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24.姉さん
しおりを挟む凄むようバーカルを睨みつけるボスとそんなボスをものともせず挑発的な笑みを浮かべるバーカル。そして、そんなバーカルから隠れるようにボスの背に移動しバーカルを睨みつける俺。
そんなピンッと張り詰める空間の中に凛とした声が響いた。
「――はい。そこまでよ」
「!」
声のした方を見ると、この部屋の扉の前にこの屋敷の主人であるレーラ姉さんが屋敷の執事長(レト兄のお父さん)でもあるレジヤさんと一緒に佇んでいた。
「姉さん!」
姉さんは黄色の瞳に紺色の髪を腰まで伸ばしたキリリとした美人さんだ。いとこだからかどことなく雰囲気がボスと似ている。
姉さんは俺が呼んだことでニコリと微笑んでくれた。
「ツキちゃん久しぶりね。ごめんなさい長い時間待たせてしまって……。約束もないのに急に押しかけてなかなか帰らない人がいたものだから……」
そう言って姉さんは冷たくバーカルに流し目を送った。それにバーカルはぐっと息を詰まらせ顔を少し引き攣らせた。
「おかしいわねアクルさん。あなたはもうとっくに帰ったものだと思っていたのだけれど何故ここにいるのかしら? 私の客人達に何か御用でも?」
「……申し訳ありません。久しぶりに会えた想い人がいたものでつい……」
「そう。それは会えてよかったわね? じゃあもう用は済んだわよね。さっさと帰ってくださる」
「…………」
流石姉さんっす! 疑問符をつけずに有無を言わさないその言い方! 散々ニヤニヤしてたバーカルも姉さんの前では形無しっすね!
「……フォレスティア卿、あまり釣れないことを仰らないで下さい。私と貴方は父の代からの仲でしょう?」
「ええ、もう切れかけていますし切りたい縁ですけれどね? それにそんな浅い忌々しい仲を持ち出されたところで私の考えは変わりませんわ。レジヤ、お客様のお帰りよ」
「はい。バーカル様こちらへ」
全身で拒絶と早く帰れと示す姉さんに、バーカルは仕方無さそうに息を吐く。
「……わかりました。今日のところはお暇させていただきます。ツキさん今日は君に会えて嬉しかったですよ! またね。……フォレスティア卿も貴重なお時間をいただきありがとうございました」
そう言って、バーカルは名残惜しそうな目を俺に向けるとレジヤさんに連れられ部屋を出て行った。その様子をボスの後ろから見ていた俺は、バーカルの姿が見えなくなったところで姉さんの元へ喜んで飛んでいった。
「姉さん! 助けてくれてありがとうっす!」
駆け寄れば、姉さんはバーカルに見せていた領主然とした表情を解き、微笑んでくれる。
「いいえ、怖い思いをさせちゃったでしょう? 大丈夫だった?」
「はいっす! 大丈夫だったっすよ!」
「……おい、はいっすじゃねぇだろ。レーラ、聞いてねぇぞあいつが来てるなんて」
「仕方ないでしょう? さっきも言った通り事前の連絡もなしにいきなり尋ねて来たのよあの人。……ふふ、何をどう言ってこようと融資も販売の制限の解除もするはずないのにね……」
「姉さん……」
姉さん大変そうっすね……。
冷笑し、目に光なく笑う姉さんにジロリと姉さんを睨むボスの袖を引っ張って睨むのをやめるように伝えた。態とじゃなく、偶然会うことになってしまったのだから姉さんを責めるのは間違っている。
「…………」ジー
「…………。……はぁぁ。はいはい、ソウダナー、レーラは悪クナイナー」
「ムッなんすかその棒読み!」
「ふふ、いいのよツキちゃん。ありがとう。ラックのこれは昔からのことだからもう仕方ないわ。全然私には素直じゃないのよね~」
「ふっ! そういえばそうだったっすね!」
ぷぷぷ!! なんっすかね? 反抗期っすかね?
「……おい、ツキてめぇ何笑ってんだ、ああん? あと、何他の男に抱きしめられてんだてめぇはよォ!」
「!? ッいだだだだだっごめんっす!」
ボスに顔面鷲掴まれ、咄嗟に謝ったものの後半は俺が悪いのか? と疑問に思った。
「ふふ! 相変わらず二人とも仲がいいわね。そうだ! お詫びと言ってはなんなのだけれど、ツキちゃんが来るからってケーキも用意していたのよね~。みんな揃ったことだし話の前に先に食べましょうか」
「! ケーキっすか! っ……あ、でも、……あの姉さんその、ガラス台転がって割れちゃって……ごめんなさいっす」
ケーキという単語に自分の目がキラキラと輝いたのがわかった。だが、割ってしまったガラス台を思い出し気持ちも眉も下がった。
「ああ……いいのよ。私の方こそもっと考えて用意すればよかったわね……。割ったものはバーカルにツケとくから気にしないでね」
姉さんはチラリと落ちたガラス台を見た後、ニコリと俺に微笑みそう言ってくれた。
「あ、ありがとっす……!」
よかったっす……!
それならば、ボスに迷惑がかからないとホッと息を漏らした。姉さんが見た先を俺も見てみれば、床に散乱していたガラスもバーカルに踏み潰されてしまったお菓子もメイドさん達がいつの間にか片付けてくれていた。そして、ケーキが運ばれてくる。
「それじゃあケーキを食べましょうか。ツキちゃん好きでしょう?」
「好きっす!」
「おい、フレイの尋……話は? んなもんよりさっさとやること終わらせて帰りてぇんだけど? 話の間にツキだけ食べさせときゃいいだろ」
嫌嫌そうに言うボスに姉さんの目が据わった。
「……何言ってるのよ。私、今までずっとバーカルの対応をしていたのよ? 顔を見るのも嫌な相手の対応を心の準備する間も無く相手にしていたのよ? 少し休憩くらいさせて頂戴よ」
「はぁぁぁ」
「……なぁにその溜息は? 何か文句でもあるの? ……ラック、あなた少しは立場を弁えなさいよ? さっきもそうだけど待っているように伝えたのにズカズカ歩き回ってその態度と台詞はなに? なに戻ってくるの? だからそんなに偉そうで生意気なの? いいわよ? いつ戻ってくる? いつ戻ってきたい? 私はいつでもいいわよ?」
「ツキ、フレイのやつはどうしたんだ?」
「え? フレイ君っすか?」
ジト目の姉さんを華麗に無視するボス。だが、そういえば途中からフレイ君が静かだった。震えていたし、怖かったのかもしれないと、フレイ君を見れば、フレイ君はさっきと変わらない位置と態度のままぷるぷると震えつつ何事かをボソボソと呟いていた。そして……
「なんでこ……僕を無……て……正気……? な……でみん……ツキさ……かり……っ。僕の……みんな目が悪……よね? 僕……存在……薄い……? そ……ない! ……ダメ……ままじゃ。僕……存在意義がっ――ブツブツ」
「フ、フレイ君?」
「……なんだあいつ」
い、いやほんとなんっすかね?
なんだかフレイ君から黒いオーラが出ていた。
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