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29.晩ご飯狩りっす!
しおりを挟む「「「ツキー」」」
「はーいっす!」
作戦が上手くいかず、フレイ君が悔し泣き、ボスとの距離感はそのままに狼絆の仲間達とは(ほんの)少し距離が近くなった頃。朝ご飯を食べ終わり、フレイ君と食器を戻しているとモージーズーの三人に呼ばれた。ちょいちょいと招く仕草をする三人に駆け寄れば――
「「「ごにょごにょごにょ」」」
「! 行くっす!」
と、言うわけで――。
「フレイ君! 今日はご飯狩りに山に行くっすよ!」
「狩り?」
「はいっす! モー達が連れて行ってくれるって言ってくれたっす! 今日の晩ご飯は鳥尽くしになる予定っすよ!」
玄関に移動し、棒と輪っかに網をとり付けた俺特製の捕獲網を二つ持ちながらフレイ君に言う。モー達が今から近くの山にご飯を狩りに行くようで、一緒に来るかと誘ってくれたのだ。普段はアジト近くの森かその今から行く山の手前の浅瀬部分とこのアジト内を動き回ることくらいしかできないが、今日はちょっと奥に行くようなのでいつもと違う場所に遊びに行けるということにテンションが上がる。
「鳥ご飯……わかりました! ……けど僕もいいんですか?」
「いいっすよ!」
モー達がフレイ君もって言ってたっす!
「そうですか……!」
「はいっす!」
あの日からモー達他仲間達を見るたびにム~っと悔しそうに唸っていたフレイ君もすっかり元に戻ったようで、モー達とと言っても嫌がらない様子に内心ホッとした。
元のフレイ君に戻ってよかったっす! 嫌がるどころか行く気満々っすね! 「ご飯!」って気合い入れてるフレイ君可愛いっす!
「ツキさん、山にはどんなご飯……鳥を狩りに行くんですか?」
「知らないっす!」
そういえば聞いてなかったっすね!
「…………それ、大丈夫なんですか?」
「え? なんでっすか?」
ワクワクとした様子だったフレイ君が一瞬で怪しげな様相に変わった。
「――お、ツキ、フレイちゃんも準備早ぇなー!」
「なんだツキ、その網。また持ってくのか? 獲物入るかそれ?」
「頭ならどうだ? いや無理か!! その網に絡まって転けないように気をつけろよ!」
「あ! モージーズー! はーいっす!」
腰に剣を差し、最低限の防具などの軽装で玄関へとやってきたモー達にノリよく返事を返す。見える三人の腕の筋肉はモリモリだ。
「「「よっしゃ! じゃあ行くぞ!!」」」
「おー!!」
「…………入る? 頭? どういうこと???」
――
……魔物とは、魔物特有の異質な魔力をその身に宿したもののことをそう呼ぶ。魔物にはたくさんの種類、気質を持つものが存在していて、姿形は動物や虫によく似たものから異形のものまで。大きさも、群れの有無も、人間に無害なものから友好なもの、積極的に危害を加えてきたり、自然や生態系を破壊するものなど挙げればキリがないほど多種多様な魔物がこの世界には存在している。
山の中、普段一人では足を踏み入れることのない奥地の場所。生い茂る草を掻き分け又は踏み鳴らしながら上へ上へと登っていけば登って行くほどに黒い燃え滓が地面や生える木の幹にあるのが目に入る。
「……モージーズーどこまで行くんっすか? うぺっ!」
口を開いたことで口の中に入ってきた小さな虫をペッペッと吐き出す。だいぶ歩いた。探索しつつあちらこちらをぷらぷらと歩いてお昼はとっくに過ぎてしまっている。
「んー、この辺に燃え滓が多いからたぶんこの辺のどっかにいると思うんだけどなぁ」
「うひゃーこっち燃えちまって木倒れてんじゃねぇか。危ねぇな」
「フレイちゃん大丈夫か?」
「ぜぇっはぁ……ぜぇっ……」
歩き疲れてフレイ君は絶賛息切れ中だ。俺は喋れば口の中に虫が入ってくるから大変中だ。ひょっこりジーの後ろから覗き込めば数本の木が途中真っ黒に燃えて、そこからポッキリと折れてしまっていた。
「…………」
自分の手に持つ網を見下ろす。
……これ、絶対いらなかったっす。小さ過ぎてたぶん入らないっすよ。
黒い燃え滓にモー達が狩ろうとしている鳥がなんなのかようやくわかった。
む~。言ってくれたらよかったっすのに。
「おーツキ。何不貞腐れてんだー?」
「フレイちゃん水飲むか?」
「ツキ、虫が口ん中に入んのが嫌ならハンカチで抑えればどうだ? ちゃんと待ってきたか? 貸してやろうか?」
「!」
なるほどっす!
ズーの言葉に大丈夫だとの意味を込めて首を横に振り、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、口元に当てた。そしてフレイの元へ。
「フレイ君、大丈夫っすか?」
ハンカチを口に当てているため、ちょっとモゴモゴとした声になってしまう。フレイ君は地べたに座り、モーから受け取った水筒をいい飲みっぷりでグイグイと呷っている。
「プハァーッ! …………あの、これどこまで行くんですか?」
フレイ君が三人に尋ねる。
「んー、この辺ちょろちょろして目的のもん探すかなぁ」
「フレイちゃん大丈夫そうか?」
「立てるか?」
ジーが答え、モーズーがフレイ君へと問いかける。
「……大丈夫です」
ソワソワ、オロオロと疲れた様子のフレイ君を俺も含め四人で見守る。そんな俺達にフレイ君は一瞬何かを考える素振りをしたあと、ニコリと笑顔を向けて立ち上がった。頑張り屋さんだ。だが……
「……フラ~」
足がふらつきフレイ君は倒れそうになってしまった。
「おっと、フレイちゃん大丈夫か」
「……はい、すみません。……でも足が……」
そう言ってフレイ君は自分の足を見下ろし、申し訳なさそうに自分を支えてくれたモーを見上げた。
「疲れて上手く動かせなくて……足引っ張ってしまってすみません……」
自分を責めるよう悲しげな表情で顔を伏せてしまったフレイ君はぎゅっとモーの腕に添える自分の手に力を込めた。その憂いを帯びた横顔は健気に見えるもどこかドキッとするような表情だった。ドキだなんて、それは俺の心が汚れてしまっているからそう思うのか……
「「「…………」」」
「フレイ君大丈夫っすか? 俺がおんぶしようっすか?」
「いえ……ツキさんはハンカチと網を持つのに忙しそうなので……」
チラリとモージーズーを見るフレイ君。そんなフレイ君をモーはスッと俺に渡すと距離を取り、三人で輪になりコソコソと話し出してしまった。
「……きゃっ/// どうする!? フレイ君の次に色目使う標的が俺になっちまったぞ! きゃっ/// どうすればいいっ?」
「バッカお前! たまたまだろ! たまたまフレイちゃん支えて単純そうなお前にいけるって思われただけだろ! 顔赤らめるなよ気色悪りぃな! 調子乗るなよモーが!」
「そうだそうだジーの言う通りだ! 喜ぶな羨ましい! フレイちゃんはな、誰でもいいんだよ! 誰でも!! だからな、うん! ……どうする? 乗ってあげるか? ボスには注意しろって言われてるけど、ここで俺達まで突き放してやったらフレイちゃん可哀想だしよ……」
「だよな……。この間は可哀想すぎたもんな。実際はまだちょっと元気そうに見えるけど心は疲弊してるっぽいもんな……」
「だから俺に頼ってくれたんだろうぜ。ボスには振られ、ツキに行こうとしてボスには殺気をぶつけられ、ここで俺達……いや! 俺まで振っちまったらフレイちゃんまた泣いちまうよ!」
「そうだな……。よし! なら甘んじてその芝居にこのジー様がのってやろうじゃねぇか! じゃあ!」
「「はあ!? 待て待て待て!」」
こっちにこようとしたジーの肩をモーとズーが掴んで止めた。
「おまっ、俺の話聞いてたか!? 頼られたのは俺だって!! なんでジーてめぇが行こうとしてんだ!」
「そうだ! 自分でも言ってただろうが!! フレイちゃんはな! 誰でもいいんだよ! 釣れたら誰でもな! なら俺がフレイちゃんに釣られてやってくる!!」
「「いやいや!! ズーてめぇもっ――」」
「……あの三人なんの話してるんっすかね?」
わーぎゃーと話す三人。コソコソしているのに声の声量は全くコソコソしていないぞ?
「~~知らないし!!! もういいし!! ほらっツキさん行こ!!」
「え? フレイ君足大丈夫なんっすか?」
「全然だけど??? 元気だし大丈夫だし!!」
真っ赤な顔でフレイ君が叫び歩き出してしまう。
……んー、フレイ君ほんと大丈夫なんっすかね? 顔すっごく赤いっすし無理してるんじゃ……。
「フレイ君無理しなくていいんっすよ? しんどいなら俺おんぶするっすし……あ! おんぶが嫌なら手繋ぐっすか? 俺引っ張るっすよ?」
「え?」
にこりと笑ってフレイ君に手を差し出した。さっきふらついていたし息切れもすごかったのだ。歩き慣れていても山の中はとても歩きずらく、しんどいものがある。森育ちとは聞いていたが山育ちとは聞いていないし、山にある森と平地にある森ではやはり勝手が違うだろう。手を引き、歩く道を示し引っ張っていってあげることができれば少しはフレイ君の負担が少なくなるかもしれない。
呆気に取られるようにじっとフレイ君は差し出した俺の手を見る。そして、少し照れたように目を伏せた。
「えと、……はい。ありがとうございます」
「いえいえっす!」
おずおずと重ねられた手をぎゅっと握り締めた。
「……あ~あ。ボスが見たらまぁた嫉妬するパターンだよ」
「これ黙っとかなきゃ、まぁたフレイちゃんボスにいびられるな」
「大丈夫。内緒にしといてやるからな」
ジトーっと俺達を見ながらいつの間にか戻ってきていたモー達が余計なことを言う。
「っ……やっぱりいいです! 一人で歩けます! 大丈夫です!」
「あっ」
そのせいでフレイ君の手が俺から離れていってしまった。
もう! モー達が余計なこと言うからっす! これでフレイ君が倒れちゃったらどうするんっすか!
フレイ君は俺達へ背を向けるとぷんぷん怒るよう、大きく足を上げ茂みへと踏み出――
「あっづ!?」
「フレイ君!?」
上がった悲鳴に慌ててフレイ君に近寄る。見てみれば茂みの向こう、フレイ君が足を踏み出した場所が小さな炎を揺らし燃えていた。それはすぐに真っ黒い燃え滓を残して消え去るも――
「フレイ君大丈夫っすか!? ――あ」
ゴゲェェーーーー!!!!!
「「ピッ!?」」
甲高く、耳を劈くような鳴き声にビビってフレイ君と抱き付き合った。ドンッ! と足を踏み鳴らし俺達の前で威嚇の声を上げるのは俺の背丈を超える魔物。魔火撒鶏だ。
ゴゲェェーーーー!!!!
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