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23.ひぃ〜!
しおりを挟む俺の願いが通じたのか、いつの間にか鋭い目をしたボスがバーカルの首元に剣の刃を押し当て、その背後に立っていた。
……いや、剣抜いていいんっすか!?
「……あ~、いたんですかラック。久しぶりなのに挨拶代わりに抜剣の急所ですか? 相変わらずの野蛮さに笑えますね」
「笑うな喋んな黙れ変態が。白々しい言葉吐きやがって。……その手、切り落とされたくなけりゃさっさとツキから離れろ、触んな、汚ねぇだろうが」
「……。……はぁぁ、せっかくの逢瀬なのに空気の読めない……。それに僕の手は汚くなんてないですし変態だなんて失礼な」
「あ゛? 変態に変態っつって何が悪い」
ボスが凄めば、バーカルは鼻で笑った。
「ふっ、だからなにをどうとって僕が変態だと? 道具と聞いて気色の悪いことを考える君も君だと思うんだけど? 野蛮者のくせに実はムッツリなんて誰の需要もないですよ? ああ、もしかして僕の手が汚いっていうのもそういう意味ですか? ふっ、確かにそれならツキさんを想って何度も――」
「黙れ」
「おっと」
「うひゃっ! っボス!」
ボスがバーカルに向かって剣を薙ぎ払う。バーカルが避けたことで漸くバーカルが俺から離れた。なので俺は急いでボスの元へと駆けるが……
ガッ
「だっ!?」
ゴッ
「ッい゛!? ……ぐぅ……」
ふかふかの絨毯に蹴躓き、転んで床におでこをぶつけた。
「……何してんだよ」
「うぅ~痛いっす~」
剣を鞘に戻したボスは倒れた俺のところまで来るとぶつけたおでこを見る。
「あー擦りむいてんな」
ちょっと血が出てると言うボスに痛みと悲しさにまたシクシクと涙がこぼれた。だが、視界に映ったバーカルが口元に手を当てて必死に笑いを堪えているのに気付いて、今度は恥ずかしくて情けなくてやはり涙が出た。
「ぶっ! っツキさん大丈夫ですか? ほら傷薬、ポーション使って下さい」
「え? あ、ありがとうっす」
あげると渡されるとつい受け取ってしまうのが俺の性。バーカルから投げ渡された透明な液が入った小瓶を上手にキャッチするも、すぐにボスに取り上げられる。
「あ」
そしてゴミ箱にポイ。
「うわ~酷いですね~」
「……黙れ。あれポーションじゃねぇだろ」
「え」
そうなんっすか?
驚きのままバーカルを見れば、バーカルは悪びれもなく笑顔で
「あ! すみません。それ塩水だったの忘れてましたよ!」
「は?」
「本物はこっちでした」
そう言ってバーカルが渡して来たのはさっきと同じ透明な液が入った小瓶。また素直に受け取ってしまうも、またまたボスが俺から取り上げゴミ箱へポイ。
「あー!! ちょっと!! せっかく赤トト辛子の成分を抽出して限りなく色合いも味も匂いすらもポーションに近づけて作った僕オリジナルツキさん専用ポーション(笑)をなんで捨てるのさ!」
「テメェふざけんなよ?」
「…………」
いや、ほんとにっす。
ぎゅっとボスの足に抱きつき頷いた。なんていうものを俺に渡そうとしてきているのかこいつは。これこそ無駄な努力というものだ。塩水も赤トト辛子なんてものも傷に塗れば悶絶必至。それを俺専用と言われても全く嬉しくないし、恐怖を感じる。ポーションはポーション。それでいいではないか。なぜ(笑)のものを作るのか。
……ていうか自然に懐から出してたっすけどいつも持ち歩いているんっすかね?
もう涙も止まってドン引きだ。なのにまだバーカルは懐を漁って何かを取り出そうとしている。どんだけ入っているのだそのポケットには。
「んーじゃあ他は……」
「テメェからのもんなんざなんもいらねぇよ。怪しくて使えねぇわ。これくらい唾つけときゃ治る」
「コクコク!!」
そうだそうだ!! の意味を込めて頷けば途端にバーカルの頬が赤く染まる。
「え! じゃあ僕が舐めて――」
「消えろ変態が!!」
「ひぃ~!!」
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