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しおりを挟む「めっちゃ美味い! 卵が口の中でとろける! チキンライスが舌を転がり踊っている!」
ダイニングテーブルに腰掛ける俺は、オムライスを頬張りながら声を大にした。
「大袈裟だよ。お兄ちゃんが作ってくれるご飯のほうが美味しいから」
「いやいや、三つ星レストランも仰天の美味しさだ!」
「じゃあお兄ちゃんは四つ星だね」
「ならカリンは五つ星だ!」
「……バカ」
◇
あっという間に完食。
時刻を見るとまだ七時半だった。
一時間以上も寝坊したはずなのに普段よりも時間に余裕がある。
時間までをもカリンは考えて行動しているのだろうか。ただただ、カリンの成長に驚かされる。
そして驚きはそれだけに留まらない。
なんと、食後のコーヒーまで出てくる完璧さ。
コーヒーの淹れ方なんていつどこで覚えたんだろうか。
一口飲んで驚愕した。
「……うまい。一流バリスタとも渡り合えるぞ!」
「だからもう、大袈裟だってば」
大袈裟なんてことはない。カリン補正こそあれど、本当にうまい。こんなのたまたまで淹れららる次元を超えている。
本当、いつの間に……!
◇◇
「そうだ。ひとつ謝っておくことがあるんだ」
「おう、なんでもどんとこい!」
食器でも割ったのかな。
何枚でも割っていいぞ。それよりカリンに怪我がなくて良かった! ……なんて思っていたのだが、またしても驚かされることになる。
「うん。あのね、お弁当までは手が回らなかった。一応おにぎりは二つ作っておいたけど。いらなかったら持ってかなくていいから」
予想を軽々と超えていく。
謝るってそういうこと⁈
「持ってくに決まってるだろ! 世界一美味いおにぎりだからな!」
「いちいち大袈裟なんだから。反応に困るよ……」
そう言うカリンの顔は少し照れくさそうで可愛げに満ち溢れていた。
言ってもまだ九歳。驚きの連続だけど、どうしたってまだ九歳なんだ!
◇◇
なんとも幸せな朝のひととき。
学校前にこうやって過ごすのは夏休みを挟んでいることもあり、実に二ヶ月ぶりだった。
この一ヶ月、神話系の書物を読み漁ってるだけではなかったんだ。俺の知らないところで料理や家事の勉強もしていたんだ!
すごい。すごいぞカリン!
自らが掲げた十八歳設定の証明なのだろう。
厨二病がカリンを大人に、立派に成長させる。
子育てに悩む全国の親御さんに胸を張ってオススメできちゃうかもしれないな。厨二病いいっスよって!
あははっ。なんてな!
幸せな、幸せな朝のひととき。
俺の心はまさしく有頂天だった。幸せの絶頂と言っても過言ではない。
しかし、それらを壊すかのようにスマホの通知音が鳴った。
──ピコンッ。
その音は幸せにヒビを入れるかのように、俺の鼓動をドクンッと大きく唸らせた。
「こんな朝早くに珍しいね」
そう言うとカリンは椅子からピョコンと降り、隣にやってきた。
そしてスマホ画面を覗き込むと険しい表情に変わった。
……まずいことになった。
メッセージの差出人は雫ちゃん。
お知らせ通知に思いっきり名前が出てしまっている。
ID交換した事も、昨晩連絡を取った事も、今朝通話をした事も何一つ言っていない。
これじゃまるで、隠れて連絡を取っているようじゃないか。
なんてことない。焦る必要なんてない! と、思いたいのだが……そうもいかない。
メッセージ画面を開けばハートマークが露見する。
この間の音霧さんからメッセージ。
たったひとつのハートマークだと言うのにひどく怒ってたからな……。
……大変なことになった。
でも相手は雫ちゃんだ。カリンのお友達。事の経緯を話せば…………。
いや、友情に亀裂が生じるかも⁈
やっべー。どどど、どうする……。
「メッセージみないの?」
通知ボタンをワンタップするだけ。簡単な作業。それをしない俺。カリンはしびれを切らしたように問いかけてきた。
声のトーンがマジだった。
カリンは既に怒っている。
「この通知画面に出てる『雫ちゃん』っての、女の名前だよね?」
もう、全てが手遅れだった。
下手に隠そうとすると逆に怪しさ満点。それこそ取り返しのつかないことになる。
大丈夫。大丈夫。……大丈夫。
何も大丈夫じゃない。もう、ここまで来たらなるようになるしかない。
俺は、覚悟を決めた。
「お、おう。なんていうか、その……カリンの友達の雫ちゃん、な。昨日会ったって言ったろ」
「ふぅん。……って、え? 雫ってあの雫?」
あれ。険しい表情から一変。和らいだ優しいものになった⁈
「おう。そうだぞ!」
「へえ、お兄ちゃんやるじゃん。それで、どんな連絡取ってるの? 早く見せてよ」
ゴクリ。
肝心なのはこの先だろ。
は、は、は……ハートマーク!
でもここまでくれば大丈夫。
ハートマークこそあれど内容は割と普通だ。
《学校行く前におにいちゃんの声聞きたいな♡ どうしても声聞きたくて急いで準備しちゃった♡ ちょっとだけ、だめ?♡》
やばい。深い意味はないはずなんだ。
なのになんだよ……この意味深な感じ……。
終わった。……そう、思っていたのだけど。
「わぁ! 可愛いなぁ。ハートマークじゃん。ひょっとしてこの子、お兄ちゃんのこと好きなんじゃないの?」
「ど、どうだろうね。言っても小学生三年生。九歳だから……」
「それもそっか。まぁ、今度連れてきなよ。子供って無垢で可愛いよね~」
スマホ画面を覗きながら優しく微笑んでいた。
……俺は言葉を失った。
笑って誤魔化すことしかできなかった。
「あははぁ。そうだな」
◇
事は思ったよりも遥かに深刻なのかもしれない。
カリンの十八歳設定はとんでもないところまで進行していた。……ひょっとして、自分が九歳だと言うことを忘れてしまったのだろうか。
カリンの言葉と表情からはそう思えるだけの雰囲気さえも、漂っていた……。
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