不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

文字の大きさ
25 / 150

24.姉さん   

しおりを挟む



 凄むようバーカルを睨みつけるボスとそんなボスをものともせず挑発的な笑みを浮かべるバーカル。そして、そんなバーカルから隠れるようにボスの背に移動しバーカルを睨みつける俺。


 そんなピンッと張り詰める空間の中に凛とした声が響いた。


「――はい。そこまでよ」


「!」


 声のした方を見ると、この部屋の扉の前にこの屋敷の主人であるレーラ姉さんが屋敷の執事長(レト兄のお父さん)でもあるレジヤさんと一緒に佇んでいた。


「姉さん!」


 姉さんは黄色の瞳に紺色の髪を腰まで伸ばしたキリリとした美人さんだ。いとこだからかどことなく雰囲気がボスと似ている。


 姉さんは俺が呼んだことでニコリと微笑んでくれた。


「ツキちゃん久しぶりね。ごめんなさい長い時間待たせてしまって……。約束もないのに急に押しかけてなかなか帰らない人がいたものだから……」


 そう言って姉さんは冷たくバーカルに流し目を送った。それにバーカルはぐっと息を詰まらせ顔を少し引き攣らせた。


「おかしいわねアクルさん。あなたはもうとっくに帰ったものだと思っていたのだけれど何故ここにいるのかしら? 私の客人達に何か御用でも?」


「……申し訳ありません。久しぶりに会えた想い人がいたものでつい……」


「そう。それは会えてよかったわね? じゃあもう用は済んだわよね。さっさと帰ってくださる」


「…………」


 流石姉さんっす! 疑問符をつけずに有無を言わさないその言い方! 散々ニヤニヤしてたバーカルも姉さん領主の前では形無しっすね!


「……フォレスティア卿、あまり釣れないことを仰らないで下さい。私と貴方は父の代からの仲でしょう?」


「ええ、もう切れかけていますし切りたい縁ですけれどね? それにそんな浅い忌々しい仲を持ち出されたところで私の考えは変わりませんわ。レジヤ、お客様のお帰りよ」


「はい。バーカル様こちらへ」


 全身で拒絶と早く帰れと示す姉さんに、バーカルは仕方無さそうに息を吐く。


「……わかりました。今日のところはお暇させていただきます。ツキさん今日は君に会えて嬉しかったですよ! またね。……フォレスティア卿も貴重なお時間をいただきありがとうございました」


 そう言って、バーカルは名残惜しそうな目を俺に向けるとレジヤさんに連れられ部屋を出て行った。その様子をボスの後ろから見ていた俺は、バーカルの姿が見えなくなったところで姉さんの元へ喜んで飛んでいった。


「姉さん! 助けてくれてありがとうっす!」


 駆け寄れば、姉さんはバーカルに見せていた領主然とした表情を解き、微笑んでくれる。


「いいえ、怖い思いをさせちゃったでしょう? 大丈夫だった?」


「はいっす! 大丈夫だったっすよ!」


「……おい、はいっすじゃねぇだろ。レーラ、聞いてねぇぞあいつが来てるなんて」


「仕方ないでしょう? さっきも言った通り事前の連絡もなしにいきなり尋ねて来たのよあの人。……ふふ、何をどう言ってこようと融資も販売の制限の解除もするはずないのにね……」


「姉さん……」


 姉さん大変そうっすね……。


 冷笑し、目に光なく笑う姉さんにジロリと姉さんを睨むボスの袖を引っ張って睨むのをやめるように伝えた。態とじゃなく、偶然会うことになってしまったのだから姉さんを責めるのは間違っている。


「…………」ジー


「…………。……はぁぁ。はいはい、ソウダナー、レーラは悪クナイナー」


「ムッなんすかその棒読み!」


「ふふ、いいのよツキちゃん。ありがとう。ラックのこれは昔からのことだからもう仕方ないわ。全然私には素直じゃないのよね~」


「ふっ! そういえばそうだったっすね!」


 ぷぷぷ!! なんっすかね? 反抗期っすかね?


「……おい、ツキてめぇ何笑ってんだ、ああん? あと、何他の男に抱きしめられてんだてめぇはよォ!」


「!? ッいだだだだだっごめんっす!」


 ボスに顔面鷲掴まれ、咄嗟に謝ったものの後半は俺が悪いのか? と疑問に思った。


「ふふ! 相変わらず二人とも仲がいいわね。そうだ! お詫びと言ってはなんなのだけれど、ツキちゃんが来るからってケーキも用意していたのよね~。みんな揃ったことだし話の前に先に食べましょうか」


「! ケーキっすか! っ……あ、でも、……あの姉さんその、ガラス台転がって割れちゃって……ごめんなさいっす」


 ケーキという単語に自分の目がキラキラと輝いたのがわかった。だが、割ってしまったガラス台を思い出し気持ちも眉も下がった。


「ああ……いいのよ。私の方こそもっと考えて用意すればよかったわね……。割ったものはバーカルにツケとくから気にしないでね」


 姉さんはチラリと落ちたガラス台を見た後、ニコリと俺に微笑みそう言ってくれた。


「あ、ありがとっす……!」


 よかったっす……!


 それならば、ボスに迷惑がかからないとホッと息を漏らした。姉さんが見た先を俺も見てみれば、床に散乱していたガラスもバーカルに踏み潰されてしまったお菓子もメイドさん達がいつの間にか片付けてくれていた。そして、ケーキが運ばれてくる。


「それじゃあケーキを食べましょうか。ツキちゃん好きでしょう?」


「好きっす!」


「おい、フレイの尋……話は? んなもんよりさっさとやること終わらせて帰りてぇんだけど? 話の間にツキだけ食べさせときゃいいだろ」


 嫌嫌そうに言うボスに姉さんの目が据わった。


「……何言ってるのよ。私、今までずっとバーカルの対応をしていたのよ? 顔を見るのも嫌な相手の対応を心の準備する間も無く相手にしていたのよ? 少し休憩くらいさせて頂戴よ」


「はぁぁぁ」


「……なぁにその溜息は? 何か文句でもあるの? ……ラック、あなた少しは立場を弁えなさいよ? さっきもそうだけど待っているように伝えたのにズカズカ歩き回ってその態度と台詞はなに? なに戻ってくるの? だからそんなに偉そうで生意気なの? いいわよ? いつ戻ってくる? いつ戻ってきたい? 私はいつでもいいわよ?」


「ツキ、フレイのやつはどうしたんだ?」


「え? フレイ君っすか?」


 ジト目の姉さんを華麗に無視するボス。だが、そういえば途中からフレイ君が静かだった。震えていたし、怖かったのかもしれないと、フレイ君を見れば、フレイ君はさっきと変わらない位置と態度のままぷるぷると震えつつ何事かをボソボソと呟いていた。そして……


「なんでこ……僕を無……て……正気……? な……でみん……ツキさ……かり……っ。僕の……みんな目が悪……よね? 僕……存在……薄い……? そ……ない! ……ダメ……ままじゃ。僕……存在意義がっ――ブツブツ」


「フ、フレイ君?」


「……なんだあいつ」


 い、いやほんとなんっすかね?


 なんだかフレイ君から黒いオーラが出ていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

処理中です...