っていられる様になる等の変化が見られた。しかし代償として、常に水を摂取しなければ地上でも活動できなくなってしまった。彼らは大きな枷を背負ったが、それでも仕方なしと楽観視した。そして未開拓の深海を切り拓き、新たな住処すみか、言い換えれば街を作ろうと考えた訳だった。その時のプライトルとの取り決めで、あの領海を上下で分けると言う暴挙が誕生したのであった。
 そして本題。シアを創るにあたって直面したモンスター問題、それは深海特有の超攻撃的なモンスターしか居なかった事だった。暗い深海、目が無意味になるこの場所では、どうやら如何にして強くなり先に捕食するかで争っていたようだった。
 ある者は顎を変化させ牙の散りばめられた腕とし、ある者は遊泳を捨て尾鰭を刃に変えたりしていた。そんな戦闘に特化しすぎたモンスター達が立ちはだかった為、作業は思うように進まなかったらしい。じきにエルフ達も魔法に特化するようになり、戦力で上回るに至った。それからは安全に地盤を作り、創設に取り掛かれたものの、既に長い月日が失われていた。
「でも結局その子達を全滅するのは出来なくて、縄張り争いみたいな感じで今まで何年にも渡って抑え込んでるの。私が生まれる前から少しずつ減ったって聞いてるけど、まだゼロにはなってないからずっと防衛線は張られたまま。あっても時々縄張り争い以外でモンスターも来るしで、損はしてないんだよ」
「へぇ…長々と説明ありがとう」
「まだ『アストラ』の群れは遠くにいますが、各自準備が整い次第、指定した位置に待機して下さい」
 現在地はシア防衛線。シアの西側であり、目の前に星の数と思えるほど多い淡い光の輝く暗い海底が広がっている。この光全てが魔力性モンスターのアストラだと聞かされた。当初数十と考えていた軍団は先鋒に過ぎず、数を増し、消えない光が前座であったと物語ったと言う。
 そして今俺達へ指示を飛ばしたのは、シア海兵隊の長官ジェリー・モレル。シア防衛線にて指揮を取る最高責任者だ。メルの授業が終わらないまま到着して、律儀に終わるまで待ってくれた人だった。それも彼女が良家のお嬢様と当然知っているからだろう。一度だけ後どれくらいか尋ねたが、メルは、もうすぐ終わるよ、と軽く返答していた。
「時間は掛かってしまったが、来てくれたのは勇者様だ、待った甲斐があるってものよ」
 俺は皆の準備が完了するまで待つ事にしていた。実はメルが話していた横で、彼は海中戦闘補助覆鎧の装着方法を伝授していた。メルとジェリーの声が重なり、二つのそれが違う文を放つ為、スピットしかどちらの話も理解できた人が居なかった。そして今スピットはメルと皆の装着の手伝いをしているのだ。
「にしても凄まじいな、その歳で魔法の制御は一級品。持つ魔力量からして最大出力でなくとも街一つ消せてしまいそうだ」
 待ちぼうけて退屈していた所に、ジェリーが話しかけてきた。彼はちょっとした岩に腰掛ける俺に、スーっと近づいて来ていた。
「それって褒めてるんですか?」
「勿論だとも。…確かに例えが悪かったな、済まないね」
 ジェリーは俺の座る隣にある、この岩の二回りは大きい岩にフワッと浮かんで着地した。彼は俺に背を向けたまま話し続けた。
「君を見た時は驚いたよ。メル様をも超える魔力を持っていたのですから。海エルフはね、話にあった通りに魔法、魔力に長けている。だから、人の持つ魔力を見極める事も難しくないのさ」
 彼は少し間を空け、人にもよるがねと言い、振り向き、笑った。そして再び前方の淡い星達を見据えた。俺は少し目線を外し、準備が終わったか確認をしたが、まだ半分を超えた辺りだった。十分な時間があると分かると、俺はジェリーに尋ねた。
「ジェリーさん、今、俺の魔力がメルを超えてるって言いましたよね。…それって本当なんですか?」
 彼はゆっくりと俺へ体を向けて、じっと目を見てきた。そして一言だけハッキリと言った。
「本当さ」
 その時俺は、どんな感情でいたら良いのか分からなくなった。純粋に喜びたい反面、いつからそうだったのかと怖くなる。ジェリーはいつの間にか輝きを増した星を見て、去り際に一つ言い残した。
「だけど、君はメルに敵わねぇさ」
 彼の言ったこの言葉が、俺を辛うじて混乱から救った。魔力は俺が上らしいが、敵わないと断言される。その理由は何だろうと考えるさせられた。
「ヒカル!お待たせ!やっと形になったぜ」
 そんな思考も、スピットの呼びかけによって中断させられた。代わりに飛び込んで来る光景は、クラゲに近かった透明な覆鎧が、弱くオレンジ色に発光したプルテウス幼生が連なったみたいな覆鎧に変わっていた事だ。頭部、肩、肘や膝などから四本か六本の突起が生え、全身はより鎧に近しい風貌に変化している。またそれに伴い硬度も増しているらしい。
「これで完成だとよ。こっちの方がまだマシだな、うん」
 完成した覆鎧を改めてまじまじと見るが、まだデザインに不満がある様子だった。残りの三人も、徐々に伸びる突起を見守りながら苦い顔をしていた。
「覆鎧って、海の生物の姿を真似て作られるんだとさ。これって何の生き物なんだろなぁ、まさかモンスターとか…」
 やはり覆鎧のデザインには元があるらしい。メルの覆鎧はクリオネだし、簡易型はクラゲだし、水戦型はウニの子供だ。他にも種類はあるだろうが、なぜ最後のだけ中途半端な物を採用したのだろうか。理由が少し気になってしまう。
「よし、俺らも完了だ」
「いつでも行けるぞ」
「だってさ、行こっか!」
 軽く体を捻ったり、陸にいるみたいに小さくジャンプしたりしていた。となれば、今は全員が俺とほぼ同じ状態という事だろうか。覆鎧の有無はあれど。だとしたら、水中だから実力が発揮できないなんて事は少なくなっただろう。そんな時、ターラに目が行った。自らの全身をくまなく見回し、軽く叩いて強度を測っていた。どうやら硬さは問題無さそうだったが、また造形を気にして首を捻った。恐らく彼が一番デザインを嫌っているだろう事は分かった。
 さっきの一件が気になりはするが、目前に迫る戦いが気を紛らわせる。そして俺の配置された場所は中央だった。前衛にスピット、ジラフ、ターラ、そして意外にもバトラが居た。俺は徒手やナイフでの近接と、魔法による遠距離攻撃や支援を想定されての配置。いつでも戦法を切り替えられる様にとの事だった。そして防衛線の最後方には、まさかのメル一人だった。前衛にも中衛にも海兵隊が散りばめられているのにだ。
「今回の防衛戦で最後だ!全てが一等星の輝きであり、弱い光は一つと無い!故に、も出現する可能性が高い。勇者様が共闘するとは言え、くれぐれも気を抜かん様にな」
 そこかしこから応の声が上がる。今回の作戦は至ってシンプル、片っ端から撃墜するだけ。細かい行動指定はされているが有って無い様な物。とやらも勇者や海兵隊の戦力上位陣が対応すればどうとでもなるらしい。
 緊迫はしているものの、それらの雄叫びからは自分達の勝利を疑う気は感じなかった。それも、あの依頼が出る前からここでずっと戦ってきた為だった。海兵隊の皆々が、新兵以外は二等英雄上位に匹敵する戦力を持ち合わせているからだ。強い自信を持つのも自明の理なのだ。
 街から離れた薄暗い場所で、何分か、十何分か待った。眼前の星達は徐々に明瞭になってきているが、変化は分かり辛く、完全に来るだろうタイミングを測れずにいた。今かと思えば違う、もうすぐだと思えど沙汰も無し。臨戦態勢で常に気張っているせいか疲れて来て、ふと欠伸が出そうになった時、突如開戦のゴングが鳴った。
「来たぞ!アストラだ!やはり多い、ざっと100以上だ!殲滅開始ぃ!」
 ジェリーの大音声に眠気を弾き飛ばされ、星の散りばめられた暗がりに目を移す。そして今回のターゲット、アストラが合間見えた。蒼白の光を発するコアの周りに、蒼白の幾何学体が付随し、ジェットエンジンの如く幾何学体を回転させながら、陣形の合間を縫う様に素早く移動している。しかし、海兵達は毎度一辺倒な奴らの対処がよく洗練されている為、狙い通り掻い潜れた個体は数少なかった。
「いちっ!にぃっ!さーん!」
 前線では早速スピットが飛び回り、切り伏せたアストラの数を都度数えていた。色々鎧越しにも、いつも通りに戦いを楽しむ彼が居た。そして身のこなしから見て、水中戦闘補助覆鎧(以後プルテウス)は予想通り俺の現状とほぼ同じ、陸と海中の体術の良いとこ取りを実現した物であると確信した。
「ふむ、心配なぞ必要無かったか」
 いきなり隣に気配が現れ、半ば慌てて振り向いた。そこにあった横顔は多少気にかけ視線を寄越すが、すぐにまた視線を前へ向ける。
「…一応長官ですよね?前に行くなり、指揮したりしなくて良いんですか?」
 俺は戦闘を傍観する横顔に尋ねた。
「この程度なら問題ないさ。俺達は本気じゃないし、アイツらもただの斥候兵に過ぎないからね」
 声色は至って真剣だった。言われれば確かに弱い個体や突っ込んで来るだけのアストラが殆どで、八割が前衛に落とされ泡となり、残りが巻き添えだったり中衛前方の人に軽くあしらわれていた。
「…じゃあ、無謀に突っ込んで来て意味はあるのか?これじゃ斥候になってない…」
 俺が口に出す頃には、暗がりからアストラの姿が消え去っていた。しかしまだまばゆく星々が輝いていて、今の大群が序の口に過ぎないと分からされた。ジェリーはブツブツと唱えながら考えている、が、直ぐに目を上げ全体に指示を出した。
「全兵に告ぐ!総数100以上との予見を大きく超えると判明した!母体『マザーシップ』は数体に非ず!倍以上の十体前後、もしくは以上の可能性!マザーシップが現れ次第、優先的に撃破しろ!」
 突然発令された方針の変更、多少の間を要して各所から応の声が上がった。ジェリーは一連の動作を終えると、前へ飛び立ちながら振り向き、質問に答えた。
「アストラはマザーシップから生み出され、文字通り母体の目や耳となる。破壊されてもまた生み出せば良いだけだ。捨て駒に見えても情報は渡っているのさ」
 彼はそのまま前線に向かい、俺は持ち場に一人となった。暗黒の星々は再び鮮明さを増し、今度こそ来ると分かった。
 星雲の中の一つの光が一際強く輝いた。それは唐突に強くなり、未だ白い光を大きくしている。それは一筋の真っ白な光の柱だった。彼方から深海を照らし、あまつさえ海底を抉りながら。
「レーザー!?」
 そう気付いた頃には着弾寸前で、ある一人に向かって突き進んでいた。人影に動く様子は無かったが、ほのかに橙色をしている気がした。あっ、と思った瞬間に、一本の白いレーザーは乱雑に拡散した。周りの地盤を壊し、いくらか魚を粉砕していたが、味方の誰にも掠めはしなかった。
「偵察隊で得た情報は、かなり正確らしいな。マザー、こいつは腕試しのつもりだったか?」
 レーザーを叩き切ったのはスピットだった。プルテウスの光が勇者であると知らせたが、まさかその中でも最強格が狙われたとは。マザーシップがどんな奴か知らないが、と認識した人間を狙ったのだろう。残念、そいつ現最強の男です。
「来たぞ!マザーシップだ!」
 誰かが叫ぶと同時にギラリと赤い光が瞬き、直後にその方向からさっきの比じゃない数のアストラが迫って来る。数で言い表すなら四桁はくだらない、数十体が束になり絶え間なく闇から出て来る。
「嘘じゃん…超大忙しじゃねーか」
 さっきと同じ様に幾何学体を回転させ、しかし何体もが蛇みたいに連なって前線を押していた。スピット達の対応も虚しく、何十もの蛇が中衛へとやって来た。
「狙いはコア一つ、だから簡単だけど…」
 連なったアストラは数人がかりで短くなって行くが、一つの蛇でその具合なら、残りの蛇はどうしろと言うのか。俺は蛇が射程内に入ると一体一体のコアを次々に『風刃』で断ち切った。水の中では威力を殺されるが、20メートル以内なら減衰は少ないし、あまり力も必要としないから多用し連射した。秒間七、八体の処理は出来るが、それでも一つの蛇の処理速度は5~10秒で一匹が関の山だった。
「おいおい、これ大丈夫かっ!」
 この空間を埋め尽くさんばかりにアストラが湧いて来る。総出で倒しにかかっても防衛線を保つのでやっとだった。とめどない襲来に集中力は段々と削がれ、遂に恐れていた事が起こった。
だ!五体が通り抜けたぞ!」
 誰かが放った言葉に不意にも目が移る。光を放つアストラが形状を変えながらメルの構える最終防衛線に直進していた。この時中衛全体の位置が初期より前に上がっていた為、誰も居ない空間が出来ていた。誰の手ももはや届かない、残されたのはメルただ一人だった。
「『烈風れっぷう』!」
 誰も対応できていない数体の蛇に向かい、高く挙げた両手を振り下ろす。そして現れた暴風はアストラの幾何学体諸共もろともコアを切り刻んでいった。海兵隊の殆どは魔法を使うが、射程はそれ程長く無い。だから敵に近づき攻撃しなければならない為、そこに俺が茶々を入れたとなればアストラ共々魔法の餌食になってしまう。これは誰も他に居ないから出来る、高火力広範囲の魔法だ。
 数匹の蛇を秒で片付け、俺は束の間の休息を得た。他の海兵隊は少なくなった蛇の残党を狩っている、光はまだごまんとあるが近くには来ていない様子。そして気になっていた後方に目を向けた。
 形状を変えたアストラのコアは光を放っておらず、回転していた幾何学体は分離し、片方を引き伸ばされた菱形立体が五つ,コアの周りに付随していた。それらメルに相対していて、俺が目を向けた直後に一つ一つの菱形が瞬時に連なり、五体が別々の蛇になった。五つの菱形の後にコアが続く形で、メルを惑わす為か無茶苦茶に泳いでいたが、確実に街に近づいている。そんなアストラ五体に対して、メルは何もしていなかった。もしくは出来ないのか。
「もう来たよ、この蛇どんだけ居るんだ」
 たった数秒目を反らしただけでもう次が湧いている。だが丁度良い事に、縦に三匹の蛇が並んでいた。のアストラが変形していて、菱形が大口を模し前に突き出ている。向く先は俺、三匹の標的は分かりやすかった。
(試すか、水魔法)
 俺は再度周囲に味方が居ない事を確認し、左手を大きく振り上げる。
「『逆巻さかまき』」
 最初は海底に現れた小さな上昇水流、見る事は叶わず気付けなど出来ない。しかし蛇が近づくにつれて、じわじわと海底の砂を巻き上げ、巨大な荒ぶる水流となった。蛇共は進む力をぎょしきれず、海の竜巻に吸い込まれ、最終的に蒼白の回転するオブジェが完成した。
「よし、こっから…」
 俺は両の手を上下に構えて、何か筒を縦に潰す感覚で両手を近づけていく。それに呼応しオブジェは海底と切り離され、最上部も丸みを帯び、パキパキと乾いた音を鳴らしながら球体になっていった。内部のアストラは球体になるにつれ、コアを潰され数を減らし、残るはたったの数体だ。今まで左回りだった逆巻くボールに、今度は反回転の水流をあしらうと、小さく光を放った後に球はただの砂と化した。
「うし、うまくいった」
 俺が小さくガッツポーズをとっていると、今度は後ろから差す光が突然鈍くなり、肌に僅かな冷気を感じた。何だと思って首を回し、目を向けてみると、目に入る限りを氷の壁が支配した。薄ら明るい中心でメルが腕を広げ歯を見せて笑っていて、彼女の背後には激突したのであろうアストラが二体見えた。
「さぁ!この壁超えてご覧なさいよー!」
 そう言い放ち広げた両手を前に振ると、巨大な氷の一部がツララを形成し、アストラのコアを貫通した。揉みくちゃ状態だったアストラは、静かに泡になって消えていく。いつの間にか背後に広がっていた氷の大盾、自分には到底出来ない芸当を、さも当然のようにやっている。そんな光景を目の当たりにして、俺はやっと気付いた。
(あの人の言った意味が分かったかもしれない)
 俺は一人思考に更けた。魔力は俺が優れるも、メルには敵わない。ジェリーの言った事がどんな意味だったのか。
 彼の言う魔力とは総魔力量の事で、使える魔法の強さや複雑さ、相性を加味しての事では断じて無い。メルの方が魔力量で劣るのに俺の方が弱いとするのは、その事を踏まえると何ら難しい問題じゃなくなる。
 俺の持つ魔力量が10としてメルは8か9辺りとすると、メルは全てが水系の魔法強いては氷の魔法だけを使う。しかし俺は火と水と風と光と四つも持つ。俺の最高火力となり得る光でも4か5で精一杯だから、倍以上威力に差がある事になる。実際は工夫の余地があるとは言え、それを以ってしてもメルに軍配が上がるだろう。
 あっそう言えばと我にかえり、周りを見てみると、誰も何の怪我も無しにアストラ軍団を根絶させていた。点々と残るアストラも指折りして数えなくても良いくらいだ。しかしよく見ると、最前線が全く見えなくなっている。プルテウスのオレンジの光が二つしか見えず、残りの二つは恐らく前方の暗闇の中。海兵隊の中衛陣営も、それを見て少し慌てた様子でもっと暗い水底へ向かって行っていた。
「ちょっと…行くの?」
 後衛をメル一人に任せる事にはなっているが、完全にここから誰も居なくなるのはどうかと思う。だが中衛とされていたこの場所には俺一人で、さっきまで前衛だった場所にみんな居る。しかもまだ先へ泳いでいる様子。
「急ご…」
 考える暇もあったもんじゃない。俺は魔法で加速して泳いだ。次第に後ろからの弱い光が完全に届かなくなり、周りにはアストラの光と橙色の発光体幾つかあるだけで、その他の光源は皆無だ。水底と海兵隊はその弱い光に当てがられて薄っすら輪郭が分かる程度だった。
「間もなく決戦だ。アストラを適宜撃墜しながら、マザーシップを優先的に撃破せよ。その時決して単独で臨まぬようにな」
 前からジェリーの声が聞こえ見上げると、淡い星の光を唯一遮る人影があり、そこから声が発せられていた。他の人々は皆地に足をつけて待機していて、その中にプルテウスの光が散見された。白か灰色の輪郭は左右に伸び、横方向に広く展開していると知った。
「来たっ!!」
 声と共に星々の間に赤い閃光が走り、さっきの白いレーザーが浮き上がっている影に差し迫る。しかしまた、レーザーは四方に弾け、暗がりに広がる星々の間をすり抜けた。手前から奥方へ、一瞬の光明が蒼白の地獄を映し出す。
 待ち構える多数のアストラと、その何倍も大きなマザーシップの姿。コアは赤黒く、あの菱形は変わらずも数は六つ持っていた。見ていると六つの菱形が変形して、六体のアストラに分化した。
「そういう事…だから増えるし、偵察機にもなるんだ」
 一人で納得していた矢先、暗がりが一気に輝いた。
「皆気張れよ!」
 励声れいせいが響き渡ると同時に幾本もの小さなレーザーが襲来し、最終ラウンドの幕が上がった。
 何十人もの壁で、倍以上のアストラと十数体のマザーシップを迎え撃つ。数的な有利が有るとはとても言い難い現状だが、立ち上がりの戦力差は微々たるものと思われた。そう思うのも理由がある。あまり目で捉えるのは難しいが、俺でも分かる程魔力の動きが強く、攻撃は魔法で全て弾かれていて、アストラは何も出来ていなかったからだ。
 アストラの攻撃方法は幾つかあるのだが、五つの菱形を展開した上でそれぞれをブレードにように振りかざしたり、コアに全ての菱形のより尖った方を付けて放つさっきのレーザーだったりと多岐にわたる。それと同時に、移動する時のジェットエンジンのように回転する菱形にも注意しなければならない。それにも関わらず、海兵隊は無傷のままアストラを淡々と減らしていく。ここで長く戦っている者たちは、流石としか言いようが無かった。
 俺も俺で次々に放たれるレーザーやら、振りかざされる一刀やらを、水魔法『逆巻』の盾で散らして防ぎ、一体一体丁寧に『風刃』を飛ばして倒していった。こうしていて分かった事が一つ、レーザーは細ければ細いほど軌道を反らされた時に早く消える。マザーシップが撃っただろう極太のレーザーは弾かれてもまだ海底を抉ったり闇を照らす力がある。しかしアストラの撃つ細いそれは、たったの1メートルで減衰しきって無くなってしまう。五回か六回、アストラのレーザーを弾いた時点で、荒く弾いても大丈夫と気が付いたのだった。
「『白砲はくほう』来るぞ!打ち返せ!」
 俺がアストラを十五体以上は倒した時、ジェリーが叫んだ。すっかり減ったアストラの向こうに、幾つもの赤い光が瞬いている。それはマザーシップの太いレーザーが発射される寸前の光だ。
「まぁかせろぃ!!」
 その時、浮ついた声と共に、二つのオレンジの光が前に飛び出していった。今までおおよそなりを潜めていた勇者が遂に前に躍り出たのだ。閃光が走りレーザーが飛び交う、それでも橙の光は前進し続ける。いよいよ衝突すると思ったら、全てのレーザーの軌道が曲がり、内一本がマザーシップに打ち返され、跡形も無く消滅させた。
「へへん!どうじゃい!」
 そう言いながら落ちてくオレンジ色。打ち返す瞬間に照らされたのは、スピットとバトラの横顔だった。スピットは分かるが、バトラが居たのが驚きだった。普段は弓を扱う彼が、こんなにも近接戦が得意だとは思わなかった。言うて一般的な一等英雄くらいだとは思っていたが、今の光景を見るにスピットと変わらぬ実力がありそうだった。
「なーみんな!俺らで大将やっちまおうぜ!」
 そして上がったスピットの声は勇者全員に呼びかけられた物で、俺には『もう飽きたから片付けちまおうぜ』とも聞こえた。
「結局かよ…良いけどさ」
 小言を呟くも、俺もどちらかと言えば賛成だった。海兵隊に従い、軍団として動くのも悪くはない。しかし勇者のやり方に毒されたのか、そっちの方が性に合っていた。俺も残るオレンジの光らも、こぞって二人の下へ馳せ参じた。なんだか久しく見る知った顔触れは、揃うや否やただ一言。
「散れ」
 それは俺達にとって戦闘開始の合図。全員が自分の武器を手に取り、思い思いの方向へ飛んで行った。
「お、おい!勝手に…いや、これはこれで良いのか?」
「隊長、ここは任せて逃れたアストラの撃破を」
「だな、こうなってしまえば仕方ない」
 マザーシップは六つの大きな菱形を展開し、その時の大きさは5メートル位。そこからアストラよりも多彩な変形と攻めが来る。そして名の冠する通りアストラを生成する。俺の最初に相対したマザーシップは、三つの菱形を切り離し続け、アストラをとめどなく量産し、残りの三つでレーザーとミサイルと斬撃を繰り出して来た。アストラへ分化させた菱形は一秒と経たず再生し、それをまた切り離す。攻撃の狙いも正確無比で、避けるなど出来なかった。それに加えて、切り離されたアストラはより太い蛇を形取り俺へと伸びて来る。
「キッツ…!大盤振る舞いだな」
 絶対に一人に対して振るって良い物量ではない。レーザーは細いがそれなりの威力を持ち、菱形の半分を切り離すミサイルは自らの隙を埋めるように襲い、少しでも近づけば斬撃の領域に入ってしまう。それらが順調に伸長する大蛇を破壊する事を拒む。これだけマザーシップが排除に本気になる理由は分かる気がする。俺が一人で蛇を片付けたり、挙句一度に三体を潰したりしたからだろう。
「……ッ!」
 レーザーを『逆巻』で散らし、ミサイルは単純に水魔法で流して外す。たったそれだけを繰り返すだけで疲労困憊、攻撃の出を潰される感覚が続いた。どれだけ反撃したいと思っても出来ないし、大蛇の頭も直ぐそこにある。頭である三体のアストラがゆっくりと三又の顎をこじ開けた。
「やっと来たな」
 蛇に頼って攻撃の手が緩くなった一瞬、二種の攻撃を振り払い、現れた隙間の一点に体を弾く。懐かしの風魔法『離破りは』、自分を吹き飛ばすだけの小さな衝撃波で移動する魔法だ。囲まれた状況から脱する時や、逃したく無い隙に付け入る時によく使う。今回は丁度そのどちらの意図も孕む使い方だった。
 不用意に開いた三又の顎の一角が、キンッと言う金切り音を上げた途端泡になり。レーザーやミサイルは目の前の敵を見失い明後日の方向へ飛んで行く。失った顎の影から顔を出したのは、今まで追い詰めていたはずの子供だった。
「反撃開始!」
 幸いにも、大蛇を構成するアストラは回転していない。それは後ろから押し出されてここまで伸びて来たためか。それを大いに利用させてもらう事にした。
 俺は大蛇の体を伝ってマザーシップへ近づく。足場とするアストラを超えると共に切り刻み、位置をどんどんと押し上げて行く。使う魔法は新しい『風刃』。小指の先から手の側面へ、腕の側面を通過し肘まで続く装着型。幾重にも重なった『風刃』を、インパクトの瞬間だけ高速回転させる。そうすれば敵だけを切り裂くチェーンソーが完成する。
 大蛇を這う影をミサイルが狙うが、アストラと同時に切って落とされる。マザーシップがアストラと一斉に掃射したレーザーも、逆巻く荒波に巻き取られた大蛇の体が盾となる。残された攻撃手段の斬撃も、隠れ動く存在を両断出来ず、自らの戦力を無駄に削ぐだけになっていた。
 アストラはマザーシップの目や耳となるが。しかし俺の姿を捉えた瞬間やその前に機能を失ったり、激流に飲み込まれて狂わされたり。奴はそれらの情報も受け取る為に混乱し、土壺にハマりそれが墓穴になろうとしている。
「到着」
 とうとうマザーシップの目前に来た。盾としていたアストラを退け、現れた巨大なコアと菱形。迷い無く、俺は『風刃』の形態を変え、手刀の延長として用いてコアを突き刺した。直後に赤い閃光を発してコアは破裂した。
「…あれ?」
 周りのアストラは力無く崩れて泡になっている、しかしマザーシップに付随していた六つの菱形はまだその場に留まり消える気配を見せなかった。しかし途端に全ての菱形は内向きにグルンと回転し、コアのあった場所へ突進、激突し、巨大な結晶になった。そして新たに菱形が生成されると同時に、結晶の中で赤い球体が成長していったのが分かった。
「撃破に二人以上で臨めって…そういう事か…」
 成長する新たなコアと菱形を前にして、その意味を理解した。マザーシップは多数のコアを持っていたという事、自身のコアは言うまでも無いが、後にアストラの物となるコアも六つ持っていた。アストラになる前はマザーシップの物、一度に七つを破壊しなければ倒せない。
「…分かればっ!」
 復活まで、マザーシップは動きを止めた。再び動き出すまでに仕込める時間はいくらでもあった。
 新たに完成したコアから結晶がぼろぼろと崩れ、遂にガードは無くなった。コアが赤く輝き始めたその時、勢いよくコアを叩く。今度は『風刃』ではなく、水流の螺旋を纏った拳で。
「『むすび』」
 螺旋を受けたコアは再び崩壊、拳は引き戻されると同時に、触らねば確認できない水の糸を引き抜いた。すると全ての菱形が同時に爆発し、造形は跡形もなく散り散りとなった。
 水と火魔法の合わせ技。水と風の複合が『嵐』であるように、今回の複合にも名がある。俺はあまり気に入っていないが、『気蒸きじょう魔法』と俺の生まれた世界では呼ばれていた。『爆ぜ結』の構造は単純。手榴弾とほぼ同じカラクリを用意してあるだけだ。気化しやすい水を作り、隣に火を置く。それらをなんでも良いから仕切りで分け、それを取っ払って爆発させる。威力は小さくてもこれだけの破壊力があり、元の用途はビルの爆破解体だった。
「…んじゃ、次だな」
 どんどんと泡に変わっていくマザーシップの向こうに、極太のレーザーを放たんとする二体のマザーシップが見えた。遠距離から始末しようとするなど、なんと浅はかな企みだろう。すかさず放たれる二本の白砲、しかし相手が悪すぎた。
「最大火力!『龍咬りゅうがみ』!」
 両手を振るい、放射状に広がる風魔法を撃つ。範囲を拡大し続けるそれは、左右から内側へ巻き込む風を生む。それが複数連なる事で、当たった場所がまるで龍が噛み付いた様な痕になる。それが『龍咬』の名の由来であり、最強の所以である。
 白砲と龍咬。かち合いどちらが押し通るのか、結果は目に見えている。『龍咬』が白砲を噛み砕いた。二本のレーザーが龍咬に触れると、紙がシュレッダーにかけられるように細かく咀嚼され、小さな光たちは辺りを照らす力も無くなって消えていった。マザーシップはレーザーを撃ち続けるも龍咬は衰える事なく、そのまま進み続けて二体とも飲み込んだ。
 暗く静かな深海に戻り、ふと遠くに響く金属音の方角へ目を向けた。そこには苦戦もせずマザーシップを細切りにする誰かの姿があった。剣の筋は直線的だが、瞬きするうちに数十数百も刻む。恐らくターラだ、そしてやはり『一閃』を用いて撃破したらしい。周りを見てもマザーシップは数体、しかもどれもが倒された瞬間か王手のかかった状態。戦いは終わったも同然だった。俺は皆が集まる前の暇を潰すため、ターラの場所に行ってみた。
「ヒカル、やはり水の中は戦い辛かったぞ」
 俺が近付くとターラが語りかけてきた。ほぼ何も見えないのに、と思ったが彼には魔力が見えているのだった。暗闇だとどう見えてるのだろうか、黒い人の形の周りに魔力のオーラが光って見えるとか?
「そうは見えなかったけどな」
 プルテウスの光が各部位の先端にあるためどんな行動を取っているか分かりやすい。今は腕を組み、左手が顎か口の前にある。
「まぁな、何度か被弾したが鎧にヒビも入らなかった。同時破壊ってのが面倒なだけだったな」
 ターラは首や肩を回しながらこのようにも言った。
「そういうお前は水中戦が初めてか?」
 素気なく言われた事に一番ドキッとした。
「…よくご存知で…」
 彼に俺の顔は暗くて見えていないだろう、俺自身ももちろん分からないが、とても渋い顔だったと思う。
「だってな、最初の危なっかしさにはヒヤヒヤしたし、さっきから試すように魔法を使っていたじゃ無いか」
 彼は暗闇の中でそう言った。彼の見ていた物は魔法が使われる間隔だと思う。一つ一つの間隔が長かったからバレた。確かに慣れていたのなら、俺はもっと連続して魔法を使うだろう。
「あ、そうだ。ヒカルはマザーを何体倒した?三体で合ってるか?」
 突飛に彼が尋ねてきた。戦い辛いとか言いながら周りを見る暇があったらしい。
「合ってるけど、それが?」
 それを聞くと、ターラは得意げに言った。
「そうか、私は四体だ」
 オレンジの光は、彼が今両手を腰に当てて仰け反っている事を示す。また意外にもかわいい所が有るんだとも思った。
「因みに、ロヴェルがお前と同数、ゼルとドーラが二体だ」
 自慢げな態度をとったと思えば、今度は他の人の討伐数を聞いてもないのに答えた。
「へぇ意外、スピットならもっとやってると思ったんだけど」
「双剣ではリーチが短いしな、周りに少なかったというのも要因だ」
 と、ターラは言っている。それにしても魔力を見て誰かを特定できるのは素直に凄いと思った。だがこれは全て戦いの最中に見た事だろう。本当は水中戦得意なのでは?と思い始めた。
「そこに二人居んのかぁ!?」
 ターラと話していると、スピットが遠くから声をかけてきた。近づく光をみると、もう二つプルテウスが付いてきていた。どうやら全員集合らしい。
「ああ居るぞ!んで、どの方にシアが?」
 俺の問いに三体のプルテウスは「えっ」と難色を示した。これにいち早く答えたのは隣のプルテウス、右腕の光が左斜め後ろを指差した。
「あ、ありがとうターラ」
 今度はジェリーさんら海兵隊の魔力を見たのだろう。本当に便利だ。
「ひぇ~危なかった。夢中だったから方向忘れてたぜ」
「ああ、そうだな…いや単純に覚えられねぇって」
「おい、俺の事は見てないのか?」
 前方から呟く声が聞こえてきた。やっぱり半数以上は方向感覚を失っていたらしい。ジラフを見ると自身の前方を指差していたのにはその時気が付いた。なんだか申し訳ないなと思っていると、ターラがいきなりシアの方へ体を向けた。一体なんだと考える前に、彼の声が耳に届いた。
「勇者様方!片付きましたか!?」
 ジェリーの声だった。俺達がマザーシップに直進していった手前、すり抜けたアストラを任せる事になってしまったが、この様子だと特段心配事は無さそうだった。
「おう!全部倒したぜ!」
「ならば良かった。もう星は見えません、アストラもマザーも全て討伐した模様です。では、シアへ帰りましょうか」
 スピットが一言で総括し、ジェリーも物腰柔らかく戦況を伝えて、最終的に真っ暗の中ターラを先頭にしてシアへ戻る。途中からシアの明かりが見え始め、次いで目も効くようになり、各々自由に泳いでシアへ向かい始めた。そういえばもう氷の大盾は消えていて、最終防衛線だった場所は気付いたら超えていた。
 シア最西端の広場には、いち早く戻っていた海兵隊と、ごろんと地に寝そべったメルが居た。それを見て誰もがおいおい…と顔を青くした。どうせ退屈なんだろうが、関所の件と言いこれと言い、もう少し目を気にして欲しいと思った。当のメルは俺達が帰ってきたのを見ると飛び起き、開口一番文句を言った。
「あー!ねぇねぇ、アストラ逃しすぎだって!向こうに行ってから十体以上はすり抜けてたんだけど!?」
 メルはずいっと迫り、これでもかと圧をかけていた。最も彼女の小さな体と幼い顔がそれを半減させていたが。
「え、そうなの?おっかしいなぁ、マザーと一緒にアストラもってたはずだけどなー…」
 そうバトラが反論すると、スピットも首を縦に振った。俺も首を振り、戦いでアストラを逃してないと再確認した。確かに全てを『風刃装着タイプ』でなで斬りにした。
「あのさぁ、やっぱり引きつけた方が良かったんじゃないの?あんな暗い場所で戦うから見逃すんだよ?」
 頬を膨らませて怒る彼女からはどうしても圧を感じられない。むしろ幼児をあやす様でほっこりしている。が、こんな事を言ったら流石に彼女を傷つけるだろう。
「…悪りぃ、俺が多分元凶だわ。バンバン倒してバンバン前行ってたし」
 ここでスピットが勝手出た。気まずそうな顔をして手を上げている。
「思った通りだ!スピットしか居ないもん周り見ずなの!」
「すまんって…」
 メルの説教は続く。
「いつも真っ先に行って周り巻き込んでるの君だからね?アストラあの子達は光に向かう習性だったから良かったけど、もし回り込む様な行動をとる子だったら対応出来てなかったよ!?」
「あい…」
 言われるたびにスピットが萎縮していく気がした。確かにあらゆる事を先走るのはいつでもスピットだった。それを大々的に叱られ流石に心に刺さっているのだろう。
 しばらくしてメルの説教は終わり、皆でプライトルに戻る事になった。それもバトラが戦闘中に矢の一本を折ってしまったらしく、それの替えを取りに行く為だ。思えばいつも使った矢は回収していたし、特注品だから直ぐに替は用意できない。プライトルに親友が居たという事は、彼の元の拠点はプライトル、矢もここで作っているに違いない。
 ジェリーから、報酬の支払いが一日以上空いてしまうと伝えられたので、メルの実家帰省も叶わぬままプライトルへ戻る。帰りの便もギースが担当となった。皆はようやっとダサい覆鎧から解放されてちょっと嬉しそうだったのを、複雑な顔をして見ていたギースが印象に残った。俺は疲れたなぁと伸びをした時、ある事に気がついた。
(あれ?『周り見ず』じゃなくて『向こう見ず』では?)
 やっぱりメルは締まらないな、と、一人心で呟いた。
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