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横断歩道の幽霊 1
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僕の住む街の一角。とある横断歩道に子供の幽霊が出るという。その幽霊を見たものは・・・どうなるという事はない。とくに事故が多発してるわけでもないし、それを見た人がどうなるという話もない。ただ幽霊が出るという話だ。そういう話はどこにでもありそうでオカルト好きな連中の好奇の話題だと思ってた。
それは綾篠さんと一緒に下校した時だった。
・・・いる。青白い顔をした子供だ。男の子の幽霊だ。
「綾篠さん・・・」
「ええ。分かってるわ」
綾篠さんが目を細める。
「浅木君、右足、そしてそれより前に左足、それから右足を左足に揃えるように歩きなさい」
「そ、それで?」
「あれから、貴方は見えなくなるわ」
それは足を引きずるような歩き方だったかもしれないが、僕等はゆっくりと子供の幽霊を横目に横断歩道を渡って行った。息を飲む。その幽霊は子供、四歳くらいだろうか? 白いシャツに青いズボン。何をしているわけでもなく、ただ腕をだらんと下げたまま宙を見つめている。僕は何かを言おうとしてやめた。綾篠さんが今まで見た事がないような険しい表情で、唇に指を押し当てたからだ。
―――― 喋るな。と言う事。
心臓が止まる思いだったが、何かしら干渉される事はなかった。
交わす言葉も少なく、駅のホームまでたどり着いた。
「こ、子供の幽霊って、あの横断歩道だったんだね」
綾篠さんは通過する電車を見つめながら答える。
「浅木君にはあれが子供に見えるのかしら?」
-・-
『浅木君にはあれが子供に見えるのかしら?』
綾篠さんの言葉。きっと綾篠さんには別のモノに映っていたに違いない。どんな事もサラリと解決してきた綾篠さんが見せた険しい表情。何か良くないモノがいたのかもしれない。だけど、それは全て僕の憶測。現実は何の影響を受けるわけでもなく、この街はいつものように日常が進んでいく。そして例え何か影響を受けたとしても、同じように時間が進む。こういう言い方は変なのかもしれないけれど、幽霊というのは存在してもしていなくても、存在していないのかもしれない。
小さな街だ。
些細な噂や出来事はすぐ誰かの耳に入る。全国で毎日起こっているような交通事故でさえビックニュースだ。けれど、それは全国でのビックニュースとなる。僕は今朝のテレビでそれを知る。
〇〇県〇〇市 〇〇駅付近の横断歩道で3件の死亡事故
学校の屋上は生ぬるい風が吹き抜ける。ここから見る景色は好きだった。けれど厚い雲が並ぶ天気のせいか、今朝のニュースのせいか、今ここから見る街は何だか湿っぽい気がする。綾篠さんはいつものようにフェンスによしかかって微動だにせず僕を見つめる。
<i306789|8973>
「イヤよ」
「僕はまだ何も言ってない」
どうせ、何とかして欲しいとか言うんでしょ? と呟いて空を見上げる。
「いつから私は正義の美少女ヒロインになったのかしら?」
「・・・美少女」
「浅木君。勘違いしないで欲しいのだけれど。幽霊相手にどうにかしようとか、彷徨って哀れに感じたりだとか、そんな事一切合切考える事自体が間違っているの。確かに先日、それが悪さをしたのかもしれない。けれど浅木君。それがもし、生きた人間だったなら貴方はそれに対して報復を考えるのかしら? 身内が死んだならいざしらず、赤の他人のために危険を侵すのかしら? そして浅木君。例え貴方の善意で除霊を成功させても誰からも賞される事はないわ。貴方は世界中で毎日死にゆく人を案じ憤慨する善人なのかしら?」
・・・確かにそうだ。僕は誰かのためにそうしようと思ったわけじゃない。ただの自己満足だ。更に言うと実際にそれを解決するのは僕自身ですらない。つまり善人はおろか偽善だ。
「あれは横断歩道についた地縛霊。けれど・・・」
「けれど?」
もう手遅れなのよ。と小さく呟いた。
それは綾篠さんと一緒に下校した時だった。
・・・いる。青白い顔をした子供だ。男の子の幽霊だ。
「綾篠さん・・・」
「ええ。分かってるわ」
綾篠さんが目を細める。
「浅木君、右足、そしてそれより前に左足、それから右足を左足に揃えるように歩きなさい」
「そ、それで?」
「あれから、貴方は見えなくなるわ」
それは足を引きずるような歩き方だったかもしれないが、僕等はゆっくりと子供の幽霊を横目に横断歩道を渡って行った。息を飲む。その幽霊は子供、四歳くらいだろうか? 白いシャツに青いズボン。何をしているわけでもなく、ただ腕をだらんと下げたまま宙を見つめている。僕は何かを言おうとしてやめた。綾篠さんが今まで見た事がないような険しい表情で、唇に指を押し当てたからだ。
―――― 喋るな。と言う事。
心臓が止まる思いだったが、何かしら干渉される事はなかった。
交わす言葉も少なく、駅のホームまでたどり着いた。
「こ、子供の幽霊って、あの横断歩道だったんだね」
綾篠さんは通過する電車を見つめながら答える。
「浅木君にはあれが子供に見えるのかしら?」
-・-
『浅木君にはあれが子供に見えるのかしら?』
綾篠さんの言葉。きっと綾篠さんには別のモノに映っていたに違いない。どんな事もサラリと解決してきた綾篠さんが見せた険しい表情。何か良くないモノがいたのかもしれない。だけど、それは全て僕の憶測。現実は何の影響を受けるわけでもなく、この街はいつものように日常が進んでいく。そして例え何か影響を受けたとしても、同じように時間が進む。こういう言い方は変なのかもしれないけれど、幽霊というのは存在してもしていなくても、存在していないのかもしれない。
小さな街だ。
些細な噂や出来事はすぐ誰かの耳に入る。全国で毎日起こっているような交通事故でさえビックニュースだ。けれど、それは全国でのビックニュースとなる。僕は今朝のテレビでそれを知る。
〇〇県〇〇市 〇〇駅付近の横断歩道で3件の死亡事故
学校の屋上は生ぬるい風が吹き抜ける。ここから見る景色は好きだった。けれど厚い雲が並ぶ天気のせいか、今朝のニュースのせいか、今ここから見る街は何だか湿っぽい気がする。綾篠さんはいつものようにフェンスによしかかって微動だにせず僕を見つめる。
<i306789|8973>
「イヤよ」
「僕はまだ何も言ってない」
どうせ、何とかして欲しいとか言うんでしょ? と呟いて空を見上げる。
「いつから私は正義の美少女ヒロインになったのかしら?」
「・・・美少女」
「浅木君。勘違いしないで欲しいのだけれど。幽霊相手にどうにかしようとか、彷徨って哀れに感じたりだとか、そんな事一切合切考える事自体が間違っているの。確かに先日、それが悪さをしたのかもしれない。けれど浅木君。それがもし、生きた人間だったなら貴方はそれに対して報復を考えるのかしら? 身内が死んだならいざしらず、赤の他人のために危険を侵すのかしら? そして浅木君。例え貴方の善意で除霊を成功させても誰からも賞される事はないわ。貴方は世界中で毎日死にゆく人を案じ憤慨する善人なのかしら?」
・・・確かにそうだ。僕は誰かのためにそうしようと思ったわけじゃない。ただの自己満足だ。更に言うと実際にそれを解決するのは僕自身ですらない。つまり善人はおろか偽善だ。
「あれは横断歩道についた地縛霊。けれど・・・」
「けれど?」
もう手遅れなのよ。と小さく呟いた。
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