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56.まさか
「……ふぅぅ……」
ことが終わり、なんの悲鳴も聞こえなくなった部屋で俺は大きく息を吐き立ち上がった。
この場に立っているのは俺だけ。
「……今、楽にしてやるからな」
生み出した魔物を瘴気で処分し、暗く淀む部屋の瘴気と魔素の濁りを綺麗に祓う。
殺された連中がこれで報われるわけじゃないけど、この場に残った思念だけでも解放されたらいい。……巻き込んで悪かった。
瘴気と共に濁りが晴れていけば、本来の部屋の色に戻る。祓えばこんなにも明るかったのかと驚くほど部屋が明るくなった。
俺が捕まってた時も濁ってたからな……。
「……。はぁぁ……」
……ウェルトに会いたい。
どうしてか、無性にウェルトに会いたくなった。
しんみりとする気持ちに、「……よし!」と気を取り直すと、俺は胸元に隠していた腕輪を取り出して魔力を込め、ギルディアに作戦成功の合図を送った。
これで直にギルディアがやってくるだろ。
「さてと」
嫌だけど、死んでるの確認しなくて後悔したばっかりだからな。一応息確認しとくか。
これも嫌だけど、記憶も見とかねぇと。
俺は食い散らかされながらも、なんとか四肢が繋がって形のあるオーガルに近づいた。
他の堕人の死体は魔物と一緒に葬ったが、こいつは小規模とはいえ堕人共のリーダーだった。
何度も血瘴を人に試したようなことも言っていたし、血瘴をこの世から消しきれないにしても、放っておけば量産されて面倒なことになる。
それを防ぐ手がかりや他の堕人の居場所、また他に色持ちがいないかとか、色々と調べておくことがある。
「こういう時『緑』の色持ちは使えるんだよな」
身に宿した瘴気の濃度が高いから直接聞くんじゃなくて、記憶を覗けるから。
俺は触るの嫌だなとか考えながらもしゃがんで、オーガルに触れようとした時ーー
「ぢぃ゛ぃい!!」
「……っ!?」
うっそだろ!? まだ生きてんのかよ!?
上体の力だけで跳ね起き襲いかかってきたオーガルに咄嗟に身を引くも、左肩を押さえつけられ地面に背中を打ちつける。
首元に向かって食らいついてこようとする顔を掴んで、必死に押し返した。
「っく!」
こいつゴキブリ並にしぶといな!? いや、やっぱ魔物だわ!! 絶対血瘴作る時、魔物の血も混ぜただろ!! 四肢引きちぎれかけてるくせにどこにこんな力があるんだよッ!
「グゥッ……ガ、血、ヂィ」
「……っ?」
……いや、これは意識がないのか? 無意識に俺の血を飲んで回復しようとしてる?
「おいおい、俺の血にんな効果はねぇって!」
腹を蹴り上げ上から退かし、俺はすぐさま体勢を立て直した。
そして足を変な方向に曲げながらも、半狂乱に俺に飛びかかってこようとするオーガルに、今度こそ確実に息の根を止めようと手に魔力を込めた時ーー
「「ッ!?」」
その場にとてつもない重圧がかかった。
まるで巨大な岩に押し潰されるような感覚。
心臓が慄き、息が止まりそうになる。
だけど、それはほんの一瞬の出来事で、ふっと和らいだプレッシャーに慌ててその元を見れば、
「……ウェルト?」
オーガルの後ろにウェルトがいた。
なんでここに?
呆気に取られていれば、その視線がスッと俺を捉え言葉を紡ぐ。
ーー怪我をしたな。
「!?」
ハッと首を押さえる。
手を見れば、ごく微かに血の痕がついていた。
「?????」
え? これ俺の血か? オーガルのじゃなくて!? いつの間に怪我して……って、え、ち、違う!! 違うからな!? 俺ちゃんと怪我しないように気をつけてたし!! だから直接戦わなかったし戦うのも避けてたんだぞ!! それで怪我したなとか言われても……っていうか、本当にこれで来たのか? 怪我したから?
混乱する俺を他所に、ウェルトはオーガルへと視線をやる。だけど、ウェルトが何かするまでもなく、ハクハクと目を見開き口を開閉させていたオーガルは、ボロボロと崩れ炭のように消え去っていった。
瀕死の体に、ウェルトの圧が耐えきれなかったんだ。
改めてウェルトの規格外な力を実感した。
でも、だいぶ制御してると思う……。
消えたオーガルを冷たく一瞥したあと、ウェルトはスッと俺に視線を向けた。
「!」
ビクッと跳ねる肩。
な、何言われんだろ?
怖いなと思うのに若干ソワソワとする。
怒られるかもって思うのに、来たのかって驚く気持ちとなんだか嬉しいような気持ちにどんな顔をすればいいのかわからなくなった。でもーー
とりあえず言い訳の言葉探すか……。
え、ウェルトのこれって怒ってるよな? 怒ってるのは怒ってるけど……なんだろ? 「怪我をしないのではなかったのか? ん?」って、目が語ってきてる気がする。
ちょっと楽しんでるというか、俺が何を言うか待ってる雰囲気があって……。
でも、言葉間違えればまた抱き潰される予感がするぞ?
怒ってるだけじゃないのがまだ救いかしれないけど、これはこれで怖ぇよ……。
ヒクリと顔を引き攣らせ言葉を探す俺を見ながら、ウェルトは一歩足を踏み出す。
その歩みに、ドキドキと目を離せないでいるとーー
「ここは……」
「?」
何かに気づいたようにウェルトが足を止めた。
ぼーっと部屋を見上げるウェルトにどうしたのか聞こうとすれば、ウェルトの目が俺を捉え、僅かに目を瞠る。
「っーー!!」
「!?」
そしてその瞬間、ウェルトは魔力暴走を起こした。
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