不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

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57.末期かもな   sideラック  

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「――はぁぁぁ……」


 それから全員に誤解だとわからせ半殺しにしたまではよかったが、イーラへの誤解を解くのが一番難しかった。そもそもイーラの奴、部屋医務室に入れようともしねぇし話を聞こうともしない。その日と一日目は完全に無視で二日目からやっと話を聞いて部屋に入れてくれたくらいだ。


 普段なら扉を壊してでも侵入するが、ここでんなことをやればイーラの俺に対する信用が地に落ちることくらい簡単に想像がつく。そうなると、ツキに会えなくなる。


「……そにしてもツキはいつまでこんなの持ったままでいる気なんだろうな?」


「……そうだな」


 レトの視線の先には塩の袋がある。ツキが眠りながらずっと握り締めてるものだ。取ろうにもしっかり握ってるし、あんまりしつこく取ろうとすれば泣き出すものだからもうそのままにしてある。


 ……一昨日、ツキの奴は一回起きたかと思えばぼーっとしたあと、俺の顔を見て絶望した顔を浮かべやがった。それから俺達が何か言う前に、急いで厨房まで走って行ったかと思えば、塩の入った袋を手に持って思いっきり泣きながら俺に塩を投げつけてきやがった。熱でフラフラしてるくせに。その時もまたフレイに頼んで眠らせたあと医務室に運んだが、それ以来目を覚まして俺を見る度にツキは塩を投げつけてきやがる。


 何がしてぇんだこいつ?


「いや~でもあれは笑ったわ」


「坊ちゃん塩まみれだったもんな」


「てかまだ頭についてるし笑」


「「本当だ! ギャハハハ!!!」」


「…………チッ」


 おかしいな。モー達の野郎、まだ笑う元気があんのか。そうか。


 ギャハギャハと耳障りな声を発する連中を黙らせるため、俺は剣を片手に立ち上がった。けど、イーラに止められる。


「……ちょっとボス。ここ医務室だから流血沙汰はやめて欲しいんだけど。もし起きた時ツキ君も怖がるでしょ」


「そうだな」


 んじゃあとりあえず肩外すか。


「いだっ! ぢょっ、坊ちゃん痛っダダダッッ!!ちょっじょ、冗談だろ! 坊ちゃ――」


「坊ちゃん言うな」


 ゴキッ

「ギャッ!?」


「「モー!!」」


「モージーズーうるさい! ツキ君が起きちゃうでしょ!」


「ぼ、坊ちゃんひでぇよ……」


「黙れ」


 いつまで坊ちゃん呼び続けんだよ。


 昔はそう呼ばれていたが、ツキがボスと呼ぶようになってからはこいつらも俺をボスと呼ぶようになっていた。それなのになんで今、昔の呼び名に戻る。


 イラッとしながら他二人も捕まえて順番に肩を外していく。


 ゴキッ

「ギャッ!?」


「はは……まぁ塩は僕も驚きましたけど、またツキさんが暴れたり変なことし出したら僕が眠らせますから。ツキさんが落ち着くまでボスさん頑張って下さい。僕もできる限りのことは協力しますから」


「…………ああ。助かる」


 殊勝な態度と心掛けのフレイ。側から見れば微笑みを浮かべてる今のフレイは言動も相まってツキの言う通りいい奴に見えるし、ちょっと頼もしくもあってフレイに対する警戒心もやや薄まりつつある。ツキに対しては本気で心配しているようでしょっちゅう様子を見に来ては医務室に居座ってるしな。


 けど俺知ってるからな? 俺が塩ぶっかけられてる時、お前止めずに陰で爆笑してただろ。


「はぁぁぁ……」


 ゴキッ

「ギャフッ!?」


 けど、流石にこうも起きる度に泣かれて塩を投げられ続けてると結構クルもんがあんな。


「……絶対ツキも俺のこと好きだと思うんだけどなぁ」


「……言っちゃ悪いけど勘違いだったんじゃないのか?」


「いや、絶対俺のこと好きだ」


 レトの言葉に即座に頭を振った。


 恋愛感情はないと言っていたがありゃ完全に嘘のつらだった。何年ツキのことを見てきたと思ってんだ。何もないような惚けた顔をしてやがったが絶対あれは俺のことが好きだ。


「「「はぁぁ……チェリーがまたなんか言ってるよ。憐れだなぁ」」」


「…………」


 てめぇらいつ肩戻した。


「っ……ぅ゛ぅ……ヒック……ぅぇ……」


「ツキ?」


 またツキが魘されながらガキみたいな小さな泣き声をあげ始める。頬に手を持っていけば必死にすりすりと俺の手に顔を擦り付け握り、顔を埋めようとしてくるのが可愛い。


「「「「「坊ちゃん(ラック)?」」」」」


「うるせぇ」


 んな、睨まなくてもわかってる。


 可愛いけど、んな辛そうな顔を見てたいわけじゃねぇんだよ。


 魘されてるツキに手を持って行ってもツキは安心するどころかどこか怯えて必死にその存在を確かめ、離さまいとするだけだ。


「はぁぁ……。……ツキ……」


 これ大丈夫なのか? 元に戻んのか?


 だんだん落ち着いてきているとはいえ心配だった。


「ボス。君がそんな顔してどうするのさ」


「……イーラ」


 さっきまで睨んできていたイーラが励ますように俺の隣に立つ。


「大丈夫だよツキ君は。だからそんな不安がってないでいつも通りにいてあげなよ。じゃないとツキ君が心配するよ? ツキ君、ボスのこと大好きなんだかさ。目が覚めたらちゃんと話を聞いてみようよ。きっと話してくれ……るかな? ……まぁ……うん、たぶん……。あー……。……はぁぁぁ……」


「……おい、なんで最後溜息吐いた」


 イーラを睨めば、レトが困ったようにこちらに来、口を開く。


「……ツキの性格からしてこの類はボスには絶対話さないような気がする」


「……そうだよね。言ってて僕もそう思った。ツキ君がボスのこと好きなのかも怪しい状況だしね」


「おい」


 てめぇら慰める気あんのか。慰めようとするんなら最後までそれを突き通せよ。


「まぁ、そこは俺らがフォローしながらなんとか聞き出そう。いつ、またボスが暴走するかわからないからな」


「そうだね。今度こそツキ君を守ろう」


 レトとイーラ、お互い頷き合う二人。


「…………」


 ……なんもしてねぇっつってんのにこいつらの中ではまだ俺がなにかやったこと前提なのか? 他の馬鹿共も誤解だっつってんのにいまだに微妙そうな目で見てくるし、どんだけツキに関して俺への信用はゼロなんだよ。


「あ゛ぁ゛~マジやってらんねぇ」


 近くの椅子に座り天を仰いだ。


 ……ツキ頼むから早く目を覚まして元のお前に戻ってくれ。んで頼むからこいつらの誤解を解いてくれ。


 ――……そう願った次の日の朝に、ツキは目を覚ました。取り乱す様子もなく普段通りに見えたが、それは本当に見えただけで、何を聞いても何でもないと頭を振ってそこから四日間常に俺から一定の距離をとりながらあとをつけてくるようになった。


 しかも俺がツキに近づこうとすれば瞬時にツキは俺へと塩を投げつけ逃げていき、部屋の出入りや外に出る際にも必ず俺へと塩を投げつけてくるようになった。寝る時ですら止めるイーラ達を無視して、俺の部屋の扉の前に張り付き監視するかのようにずっとそこにいて塩を置き振りかけてくる。……それが四日間毎日だぞ?


「ゴラァ! ツキてめぇ何すんだ!!」


 いい加減腹も立つわ。


 ビクッ! ピュンッ

「ツキ!!」


 俺に反応してすぐさま逃げるツキ。けど俺から逃げ切れるわけがない。今日こそ理由を吐かせてやると意気込むも……


「……ご、ごめんなさいっす……」


 壁に隠れながらこっちを見てビクビクと怯えて泣きそうになってるツキを見ると何も言えなくなる。


「……いい」


 そう許した後、塩を投げつけられんのも、怯えた様子で俺を見続けるツキにもな……、と思って完全にツキの前から姿を消してみるも、半泣きになりながらずっと俺を探すツキに早々に折れ、姿を現した。前に現れれば「ボス!」って泣き、抱きついてきて、抱きしめ返そうとすればすぐさま離れて塩を投げつけてくるツキ。けど、もう怒るのも可哀想だし、今回は俺が悪いみたいだし、塩をかけられるくらいもういいかと思い、姿を消すのもやめてもうそのままにした。


 それは恐る恐るビクビクとしながらも、パッパと塩を振りかけてくるツキがなんか可愛く見えてきてアリだなと思いだしてきたからでもある。……これはもう末期なのか?


 コソコソ

「……ボス、今日も塩投げられてるぜ?」


「可哀想に……」


「俺達で慰めてやろうぜ」


「そうだな!」


「…………」
 

 ツキに塩を投げられんのはもういい。けど、それで俺を怪しんでた連中が次第に同情的な目つきで俺を見だしてきたのが癪に障る。しかも中には慰めるように無言で肩を叩いてきたり、酒を置いていく馬鹿共がいる。今も生暖かい目で微笑みながらこちらに向かってくる連中には殺意しか湧かない。


「……まぁ、いいストレス発散にはなるか」


 最近ツキの珍事もなく張り合いがなくなってたところだしな。


「……ん? ……そういえばここ最近ツキ関連の不幸が起こってねぇな……」


 あれだけ泣いて怯えてんだ。それでも一つもない。……それはいつからだ?






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