不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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32.言えなくなった

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「……どうしてですか?」


「街は……ボスに聞かなきゃダメっす」


 申し訳なさからスッとフレイ君から目を逸らしてしまう。


 手紙を出すくらいならと思わないでもない。だが、ボスにはフレイ君のお世話係として側にいる上で「あいつを信用しすぎるな。何かあればすぐに俺に報告しろ」と言われているのだ。まぁ、信用云々は放っておくとして、街に出るとなればボスに報告し、必ず許可をもらわなければならない案件であろう。……俺にとってボスは絶対の存在。フレイ君に対し街に行くことも、手紙を出すことも俺一人では決められない話なのだ。


「……そうですか」


 フレイ君が悲しげな表情を浮かべる。


「っ!? あっ、で、でも! ボスが許可を出せばここからでも手紙は送れるっすし街にも行けるっすから一回ボスに聞いてみようっす!」


 大丈夫。そんな顔しなくても絶対無理だとは言っていない。ちゃんと可能性はあるのだ。


 ……たぶんめちゃくちゃ嫌な顔はされると思うっすけど今のボスならむべもなく断ったりしないと思うっす(たぶん)!


 普段のボスなら頷いてくれるがなにせボスのフレイ君への警戒心と言ったら……。フレイ君も自分へのボスの態度を思い浮かべてしまったのか拗ねたような難しい表情を浮かべた。


「……ボスさんにだなんて……言っても絶対ダメだって言われちゃいますよ」


「そ、そんなことないと思うっすよ?」


 ギクッとした。


「だって僕、ボスさんに嫌われてますし……」


「え゛? いや、そんなことはないっすよ!」


 またまたギクギクッとした。そんなことはないと言いつつ苦し紛れの言葉にしか聞こえない。


 いや、でもボスはフレイ君のこと嫌ってはいないと思うんっすよ。ただ怪しんでるだけで。最近のボスのフレイ君を見る目も警戒心だけだったのから警戒+変な子みたいにちょっと緩和されてきてるっすしたぶん大丈夫っすよ!


「ボスさん僕にだけ異様に冷たいですもん……」


「い、いや~気のせいっすよ!」


「……この間、躓いた拍子にラックさんに抱きついちゃったらすっごく嫌な顔されましたよ?」


「!? そ、それはほら! あの時フレイ君、頭に鳥の糞つけてたっすから!」


「……でもその後、何もないのに食堂でトレーをとろうとしてボスさんの手に偶然手が触れただけなのに、なんか溜息吐かれてすっごく呆れた顔向けられたんですけど? ふ、ふふ……ねぇツキさん。僕ってそんなに魅力ないですかね? 可愛くない?」


「っ!? い、いや、可愛いっすよ!? 嫌な顔されなかったんなら進歩してるじゃないっすか! フレイ君魅力ありまくりっすし自信持ってくださいっす! と、とりあえずボスのところ行ってみようっす!」


 だんだんとフレイ君の目が据わり、乾いた笑みを浮かべて怖くなってきたので、急ぎフレイ君の手を引きボスの元に行こうとした。だが、進もうとした矢先に逆にフレイ君に手を引っ張られる。


「待って下さい!」


「うぇ!?」


 フレイ君、意外に力強いっすね!?


 勢いよく踏み出そうとしたところをそれ以上の力で引かれたため、たたらを踏んでしまう。そのまま転びそうになるのをなんとか踏ん張って耐え、どうしたのかとフレイ君を窺う。


「フレイ君?」


「……ツキさん。やっぱり街に行きましょう」


「え? いや、でもボスに聞きに行かないと……」


「大丈夫ですよ。ちょっとくらい」


「いや、さすがにそれは……」


 ……あれ? なんか変っす。


 ヒタリとフレイ君と目が合う。


「ツキさんだってずっとここに居るんです。少しくらい外に出て気分転換したいでしょう? ツキさんもこの間街にすごく行きたがってましたし」


「お、俺は……」


「行って、すぐに帰ってくればいいんですよ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけなんですから……――行きますよね?」


「…………」


 なんだかフレイ君の言葉を聞いていると、ボスに聞きに行かなければと思うのにフレイ君の望むようにしなければという気持ちが湧き上がってくる。鳴く虫の声や吹く風の音、時々家の中から聞こえる笑い声。その全てが聞こえなくなっていき、ただただフレイ君だけを見て、言葉を聞いて……そして、気付けば頷いてしまっていた。


「…………そうっすね……」


「やったぁ! じゃあ今日は……もうすぐ日が傾き始めてくるでしょうし明日。明日一緒に遊びに行きましょうね!」


「……わかったっす」


 喜ぶフレイ君に俺も嬉しくなる。だが、どうしようもなく複雑な気持ちになもなる。機嫌良く洗濯物を回収し始めたフレイ君に習って俺も回収を始めた。


 ……なんで俺頷いちゃったんっすかね?


 ボスに聞かなければいけなかったのに何故頷き、俺はここにいるのか。でも今はどうしてもボスに聞きに行こうとは思えなかった。はっきりとしているようでぼーっとしているような感覚。


 ……大丈夫っす。あとでちゃんとボスに報告しに行けばいいんっす。これが終わったらちゃんと……


「あ、ツキさん。明日のことボスさんに話しちゃったらダメですよ?」


「…………はいっす……」


 ……ああ……言えなくなっちゃったっす……。


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