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44.バレバレ
「でも、今の時代魔素が濁るってよっぽどだよな? 他にそれほどの何かがあったりしたのか?」
一応と、何気なさを装って聞いてみる。
「………………ああ。見つかった遺体が比較的人通りが多く、見つけやすい路地や店先に放置されていてな。遺体を見たものが多かったんだ」
「は? そんなとこに? なんで?」
「………………それはわからない」
…………。ふーん。
「……それ、ギルディアが国に入る前だよな?」
「ああ」
俺は神妙な面をしながらも、微妙に目を合わせてこない正直者へと続けて口を開く。
「……なるほどな。じゃあお前が来てすぐに攫う手を止めたことや、足取りが掴めないことといい、前もって逃げる算段をつけてた可能性が高いな?」
「そうだな。これはおそらくだが、ルクスを襲い、攫うことに失敗した際には残された転移陣からルクシアにいる自分達の元に辿り着くのは時間の問題になると、警戒し準備していたのだろう」
「でも警戒するなら死体をその辺に捨てる理由がなくねぇか?」
「……………」
うんうんと頷くギルディアにすかさず言い返せば黙り込んだ。
なんで逃げる算段を立ててるわりに、自分達の存在を示すような怪しい真似をしてんだよ。
「その死体が放置されてた場所に濁りはあったのか?」
「………………確認してみたが、今ルクシアに漂っている『悲』と『恐』以外のものはなかった」
「なかった? 全く?」
「……全くだ」
「ますます妙だな」
「………………そうだな」
顎に手をあてて考える。
俺とギルディアは特別瘴気の気配に鋭い。普通だと、瘴気は目に見えるようになるまで何も感じないものだが、俺達はその前の濁りの段階から認識可能だ。
見つかった遺体を見て、『悲』と『恐』の濁りが発生するほどのものだとするのなら、見つかった死体は間違いなく惨殺死体だろう。
そうだとするなら、遺体を発見したその場所に、殺されたやつが感じたであろう『苦』の濁りがあってもおかしくないような気がする。
いくら堕人が死んだ生き物の濁りを吸収しているとは言っても、それは完全じゃなくて少しは本人に残るものだ。
それが耐え難い苦痛を与えて殺されたのなら、よりはっきりとその場に残るだろう。
そして、そういう濁りこそ堕人共にとって大きな力になる。
逆に言えば、未練や苦痛があまりない死に方をすれば、死んだ時に発生する濁りも必然的に薄くなわけで。
攫われて殺されてる時点である程度の濁りは発生するだろうから、置かれてた遺体はそういう殺され方をした上で、長い間放置されてたものだってことだ。
どうして堕人共はそんなものを街中に置いたんだ?
残虐の末殺した方が力を得られるんだし、俺を襲うのを失敗したり、ギルディアが来て逃げるくらいなら、少しでも瘴気が残ってる遺体を置く方がまだ俺達の目をくらませやすい。
いつものあいつらなら、そうやって殺した奴を通り魔や魔物に襲われたように偽装するなんて涙ぐましい努力をした上で捨てるか、まとめて捨てるかしている。
なのにそれをせず、まるで自分達の存在を誇示するかのように街中に死体を置いた。
しかも、複数の場所に置いたどの遺体にも全く濁りがなかっただと?
濁りも感知できない堕人が?
完全にこれ、俺らに向けてなんかメッセージがあるだろ……。
そんなこと、ただ話を聞いてる俺でもわかることで、現地にいたギルディアがなにもわからないはずがない。
俺はじーっと、俺と同じように考えるフリをする野郎を白けた目で眺めた。
「……おい、ギルディア。お前、俺になんか隠してんだろ?」
「……なんのことだ?」
「しらばっくれんな」
「………意味がよくわからない」
「それマジで言ってんの?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…………」
睨み続けていれば、ギルディアはそっと俺から目を逸らした。
おい。
「……別に……なにもないぞ?」
「嘘つけ!! ならなんで目ぇ逸らした!?」
こいつ!! なにが「なにもないぞ?」だ!! ここまできてなにもないわけねぇだろ!? さっきから内緒にする気満々の面、晒してきやがって!!
「……なぜわかったんだ?」
「わかるに決まってんだろ! 千年以上の付き合いなんだぞ!? 話の間とか情報の小出しが多かったりとか!! 表情とか!! そんなんでわかるに決まってんだろ!!」
「……そ、そうか」
こっちは怒ってんのに、ギルディアはモニョモニョ動く口元を隠して気恥ずかしそうに俺から顔を背ける。
こいつ……。
「おい、照れてんな。さっさと話せ」
「ッコホン。いや、すまない。隠す気はなかったんだ。ちゃんとーー」
「こと全部片付いた後に報告するつもりだったってその後に続けんなら殴るぞ?」
「……まさか。もう少し調査をしてからと考えていただけだ」
本当かこいつ。
冷ややかな目を、俺から顔を逸らす野郎へと送る。
今日、ギルディアには前もって俺達の弱点が堕人共にバレたかもって話はしておいた。
それを踏まえて、今の話を聞いただけでも堕人共がなにを企んでいるのかだいたい予想がつくのに、この反応だ。
俺、言ったよな?
大丈夫なのかって。
「問題ない」って自信満々な面して頷いといて、なんで煙に巻こうとすんだよ。
本当に問題がないなら俺に話してもいいはずだろ?
俺が聞かなくても話せばいいだろ?
なんで小出しに隠そうとする!
全部吐け、と睨みつければギルディアはようやく観念したよう全てを話し出した。
「……実は、カイ遺跡付近にも魔素の濁りが発生しているんだ」
「種類は?」
「『苦』と『憎』だ」
「あー」
「恐らく、そこに今回の事件の黒幕であろう堕人もいるのだろうが……なにせ相手が相手なだけに、濁りの性質から慎重に動く必要があってな」
「瘴気は発生してんのか?」
「……わからない」
「へー……“ない“じゃなくて“わかんねぇ“んだ。それでなんで俺に黙ってようと思ったわけ?」
「……危険だからだ。これらは全て私達を捕らえるための罠だろう?」
「だからって俺よりお前の方が危険度高いだろうが」
俺より弱点つかれてるじゃん。もろお前の弱点じゃん。なのになんで解決まで黙ってようとするわけ? 絶対おかしいだろ。
こいつの思考回路、どうなってんだ。
置かれた遺体のどれもに濁りが全くないということは、濁りを感知できるほどの、堕人の中でもかなりの上位種が生まれてる可能性が高い。
街に遺体を置いたのは、そのままの意味で、自分達の存在を示して俺達を誘き寄せるため。いや、完全に挑発だろうな。
それと、殺した奴等の遺族や街連中の『悲』しみや『恐』れを煽って濁りを作り出すためか?
一人二人で瘴気と成すことはできなくても、数が集まりゃ濁すことはできるからな。
その濁りでも、俺達に影響があると堕人共が掴めてるかはわからねぇが、「ある」と踏んで遺体を置いた可能性は高い。
でもって、堕人どもがいるであろう俺達を捕えるための狩場は、ギルディアが戸惑うほどの濁りを有していると。
「……ふっ」
今回の上位種は随分と大胆だな。
自分らが俺達をおびき寄せる餌になるってことをよくわかってることで。
だけど、狩場の濁りが街とは違って『苦』と『憎』ってぇのを聞くと、弱点の決定的な部分まではバレたわけじゃねぇのかもしれねぇな。
ならこれはーー
「ギルディア。俺もルクシアに行くわ」
「だが……」
「相性で言えばギルディアじゃちょっと厳しいだろ?」
「そんなことはない。奴らが作った濁り程度なら、いくらでも対処可能だ」
「胸張んな。慎重にとか言ってたじゃん。お前がしくじるとかは思ってないけど、わざわざ相性の悪いお前が罠に嵌りに行く必要はないだろ? ここに今回の感瘴と頗る相性のいい俺がいるんだからさ、否を唱える方がおかしいだろ!」
「…………」
絶対俺が対処する方がいいのに、不満たらたらでなにか言いたげな視線を向けてくるギルディア。
「なにか文句でもあんの?」
「いや……」
「それとも俺がお前より弱いから心配って?」
「…………」
「黙るなって」
そこは「そんなことない」って否定するところだろ? いい加減拗ねるぞ?
俺、そんなに周りに心配されるほど弱く見えんの? だから堕人にも舐められんの???
「……いや、すまない。ルクスが弱いとは思っていないんだ。だが……儚げではあると思う」
「は?」
「だからお前一人で向かわせてもいいものかと心配でーー」
なに言ってんだこいつ?
ジトっと怪しんでいれば、ギルディアはそんな俺に気づいて「あ。いや、違う」と慌てだす。
「ほんとうにわかっているのはわかってはいるんだぞ? お前は強いよな。だが、ほら、ルクスは優しいからな。犠牲者も多くでているし、濁りの性質からいってお前に負担がかかってしまうんじゃないのかと心配でーー」
「……。……目、大丈夫か?」
「……ああ」
言えば、ガックリとギルディアは項垂れた。
心配心配って、もしかしてユーグ達の過保護、ギルディアから移ったのか?
まったく……どいつもこいつも。
そんな心配しなくても俺は大丈ーー
ドオォォォオオオン!!!!
「「!?」」
突然、外から地面が揺れるほどの轟音が鳴り響く。これは……
「ウェルトか?」
話を切り上げ、ギルディアと共に外に出ると、やっぱりと言うべきか城の一部尖塔部分がなくなっていた。
もくもくと上がる煙には暗くて見えずらいが、赤い瘴気が混じって見えた。
あーあ……。
「……ルクス、大丈夫か?」
「お前もな」
じとりと額に汗が滲む。
ここにいても漂ってくる『怒』の感瘴に、ギルディアはキツそうに顔を顰めた。かくいう俺もガリガリと気力が削られていく感覚がする。
「……ほら、堕人共が隠してる感瘴もこんなんかもよ?」
「……ウェルトが放つ感瘴と一緒にするな」
まぁ、そうなんだけどな?
冗談混じりに、俺がルクシアに行くべきだと推しつつ、やっぱり先に本題を話してから楽しむべきだったなと苦笑して、俺は一先ず帰ることにした。
「ギルディア、後のことは通信で話そう」
「……ああ」
「んな不服そうな顔すんなよ。今回は俺が適任なんだから任せとけばいいんだよ。じゃあ絶対先走んなよ? またな!」
「ああ。頑張ってこい」
そんな声援に苦笑しつつ、俺はギルディアと拳を突き合わせ、翼を生やすと、空を飛びウェルトの元へと戻った。
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