不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

文字の大きさ
59 / 150

58.不安

しおりを挟む


 朝、きょろきょろと周りを気にしつつ塩袋を握り締めながら目の前にある扉を叩いた。


 コンコンコン

「……はい……ってツキさん?」


 団体部屋から個室に移動となったフレイ君は、快適な睡眠が取れているようで顔色も良く、今起きたばかりなのだろう。寝ぼけ眼を擦りながら部屋から出てきた。けれど、俺がいたことが意外だったのかその目を丸くした。そんなフレイ君にそわそわもじもじしながら誘いをかける。


「あの……フレイ君、おはようっす。一緒に朝ご飯食べに行かないっすか?」


「え? ご飯……ツキさんもう大丈夫なんですか?」


「はいっす。……その、迷惑かけちゃってごめんっす」


 小さく頷き、頭を下げた。フレイ君にはたくさんの迷惑と情けない姿を見せてしまった。頼れるお兄ちゃんを目指そうとしていた筈なのに、なんでこんな反対の姿を見せてしまうのか。だというのにフレイ君は嬉しそうにパッと表情を明るくさせた。


「そんなことどうでもいいですよ! よかった! 朝ご飯ですよね? 直ぐに用意するので中で待ってて下さい!」


「は、はいっす!」


 促されるまま部屋に入り、元気よく引き出しから服をポイポイ取り出し、慌てて着替えるフレイ君にホッとバレないように息を吐き出した。


 ……よかったっす……嫌われてないみたいっす。


「お待たせしました! じゃあ行きましょう!」


「はいっす」


 頷き、ニコニコ笑顔のフレイ君とお喋りをしながら食堂を目指す。そうしていると、すれ違う仲間達が俺を見てみんな目を丸くした。そして「もう大丈夫なのか?」「よかったな!」と声をかけてきてくれる。嬉しいが少し恥ずかしかった。


 ……俺、どんだけ心配かけちゃうようなことしてたんっすか。


 何があったのか、自分が何をしていたのかはなんとなく覚えている。だけど、少し前までは不安でいっぱいでそれだけしかなく、周りにまで意識を向けられていなかった。道ゆく仲間達から声をかけられ、辿り着いた食堂内でもモージーズー達をはじめ、いろんな人達から揉みくちゃにされ、よかったと喜ばれた。


「ふふ。ツキさん人気者ですね」


「……そうっすか?」


 ……人気者というより、みんなが優しいんだと思うっす。


 それから朝食を食べ終わった後、フレイ君に聞かれる。


「それでツキさんはこれからどうするんですか?」


「……フレイ君と一緒にお仕事するっす」


 サボっちゃってた分、働いて取り返さないとっす!


「え? 大丈夫なんですか? ボスさんは……」


「ボスからは許可をもらってるっすよ」


 今朝早く、フレイ君の所に行く前にボスの所には行って、お仕事の許可はもらってきている。この一週間あとをつけていたことを謝ったあと、お仕事を下さいと言った時のボスは目を丸くしていたけれど、少しの間の後「……フレイと行ってこい」と言われた。


「そうなんですね。じゃあ一緒にいきましょうか!」


「はいっす!」


 それからいつものようにフレイ君と共にお家のお掃除をして、畑仕事を手伝ってその他の色々な雑務、お仕事をこなしていった。……だんだん不安になった。




「…………」


 ……おかしいっす。


「どうかしたんですかツキさん?」


「……何でもないっす」


 塩袋は決して手放さないまま終えた一日。晩ご飯を食べるためにやって来た食堂で、もそもそと食事を食べ進める。せっかく食堂のおばちゃん達がお皿いっぱいにご飯を盛り付けてくれたのに全然手が進まない。じわじわとした不安が胸に燻っているのだ。


 ……今日……なんにも起こらなかったっす。


 今日一日、何の不幸も起こっていない。いつもならお皿を割ってしまったり、箒が折れたりとあらゆるモノが必ず一つは壊れ、何かが落ちてきたり飛んできたりと色々とするのに今日は何も起きなかった。今までの経験上こんなことはない。……だが、よくよく考えれば熱を出して眠っていた辺りから何も起こっていないような気がする。それは眠っていたから知らないだけなのか、だけど、絶対起こると思ってボスのあとをつけていた時でさえ何も起こらなかった。不思議だった。


 ……もしかしてこのあとからおっきな不幸が襲って来たりしないっすよね?


「っ……」


 そう思ってしまえば本当に起こりそうだから怖い。この静かな時は、とてつもない不幸が起こる前触れなのかもしれない。


 カタン


「……」


「ツキさん?」


 一気に押し寄せてきた不安から食事をやめ、椅子から立ち上がった。


「……あの、フレイ君ごめんっす。俺、やっぱりボスの所に行くっす」


「え? どうしてですか?」


「それは……」


 なんと言えばいいのかわからず口籠る。早くボスの元へ行かなくては。けれど、逆に行かない方がいいのかもしれないと思って動けなくなった。俺と一緒にいたらボスに酷い不幸が襲いかかってしまう。でもこういう場合は俺がいなくてもボスに酷いことが起きると経験からわかる。……なら、側にいたい。


「ご、ごめんっすフレイ君、俺っ!」


「待って下さい!」


 サッと身を翻そうとするも、その手をフレイ君に掴まれ止められる。


「フ、フレイ君……? て、手離して欲しいっすっ」


「ダメです! 急にどうしたんですか? 何か不安があるなら僕に話して下さい。話すまで絶対に離しませんよ?」


「いや、でも……」


「ダメです! 話して!」


「っ……フレイ君……」


 どれだけ腕から手を離そうとしてもフレイ君の力が強くて離れない。引っ張っても無理でオロオロと困ってしまう。


 早く……早くボスのところに行かないといけないっすのに……。俺のせいでボスが……あ……で、でもっおっきな不幸が来るんならフレイ君もみんなも危ないんじゃないんっすか? ボ、ボスだけじゃなくてみんな……みんなが……っ


「あ……フ、フレイ君……あの……」


「ダメです」


「うぅ……」


 もうどうすればいいのかと、目に涙が溜まる。とりあえず離してくれないかと思うも、フレイ君は「ダメ!」の一点張りで全然手を離してくれない。


 ……これ、俺知ってるっす。絶対に言うまで離してくれないやつっす。


「……っあの……俺、今日何の不幸なことも起こってないんっす。今日だけじゃなくて最近全然ないんっす。だ、だからっ! も、もしかしたらこの後におっきな不幸が来るかもしれなくてっ。それでボスがっ! あ、危ないっすから塩を……」


 不安に声が震えながらもフレイ君に説明する。そして、どうしようか、フレイ君にも塩を振ろうか考えた。フレイ君だけではない。ここにいる全員に振り掛けなければ。


「塩?」


「は、はいっす……。ま、前何かで塩には厄除けする効果があるって聞いたっすから……」


 ぎゅっと塩袋を握りしめた。


 だからいっぱい塩を投げて厄除けするんっす。


 やはり一番はボスに投げなければならないだろう。ボスが一番今回の不幸を被る人だから。ボスに厄災が降りかからないためにも、降りかかったとしてもその厄災が少しで済むように、ボスが怪我をしないように願って投げるのだ。それが気休めだとしても縋らないと、縋りたいのだ……。


「……だからフレイ君、手を離して欲しいっす」


「……不幸……それなら大丈夫ですよ?」


「……え?」


 ……大丈夫?


 困惑に顔を上げれば、微妙に俺から目の逸らし、神妙な面持ちをしたフレイ君がそこにいた。


「……すみません言い忘れてました。実はツキさんがお疲れ様会をするって言って乾杯する前に僕、少し力を使ってたんです」


「……力?」


「はい……。ツキさんの力が予想以上にしんど――っん゛ん゛ン……大変そうでしたので僕の力を使って一時的にツキさんの力を封印してみました! だからしばらくの間は何も起こりませんから安心して下さい!」


 誤魔化すように、そして最終的に元気に明るく言うフレイ君に目が点になった。


「…………?」


 んん?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

処理中です...