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1巻
1-3
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「もう! だからって、そういうときはちゃんと警察に通報しないとダメ! その場では痛くなくてもむちうちになったり、後から痛みが出てきたりする場合だってあるんだから!」
「はい、気をつけます」
京子は桜花の手や足に視線をやり、低いうなり声をあげた。
「ねえ、最近の桜花、ケガをしすぎじゃない? その転んだっていう足もそうだけど、他の場所にも、小さなひっかき傷みたいなのがたくさんあるし……」
「そうなんです。私、ぼーっとしているので」
「でも、前はそんなことなかったでしょ。最近のことじゃん。先月くらいからじゃない? そういうケガが続くのは」
桜花はその言葉に頷いた。
「確かに、四月に入ってから多いような気がしますね」
「それに先週ケガしたときは、誰かに突き飛ばされたって言ってなかった?」
当時のことを思い出し、桜花は表情を曇らせた。
「はい……。そんな感じがしたんですが、後ろを確認したら誰もいなかったので、きっと私の気のせいです」
確かにそうなのだ。
四月に入ってから、桜花がずっと気にしていることがある。
それは自分のすぐ近くに、誰かの気配がすること。
とはいえ、それが誰なのかは分からない。
常にその気配があるわけでもない。
しかしふとした瞬間、背後に、息を呑んでしまうほどの大きな何かがいるような気がするのだ。
そして、その何かの気配がすると、いつもケガをしてしまう。
時には、突き飛ばされたり押されたりしたような感じがして、転んでしまうこともある。
そんなことが何度も続く。
桜花はもとよりぼんやりした性格だが、こう何度も続くとまったくの勘違いとも思いづらい。
怖くないと言ったら、嘘になる。
けれど正体を突き止めるのは、それはそれで恐ろしい。
もしその何かの正体に気づいたとき――果たして、自分は無事でいられるだろうか。
それに、そんな不確かなことを話しても、京子をもっと心配させてしまうだけだ。
京子は腕を組み、納得のいかない顔で呟いた。
「そんな気のせい、ないと思うけど。とにかく桜花、何かあったなら話してよね。あたし、桜花の親友なんだからさ」
彼女の力強い言葉が胸の奥にしみ込んで、心が軽くなる。
「京子ちゃん……。はいっ、ありがとうございます!」
桜花たちがそんなことを話していると、なぜかそれまで騒がしかった講義室が、突然水を打ったようにしんと静まり返った。
どうやら皆、入り口に注目しているようだ。
桜花たちも、それにならって講義室の入り口を見やる。
すると、今まさに中に入ろうとしている鬼束と目が合った。
京子がぽそりと呟く。
「わ、鬼束だ。あいつ、停学終わったんだ」
周囲の学生たちも、ひそひそと小声で耳打ちし合う。
「こえー、でかいよあいつ。身長三メートルくらいあるんじゃねーの?」
そんなにあるわけないだろ、という目つきで鬼束が睨みつけると、こそこそ話をしていた学生たちは口を噤む。
「本当ですね、鬼束君です」
桜花は昨日のお礼を言わないと、と思いながら、大きく手を振った。
「鬼束君っ、おはようございます!」
周囲の学生たちがぎょっとしたようにざわめき、今度は桜花に視線が集中する。
「ちょ、ちょっと桜花⁉」
京子も驚き、焦った表情で桜花の洋服の袖を引く。
しかし、桜花には皆が驚いた理由が分からなかった。
「どうしたんですか、京子ちゃん」
「どうしたって、桜花、なんで鬼束に挨拶してるの⁉」
鬼束は学生たちの反応を見て、深い溜め息をつき、桜花に向かって小さな声で言った。
「おい、ちょっと面貸せ」
それを聞いた学生たちは、またざわめいた。
呼び出し⁉ 脅迫⁉ 事件⁉ と凍りついている。
だが桜花は怖がる様子もなく、あっさりそれに応じた。
「はい。京子ちゃん、行ってきます!」
「え? ちょっと、桜花? 大丈夫⁉ 危ないならあたしもついていくけど平気⁉」
そう言われた桜花は、クスクスと笑った。
「危ないことなんて何もないですよ」
桜花は鬼束の後に続いて、廊下を歩いていった。
階段を下りている途中も、鬼束は多くの学生たちの注目を集めていた。
鬼束が歩くと、人波が割れ、彼が進もうとする方向へ綺麗に道が開ける。
(鬼束君が歩こうとすると、みんな避けてくれます。すごいです。確か聖書にそんな話がありましたね)
桜花が一人で感心しているうちに、校舎の裏に到着した。
そこは日陰になっていて、ひんやりとした空気が流れていた。
桜花はこんな場所があるなんて知らなかった。
「私、初めて来ました」
「まあこんな場所、告白か呼び出しにしか使わねーだろ」
そう言ってから、鬼束はあっと叫んで顔を赤くする。
「言っとくけど、別に妙な話じゃないからな!」
「はいっ。どうしてここで話そうと思ったんですか?」
「講義室だと外野がうるさくて、ちゃんと話せそうになかったからな。今、俺の周囲はざわついてるし」
それを聞いて、桜花は鬼束が停学になっていたのを思い出した。
(鬼束君は、一体どうして停学になったのでしょう)
疑問に思ったが、それはひとまず置いておいて、昨日のお礼を伝えたかったので先に彼に声をかけた。
「昨日は、本当にありがとうございました。お二人に助けていただいて、とっても嬉しかったのです。鬼束君と月影さんがもしご迷惑でなければ、今日改めてお礼にうかがおうと思っていたのですが……」
鬼束は厳しい表情で念を押す。
「あー、それは別にいいんだけどよ。ケーキのことは、誰にも話すなよ」
「はいっ、分かりました!」
それから鬼束は、桜花の膝に巻かれている包帯に視線を落とし、顔を歪める。
「……お前、その包帯はどうしたんだ? 確か昨日、俺の店にいたときはなかっただろ?」
「あっ、これは昨日、帰り道で転んで車に轢かれそうになったときにケガをしてしまいまして」
「はあ⁉ まじかよ、やっぱり月影に送っていかせるべきだったな」
桜花はぶんぶんと首を横に振る。
「いえいえっ、私が間抜けだっただけなので!」
鬼束は腕を組んで、桜花を見下ろす。
「他にも手とか足とか、傷だらけだって言ってたけど、月影が」
「実は私、最近よくケガをするんです」
呆れられるかと思ったが、鬼束は神妙な表情になり、じっと桜花の顔を見つめる。
「それはなんでだ? お前、前からそんなに頻繁にケガをしてたのか?」
「いえ、そういうことはなかったんですけど」
鬼束はずいっと桜花へと距離を詰めた。
「何かあるなら、言ってみろよ」
「でも……」
『見えない誰かに背中を押されたから』だとは、あまりに非現実的すぎて、どう話していいのか分からない。
動揺しながら後ずさると、背中が壁にぶつかった。
そんな桜花の顔の横に、鬼束は勢いよく、ドンと手をつく。
「いいから話せっつってんだろ!」
「ひゃいっ!」
鬼束に近くで叫ばれると、とても迫力がある。
とはいえ、顔は般若のようだが、おそらく桜花のことを心配してくれているのだろう。
迷ったけれど、誰かに聞いてほしかったのもあって、最近の出来事をぽつぽつと話し出した。
「えっと、気のせいかもしれないのですが、実はこのケガをしたとき、後ろから誰かに押された気がしたんです」
その言葉を聞いて鬼束は、なぜか妙に納得した様子だった。
「なるほど、誰かに押された、な。だけどその誰かを見たわけじゃねーのか」
「はい。確認したんですが、振り返っても、近くには誰もいなくて。やはり勘違いかなと」
それを聞いた鬼束が、何かを言おうと迷っている仕草を見せる。
「あのさ……」
彼が口を開いた、そのときだった。
上からパラ、と粉のようなものが振ってくる。
桜花はなんだろうと疑問を抱いた。
「危ねえっ!」
そう叫んだ直後、鬼束に抱きしめられ、桜花は地面に倒れていた。
「えっ、あの……」
どうしたんですか、と聞こうと思ったのとほぼ同時だった。
二人が倒れているすぐそばに、すさまじい音とともに、激しく何かが叩きつけられる。
「きゃっ!」
大きな音がして、上から降ってきた花瓶が地面に当たり、バラバラに砕け散った。
桜花はぞっと背筋が寒くなった。
すぐに窓から女子学生が顔を出して、こちらに向かって大声で謝る。
「ごめんなさい、大丈夫でしたか⁉」
鬼束は素早く起き上がり、彼女を怒鳴りつけた。
「ふざけんなよてめぇ、当たって死んだらどうすんだコラ! 気ぃつけろや!」
「きゃーっ! ヤンキー!」
「誰がヤンキーだ⁉」
怒られた女子学生は、恐れおののいてそのまま逃げてしまったようだ。
鬼束は「最近の若者はまともに謝ることもできねえ!」などと憤った後、まだその場に座り込んでいる桜花に向かって、大きな手を差し伸べる。
「おい、平気か?」
「は、はい……」
桜花は立ち上がろうとするが、まだ恐怖で足に力が入らない。
彼女の顔は、真っ青になっていた。
もし鬼束が助けてくれなかったら、あの花瓶はきっと直撃していた。
それだけなら、ただの偶然かもしれない。
だけど、さっき桜花は確かに感じたのだ。
――鬼束に抱きしめられる直前、大きな何かが自分の腕を引こうとする気配を。
鬼束は、桜花の背後をきつく睨みながら呟く。
「……今、なんかいたな。でかいのが」
「えっ⁉ ほ、本当ですか? 鬼束君にも、分かりましたか⁉」
「ああ。素早かったから、それが何かは見えなかったけど」
そう言って、ごしごしと目蓋を擦る。
鬼束は桜花の手を引いて、立ち上がらせてくれた。
桜花の様子が気にかかったのか、鬼束はさっきより穏やかな声で言った。
「綾辻……だっけ」
「はい」
「……呼びにくいな」
「あ、えっと、それでは桜花と呼んでください。その方が、言いやすいと思うのですが」
「あー、じゃあそれで。お前のそれ、月影ならどうにかできるかもしれない」
桜花は驚いて目を丸くした。
そして、優雅に微笑む月影の姿を思い浮かべる。
「それって、ケガをすることを、ですか?」
「そうだ」
「本当ですか?」
「ああ、多分だけどな。とりあえず今日、講義が終わったら店に来いよ」
「あ、はいっ! 分かりました」
鬼束はその返事を聞くと、満足したように歩いていった。
桜花は彼の後ろ姿を眺めながら考える。
それっていうのは、どういうのだろう。
□
桜花は講義が終わると、再びあの洋菓子店に向かっていた。
洋菓子店“charmant fraise”は、閑静な住宅街にひっそりと佇んでいる。
看板には、シャルマン・フレーズと読み仮名がふってあった。
(一体どういう意味なのでしょう)
考えながら、桜花はじっと洋菓子店を見つめた。
昨日はゆっくり外観を見る時間がなかったけれど、こうして見上げると本当に綺麗なお店だ。
白を基調にした、清潔感のある外観。正面はガラス張りになっていて、外からも店の中の様子をうかがうことができた。
昨日桜花も座ったが、かわいらしいソファがあり、椅子とテーブルも何脚かセットで並んでいる。購入したケーキをイートインスペースで食べられるのだろう。
店のすぐ裏には、愛らしい庭が続いていた。色とりどりの小さな花がたくさん咲いている。
しかし今日のシャルマン・フレーズは、シャッターこそ開いているものの、店内は薄暗く、人の気配がしない。
「……定休日なのでしょうか?」
そういえば、鬼束に講義が終わったら来いとは言われたが、詳しい時間は聞いていなかった。
どうしようかと軒先で佇んでいたら、足元に白くてふわふわした何かが近づいてきた。
それは桜花を見つけると、にゃあんと声をあげる。
「あっ、あなたは昨日の白猫さん!」
桜花は白猫の近くでしゃがみ、にこにこと微笑んだ。
毛は真っ白で長くて、瞳は緑色の宝石みたいで、とても美人の猫だ。
「もしかして、鬼束君のお家の猫さんでしょうか?」
そう問いかけると、頭上から声が降ってくる。
「そう、うちの猫だ」
いつの間にか、すぐ後ろに鬼束が立っていた。
「鬼束君! こんにちは!」
「来てたのか。今店開けるから」
そう言って、鬼束は鞄から鍵を取りだし、店の扉を開く。
「そこらへん、適当に座ってくれ」
鬼束が店に入るのに続いて、白い猫もとことこと店に入った。
桜花が触れようとすると、白い猫は警戒したように鳴いて、走って二階へと階段を上っていってしまう。
「ありゃ。嫌われてしまったようですね。残念です」
鬼束は電気のスイッチをつけながら答える。
「まあ、あいつ気まぐれだから」
「鬼束君の猫さんなんですね。ここに住んでいるんですか?」
そう問うと、鬼束は困ったように首の後ろをかく。
「ああ、名前はシフォン。元々実家にいたんだが、俺がこの店に通う時間が長くなってから、さみしかったのかあんまりエサを食べなくなっちまったらしくてな。可哀想だから、ためしにここに住まわせてみたら気に入ったようで、すっかり居着いちまった」
桜花は両手を合わせ、キラキラした瞳で言った。
「わあ、鬼束君のことが大好きなんですね! とってもかわいいです!」
鬼束はさっきよりぶっきらぼうに言う。
「飲食店だから、猫がいるのはどうかと思うんだけどな。普段は極力店のスペースには入れないようにしてる」
桜花はそんな鬼束の様子を見て、ああ、彼は本当に猫が好きなんだなと思った。
ちょっと分かりにくいけれど、優しい人だ。
「ということは、鬼束君は二階で暮らしているんですか?」
「暮らすっていうか、家に帰るのがだるくなったら、ここに泊まってる感じだな。最近は実家よりこの店にいる時間の方が長いけど。ここ、一応うちの店だから」
「そうだったんですね!」
その言葉に桜花は驚く。
鬼束はてっきりアルバイトをしているのかと思ったが、店自体が鬼束家のものらしい。
「そういえば、鬼束君。お店の名前、シャルマン・フレーズって言うんですね」
「あー、そうだな」
「昨日はじっくり見なかったので、知りませんでした。フランス語ですよね? どういう意味なんですか?」
そう問うと、鬼束はなぜか気まずそうに顔を歪める。
「意味なんか、どうでもいいだろ」
「えっ、ですが、気になって……」
そんなことを話していると、いつの間にかすぐそばに燕尾服の男性がいた。
「おや、こんにちは桜花さん」
足音も気配もしなかったので、桜花は少し驚く。
「月影さん! 昨日はありがとうございました!」
「いえいえ。何を話してらしたんですか?」
桜花は苦笑しながら月影に問う。
「いえ、シャルマン・フレーズって、どういう意味なのかなぁと」
でも鬼束君は言いたくないのでしょうか、と遠慮すると、月影はあっさり答えた。
「ああ、『かわいらしい苺』という意味ですよ」
それを聞いた桜花は、ぱっと表情を輝かせる。
「かわいらしい苺! それはなんと愛らしいお店の名前でしょう!」
そう叫ぶと、目つきが最高に悪い鬼束と視線が合った。
「ひゃっ!」
月影は嘲笑うように桜花に耳打ちした。
「あの顔で『かわいらしい苺』ですよ」
鬼束は月影に向かって怒鳴りつける。
「親父がつけた店名だって、お前は知ってるだろうが! 別に俺は『パティスリー血の雨』とかでもいいんだぞ⁉」
「それでは誰もお客様が来ないでしょう。とりあえず立ち話もなんですから、どうぞイートインコーナーに座ってください。桜花さんは、今日はどうしてこちらに?」
その問いかけに、鬼束が答えた。
「俺が呼んだんだ。ほら、ケガのことで」
桜花はぺこりと頭を下げた。
「昨日もお世話になっておいて、申し訳ないのですが。もしかしたら、月影さんならこのケガの原因が分かるのではないかと、鬼束君に聞きまして」
月影は真剣な表情でそれに答える。
「はい、気をつけます」
京子は桜花の手や足に視線をやり、低いうなり声をあげた。
「ねえ、最近の桜花、ケガをしすぎじゃない? その転んだっていう足もそうだけど、他の場所にも、小さなひっかき傷みたいなのがたくさんあるし……」
「そうなんです。私、ぼーっとしているので」
「でも、前はそんなことなかったでしょ。最近のことじゃん。先月くらいからじゃない? そういうケガが続くのは」
桜花はその言葉に頷いた。
「確かに、四月に入ってから多いような気がしますね」
「それに先週ケガしたときは、誰かに突き飛ばされたって言ってなかった?」
当時のことを思い出し、桜花は表情を曇らせた。
「はい……。そんな感じがしたんですが、後ろを確認したら誰もいなかったので、きっと私の気のせいです」
確かにそうなのだ。
四月に入ってから、桜花がずっと気にしていることがある。
それは自分のすぐ近くに、誰かの気配がすること。
とはいえ、それが誰なのかは分からない。
常にその気配があるわけでもない。
しかしふとした瞬間、背後に、息を呑んでしまうほどの大きな何かがいるような気がするのだ。
そして、その何かの気配がすると、いつもケガをしてしまう。
時には、突き飛ばされたり押されたりしたような感じがして、転んでしまうこともある。
そんなことが何度も続く。
桜花はもとよりぼんやりした性格だが、こう何度も続くとまったくの勘違いとも思いづらい。
怖くないと言ったら、嘘になる。
けれど正体を突き止めるのは、それはそれで恐ろしい。
もしその何かの正体に気づいたとき――果たして、自分は無事でいられるだろうか。
それに、そんな不確かなことを話しても、京子をもっと心配させてしまうだけだ。
京子は腕を組み、納得のいかない顔で呟いた。
「そんな気のせい、ないと思うけど。とにかく桜花、何かあったなら話してよね。あたし、桜花の親友なんだからさ」
彼女の力強い言葉が胸の奥にしみ込んで、心が軽くなる。
「京子ちゃん……。はいっ、ありがとうございます!」
桜花たちがそんなことを話していると、なぜかそれまで騒がしかった講義室が、突然水を打ったようにしんと静まり返った。
どうやら皆、入り口に注目しているようだ。
桜花たちも、それにならって講義室の入り口を見やる。
すると、今まさに中に入ろうとしている鬼束と目が合った。
京子がぽそりと呟く。
「わ、鬼束だ。あいつ、停学終わったんだ」
周囲の学生たちも、ひそひそと小声で耳打ちし合う。
「こえー、でかいよあいつ。身長三メートルくらいあるんじゃねーの?」
そんなにあるわけないだろ、という目つきで鬼束が睨みつけると、こそこそ話をしていた学生たちは口を噤む。
「本当ですね、鬼束君です」
桜花は昨日のお礼を言わないと、と思いながら、大きく手を振った。
「鬼束君っ、おはようございます!」
周囲の学生たちがぎょっとしたようにざわめき、今度は桜花に視線が集中する。
「ちょ、ちょっと桜花⁉」
京子も驚き、焦った表情で桜花の洋服の袖を引く。
しかし、桜花には皆が驚いた理由が分からなかった。
「どうしたんですか、京子ちゃん」
「どうしたって、桜花、なんで鬼束に挨拶してるの⁉」
鬼束は学生たちの反応を見て、深い溜め息をつき、桜花に向かって小さな声で言った。
「おい、ちょっと面貸せ」
それを聞いた学生たちは、またざわめいた。
呼び出し⁉ 脅迫⁉ 事件⁉ と凍りついている。
だが桜花は怖がる様子もなく、あっさりそれに応じた。
「はい。京子ちゃん、行ってきます!」
「え? ちょっと、桜花? 大丈夫⁉ 危ないならあたしもついていくけど平気⁉」
そう言われた桜花は、クスクスと笑った。
「危ないことなんて何もないですよ」
桜花は鬼束の後に続いて、廊下を歩いていった。
階段を下りている途中も、鬼束は多くの学生たちの注目を集めていた。
鬼束が歩くと、人波が割れ、彼が進もうとする方向へ綺麗に道が開ける。
(鬼束君が歩こうとすると、みんな避けてくれます。すごいです。確か聖書にそんな話がありましたね)
桜花が一人で感心しているうちに、校舎の裏に到着した。
そこは日陰になっていて、ひんやりとした空気が流れていた。
桜花はこんな場所があるなんて知らなかった。
「私、初めて来ました」
「まあこんな場所、告白か呼び出しにしか使わねーだろ」
そう言ってから、鬼束はあっと叫んで顔を赤くする。
「言っとくけど、別に妙な話じゃないからな!」
「はいっ。どうしてここで話そうと思ったんですか?」
「講義室だと外野がうるさくて、ちゃんと話せそうになかったからな。今、俺の周囲はざわついてるし」
それを聞いて、桜花は鬼束が停学になっていたのを思い出した。
(鬼束君は、一体どうして停学になったのでしょう)
疑問に思ったが、それはひとまず置いておいて、昨日のお礼を伝えたかったので先に彼に声をかけた。
「昨日は、本当にありがとうございました。お二人に助けていただいて、とっても嬉しかったのです。鬼束君と月影さんがもしご迷惑でなければ、今日改めてお礼にうかがおうと思っていたのですが……」
鬼束は厳しい表情で念を押す。
「あー、それは別にいいんだけどよ。ケーキのことは、誰にも話すなよ」
「はいっ、分かりました!」
それから鬼束は、桜花の膝に巻かれている包帯に視線を落とし、顔を歪める。
「……お前、その包帯はどうしたんだ? 確か昨日、俺の店にいたときはなかっただろ?」
「あっ、これは昨日、帰り道で転んで車に轢かれそうになったときにケガをしてしまいまして」
「はあ⁉ まじかよ、やっぱり月影に送っていかせるべきだったな」
桜花はぶんぶんと首を横に振る。
「いえいえっ、私が間抜けだっただけなので!」
鬼束は腕を組んで、桜花を見下ろす。
「他にも手とか足とか、傷だらけだって言ってたけど、月影が」
「実は私、最近よくケガをするんです」
呆れられるかと思ったが、鬼束は神妙な表情になり、じっと桜花の顔を見つめる。
「それはなんでだ? お前、前からそんなに頻繁にケガをしてたのか?」
「いえ、そういうことはなかったんですけど」
鬼束はずいっと桜花へと距離を詰めた。
「何かあるなら、言ってみろよ」
「でも……」
『見えない誰かに背中を押されたから』だとは、あまりに非現実的すぎて、どう話していいのか分からない。
動揺しながら後ずさると、背中が壁にぶつかった。
そんな桜花の顔の横に、鬼束は勢いよく、ドンと手をつく。
「いいから話せっつってんだろ!」
「ひゃいっ!」
鬼束に近くで叫ばれると、とても迫力がある。
とはいえ、顔は般若のようだが、おそらく桜花のことを心配してくれているのだろう。
迷ったけれど、誰かに聞いてほしかったのもあって、最近の出来事をぽつぽつと話し出した。
「えっと、気のせいかもしれないのですが、実はこのケガをしたとき、後ろから誰かに押された気がしたんです」
その言葉を聞いて鬼束は、なぜか妙に納得した様子だった。
「なるほど、誰かに押された、な。だけどその誰かを見たわけじゃねーのか」
「はい。確認したんですが、振り返っても、近くには誰もいなくて。やはり勘違いかなと」
それを聞いた鬼束が、何かを言おうと迷っている仕草を見せる。
「あのさ……」
彼が口を開いた、そのときだった。
上からパラ、と粉のようなものが振ってくる。
桜花はなんだろうと疑問を抱いた。
「危ねえっ!」
そう叫んだ直後、鬼束に抱きしめられ、桜花は地面に倒れていた。
「えっ、あの……」
どうしたんですか、と聞こうと思ったのとほぼ同時だった。
二人が倒れているすぐそばに、すさまじい音とともに、激しく何かが叩きつけられる。
「きゃっ!」
大きな音がして、上から降ってきた花瓶が地面に当たり、バラバラに砕け散った。
桜花はぞっと背筋が寒くなった。
すぐに窓から女子学生が顔を出して、こちらに向かって大声で謝る。
「ごめんなさい、大丈夫でしたか⁉」
鬼束は素早く起き上がり、彼女を怒鳴りつけた。
「ふざけんなよてめぇ、当たって死んだらどうすんだコラ! 気ぃつけろや!」
「きゃーっ! ヤンキー!」
「誰がヤンキーだ⁉」
怒られた女子学生は、恐れおののいてそのまま逃げてしまったようだ。
鬼束は「最近の若者はまともに謝ることもできねえ!」などと憤った後、まだその場に座り込んでいる桜花に向かって、大きな手を差し伸べる。
「おい、平気か?」
「は、はい……」
桜花は立ち上がろうとするが、まだ恐怖で足に力が入らない。
彼女の顔は、真っ青になっていた。
もし鬼束が助けてくれなかったら、あの花瓶はきっと直撃していた。
それだけなら、ただの偶然かもしれない。
だけど、さっき桜花は確かに感じたのだ。
――鬼束に抱きしめられる直前、大きな何かが自分の腕を引こうとする気配を。
鬼束は、桜花の背後をきつく睨みながら呟く。
「……今、なんかいたな。でかいのが」
「えっ⁉ ほ、本当ですか? 鬼束君にも、分かりましたか⁉」
「ああ。素早かったから、それが何かは見えなかったけど」
そう言って、ごしごしと目蓋を擦る。
鬼束は桜花の手を引いて、立ち上がらせてくれた。
桜花の様子が気にかかったのか、鬼束はさっきより穏やかな声で言った。
「綾辻……だっけ」
「はい」
「……呼びにくいな」
「あ、えっと、それでは桜花と呼んでください。その方が、言いやすいと思うのですが」
「あー、じゃあそれで。お前のそれ、月影ならどうにかできるかもしれない」
桜花は驚いて目を丸くした。
そして、優雅に微笑む月影の姿を思い浮かべる。
「それって、ケガをすることを、ですか?」
「そうだ」
「本当ですか?」
「ああ、多分だけどな。とりあえず今日、講義が終わったら店に来いよ」
「あ、はいっ! 分かりました」
鬼束はその返事を聞くと、満足したように歩いていった。
桜花は彼の後ろ姿を眺めながら考える。
それっていうのは、どういうのだろう。
□
桜花は講義が終わると、再びあの洋菓子店に向かっていた。
洋菓子店“charmant fraise”は、閑静な住宅街にひっそりと佇んでいる。
看板には、シャルマン・フレーズと読み仮名がふってあった。
(一体どういう意味なのでしょう)
考えながら、桜花はじっと洋菓子店を見つめた。
昨日はゆっくり外観を見る時間がなかったけれど、こうして見上げると本当に綺麗なお店だ。
白を基調にした、清潔感のある外観。正面はガラス張りになっていて、外からも店の中の様子をうかがうことができた。
昨日桜花も座ったが、かわいらしいソファがあり、椅子とテーブルも何脚かセットで並んでいる。購入したケーキをイートインスペースで食べられるのだろう。
店のすぐ裏には、愛らしい庭が続いていた。色とりどりの小さな花がたくさん咲いている。
しかし今日のシャルマン・フレーズは、シャッターこそ開いているものの、店内は薄暗く、人の気配がしない。
「……定休日なのでしょうか?」
そういえば、鬼束に講義が終わったら来いとは言われたが、詳しい時間は聞いていなかった。
どうしようかと軒先で佇んでいたら、足元に白くてふわふわした何かが近づいてきた。
それは桜花を見つけると、にゃあんと声をあげる。
「あっ、あなたは昨日の白猫さん!」
桜花は白猫の近くでしゃがみ、にこにこと微笑んだ。
毛は真っ白で長くて、瞳は緑色の宝石みたいで、とても美人の猫だ。
「もしかして、鬼束君のお家の猫さんでしょうか?」
そう問いかけると、頭上から声が降ってくる。
「そう、うちの猫だ」
いつの間にか、すぐ後ろに鬼束が立っていた。
「鬼束君! こんにちは!」
「来てたのか。今店開けるから」
そう言って、鬼束は鞄から鍵を取りだし、店の扉を開く。
「そこらへん、適当に座ってくれ」
鬼束が店に入るのに続いて、白い猫もとことこと店に入った。
桜花が触れようとすると、白い猫は警戒したように鳴いて、走って二階へと階段を上っていってしまう。
「ありゃ。嫌われてしまったようですね。残念です」
鬼束は電気のスイッチをつけながら答える。
「まあ、あいつ気まぐれだから」
「鬼束君の猫さんなんですね。ここに住んでいるんですか?」
そう問うと、鬼束は困ったように首の後ろをかく。
「ああ、名前はシフォン。元々実家にいたんだが、俺がこの店に通う時間が長くなってから、さみしかったのかあんまりエサを食べなくなっちまったらしくてな。可哀想だから、ためしにここに住まわせてみたら気に入ったようで、すっかり居着いちまった」
桜花は両手を合わせ、キラキラした瞳で言った。
「わあ、鬼束君のことが大好きなんですね! とってもかわいいです!」
鬼束はさっきよりぶっきらぼうに言う。
「飲食店だから、猫がいるのはどうかと思うんだけどな。普段は極力店のスペースには入れないようにしてる」
桜花はそんな鬼束の様子を見て、ああ、彼は本当に猫が好きなんだなと思った。
ちょっと分かりにくいけれど、優しい人だ。
「ということは、鬼束君は二階で暮らしているんですか?」
「暮らすっていうか、家に帰るのがだるくなったら、ここに泊まってる感じだな。最近は実家よりこの店にいる時間の方が長いけど。ここ、一応うちの店だから」
「そうだったんですね!」
その言葉に桜花は驚く。
鬼束はてっきりアルバイトをしているのかと思ったが、店自体が鬼束家のものらしい。
「そういえば、鬼束君。お店の名前、シャルマン・フレーズって言うんですね」
「あー、そうだな」
「昨日はじっくり見なかったので、知りませんでした。フランス語ですよね? どういう意味なんですか?」
そう問うと、鬼束はなぜか気まずそうに顔を歪める。
「意味なんか、どうでもいいだろ」
「えっ、ですが、気になって……」
そんなことを話していると、いつの間にかすぐそばに燕尾服の男性がいた。
「おや、こんにちは桜花さん」
足音も気配もしなかったので、桜花は少し驚く。
「月影さん! 昨日はありがとうございました!」
「いえいえ。何を話してらしたんですか?」
桜花は苦笑しながら月影に問う。
「いえ、シャルマン・フレーズって、どういう意味なのかなぁと」
でも鬼束君は言いたくないのでしょうか、と遠慮すると、月影はあっさり答えた。
「ああ、『かわいらしい苺』という意味ですよ」
それを聞いた桜花は、ぱっと表情を輝かせる。
「かわいらしい苺! それはなんと愛らしいお店の名前でしょう!」
そう叫ぶと、目つきが最高に悪い鬼束と視線が合った。
「ひゃっ!」
月影は嘲笑うように桜花に耳打ちした。
「あの顔で『かわいらしい苺』ですよ」
鬼束は月影に向かって怒鳴りつける。
「親父がつけた店名だって、お前は知ってるだろうが! 別に俺は『パティスリー血の雨』とかでもいいんだぞ⁉」
「それでは誰もお客様が来ないでしょう。とりあえず立ち話もなんですから、どうぞイートインコーナーに座ってください。桜花さんは、今日はどうしてこちらに?」
その問いかけに、鬼束が答えた。
「俺が呼んだんだ。ほら、ケガのことで」
桜花はぺこりと頭を下げた。
「昨日もお世話になっておいて、申し訳ないのですが。もしかしたら、月影さんならこのケガの原因が分かるのではないかと、鬼束君に聞きまして」
月影は真剣な表情でそれに答える。
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連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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