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98.経緯 sideフレイ
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――時は少し遡り
……つまんない。
狼絆のアジトから数日はかかる山の奥深く、入り組んだ場所にある鍾乳洞。そこにはいろんな鍾乳石が頭上から垂れ下がっていて、下は歩きにくそうなでこぼことした道に、所々には鋭利な先端をした岩も生えている。道幅はちょうどいいくらいの横幅に高さだけど、あちこちに人工的に作られた罠がこれでもかというほど設置されていた。
そんな中を進むのはラックと愉快な仲間達だ。それぞれがランプ型の魔道具に明かりをつけて楽しそうに洞窟内を探検している。
『おい、そこに落とし穴あんぞ。そこは触んなナイフが飛んでくる』
『了解!』
ラックの言葉に元気よく返事を返し、触るなと言われた壁を押すのは仲間その一。
ピュンッ! ←短剣飛んでった
ヒョイ ←避けた(ラックが)
ガンッ!! ←壁に刺さった
………………。
『…………触んなっつっただろうが!! 誰が押せっつったよ!!』
『すんません!! つい!』
『つい、じゃねぇよ!! おいその紐引っ張んなよ!?』
『え?』
グイッ ←引っ張った
パカッ ←地面割れた(剣山のお待ちかね)
『『『……え? ギャャァアアアッ!!』』』←落ちた
『『『『『モー! ジー! ズゥゥー!!!』』』』』
『引っ張んなっつっただろうが!!』
「…………」
……なにこれギャグかな? さっきからわちゃわちゃわちゃわちゃと……っ
「何楽しんでるんだよ!!」
誰もいない、この偽拠点のゴールの場所で僕の声だけがこだました……。
――この数時間前。僕はお菓子を食べるのを中断して、レーラに頼み事をされてすぐにラック達のところに飛んだ。僕のお腹はまだまだ空いている。だからラック達よりお菓子を優先したい気持ちもあったけど、レーラから聞かされた話は僕が求めていた刺激そのものだったから受けてやったんだ。……その話とは、ツキさんを囮にするというもの。当然この話をラック達は知らない。
レーラから聞いた話によれば、ラック達が探していると言っていたバーカル達奴隷商の本拠地、全くと言っていいほどわかってなかったその場所はどうやら以前、僕が飛び回り活躍したことにより大体の目星がつき、二箇所にまでその場所を絞り込むことができたみたいだった。でも、そこから一方は拠点のその在処まで突き止めることに成功したけど、もう一方はある程度の場所までしか突き止めきれなくて、レーラとラックはそのもう一方の拠点の在処が判明し次第同時に落とすか、先に片方を落とすかで議論していたよう。
レーラは先に落とす。ラックはもう片方の拠点を割り出してから同時に攻め込むといった感じで。だけど、僕達のアジトに魔物が忍び込んで、ツキさんが攫われかけるという事件が発生した。そして、その犯人がレーラが先に討てと言っていた場所がわかっている方のアジトを本物だって自供したために、ラックはツキさんと自分達の住処の安全のためにもレーラの案を呑んで、今ここにいるようだ。
ラックは、その吐いた自供の言葉を怪しんでいたみたいだけど、ツキさんが攫われかけた手前、さっさとバーカル達を潰したくてレーラの案を呑んだのもあるみたい。そんな裏で、レーラもこれ以上の長期戦を嫌って早々に決着をつけるためにラックがいない間にツキさんを使ってもう一方の拠点の在処を割り出し、潰そうと考えたみたいだった。
……ツキさん使ってそんな上手くいくのかな? と思いつつ、まぁよくわからないけどいったらいった、いかなかったらいかなかったまでだよね! と、僕はレーラから頼まれた手紙を渡す係を引き受けてあげた。
手紙にはツキさんを囮にした件について書いてあるみたい。すぐには渡さず、ラック達を監視しつつ頃合いを見て渡してと言われた。頃合いっていつだろ? ってラックの所に来て思ったけど頃合いって言えば頃合いだよね、と適当な時に渡すことにした。
それまではラック達のあとをつけて楽しむんだ~。あ、あとツキさんの力を解く頼みも受けていたんだった。
ツキさんのあの力は僕が封じてる。だから解くのも簡単、僕の自由だ。まぁ、元は僕の力だし……って、いや、うん、とりあえず自由にできるんだ。どうしてレーラが僕にそこまでの話(さっきの情報とツキさんを囮にする話)をしたのかはわからないけど丁度ツキさんとラックの仲を進展させるきっかけを探していたところだったから僕は快く快諾してあげた。一応難色を示した顔は作ったけど、もう内心ではレーラに向かって拍手を送っていた。
……もうあの二人のじれじれとした恋愛模様とラックのあのデレデレとした顔を見るのはうんざりなんだ。さっきだってツキさんに指輪プレゼントしたり、噛みついたりなんだろこれ? ドキドキするより胸焼け起こしそうになるこの感じ。もうやだ! 目の前でイチャイチャされるの!
それでも囮は酷い? 大丈夫。ちゃんと危なくなったら助けてあげようとは思ってるから。なんだかんだ言ってツキさんには世話になってるからね。
……でも、この好奇心は抑えきれないんだ。こんな甘々のじれじれ展開より本で読んだような物語りを実際に見てみたい。愛憎系はもう諦めたから今度はピンチ系で行くと僕は決めた。現実と作られた物語は別もの? それはわかってるけど、現実だからこそ用意された結末がないからドキドキワクワクする。
そうして、僕はレーラに言われた山、拠点がわかってる方に先に飛んで、麓でラック達が来るのを待った。さっきラック達のところに飛んだって言ったけどどこに居るかはわからないからね。まぁ僕ならわからないこともないけどすれ違わないためにもここで待ってた方がいいってレーラに言われたからそこで待った。……結構待たされた。二・三時間くらい待たされた。もう早く来てよ! って思ったけど、レーラに暇つぶしにってお菓子をいっぱい持たされてそれを食べてたからまぁ許してあげた。その後はラック達のあとをバレないようについて行って、そうしてしばらくして僕が見たものとは鬱蒼とした森の中、人相悪い山賊達にラック達が囲まれる光景だった。
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