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30.熱いっす!
しおりを挟むゴゲェェエーーー!!!
鶏によく似た、だけど普通の鶏の何倍もの大きさがある魔火撒鶏は、ずんぐりむっくりなその姿に、頭部の先には赤い焔が轟轟とその怒りを表すかのように燃え上がっていた。
魔火撒鶏はその名の通り火を撒く魔物だ。基本大人しいが、怒こればその鶏冠部分の炎を燃え上がらせ周囲へと火の粉を撒き散らかす魔物。たぶん今は鶏冠の散った火の粉をフレイ君が踏んでしまったから怒っている。魔火撒鶏はすっごく短気で本当に大人しいのかというほどキレるのが早い。俺も昔、ボーッとしてる魔火撒鶏の近くでパキリと落ちていた木の枝を踏んで怒らせてしまったことがある。
そういうキレやすい性格と魔火撒鶏の火の粉は降り落ちてパチパチスン……ですぐ消える程とはいえこういう山地や森では何が起こるかわからないため、魔火撒鶏は見つけ次第……
「「「いたな! 晩飯!!」」」
こうなる。
ゴゲェェエーーー!! ゴゲェェエーーー!! ゴゲェェエーーー!! ゴゲェェエーーー!!
「増えましたよ!?」
「耳がぁー!! 潰れるっずぅーー!!!」
一体でも側で鳴かれたうぉー! っと耳がおかしくなりそうなのにそれが四体。ヤル気満々に剣は抜かず拳を鳴らすモー達に対し、魔火撒鶏達も嘴と蹴爪を尖らせ火の粉を振り撒きながらヤル気満々だ。……巻き込まれないようフレイ君と共に距離をとった。
「!? うわっあっち! あっち! あっづ!? もう熱いって!!!」
「フレイ君! 大丈夫っすか!?」
離れたといっても興奮し、轟轟燃えている鶏冠。ふわふわ飛んでくる火の粉にフレイ君は苦戦し、必死に手で振り払おうとしている。俺もそんなフレイ君に近づく火の粉を網を振って追い払うことに専念した。……が、俺にも飛んできた。
「あっち、あっち、熱っちぃっす!」
「あっづぁ!? もう! この腕輪全然ダメじゃん!」
あ、そういえばそうっすね。
俺専用防具(らしい)を付けている割に、フレイ君はあちこちボロボロだ。フレイ君に「見せてっす」と見せてもらえば……
「……壊れてるっすね」
うんともすんとも言わない。
「ええ!? まだ一ヶ月も経ってないのに!?」
「……なんでっすかね?」
とても自分という心当たりがあるがそれを口に出して言う勇気は今は出なかった。だってフレイ君すっごく熱がっているしイライラしているし。
……うん。俺という存在とほぼ四六時中ずっと一緒にいて一ヶ月近くは随分もったほうだと思うっすよ。うん。頑張ったっすね!
心の中でそっと腕輪を褒めた。
「「あ」」
「「ん?」」
なんか今不吉な「あ」が聞こえたっすね?
「「ツキ! フレイちゃん危ない!」」
「「え? ぎゃふん!?」」
「おい! 気をつけてやれよ!」
拳での戦闘を行っていたモージーズー達三人。どうやらモーとジーが魔火撒鶏を持ち上げ放り投げたようで、こっちに飛んできた魔火撒鶏が俺とフレイ君の上に見事綺麗に着地した。
ゴゲェェーーーー!!
ゴゲェェーーーー!!
そして、またモー達の方へと駆けていく。
「あだ!!??」
思いっきり踏ん張られたっす! 足蹴にされたっす! ちょっと爪刺さったっすよ!?
「いたたたた……ん?」
起き上がると地面に伏したままのフレイ君の髪がプスプスと燃えていた。
「ぎゃー!? フレイ君!?」
「…………」
すぐ鎮火するとはいえ、慌てて手で払い、フレイ君を起こそうとするもフレイ君はそのまま無言で倒れたままだった。
「フレイ君大丈夫っすか!?」
「……………」
ゴゲゲェェーーーーン!!!! ……パタリ ×4
「「「よっしゃ!! 晩飯及び酒の摘みゲット!! ツキ、フレイちゃんさっさと家に持って帰るぞ!! 手伝え!!!飲むぞー!!!!」」」
「え!? いや! 待ってくださいっす! フレイ君が!!」
「「「叩き起こせ!!」」」
「ええ!?」
「…………イラ」
……その後、一人一体、俺とフレイ君は二人で一体を抱えて下山した。興奮落ち着いたモー達が途中にあった川で水遊びを許可してくれたのでみんなで水遊びをしてから家に帰った。そして、家につけば五人全員で魔火撒鶏を解体して、厨房に持っていって、料理人のおばちゃんおじちゃん達にご飯お願いしますと魔火撒鶏だったものを渡し、作ってもらって美味しい晩ご飯を食べてと、とても大変ではあったが楽しい一日となった。――が、
「フレイ君?」
「…………」
そこからフレイ君はまた何かを考えている様子だった……。
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