転移した世界で最強目指す!

RozaLe

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第三十八話 勇者と騎士団長

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 関所からフォルガドルまでなら、俺たちの足で半日とかからない。大体昼過ぎ位に村を出て、襲撃に遭ったのが出発から二時間前後だった。そして一時間弱で関所に到着。身軽になった俺たちはそこから更に五時間程度だろうか。普通なら野宿を幾らか挟む距離の所を、半日で到着した。ただすっかり日は落ちてしまい、到着早々宿探しをする必要があった。それに伴い騎士団に行くのは明日へ持ち越しとなった。
「すんげぇ変わり様だなおい」
 フォルガドルへ来て全員が驚いた事がある。それはフォルガドルの仕様が聞いていた物とは似付かないくらい様変わりしていた事だった。
 宿探しだー!と俺含めて意気込んでいた六人だが、歩き始めた矢先にこんな夜中でも明るい場所を発見した。寄ってみれば英雄の為に改装され新しく建った宿街だった。宿自体は二階建てで中庭もあり、総面積は今までの宿の比ではない。しかもそれが三軒もあり、その周りには揃えられるだけの工房が寄せられていた。
「おお!これはこれは勇者様御一行ではないですか!やはり来てくれたんですねぇ!」
 そう言って従業員はさぁさぁ!と急かし、それぞれをVIPクラス相当の部屋へ案内した。男女で階を分かれる時、ついでにと言わんばかりに先導者が六人それぞれに付いた。俺の担当は胸元のネームプレートに『ルキウス』とある、初老で赤髪の男性だった。付いて行く最中、フォルガドルが変わった理由をルキウスは教えてくれた。
 元々ルィックの獣人共は、比較的プライトルに近い場所からわざわざ上陸していた。理由は、プライトルの方が地形的にも警備体制的にも守りが薄かったから。おまけに人が多い。しかし散々目立った事で警備が厳しくなり、より環境の厳しいフォルガドル付近から上陸するしか無くなった。しかし安全なルートの開拓に成功したとかで一気にルィックが雪崩れ込み、比例して今度はフォルガドルで被害が増えた。
 今はこっちも警備強化と探知魔法で厳戒態勢を取って居るが、例の拠点完成により再盛と抑圧がいたちごっことなっていて、英雄の力を借りる事にした。のは良いのだが、関所の騎士に言われた通り、集まりが予想以上に悪く宿が余りに余っている状況だ。財政で言ったら赤字もいいとこだと言っていたが、少ないながらも恩恵を受けている英雄もいる訳で、早急な問題解決のため勇者を待っていたと言った。
「これでも畜産の方も続けるのだから、国王様も腹が太いな」
 最後の言葉ではっきりした。国王も一枚噛んでいると。そう言えば、プライトル前の関所でもハイミュリアとルグトリノの王が結託してルィックを消滅させようとしていると聞いたな。組織消滅の為ならば出費を惜しまない、それほど強大な郡なのだろう。
 こちらへと案内され、扉を開けると、天蓋付きベッドに、一人では寝そべっても足りない広さのソファが目に入る。他には綺麗な風景画が数点、簡単だがデザインの凝った収納複数に、別室には豪華な風呂まで完備されていた。ここは施設でも入り口から最も遠い、同じく最も格式の高い部屋だ。このレベルまで絢爛にされると一四歳にとって恐れ多すぎて入るのさえ躊躇してしまう。
 立ち止まった足の代わりに首を動かしルキウスへ目を向けるがそこには居らず、いつのまにか鍵を握らされていて彼はもう退散していた。いつの間にと思いながら部屋に入ろうとした時、視界にちらっと映った。前を歩いていたターラが来た道をさらに行き、角を曲がって行った。あの先には通常の部屋しかないと言うのに。
「と言うわけで、おはよう」
 食事はプライトルのレストランにでも来ているかと錯覚するほどよく出来ていて、風呂だってシャンプー、ボディーソープ、リンスや香油なども完備。ベッドはふわふわ、それに負けず劣らずのソファ。もうソファで寝ても節々が痛む事が無さそうなほど。寛いでいるうちにあっという間に朝になった、皆からは旅の疲れなど感じず、素晴らしい快調振りだった。ただ、メルに関してはいつも通りだろうか。
「よし、準備出来たな?メル担いで行くぞー」
 スピットが足側、ジラフが頭側を頭の上に掲げ、少し斜めに傾いた状態で運んだ。メルの朝寝坊の癖はプライトルでも反省してそうな物だが、人の性は簡単には直らないらしい。
 明るくなって知ったが、この新宿街はフォルガドルの西側、王国騎士団の支部の近くに置かれていた。支部とは言え規模は相当大きく、流石最も忙しい地域なだけあると感じた。また、支部の外観は砦そのもの。分厚い石造りに、土魔法で強度の底上げ、重そうな鉄門に三箇所の監視塔。低階層には隙間一つ無いように見えるのに、高階層には幾つも穴が設けられている。その使い道なら想像に難くない。
「いやぁまた寝過ごすとは…失敬失敬…」
 到着後に目を覚ましたメルは苦笑いを浮かべる。高貴な生まれなのが信じられないし、プライトル以降反省はしていなさそう。むしろ開き直ってないだろうか。
「しっかりしてくれよ、王都騎士団団長と会うんだしさ」
 メルを担いだままでも勇者の名と待遇は廃れないもので、鉄門で見張っていた騎士にが俺達を見るや否や、開門と叫んで秒で砦へ入れた。一般通路と呼ばれる大きな廊下を歩いていると、そこかしこに張り巡らされたパイプから微かに反響音が聞こえる。これは初歩的な内線通話機だろう。しかも金属魔法を使って幾つか中継点を作り、建物の端から端まででも声が届く様になっている。
「何度か来てたからなぁ、結構構造覚えてるもんだな」
 スタスタと歩いて行くスピットに付いて行く事数分、一つの木の扉の前に到着した。扉の横の木のプレートには、墨らしい物で団長室と書かれてあった。スピットは扉の金具に手を伸ばし、ゴンゴンとノックをする。シアの城の扉のそれとは幾分か優しい音が響くと、室内から男の声が聞こえて来た。
「来たな?入ってくれ!」
 くぐもっていたが快活そうな声だ。しかし、スピットは下がっててと俺らに忠告した。その理由はなんだか想像がつく。大人しく引き下がり、スピットは扉を押し開けた。その刹那、彼の顔面に向けて数本の矢が縦一列に飛んできた。
「えぇ…」
 あっさりとそれを掴んで見せた彼の足元には、ドアが開く事で作動する罠が仕掛けてあった。更に彼の頭上からは逆さ吊りにされていた剣山が降って来た。丁度手にある矢の先端でそれを受け止め、続け様に正面から繰り出された槍をも掴み取り、奪い、仕掛け人の首に差し向ける。
「ひゃー参った参った。出てったきりだったが、こりゃ何倍もレベルが上がってんな」
 立派なヒゲを生やした仕掛け人は、両手を挙げ降参した。しかし声には嬉しさが垣間見えた。
「やっぱり準備してたろ。この精度の罠だから、用意するのに十分弱かな。俺らが門を潜ってからここに来るまでと同じ位の時間だ。呆れる奴」
 スピットはそう言うと槍をぽいっと捨てた。床は石造りなので傷は出来なかったが、以前からある様な傷が散見された。
「っつー訳で、こいつが俺の義父おやじで、現王都騎士団団長の男だ」
 スピットは扉の端へ身を寄せ、その男がしっかりと俺たちに見える様にした。スピットが、名前位は自分の口で言ってと、なんだかジトっとした目で言うと、二つ返事で了承した。
「おうよ。俺がこいつの義父のダッドリーだ。『ダッドリー・ヴォイルーゴ』。よろしくな!」
 前もって言った立派なヒゲ、伸ばし乱れた髪。体格は勿論大柄だし、それに加えて重装備なのでより体が大きく見える。彼は剣を背負ってないが、この部屋にはあらゆる武器が壁に立て掛けられ、吊るされていた。槍だけでもオーソドックスな物から原始的な物、ジラフが持っている様な特殊な物まであり、剣もハンマーも弓も棍もある。中にはモーニングスターまであった始末だ。
「とりあえず中に入れ、話は座ってしようや」
 ウインクをしながら掌は上に、指をクイっと曲げた。指示の通りに部屋へ入ると、ダッドリーは手を挙げ、今度はぎゅっと握った。すると扉がバタンと閉まり、今まで仕掛けてあった罠が瞬く間に分解されて素材の形に戻った。そこで初めて何で罠が成されていたのか知った。ごろっと現れた一つの岩、それが罠達の正体だった。
「えっ?土魔法?」
 メルが一連の光景を見て驚いた。嬉しそうに唸りながら、ダッドリーは更に指をクイっと曲げて椅子を出現させた。
「そうさ。俺は土魔法が得意な魔剣士って奴だ。あーただ、簡単な構造しか作れねぇ。その代わり魔力は無尽蔵で一度に設置出来る数も無制限だ。解除も一斉にできるぞ」
 その説明の割には罠の精度が高かった気がするが、ダッドリーにとって複雑な物は作れないと言っているだけだろうか。部屋をよくよく見ると、全体が弱くも魔力で満たされている。それに部屋全体の物全てに石が含まれている。土魔法は砂から砂利、石や岩を自由に変幻させる事ができる。より強固にしたり、時には金属も操作の対象にすると言う。金属に関しては微微たる変化しか出来ないらしいが、ドアの開け閉め位ならやってのけるだろう。
「へぇすっげぇな。俺ら攻撃力技術力に全振りな奴ら多いから珍しくって」
 バトラが言ったのは剣術と魔道の両立の事だった。確かにそれら両方できている奴、このパーティに居るか?
「そうかいそうかい!。んじゃあよ、とりあえず今のレベルと得意武器とか役割っての?それ含めて自己紹介してくれよ。新顔もいる事だしな。お前もやれよ?スピット」
 ダッドリーは自身のテーブルに腰掛け、一人一人、順番に訊ねていった。最初に目を向けられたのはバトラだ。
「元ディン・ラトル『バトラ・リキオル・ドーラ』弓と特注の矢で遠距離支援主体。弓が使えなかったらコレで近接戦に参加って感じだな。最後にステータス確認したのはこのパーティに入る前…60いくつとかそんくらいだった」
 バトラは自己紹介の最中、背負った矢筒から一本の矢を取り出した。それは矢でありながら先端の刃が歪な程大きく、かつて映像で見た岩をも砕く矢だった。そう言えばシアでも防衛の時コレを使っていたな。ふむふむと頷くダッドリーは、次にメルを見つめた。
「あ、私は防御とか拘束の担当だね。魔法の性質上戦うのが難しいんだ、威力間違えると一帯氷漬けだし。大体前線からは一歩引いたところにいるね。レベルはシアにいる間に測ってたんだけど、もう90寸前だった」
 けろっとした顔で大変な事を言った。この世界にはレベル(実際の表記は”LV.”)の概念があり、マックスは99レベルだ。それを今彼女はなんと言った?90前と言ったのか?カンスト目前じゃないかと、皆静かに驚いた。
「つー事はその覆鎧絶対壊れなくね?『未満無効以上半減』持ちだろ?」
 ああ確かに~と納得する皆だったが、俺だけはピンと来て居なかった。となりのトト…バトラに小声で何かと訊くと、名前は知らなかったか、と言って教えてくれた。要するに、自身のレベル未満の者から受けた攻撃は無条件に無効化し、自身以上のレベルの者からの攻撃も無条件に半減させると言うものらしい。
「お前さ、『ネヴェンデスト』って覚えてるか?食人植物の」
 そこで出てきたのはかつて俺も引っ掛かった事のあるモンスターの名だった。確かにあの時、『灼豪しゃくごう』と言う破壊用と言える火魔法を放ったが無傷だった。他にも試してダメだったのはそんなスキルを持っていたからか。そう言えば勇選会でバレたのもあの一件が原因だったな。
「88か89?まぁどちらにせよ俺でも届いてねぇや」
 スピットは言いながらドッと深く腰掛けた。今更だが用意された椅子も土魔法の産物。しかし土汚れは着かないし、泥みたいな質感の割に意外と心地良い。適度に変形する分フィットするのかもしれない。
「かもな。だが油断できねぇぞ、少なくとも魔王はカンストだからな」
 その一言に俺は肝を冷やしたが、他は知っていたのか気にも止めていない。それより自己紹介の続きをとダッドリーがジラフを見つめた。
「元ウノン・ガドル『ゼーソル・ゼル・ジラフ』最前衛で盾となることが多いが、スピットと並ぶせいで攻めと守りの比が六対四位になってるな。魔法の才は無いが、辛うじて金属魔法の一部をモノにしたぞ。レベルは幾つだったかな…69だったからなぁ、今は70を超えてるだろう」
 ジラフは加えて、防御特化のステータスと武具だからレベルもパーティ内では高くないと言った。この調子ならバトラも同じ位じゃないだろうか。しかし彼は彼で技巧特化だから、火力さえ足りればレベルはそれ以上必要無いだろう。そうかそうかと言い、ダッドリーは次にターラを指名する。
「元はソロだった。が、セス・カピトの座に居た。私のスキルでの情報分析と、殲滅力が取り柄だ。パーティに加わった時のレベルは45。今のレベルは分からないが、ステータスの実数値なら倍以上になってるはずだ」
 ここで聞かない単語が出た。ステータスの実数値とはなんだろう。ステータスにはその人のレベルと、持つスキルと、基礎値と言う物がある。俺が最初に測った時は、レベル、基礎値、ユニークスキルの三つが表示されて、周りの人間を引かせる結果となった。だが実数値とやらをお目にかかった事は一度とて無い。実数とか言ってるから、何か割り出す為の計算法があるのだろうか。
「なるほどなぁ。活躍は聞いてたっちゃぁ聞いてたが、改めてみんな馬鹿げた強さだな。強化系の支援者無し、なのにタンカーに役が回ってこない。それだけやられる前にやる、攻撃が最大の防御って感じのパーティだな」
 やれやれと言った感じにダッドリーは一息吐いた。すると彼は気分を切り替える様に椅子に座り直し、目線を俺に送り言う。
「じゃあ次はお前だな。勇選会にて、ウノン・カピトの五人が勇者になると言われ続けた。しかし実際終わってみれば一人増えてしまった。噂は絶えず聞いているが実際はどうなのか、早速教えてもらおうか」
 ダッドリーは極めて厳かに言った。聞いて回った四人の時には無かった、ある種の期待と真剣さがよく伝わって来る。また期待からか、その頬は少し緩んでいた。
「分かった。勇選会前まではマニラウで活動してた。魔法は四種、『光』と『火』と『水』と『風』。魔法メインだけど、光と併用して体術も使える。一度師匠に鎧を着せられた事もあるけど、重くてになった。レベルは最後に測ったので14だったと思う」
 俺の最後の一言を聞いた途端に、ダッドリーは疎か、ターラまでもが揃って丸い目を向けてきた。無駄に張り詰めた空気が綻び、頭上にクエスチョンが浮かんでさえ見えた。
「なるほどねぇ…魔法四種も凄いが、こっちの方が気になる。なぁ教えてくれ、レベルを最後に測ったのはいつだ?」
 もう二ヶ月位前の事だが遠い昔の様に感じる。しかしはっきりと思い出せる。
「三等昇格試験の前に言われて測ったぞ。俺は帰って来てから見せられたけど」
 俺が言い終わったその時点には、皆が苦笑いを浮かべていた。特に頭を抱えていたのはダッドリー、それとは相反してスピットは誇らしげな顔をしていた。
「こりゃぁとんでもねぇ野郎だったな。レベル14で三等か。勇選会の時も同じ位のステータスだったのなら、お前は実数値凡そ2500前後の時にターラを打ち負かした事になる。三等上位陣か、二等中堅以下の実力でか…。そして今やヴォイルーゴパーティに肩を並べてるとなると…そうだなぁ、今のレベルは50以上かな」
 俺の話となるとやけに饒舌になるダッドリーは、俺の異常さに舌を巻きながらも今のレベルを予想した。そんな簡単に測れる物かと思ったが、出来るのなら案外単純なシステムなのかもと思った。
「よし、分かった。お前に関してはもう一度レベルを測ってもらう。解石の性能もかなり高い物でな。お楽しみはそれが届いてからになるがそれは良いとして、ここから本題に入らせて貰うぞ」
 彼が言った途端みんなの顔は待ってましたと言う様に明るくなり、明らかに食い付く様に聞き入った。
「この作戦は、ルィックにより新たに創設された拠点の制圧。並びに駆逐だ」
 昔、フォルガドルのさらに南に、『ウェドン宿街』と言う街があった。それなりに大きな街だし、海とも近く、何よりオニキス地方への橋渡しの役目を持っていたそうだ。しかし五十年ほど前に陥落、実行犯はルィックと判明している。その時からウェドン宿街は建物は残っているだけで誰も寄りつかないゴーストタウンになった。
「ところが直近五年、俺達騎士団がその事件以降続けて来た監視をやめた途端に、ルィックがそこを中継拠点として利用し始めたんだ。他所で騒ぎを起こして回ったり、より広範囲化した監視体制やそれの厳格化に伴い、ウェドンは巡回するだけになっていて変化に気が付けなかった。言い訳になるかも知れないが、ウェドンにだけ今まで使っていなかったはずの上位風魔法、つまり空魔法による隠蔽が施されていた。それにより発見が遅れに遅れ、結果ルグトリノに奴らの主要拠点が設置されてしまったのさ」
 静かに事実を並べ、己の至らなさを悔いるダッドリーの表情は曇り空だった。更に詳しく尋ねた所、ウェドンに施された隠蔽は俺達の見た隠し通路の比ではなく、特定の手順を踏み入門する、空と虚魔法の合わせ技だった。その効果は、同じ場所に居るのに互いに全く干渉できなくなる物。裏世界を作る魔法だった。
「え?いやいや…獣人って魔法使えないよな?特異体質でも空と虚が使えるって、んなバカな…」
 スピットは詳細を聞かされた途端に狼狽えた。ヒカルじゃないんだから、と言わんばかりの物言いだった。
「そうだ、獣人は俺らと違い魔力が体内で完結している。よって自己強化の魔法しか使えない。だが時々俺らの様に外向型魔法が使える奴が居る。そいつらは総じてメルみたいな上位魔法を使うんだ」
 俺よろしく知らない者向けの説明だった。またメルの持ってた疑問はここで晴れた。彼は更に続ける。獣人は元来俺ら以上の魔力を持ち、しかし外へ発散出来ない特性を持っている。しかしごく稀にその多大な魔力を外界に発し効果を発揮出来る獣人が生まれる。確率で表せば何十万分の一以下と言う。生まれてしまえば一人だけでボスの幹部クラスを約束されるのだと言う。
「最近判明したんだ、なぜこんなに特異体質の獣人が多くなっているのか。単純な事だったよ。ただ分母が増えているだけだ。獣人は繁殖能力は獣のままだからあっという間に子が増える。組織でコロニーを作り子を増やせば、即戦力の人材が生まれるのも時間の問題っつー訳だ」
 なんとも悍ましい話だった、現地で奴らが恐れられている一番の理由が分かった気がする。しかし、あまり深く踏み込む事はしまい。現にメルの顔に過去一番に皺が寄っている。
「そして、今回攻め込む拠点にもそいつらが居ないとは限らない。だから強者つわものを招集しようとしたんだが…まぁこの有様だ」
 メルとほぼ同じ理由で強力な魔法を扱える奴らが相手なのに、殆ど騎士団だけで立ち向かう事になっているようだ。いや、そんな奴らが相手だから集まりが悪いのだろうか。
「じゃあさ、その少ないけど集まったって言う英雄って誰がいるのさ」
 眉をひそめてスピットが聞いた。
「大体二等英雄だな、しかし上澄も上澄ばかりだぞ?」
 上がった名の半分は聞いたことの無い英雄だったが…『はがね流術師るじゅつし』ファング・ガルタ『処刑者しょけいしゃ』(名無し)『縫裂ぬいざき』ケリル・ルー・デッド『地龍ちりゅう使い』ヴィッド・ラパネラ『癒月ゆづき』ミーサ・デュアンと、名前でどんな戦法なのか大体分かる。特に最後の一人は回復役だろう。
 だが中には聞き覚えのある英雄が何人かいた。『稟剣』フィーク・オロウ『朱凛』モロウ。この二人は勇選会でも特に盛り上がったカードだったからよく覚えている。エルフであるフィークと人間であるモロウは、極東の島国『イデの国』、正式には花守はなもと言う国の、同じ道場の門下生であるらしい。その戦法は速度と技術に振り切っており、途切れない多彩な連撃が印象に残っている。
 そして反応せずにはいられない二つ『赤竜せきりゅうの騎士』ヴィザー・エルコラドと、『裂鞭さきむち』ラグル・リーラ。オッサンの行方が知れないと思ったら、かなり前からこっちに来ていたのだろうか。そしてラグルに関しては良いのか?ディザント放っておいて。ドラゴンが復活したからって人手は要るだろうに。
「一等英雄はフィークとラグルだけ、他は二等英雄だな」
 そうバトラが言う。挙がった全員の名前を知っているような顔ぶりで、ダッドリーのセリフにも納得の様子だった。
「まぁそんな訳で、戦力ならこれで問題なかろうさ。君達も来てくれた事だし、作戦決行は四日後にしようと思う。最低限必要な役職も揃ったしな。それに、これ以上あいつらを肥えさせる訳にはいかない」
 ルィックは着実に日に日に力を強めて行く。今この瞬間にも新たに戦闘員が増やされているかも知れない。新たな技術が生まれているかも知れない。最早芽とも言えない程大きくなったら不穏因子は、この国を蝕む前にさっさと潰すべきだ。
「賛成…なんだけどさ、本来何人くらい参加して欲しかったのさ」
 最後の最後に俺は声を上げた。普段は発言を控えている俺でも、それだけは質問したかった。街ぐるみで気の入りようがガチだったから、勇者が居なかった場合どれだけ動員する予定だったのだろうと。
「ああ、ざっと五十人位はな。一等英雄が数人、二等大勢、三等も少々参加してくれたら良かったなってな。まぁ良いじゃ無いか!一等クラスが九人と勇者六人なんだから!もし相手の規模が小さければ、元々俺たちだけで実行する予定だったしな」
 ダッドリーは軽薄にも高く笑った。王都騎士団のトップがこれで良いのかと思った。なんと言うかこの世界は能天気な人が多い気がする。オッサンも、メルも、スピットもダッドリーもそう。他にもそれらしい人を上げろと言ったらまだまだ出てくるだろう。
「そう言う事で、ここはひとまず解散としようか。作戦の細かい指示は当日になる。つってもそんな大層な物じゃないがな」
 ダッドリーが指をひょいっと動かすと、扉がゆっくりと開いた。正直言って土魔法が風の次に便利な魔法だと思っている俺からすると、この自在性が少し羨ましくなる。
 順々に立ち上がり、行きと同様に並んで出て行く。だが、部屋を出た直後に廊下を走って来る騎士の一人が見えた。その人は何か石の様な物を抱え込み、俺らを発見次第に、間に合ったぁー!と叫び上げた。その声は甲高く、近付いて来てようやく石に押し潰された胸が見えた。
「え、女の人?」
 あまりに唐突で意外な登場に面食らったが、その抱えられた石からは赤い光が漏れ出ていて、それが解石であると察した。彼女はわざわざ持って来てくれた様だ。だがこの場に居なかったのに会話を知ってるとなると、この人は。
「ありゃ、ユーリ、なん…。おいお前、盗み聞きしてたのか?」
 響いた声に反応してダッドリーも部屋から出て来た。そして事の様相を見て理解したらしい。
「だってスピット君来たって言うから…気になるじゃん?」
 ユーリと呼ばれた彼女は改めて背筋を伸ばし、ニコッと微笑んだ。俺はもしかしてと思った。この人もではないかと。ダッドリーはため息を漏らしながらも、解石を持っている理由を尋ねた。
「私も興味あるので、倉庫からダッシュで取って来ました!」
「あの面倒な行程踏んでか?」
 はい!っと元気に答える彼女だが、ダッドリーには反省文の刑を言い渡され目が潤んだ。ただしダッドリーは解石だけは受け取り礼を言い、これでまた呼ぶ手間が省けたと微笑みかけていた。彼女は気を持ち直し、自身の業務に戻って行った。
「…あの人は?」
 スピットが彼女の背中を見ながら言った。
「『ユーリ・フェルナンド』三年前から分隊長をやってる。聞けば俺に憧れて騎士志望になったんだと。今じゃ俺と魔法無しで戦えば、確実にあいつの方が強い」
 その場の誰もが彼の発言を疑い振り向いた。失礼だが、あれが?と皆が思っていた。すかさずダッドリーは言う。
「確かにそう見えないよな。だが仕事は出来るし、戦うとなったらまぁ怖い。まさに氷の令嬢って感じだ。実際は令嬢
 じゃねぇけど」
 ダッドリーはどこかで幾度となく聞いた様な二つ名を口ずさんだが、実際戦闘になるとどこまで変わるのだろうか。メルは戦闘時でもメルのままだが、真逆になると言う彼女はどうだろうか。四日後が少し楽しみだ。
「さぁさぁ、下街に戻って英気を養ってくれ。食料に関しては想定の三倍は余るからどんどん食え、お前ら普段そんな食ってねぇだろうしな」
 その発言にスピットは喜んだ。俺以外のみんなはここ一月、食事もほっぽって仕事、作業、移動をして来た。日に二度食ってれば良い方で、俺と一緒にマニラウに来ることも無い。だからここでたらふく食う機会が出来てこの上なく喜んでいるのだ。しかし明らかに不思議なのがターラだ。仲間になって以来、一度も何かを食べている所を見ていない。一人こっそり食べているならそれで良いが、一週間以上食べてない事もままあった。素性を隠すための仮面だろうが、飯くらいいいじゃんねぇ、と思う。
「つー訳でヒカルよぉ!」
 ダッドリーは先に五人を帰らせると、いつかに見た様なキラキラした目で解析を頭と同じ高さまで掲げた。解石が届いた事で俺らは団長室にとんぼ返りし、テーブルにそれを置いて早速計測した。いつぞと同じく石に触れるが、この解析には明確に手を置く場所が示されていた。淡く解石が輝くと、蒼い奴と同様にそこで手を離しても大丈夫らしく後は待つだけとなった。
「お前よ、あまりステータスについて詳しくないだろ」
 表示される前の隙間時間にダッドリーから話しかけられた。
「え、何で分かるんだ?」
 あまり顔に出さない様に気を使ってたが、まだそれについてピンと来て居なかったのを見透かされた。
「分かるさ。まあ、普通は首を傾げたりするよな、だがお前はそんな素振りを見せてない。だけど終始興味なさそうな顔をしてたろ?それに実数値って単語が出た時には、少しだけ目が泳いでた。多分お前はスピットと同じだ、色々とな。だから分かったんだよ」
 その時のダッドリーはスピットと接する様に俺と向き合った。最初に部屋に入る前に見たスピットとの語らいの時と、今している表情がとても似ていた。そんな折、解石の色が更に淡くなり、白い光でステータスが表示された。
「お?流石ナンバーツー!出るのが早くて助かるぜ!」
 どれどれと覗き込んだダッドリーは、それを見た瞬間にしばし硬直した。いや、じっくりと読み頭に入れていたのか。

『    [ヒカル]         [魔導士] LV.41   [年齢:14]
    『基礎値』
    『攻撃』[198] 『防御』[198] 『速度』[198]
    『知力』[94] 『耐性』[高水準]
    『耐性詳細』
                    :高物理耐性 [裂傷れっしょう][打撃][擦過さっか]
        :高属性耐性 [火][水][風][金属][うつろ]
        :高化学耐性 [灰燼かいじん][黒煙こくえん][生物毒][鉱毒]
        :高精神耐性 [殺生][データ破損]
    『スキル』
       『統火とうか』『賢流けんりゅう』『括風かっぷう』『反転魔法』『データ破損』
       『徒手格闘』『近接格闘』『魔法合成』『魔力察知』
       『韋駄天眼いだてんげん』『執金剛体しゅこんごうたい
    『ユニークスキル』
            『読込不可』                    』

 この写し出されたステータスを読み終えた時、ダッドリーは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。ただ一言だけを絞り出した。
「いやぁ…こいつぁ参ったな…。三度目になるな…こう言うのを見るのは」
 ダッドリーの苦笑いはみるみる内に冷や汗を伴い、それでもその目は今日一番の輝きを見せた。
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