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3.ヨルトside

8.自覚

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 頬を染め少し照れたように笑う彼女から目が逸らせない。


「?ヨルト様?」


 ドキドキドキドキ心臓がうるさいほどに音を立てる。目の前の彼女に対する愛おしさに眩暈が起こりそうだ。もっと彼女と一緒にいたい。離れたくない。そんな気持ちに促されるようにそっと彼女に近づき、その頬に手を伸ばす。


「……ユユ」


 結構な至近距離にいるにも関わらず、彼女は嫌がる素振りを見せず私を見つめる。周りに音はなく、まるでこの世界に2人しかいないようなそんな錯覚に陥る。そんな中、互いに見つめ合ったままそっと顔を近づけ、そしてーー





「ーーあー!!お母さん!あの2人すごくいい雰囲気だよ!ちゅーするかな?」


「こ、こら!!こういう時は何も言わずにそっと見守るのが正解なの!続きを見たいのなら静かによ!静かに!」


「「っ!?」」


 そんな親子の会話にハッと2人して我に返り距離を取る。い、今何をしようとしていた?


「え、あ、と、すまない!!」


「い、いえ、わ、私の方こそ!」


 お互い何となく顔が見れない。そんな状況の中、さっきの親子の声がした方を見ると2人とも素知らぬ顔でわざとらしく夕ご飯の話をしている。…あの子どもが声を上げなければ私は一体彼女に何をしていた?何故こんなにも心臓が鼓動するのだ?私はもしかして…


「ーーユユお嬢様!!」


「っアン?」


「やっぱりここにいたんですか!もう!こんな遅い時間まで出歩くなんて危ないではないですか!」


 お互い気まずい雰囲気の中どうすればいいのか悩んでいるとメイド服を着た女性が走ってきた。…どうやらお迎えが来てしまったようだ。ほっとしたような残念なような内心複雑な気持ちになってしまう。


「ごめんなさい…」


「本当に心配っ…?お嬢様。おの方は何処のどなたですか?」


 アンと呼ばれた女性はユユの元に心配気に近寄ってくると、その隣にいる私に気づき怪しげな目を向けてくる。


「あ…この方は…」


「たまたま仕事で落ち込んでいたところに彼女と会ってな。ここに連れて来てもらったんだ」


 私はチラリと彼女ユユの方に目をやった後、メイドに事情を説明する。そんな私にユユは心得たかのように小さく頷いた。


「…お嬢様。また知らない方に声をかけたんですか?危ないではないですか!それに屋敷も勝手に抜け出して!!」


「ご、ごめんなさい…。でも暴漢対策用の爆…魔石も持っていましたし書き置きも…」


「そういう問題ではないのです!」


「…はい」


 メイドに叱られしょんぼりと肩を落とすユユが可愛い。どうやら大人しそうに見えて少々お茶目な部分もあるようだ。確かにメイドの言うように勝手に屋敷を抜け出したり、知らない人物に声をかけるのは危険だが、そのおかげで今日彼女と会うことができたんだと思うと、危険な真似はしないでほしいと思うものの、彼女の行動力への感謝も感じられ苦笑を禁じ得ない。


「すまないな。あまり彼女を責めないでやってくれ。彼女のお陰で私はとても救われたんだ」


「えぇ?…………わかりました。お嬢様今回だけですからね」



「は、はい!」


 私が話に入ってくるとは思わなかったのだろう。メイドは一瞬驚いた表情をするも怒りが削がれたのかそのまま大人しく引き下がってくれた。


「では、早く帰りましょうお嬢様」


「…そうですね」


 メイドの怒りが収まりほっと息をつくユユが可愛い。もう私達の間にあの時の雰囲気は胡散してしまっていた。そのことに少し残念に思っしまう。だか、去ってしまう彼女に最後に心からの感謝を告げたかった。


「ユユ」


「はい?」


「…今日はありがとう。君の言葉にとても救われたよ。君と話せてとても楽しかった。今日、君に出会え、この場所に連れて来てもらえたことはとても幸運なことだった。本当にありがとう」


「っ!はい…私も…私もあなたと話せてとても楽しかったです。ありがとうございました!」


 夕日に照らされる中、ユユは私の言葉に満面の笑みでそう言った。


「っ」


「さぁお嬢様帰りますよ!」


「はい。では…」


 彼女は最後にそう言ってメイドと共に去っていくが、彼女の笑顔が目に焼き付き離れない。


ドキドキドキ

「~くそ…」


「…お母さんあの人顔真っ赤だよ」


「青春ね~」


 そんな親子の会話が聞こえてくるも片手で赤く染まっているであろう顔を隠すことしかできない。


 …これはダメだ…こんなの自覚するしかないだろう。


 今までの正体不明な気持ちの正体がやっとわかった。


 私は彼女を…ユユ・ミーティアを愛しているんだ。

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