不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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28.壊れてしまったかもしれない…

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 俺の名前呼びにどれだけの価値があるのか、よくわからず首を傾げていれば……


「……わかりました」


 フレイ君が口を開いた。


「そんな理由があったんですね。そんなことも知らずに勝手に名前を呼んでしまってすみませんでした」


「え? フレイ君? なんでこの流れで謝るんっすか?」


 ボスのこれはただの暴論。決してフレイ君の頬に指の跡を残すべき内容ではない。なのにフレイ君は穏やかな笑みを浮かべた。


「いいんですツキさん。ラック……ボスさんはここのボスなんですよね? なら僕はボスさんに従います」


「フレイ君っ! 大人っす!」


「……ニッ。へへっ///」


「!///」


 フレイ君の大人な発言に感激していると、フレイ君はボスに向けていた身体の向きをクルリと変えて俺に抱きついた。そして顔を上げて照れ笑いを見せる。その笑みの目尻には涙の跡がまだはっきりと残っていた。


「~~///!!」


 なんっすかこの胸の底から湧き上がるこの気持ちは!!!


「う~!! フレイ君!!」


 堪らず俺はフレイ君を抱きしめ返した。


 可愛いっす! 健気っす! 可愛いっすぅぅうう!!


 そのまま思う存分ぎゅうぎゅう抱きしめ、ふと腕の中にいるフレイ君を見下ろせば目が合い、ふっとフレイ君が笑う。


「っ///!」


 /// あ、あれっす?


 顔が一気に熱くなり、心臓がドキッと跳ねた。さっきと同じく目尻に涙を溜めた健気なフレイ君の姿のはずなのに、その姿に色気を感じ、笑みが妖艶に見えてしまうのは俺の心が汚れているからなの――


 ――ヒヤ

「「っ!?!?」」


 ……熱くなった顔も一気に刺し冷ます、そんな途轍もない冷気が俺達を襲った。動けば死。そんな恐怖を感じる。


「……フレイ」


「ヒッッ!!」


 低い低いボスの声に、腕の中のフレイ君が飛び跳ねる。


「……狩れねぇと思ってすぐに獲物を変えんのは殊勝なことだけどなァ。その獲物がどれだけ狩りやすいチョロい馬鹿でもその背後がそうとは限らねぇんだぞ? ――お前、誰の許可得て人のもんに手ぇ出そう横取りしようとしてんだ?」


「「ガクブルガクブルッ‼︎」」


 ボ、ボスめっちゃ怖いっすぅぅう!!!


 弧を描いていた口元から真顔になり、鋭くフレイ君を睨むボス。怖すぎてフレイ君も俺も震えてガタガタだ。ジャンプしているよう。ボスは何をこんなに怒っているのか。そしてなんだがその怒りに混じって俺のことを馬鹿にしているような気がするのは気のせいなのだろうか。


「今すぐツキから離れろ」


「!」


「あ……」


 サッ! と素早くフレイ君が俺から離れてしまう。そして直立不動に背筋を伸ばして固まる。離れたフレイ君につい悲しい声が出てしまうも、ボスからまた漂う冷気に俺も慌てて背筋を伸ばした。


 ボスはじっと剣呑さを宿す瞳で俺とフレイ君を睨み続ける。そんなボスに俺達も固まり続けた。そうして息を飲みボスの言葉を待っていると――


「ツ――」


「ぶふッ!!」


 ボスの言葉を遮り、その場の雰囲気をぶち壊してくれる震えた笑い声が響いた。


「お、おいモー! 今笑っちゃダメだって!! ぶふッ!!」


「ダ、ダメだ俺もっもう! ぶッははははは!!!」


「……てめぇらなんで笑ってやがる」


 怖い目でボスは笑ってる三人、モージーズー達を振り返り睨みつけた。


「い、いやだってボスぶぶっ!」


「こ、こんな子どものすることにっ!!」


「ほ、本気で怒るとか!」


「「「ぶはッ!! 余裕さなすぎ!! ギャハハハハハ!!!」」」


「…………」


「へ、へ……?」


 大声で笑い出す三人に目が点になって身体から力が抜けた。いや、笑っているのはモー達だけではない。他にも俯きぷるぷる震えている仲間や顔を覆って左右に振ってる仲間達もいる。


「ぶ、ふふっ、や、やべぇボス。あ、あんなわかりやすい子の挑発にのってっぶふ!!」


「ははっ! 俺フレイ君の見方めっちゃ変わったわ~!」


「フレイ君可哀想っ! 媚び売り失敗して悔し泣きするような子どもなのに!」


「もっと余裕を見せてあげてボス! 大人な余裕をもってもっとツキを信じてあげてボス! じゃねぇとなんか俺恥ずかしい!」


「ほんとボス、ツキに関して心狭すぎ!!!!」


「「「「「ぎゃはははは!!」」」」」


「「「……」」」


 そーっとボスを窺えば、真顔で仲間達を見ていた。そんなボスにジリジリと気付かれないよう、俺はフレイ君の手をとり後ろに下がった。そして、隙を見て部屋の外へとダッシュ!!


「「「「「ギャーーーー!!!!」」」」」


「「ビクッ!?」」


 その直後に、後ろから聞こえた悲鳴に驚きと恐怖に飛び上がりつつも急いで俺達はその場から逃げ出した。




「フ、フレイ君大丈夫っすか?」


 グス……怖かったっす……っ。


 目尻に浮かぶ涙を拭いながら、もう大丈夫だろうというところまで来て、フレイ君へと問いかける。振り返ったフレイ君は涙目で顔を真っ赤にしながら口を引き結びぷるぷると震えていた。そして――


「……ぃ」


「え?」


「~~っ僕は失敗なんかしてないし! 悔しがってなんかないし媚びてないし売ってなんかもないし!! なんなのあれ!?!? あれじゃ僕がすっごく可哀想な痛い子みたいじゃない!! もっとちやほやしてよ! 同情しないでよ! 可哀想じゃないもん!! ~~ッッもうしない! もうやらないから! ラッ――……くっ! ボスさんなんてもう知らないし! もういい! もういいし!!! ~~う゛ぅッッ~~!!!!」


 と、地団駄を踏みながら悔し泣きするよう泣いてしまった。


「フ、フレイ君?」


 これはフレイ君、相当ショックを受けている様子だ。だけど……


「う゛ゔ!! ゔぅぅぅぅッッ~~!!!」


 な、なんかいつものフレイ君と違うっすね……。


 ダンダンダンダン足を踏み鳴らすフレイ君に、俺はフレイ君が壊れてしまったかもしれないと思った。


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