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「うしっ、そんじゃあ第2ラウンドやるぞ!」
「いやもう賭けになんねえだろ。あの間抜けっぷり」
「そこでだ、次はあのマヌケにもわかるように投げつける。これならどうだ! 仮にもAランク冒険者だぞ?」
「いいねぇ! よっしゃじゃあ俺は避けるに100G」
「無理だな。あいつ疎そうじゃん。女におんぶに抱っこされてお飾りでAランクにさせてもらっただけだろ。だから俺は避けられないに100G」
「俺も無理だと思うわ。あいつ凡人以下じゃん。魔力適性ゼロの無能って話だし。ってことで避けられないに100G」
「さあ張った張った!」
俺のことなど他所に大盛り上がりだった。
でもそうか。そうだったんだ。
俺は良くも悪くも前しか見ていなかった。
今、俺のことを馬鹿にし哀れみと羞恥の目で見てくるこいつらのことを、誰一人として知らない。
言うなれば、通り過ぎる景色のような存在だった。
これといって悪いことをした記憶もない。
挨拶をされれば会釈くらいはしていたと思う。
…………そういえば昨晩、グリードも言ってたな。
“女の尻に隠れておんぶに抱っこでAランク冒険者にまでなっちまった“
なんだよ。それ。
まるで“甘い蜜を吸う寄生虫“だ。ヒモのような存在じゃないか。
俺は……そんなんじゃない。
けどそれを証明する術もない。仮にそれを証明したところで……。
ここにはもう、俺の居場所は……ない。
でもエリシアと約束した。
“しっかりする“って約束したんだ。
大丈夫。昨日とは違う。
今の所、俺の命まで取ろうとしている者はいない。
ここで食ってかかれば昨晩の二の舞だ。
俺はもう、繰り返さない。
とっとと薬草採取の発行書をもらって仕事に出掛けよう。
そんなことを考えていると第2ラウンドとやらが始まってしまった。
「おーいマヌケー! いくぞー!」
「避けるなよマヌケ!」
「避けたら許さねーぞー!」
どうやら俺の名前はマヌケになったらしい。
丸められたゴミ屑を俺に見えるように投げてきた。とてもゆっくりと優しく。
投げてるのは賭けの親、大元。
おそらく避けたほうが都合がいいのだろう。
ということは、多くの人は避けられないと予想している。だったらその期待に応えよう。それがきっと正解で、ここでの生き方だ。
避ける気もなくただ当たるだけじゃ、おそらく納得しない。だからあたふたと避ける素振りをして、惜しくも当たってしまった。そんな感じでいこう。
それは本当にマヌケで馬鹿っぽさ丸出しだなと思うも、俺は覚悟を決めた。
こいつらになんと思われようが、どうでもいいのだから。今後ここで過ごしやすいほうを選択するだけ……なの、だから……。
と、その時。
弧を描き向かってくるゴミ屑は叩かれ床に落ちた。
「レオンくん。おかえり。戻ってきたんだね!」
それは、俺が冒険者組合に登録したときからずっとお世話になっている受付のお姉さん。リゼさんだった。
「はいそこ! 用が済んだなら帰る! ここは溜まり場じゃなーい!」
「あっ、すいやせん! すぐ行きます!」
「今日もお姉さんは美しいなぁ~!」
「今、俺声かけられちゃった!」
「いや、声かけられのは俺だし!」
「それにしても、あいつ。情けねえなぁ。結局また女に守られてらぁ。あれでAランクだって言うんだから、笑えるよな」
「言ってやるなよ。じきに降格すんだろ」
「はいそこ用があるならさっさと済ます!」
リゼさんは俺から他の冒険者を遠ざけるように声を掛け続けた。
「へ、へいすみやせんお姉さん!」
「やっべ今、目合っちゃったし!」
清楚で大人びているけど、どこかまだ垢抜けていなくて可愛さも兼ね備える。
リゼさんは冒険者組合にとって花のような存在だ。
そんなリゼさんに注意を施されれば、荒れくれ者の冒険者だって一言返事で従うしかない。
貴族様からの依頼をバックレたあの日、リゼさんにはこっぴどく怒られた。だから正直、ちょっと気まずかったりもするんだけど……。
「おいで」と手を引かれ受付へと案内してくれた。怒った様子もなく普段通りの優しいリゼさんだった。
「そこ座って待ってて。レオン君が一人でこなせそうな仕事探してくるから! 良さげな仕事斡旋しちゃうぞ~!」
「ありがとうございます……。俺なんかのために……」
「もぉ。暗いぞー? とりあえず笑っとこ? いい子だからちょっと待っててね!」
そう言うと笑って頭を撫でてくれた。
「……はい……!」
久々に会ったというのに、情けないところを見られてしまったなと思った。
それと同時に、なんだか少しわかった気がする。
どうして俺が、他の冒険者から嫌われているのかが……。
“女の尻に隠れておんぶに抱っこ“
あながち、間違っていないのかもしれない。
「いやもう賭けになんねえだろ。あの間抜けっぷり」
「そこでだ、次はあのマヌケにもわかるように投げつける。これならどうだ! 仮にもAランク冒険者だぞ?」
「いいねぇ! よっしゃじゃあ俺は避けるに100G」
「無理だな。あいつ疎そうじゃん。女におんぶに抱っこされてお飾りでAランクにさせてもらっただけだろ。だから俺は避けられないに100G」
「俺も無理だと思うわ。あいつ凡人以下じゃん。魔力適性ゼロの無能って話だし。ってことで避けられないに100G」
「さあ張った張った!」
俺のことなど他所に大盛り上がりだった。
でもそうか。そうだったんだ。
俺は良くも悪くも前しか見ていなかった。
今、俺のことを馬鹿にし哀れみと羞恥の目で見てくるこいつらのことを、誰一人として知らない。
言うなれば、通り過ぎる景色のような存在だった。
これといって悪いことをした記憶もない。
挨拶をされれば会釈くらいはしていたと思う。
…………そういえば昨晩、グリードも言ってたな。
“女の尻に隠れておんぶに抱っこでAランク冒険者にまでなっちまった“
なんだよ。それ。
まるで“甘い蜜を吸う寄生虫“だ。ヒモのような存在じゃないか。
俺は……そんなんじゃない。
けどそれを証明する術もない。仮にそれを証明したところで……。
ここにはもう、俺の居場所は……ない。
でもエリシアと約束した。
“しっかりする“って約束したんだ。
大丈夫。昨日とは違う。
今の所、俺の命まで取ろうとしている者はいない。
ここで食ってかかれば昨晩の二の舞だ。
俺はもう、繰り返さない。
とっとと薬草採取の発行書をもらって仕事に出掛けよう。
そんなことを考えていると第2ラウンドとやらが始まってしまった。
「おーいマヌケー! いくぞー!」
「避けるなよマヌケ!」
「避けたら許さねーぞー!」
どうやら俺の名前はマヌケになったらしい。
丸められたゴミ屑を俺に見えるように投げてきた。とてもゆっくりと優しく。
投げてるのは賭けの親、大元。
おそらく避けたほうが都合がいいのだろう。
ということは、多くの人は避けられないと予想している。だったらその期待に応えよう。それがきっと正解で、ここでの生き方だ。
避ける気もなくただ当たるだけじゃ、おそらく納得しない。だからあたふたと避ける素振りをして、惜しくも当たってしまった。そんな感じでいこう。
それは本当にマヌケで馬鹿っぽさ丸出しだなと思うも、俺は覚悟を決めた。
こいつらになんと思われようが、どうでもいいのだから。今後ここで過ごしやすいほうを選択するだけ……なの、だから……。
と、その時。
弧を描き向かってくるゴミ屑は叩かれ床に落ちた。
「レオンくん。おかえり。戻ってきたんだね!」
それは、俺が冒険者組合に登録したときからずっとお世話になっている受付のお姉さん。リゼさんだった。
「はいそこ! 用が済んだなら帰る! ここは溜まり場じゃなーい!」
「あっ、すいやせん! すぐ行きます!」
「今日もお姉さんは美しいなぁ~!」
「今、俺声かけられちゃった!」
「いや、声かけられのは俺だし!」
「それにしても、あいつ。情けねえなぁ。結局また女に守られてらぁ。あれでAランクだって言うんだから、笑えるよな」
「言ってやるなよ。じきに降格すんだろ」
「はいそこ用があるならさっさと済ます!」
リゼさんは俺から他の冒険者を遠ざけるように声を掛け続けた。
「へ、へいすみやせんお姉さん!」
「やっべ今、目合っちゃったし!」
清楚で大人びているけど、どこかまだ垢抜けていなくて可愛さも兼ね備える。
リゼさんは冒険者組合にとって花のような存在だ。
そんなリゼさんに注意を施されれば、荒れくれ者の冒険者だって一言返事で従うしかない。
貴族様からの依頼をバックレたあの日、リゼさんにはこっぴどく怒られた。だから正直、ちょっと気まずかったりもするんだけど……。
「おいで」と手を引かれ受付へと案内してくれた。怒った様子もなく普段通りの優しいリゼさんだった。
「そこ座って待ってて。レオン君が一人でこなせそうな仕事探してくるから! 良さげな仕事斡旋しちゃうぞ~!」
「ありがとうございます……。俺なんかのために……」
「もぉ。暗いぞー? とりあえず笑っとこ? いい子だからちょっと待っててね!」
そう言うと笑って頭を撫でてくれた。
「……はい……!」
久々に会ったというのに、情けないところを見られてしまったなと思った。
それと同時に、なんだか少しわかった気がする。
どうして俺が、他の冒険者から嫌われているのかが……。
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