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1巻
1-2
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「あの、私地味だから知らないかもしれませんが、白橋大学の一年生の、綾辻桜花です。お話ししたことはないですが、学科は違いますが同じ学部で、同じ講義室にいたこともあるんです」
「そうなのか……」
鬼束は動揺したように顔を歪める。
(私、存在感が薄いので、やっぱり覚えていないですよね)
桜花はそう考えながら、曖昧に微笑んだ。
「さっきいただいたアップルパイも、もしかして……」
鬼束に話しかけようとするが、彼は脱兎のごとく厨房へ逃げようとする。
そんな彼の首根っこを、すかさず月影がつかまえた。
「坊ちゃま、どこに行くんですか?」
月影はにこにこしつつ、それでもしっかりと鬼束の襟首を掴んで離さない。
鬼束は首が絞まり、苦しそうに、ぐえと声をあげた。
桜花はさっき倒れそうになった身体を支えてもらったときも思ったが、月影は細身なのに、意外と腕力があるのかもしれない。
彼は明るい声で桜花に話しかける。
「まさか桜花さんが、坊ちゃまと同じ大学のお嬢さんだったとは。世間は狭いですね。こんな偶然があるなんて。むしろここまで来ると、運命かもしれませんよ」
鬼束は冷静にその言葉にツッコむ。
「いや、目ざといお前のことだから、どうせ最初から知ってただろ。だいたいここら辺歩いてる大学生は、ほとんどみんな白橋大学の学生じゃねーか」
なるほど、だから月影はこんなに親切にしてくれたのか。
月影はその言葉を笑顔で聞き流した。
桜花は鬼束に問いかける。
「そういえば鬼束君、ここ最近は、大学で姿をお見かけしませんでしたけれど……。具合が悪かったのですか?」
“事件”を知らない桜花がそう問いかけると、鬼束は「はあ?」と顔を歪める。
そして桜花のすぐ前に歩み寄り、威圧するように言う。
「お前、それ嫌味のつもりか?」
至近距離に詰め寄られ、桜花は焦りながら言葉を返す。
「えっ、いえ、決してそういうわけでは」
こうやって近くで見ると、鬼束はますます背が高くて、顔が怖くて迫力がある。けれど、そんな彼からリンゴの香りがするのが、少しアンバランスで不思議だった。
「なら本気で言ってんのか? あれだけ噂になったのに何も知らないなんて、ずいぶんぼんやりしたやつだな」
何かいけないことを聞いてしまったのだろうか。
桜花が困惑していると、月影が手に持っていたトレイでパァン! と鬼束の頭を叩いた。
「お、鬼束君!」
ものすごくいい音がした。
「てめえ月影、何しやがんだ!」
鬼束は牙を剥いて威勢よく吠える。
「坊ちゃま、女性に対する言葉遣いがなっていませんよ。もう少し優しく接してください。よろしいですね?」
月影は、あくまで穏やかな笑顔のままだ。
それが逆に、余計にすごみというか、迫力を増している感じさえする。
鬼束は威勢はいいが、どうやら月影に逆らえないらしい。まるで飼い犬とご主人様のようだ。本来の関係なら、主人はおそらく鬼束の方だろうに。
鬼束は抵抗するのをやめ、金色の前髪をかき上げる。
「俺は休んでたんじゃなくて、停学になってたんだよ」
「停学……そうだったのですか」
どうして停学になったのだろうと思ったけれど、それを聞く空気ではない気がした。
「あの、もし学校のことでお困りでしたらお手伝いしますので!」
「そら、どうも」
それから桜花は、先ほどきちんと聞けなかったことを問いかけた。
「ところでさっきいただいたアップルパイ、鬼束君が作ったんですか⁉」
瞬間、鬼束の表情がぐにゃりと歪む。
実は、本人は恥ずかしがっているのだが、傍から見ると相手を脅しているようだ。
鬼束は桜花に向かって怒鳴りつけた。
「ああ⁉ だったらなんだっつーんだ⁉ 笑いたきゃ笑えよ!」
月影がトレイをバシッと掌に打ちつけて、威嚇した。
鬼束は小さく舌打ちをして、さっきよりトーンを落とし、いじけたように言う。
「どうせお前も似合わないと思ってるんだろ? こんな目つきが悪くて人相も悪くて、ヤンキーと間違えられるような俺がケーキ作りに勤しんでるなんて、ちゃんちゃらおかしいって言えばいいだろ!」
それを聞いた桜花は、パッと表情を明るくする。
「そんな、笑うなんてめっそうもないです! では、やっぱりあのアップルパイ、鬼束君が作ったのですね?」
「ああ、そうだよ。まだ試作だけど……」
「鬼束君、素敵です!」
桜花がキラキラと瞳を輝かせてそう言うと、鬼束の顔がかっと赤くなる。
「なっ、何をバカなことを……!」
「だって、こんなに優しくて綺麗でおいしいアップルパイが作れるなんて、天才ですっ!」
「て、天才?」
「はい、今まで食べたアップルパイの中で、一番おいしかったです!」
後ろに立っている月影は、なぜか笑いを堪えていた。
鬼束はどう答えればいいか分からず、言葉を失ってあたふたしていた。
桜花はふと外に目をやり、雨が降りやんでいることに気づいた。
「雨、やんだみたいですね」
「ん? ああ、確かに」
桜花はソファから立ち上がり、二人に向かって深くお辞儀をする。
「月影さん、鬼束君、今日は本当にありがとうございました。お二人に助けていただかなければ、今頃行き倒れていたかもしれません。月影さんと鬼束君は、命の恩人です」
月影は優しく桜花に微笑みかける。
「いえいえ、そんなにお気を遣わずに。もし何か事情がおありなら、もう少しここで休まれた方が」
月影の誘いは、とてもありがたい。
しかし、いつまでもここにいられない以上、これからのことを考えないといけない。
桜花は押し寄せてくる不安を塞ぐようにぎゅっと手を握りしめ、首を横に振る。
「これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません。本当に、ありがとうございました。あの、いただいたアップルパイと、紅茶のお代なんですが……」
月影は微笑みながら言う。
「お代はけっこうです。私が勝手にしたことですので」
「そういうわけにはいきません!」
「いえいえ」
月影は笑顔だが、その意思は固そうだった。何度か同じやり取りが続いた後、結局桜花が根負けした。
「本当にお言葉に甘えてしまって、よいのでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
桜花は再び深々と頭を下げる。
「ありがとうございます」
月影は店の扉を開きつつ話す。
「それより桜花さん、途中までお送りしますよ」
「いえ、まだ夕方なので明るいですから」
桜花は最後にもう一度、二人に向かって深くお辞儀をした。
「ありがとうございました。それでは鬼束君、また大学で」
桜花は何度も何度もお辞儀をしながら、やがて駅に向かって歩いていった。
歩道の近くに桜の木があるのに気づき、桜花は足を止めた。
春はとても好きな季節だ。
何しろ桜花という名前だから、桜の花にはやっぱり思い入れがある。
だが入学式のときは満開だった桜も、今はすっかり新緑で覆われていた。
今にも泣き出しそうな空模様を見上げて思う。
(鬼束君が作ったアップルパイと月影さんの紅茶は、本当に素敵でした)
まるで、どんな悩みも消してしまうくらいに。
けれど残念ながら、事態はよくなるどころか、悪化してしまった。
桜花はぽつりと呟いた。
「これから、どうしましょう」
――その瞬間。
後ろから、誰かに背中を押された気がする。
「えっ……」
バランスを崩し、よろけてその場に倒れる。
心臓がバクバクと鳴った。
(また、です)
そこにいないはずの誰かに背中を押されるのは、これが初めてのことではない。
驚いて振り返ろうとするが、それより先に、道路からけたたましい急ブレーキの音が耳に飛び込んできた。
□
泡立て器を手際よく回し、熱心にクリームの角をたてながら、鬼束は悩んでいた。
表情だけ切り取れば完全に極悪人のそれだが、決して凶悪な計画を企てているわけではない。
新作のケーキのメニューはどうしようかと、考えていたのだ。
やはり他の店にはない、この店を象徴するようなケーキが欲しい。もう何ヶ月も考え続けているが、ピンとくるアイデアは思い浮かばなかった。
鬼束は手を休めずに、真剣に泡立て器をかき回し続ける。
ケーキを作るコツは、気持ちを入れることだ。
『料理は科学だから、分量さえきちんと計って正しいレシピを知れば、誰でも同じ味を再現できる』と語る料理人もいるが、鬼束はそうは思っていない。
今も、俺に逆らうやつは全員皆殺しだ、などと言い出しそうな表情をしていても、実際は生クリームに愛情を込めているのだ。
影のようにひっそりと後ろに立っていた月影が、鬼束に声をかける。
「坊ちゃま、桜花さんはどのような方なのですか?」
ケーキ作りに没頭していた鬼束は、突然現実に引き戻されて機嫌が悪そうに言う。
「んあ? 知らねーよ。さっきも言っただろ。俺は同級生の顔なんてちっとも覚えてないんだ」
それを聞いた月影は、わざとらしく泣き真似をする。
「月影は悲しいです。坊ちゃまにはご学友を作り、楽しい学生生活を営んでいただければと考えていましたのに。結局、入学してから数日でヤンキー扱いされて周囲から浮き、果ては暴力沙汰で停学になってしまうなど」
「うっせ! 俺のことはほっとけ! あと坊ちゃまはやめろ!」
さらに鬼束は、ぼそりと呟いた。
「俺は、間違えたことをしたとは思ってないからな」
月影と鬼束は、鬼束が幼い頃からの付き合いだ。
大抵の相手なら鬼束がすごめば黙ってしまうのに、月影はどれだけ睨もうとその口撃をやめないから質が悪い。
どうせ口では敵わないことは重々承知なので、もう逆らわないことに決めていた。
「坊ちゃま、今からでも髪の毛を黒く染めるつもりはないのですか?」
鬼束はその問いをあっさりとはね除ける。
「入学するときに言っただろ。大学では別に禁止されてるわけでもないし、地毛なんだから。他にも派手な髪色のやつはいるし、どうして周囲に気を遣って黒染めしなきゃないんだ、アホらしい」
そう言って、また泡立て器をガシャガシャと回す。
月影はその答えが分かっていたといった様子で、困ったように微笑んだ。
「坊ちゃまに覚悟があるのなら、私が今さら何か言うまでもなかったですね。それはともかく、桜花さんのことで少し気になることが」
鬼束は不機嫌そうな表情で手を止める。
「なんだよ」
月影は指先で、自分の腕をとんとんと叩く。
「気づきましたか? 彼女、手や足にひっかき傷のようなものがたくさんありました」
それを聞いた鬼束は、眉を寄せた。
「……は? どういう意味だ」
鬼束は考える。そんなもの、あっただろうか?
少なくとも、自分は気づかなかった。
長袖の洋服を着ていたのだから、よっぽど注意しなければ分からなかった。そもそも女性の身体を凝視するなど、失礼だし。
「その傷、何が原因だ? もしかして、親か?」
鬼束の瞳に怒りの色が灯る。
大学一年なので子供という年でもないが、ケガをしていると聞いて一番に思いつくのは家族からの虐待だった。もしくは恋人からの暴力か。
しかし月影は小さく首を横に振り、何を考えているのか読めない表情で、言葉を続ける。
「いえ。さっきはほとんど気配がしませんでしたが、おそらくあれは……」
彼の言いたいことを察し、鬼束はたてがみのような金色の髪の毛をかきながら、深い溜め息をついた。
「まじかよ、面倒だな」
月影は深刻な表情で口元に手を当てる。
「坊ちゃま、もしよろしければ彼女に何があったのか、少し調べてもよろしいでしょうか?」
その言葉に、鬼束はぷいとそっぽを向く。
「勝手にしろ。俺には関係ねーよ」
そう言って、再びケーキ作りを再開する。
長い付き合いの鬼束には分かる。
月影は言葉や態度は丁寧だが、やると言ったことは絶対にやる。
そして自分の主人――つまり鬼束だが――に危害を加える者や敵と見なした相手には容赦しないし、蛇のようにしつこい。
詳しいことは知らないが、大学で起こした事件の相手が何も言わないどころか、鬼束を見ると逃げるように去っていくのは、裏で月影が手を回したのではないかと勘ぐっている。怖いから、詳細は確認していないが。
絶対敵に回したくない男だ。
鬼束がケーキの試作品を完成させるまでの数十分で、月影はどこかに電話していたかと思うと、あっという間に“綾辻桜花”がどういう人間なのかを調べ尽くしてしまった。
「分かりましたよ、坊ちゃま」
「はえーよ」
「桜花さんですが――」
そして、桜花の事情を聞いた鬼束は、絶句した。
「なんだよ、その話……」
月影は彼女を労るように呟いた。
「桜花さん、たった一人で苦労されているんですね」
桜花の身の上話を聞いた鬼束は、眉の間により深い皺を刻んだ。
今日という今日は許さない、東京に血の雨を降らせてやる、などと考えているわけではない。涙を堪えているのだ。
何しろこの男、顔は怖いが割と涙もろい。特に家族の絆とか、動物ものとか、そういう話にめっぽう弱かった。
「坊ちゃま、桜花さんの件ですが」
そう問いかけられた鬼束は、二つ返事で頷いた。
「いいんじゃないか? お前の好きにしろよ、月影。どうせ止めても聞かねーだろ」
月影はやわらかく微笑み、小さく頷いた。
「かしこまりました」
□
「桜花、熱は下がったの?」
「はい、微熱でしたので大丈夫です! ご心配をおかけしました、京子ちゃん」
翌日、桜花は大学の講義室で、親友の京子から質問責めにあっていた。
「また無理してバイトしてるんじゃないでしょうね?」
京子は少しツリ気味の目で、じっと桜花を見つめる。
二人は幼稚園のときからの付き合いで、気のおけない仲だ。
桜花は昔から新しい友だち、新しい環境というのに馴染むのが苦手な性格だった。
幼稚園に入ったばかりの頃も、緊張のあまり園の先生にはもちろん、同じ年の園児たちにも敬語を使っていた。
両親に「桜花が丁寧な言葉遣いで話して、嫌な気持ちになる人はいない」と教わったからだ。
さらに、その頃出会った京子に敬語で話すのを「かわいい」と言われたのが嬉しくて、誰に対しても敬語で話すのがすっかり癖になってしまった。
中学と高校は別の学校だったが、同じ大学の学部学科を受験し、二人とも合格したと知ったときは、抱き合って喜んだ。そして、桜花は京子がいてくれることに心から安堵した。
京子は言いたいことをなんでもすぱっと言ってくれる気持ちのいい性格の女の子で、桜花は彼女のそういうところにいつも救われていた。
「桜花はいつも自分のことは二の次で無理するから、心配なのよ!」
「えへへ、大丈夫ですよ?」
「それならいいけど……」
京子は桜花の顔を、近くからしげしげと見つめる。
「……ねえ桜花、何かあたしに隠してるでしょ?」
「ほっ、本当に、なんでもないんです!」
京子は疑わしそうに口を尖らせる。
「本当かなぁー」
チクチクと痛む良心を抱えながら、桜花は心の中でごめんなさいと謝った。
桜花の現在の生活は、とても『大丈夫』と言えるような状況ではなかった。
しかし、京子にそれを話せば、きっとものすごく心配をかけてしまうし、協力できることはすべてしてくれるだろう。それは申し訳ない。
桜花が苦笑いしているのを見て、京子は目をじっとりと細め、すねたように言う。
「まあ桜花が言いたくないなら、無理に聞かないけど。で、その足の包帯はなんなの?」
彼女は桜花の左足にぐるぐると巻かれている包帯を指さした。
「これは昨日の帰り道、ちょっと転んでしまいまして」
「また? 包帯を巻くくらいなんだから、けっこうなケガなんじゃないの?」
「実は、転んだときに車に轢かれそうになってしまったのです」
「ええ⁉ 平気だったの⁉ っていうかそれ、車が悪いんじゃなくて⁉ 警察呼んだ⁉」
桜花はふるふると首を横に振った。
「いえ、運転手の方に『大丈夫?』って聞かれて、『はい』と答えたら走っていってしまいました」
「はああ⁉ 轢き逃げじゃない!」
「でも私がぼーっとしていたのが悪いので」
京子は怒ったように手を上下させる。
「そうなのか……」
鬼束は動揺したように顔を歪める。
(私、存在感が薄いので、やっぱり覚えていないですよね)
桜花はそう考えながら、曖昧に微笑んだ。
「さっきいただいたアップルパイも、もしかして……」
鬼束に話しかけようとするが、彼は脱兎のごとく厨房へ逃げようとする。
そんな彼の首根っこを、すかさず月影がつかまえた。
「坊ちゃま、どこに行くんですか?」
月影はにこにこしつつ、それでもしっかりと鬼束の襟首を掴んで離さない。
鬼束は首が絞まり、苦しそうに、ぐえと声をあげた。
桜花はさっき倒れそうになった身体を支えてもらったときも思ったが、月影は細身なのに、意外と腕力があるのかもしれない。
彼は明るい声で桜花に話しかける。
「まさか桜花さんが、坊ちゃまと同じ大学のお嬢さんだったとは。世間は狭いですね。こんな偶然があるなんて。むしろここまで来ると、運命かもしれませんよ」
鬼束は冷静にその言葉にツッコむ。
「いや、目ざといお前のことだから、どうせ最初から知ってただろ。だいたいここら辺歩いてる大学生は、ほとんどみんな白橋大学の学生じゃねーか」
なるほど、だから月影はこんなに親切にしてくれたのか。
月影はその言葉を笑顔で聞き流した。
桜花は鬼束に問いかける。
「そういえば鬼束君、ここ最近は、大学で姿をお見かけしませんでしたけれど……。具合が悪かったのですか?」
“事件”を知らない桜花がそう問いかけると、鬼束は「はあ?」と顔を歪める。
そして桜花のすぐ前に歩み寄り、威圧するように言う。
「お前、それ嫌味のつもりか?」
至近距離に詰め寄られ、桜花は焦りながら言葉を返す。
「えっ、いえ、決してそういうわけでは」
こうやって近くで見ると、鬼束はますます背が高くて、顔が怖くて迫力がある。けれど、そんな彼からリンゴの香りがするのが、少しアンバランスで不思議だった。
「なら本気で言ってんのか? あれだけ噂になったのに何も知らないなんて、ずいぶんぼんやりしたやつだな」
何かいけないことを聞いてしまったのだろうか。
桜花が困惑していると、月影が手に持っていたトレイでパァン! と鬼束の頭を叩いた。
「お、鬼束君!」
ものすごくいい音がした。
「てめえ月影、何しやがんだ!」
鬼束は牙を剥いて威勢よく吠える。
「坊ちゃま、女性に対する言葉遣いがなっていませんよ。もう少し優しく接してください。よろしいですね?」
月影は、あくまで穏やかな笑顔のままだ。
それが逆に、余計にすごみというか、迫力を増している感じさえする。
鬼束は威勢はいいが、どうやら月影に逆らえないらしい。まるで飼い犬とご主人様のようだ。本来の関係なら、主人はおそらく鬼束の方だろうに。
鬼束は抵抗するのをやめ、金色の前髪をかき上げる。
「俺は休んでたんじゃなくて、停学になってたんだよ」
「停学……そうだったのですか」
どうして停学になったのだろうと思ったけれど、それを聞く空気ではない気がした。
「あの、もし学校のことでお困りでしたらお手伝いしますので!」
「そら、どうも」
それから桜花は、先ほどきちんと聞けなかったことを問いかけた。
「ところでさっきいただいたアップルパイ、鬼束君が作ったんですか⁉」
瞬間、鬼束の表情がぐにゃりと歪む。
実は、本人は恥ずかしがっているのだが、傍から見ると相手を脅しているようだ。
鬼束は桜花に向かって怒鳴りつけた。
「ああ⁉ だったらなんだっつーんだ⁉ 笑いたきゃ笑えよ!」
月影がトレイをバシッと掌に打ちつけて、威嚇した。
鬼束は小さく舌打ちをして、さっきよりトーンを落とし、いじけたように言う。
「どうせお前も似合わないと思ってるんだろ? こんな目つきが悪くて人相も悪くて、ヤンキーと間違えられるような俺がケーキ作りに勤しんでるなんて、ちゃんちゃらおかしいって言えばいいだろ!」
それを聞いた桜花は、パッと表情を明るくする。
「そんな、笑うなんてめっそうもないです! では、やっぱりあのアップルパイ、鬼束君が作ったのですね?」
「ああ、そうだよ。まだ試作だけど……」
「鬼束君、素敵です!」
桜花がキラキラと瞳を輝かせてそう言うと、鬼束の顔がかっと赤くなる。
「なっ、何をバカなことを……!」
「だって、こんなに優しくて綺麗でおいしいアップルパイが作れるなんて、天才ですっ!」
「て、天才?」
「はい、今まで食べたアップルパイの中で、一番おいしかったです!」
後ろに立っている月影は、なぜか笑いを堪えていた。
鬼束はどう答えればいいか分からず、言葉を失ってあたふたしていた。
桜花はふと外に目をやり、雨が降りやんでいることに気づいた。
「雨、やんだみたいですね」
「ん? ああ、確かに」
桜花はソファから立ち上がり、二人に向かって深くお辞儀をする。
「月影さん、鬼束君、今日は本当にありがとうございました。お二人に助けていただかなければ、今頃行き倒れていたかもしれません。月影さんと鬼束君は、命の恩人です」
月影は優しく桜花に微笑みかける。
「いえいえ、そんなにお気を遣わずに。もし何か事情がおありなら、もう少しここで休まれた方が」
月影の誘いは、とてもありがたい。
しかし、いつまでもここにいられない以上、これからのことを考えないといけない。
桜花は押し寄せてくる不安を塞ぐようにぎゅっと手を握りしめ、首を横に振る。
「これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません。本当に、ありがとうございました。あの、いただいたアップルパイと、紅茶のお代なんですが……」
月影は微笑みながら言う。
「お代はけっこうです。私が勝手にしたことですので」
「そういうわけにはいきません!」
「いえいえ」
月影は笑顔だが、その意思は固そうだった。何度か同じやり取りが続いた後、結局桜花が根負けした。
「本当にお言葉に甘えてしまって、よいのでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
桜花は再び深々と頭を下げる。
「ありがとうございます」
月影は店の扉を開きつつ話す。
「それより桜花さん、途中までお送りしますよ」
「いえ、まだ夕方なので明るいですから」
桜花は最後にもう一度、二人に向かって深くお辞儀をした。
「ありがとうございました。それでは鬼束君、また大学で」
桜花は何度も何度もお辞儀をしながら、やがて駅に向かって歩いていった。
歩道の近くに桜の木があるのに気づき、桜花は足を止めた。
春はとても好きな季節だ。
何しろ桜花という名前だから、桜の花にはやっぱり思い入れがある。
だが入学式のときは満開だった桜も、今はすっかり新緑で覆われていた。
今にも泣き出しそうな空模様を見上げて思う。
(鬼束君が作ったアップルパイと月影さんの紅茶は、本当に素敵でした)
まるで、どんな悩みも消してしまうくらいに。
けれど残念ながら、事態はよくなるどころか、悪化してしまった。
桜花はぽつりと呟いた。
「これから、どうしましょう」
――その瞬間。
後ろから、誰かに背中を押された気がする。
「えっ……」
バランスを崩し、よろけてその場に倒れる。
心臓がバクバクと鳴った。
(また、です)
そこにいないはずの誰かに背中を押されるのは、これが初めてのことではない。
驚いて振り返ろうとするが、それより先に、道路からけたたましい急ブレーキの音が耳に飛び込んできた。
□
泡立て器を手際よく回し、熱心にクリームの角をたてながら、鬼束は悩んでいた。
表情だけ切り取れば完全に極悪人のそれだが、決して凶悪な計画を企てているわけではない。
新作のケーキのメニューはどうしようかと、考えていたのだ。
やはり他の店にはない、この店を象徴するようなケーキが欲しい。もう何ヶ月も考え続けているが、ピンとくるアイデアは思い浮かばなかった。
鬼束は手を休めずに、真剣に泡立て器をかき回し続ける。
ケーキを作るコツは、気持ちを入れることだ。
『料理は科学だから、分量さえきちんと計って正しいレシピを知れば、誰でも同じ味を再現できる』と語る料理人もいるが、鬼束はそうは思っていない。
今も、俺に逆らうやつは全員皆殺しだ、などと言い出しそうな表情をしていても、実際は生クリームに愛情を込めているのだ。
影のようにひっそりと後ろに立っていた月影が、鬼束に声をかける。
「坊ちゃま、桜花さんはどのような方なのですか?」
ケーキ作りに没頭していた鬼束は、突然現実に引き戻されて機嫌が悪そうに言う。
「んあ? 知らねーよ。さっきも言っただろ。俺は同級生の顔なんてちっとも覚えてないんだ」
それを聞いた月影は、わざとらしく泣き真似をする。
「月影は悲しいです。坊ちゃまにはご学友を作り、楽しい学生生活を営んでいただければと考えていましたのに。結局、入学してから数日でヤンキー扱いされて周囲から浮き、果ては暴力沙汰で停学になってしまうなど」
「うっせ! 俺のことはほっとけ! あと坊ちゃまはやめろ!」
さらに鬼束は、ぼそりと呟いた。
「俺は、間違えたことをしたとは思ってないからな」
月影と鬼束は、鬼束が幼い頃からの付き合いだ。
大抵の相手なら鬼束がすごめば黙ってしまうのに、月影はどれだけ睨もうとその口撃をやめないから質が悪い。
どうせ口では敵わないことは重々承知なので、もう逆らわないことに決めていた。
「坊ちゃま、今からでも髪の毛を黒く染めるつもりはないのですか?」
鬼束はその問いをあっさりとはね除ける。
「入学するときに言っただろ。大学では別に禁止されてるわけでもないし、地毛なんだから。他にも派手な髪色のやつはいるし、どうして周囲に気を遣って黒染めしなきゃないんだ、アホらしい」
そう言って、また泡立て器をガシャガシャと回す。
月影はその答えが分かっていたといった様子で、困ったように微笑んだ。
「坊ちゃまに覚悟があるのなら、私が今さら何か言うまでもなかったですね。それはともかく、桜花さんのことで少し気になることが」
鬼束は不機嫌そうな表情で手を止める。
「なんだよ」
月影は指先で、自分の腕をとんとんと叩く。
「気づきましたか? 彼女、手や足にひっかき傷のようなものがたくさんありました」
それを聞いた鬼束は、眉を寄せた。
「……は? どういう意味だ」
鬼束は考える。そんなもの、あっただろうか?
少なくとも、自分は気づかなかった。
長袖の洋服を着ていたのだから、よっぽど注意しなければ分からなかった。そもそも女性の身体を凝視するなど、失礼だし。
「その傷、何が原因だ? もしかして、親か?」
鬼束の瞳に怒りの色が灯る。
大学一年なので子供という年でもないが、ケガをしていると聞いて一番に思いつくのは家族からの虐待だった。もしくは恋人からの暴力か。
しかし月影は小さく首を横に振り、何を考えているのか読めない表情で、言葉を続ける。
「いえ。さっきはほとんど気配がしませんでしたが、おそらくあれは……」
彼の言いたいことを察し、鬼束はたてがみのような金色の髪の毛をかきながら、深い溜め息をついた。
「まじかよ、面倒だな」
月影は深刻な表情で口元に手を当てる。
「坊ちゃま、もしよろしければ彼女に何があったのか、少し調べてもよろしいでしょうか?」
その言葉に、鬼束はぷいとそっぽを向く。
「勝手にしろ。俺には関係ねーよ」
そう言って、再びケーキ作りを再開する。
長い付き合いの鬼束には分かる。
月影は言葉や態度は丁寧だが、やると言ったことは絶対にやる。
そして自分の主人――つまり鬼束だが――に危害を加える者や敵と見なした相手には容赦しないし、蛇のようにしつこい。
詳しいことは知らないが、大学で起こした事件の相手が何も言わないどころか、鬼束を見ると逃げるように去っていくのは、裏で月影が手を回したのではないかと勘ぐっている。怖いから、詳細は確認していないが。
絶対敵に回したくない男だ。
鬼束がケーキの試作品を完成させるまでの数十分で、月影はどこかに電話していたかと思うと、あっという間に“綾辻桜花”がどういう人間なのかを調べ尽くしてしまった。
「分かりましたよ、坊ちゃま」
「はえーよ」
「桜花さんですが――」
そして、桜花の事情を聞いた鬼束は、絶句した。
「なんだよ、その話……」
月影は彼女を労るように呟いた。
「桜花さん、たった一人で苦労されているんですね」
桜花の身の上話を聞いた鬼束は、眉の間により深い皺を刻んだ。
今日という今日は許さない、東京に血の雨を降らせてやる、などと考えているわけではない。涙を堪えているのだ。
何しろこの男、顔は怖いが割と涙もろい。特に家族の絆とか、動物ものとか、そういう話にめっぽう弱かった。
「坊ちゃま、桜花さんの件ですが」
そう問いかけられた鬼束は、二つ返事で頷いた。
「いいんじゃないか? お前の好きにしろよ、月影。どうせ止めても聞かねーだろ」
月影はやわらかく微笑み、小さく頷いた。
「かしこまりました」
□
「桜花、熱は下がったの?」
「はい、微熱でしたので大丈夫です! ご心配をおかけしました、京子ちゃん」
翌日、桜花は大学の講義室で、親友の京子から質問責めにあっていた。
「また無理してバイトしてるんじゃないでしょうね?」
京子は少しツリ気味の目で、じっと桜花を見つめる。
二人は幼稚園のときからの付き合いで、気のおけない仲だ。
桜花は昔から新しい友だち、新しい環境というのに馴染むのが苦手な性格だった。
幼稚園に入ったばかりの頃も、緊張のあまり園の先生にはもちろん、同じ年の園児たちにも敬語を使っていた。
両親に「桜花が丁寧な言葉遣いで話して、嫌な気持ちになる人はいない」と教わったからだ。
さらに、その頃出会った京子に敬語で話すのを「かわいい」と言われたのが嬉しくて、誰に対しても敬語で話すのがすっかり癖になってしまった。
中学と高校は別の学校だったが、同じ大学の学部学科を受験し、二人とも合格したと知ったときは、抱き合って喜んだ。そして、桜花は京子がいてくれることに心から安堵した。
京子は言いたいことをなんでもすぱっと言ってくれる気持ちのいい性格の女の子で、桜花は彼女のそういうところにいつも救われていた。
「桜花はいつも自分のことは二の次で無理するから、心配なのよ!」
「えへへ、大丈夫ですよ?」
「それならいいけど……」
京子は桜花の顔を、近くからしげしげと見つめる。
「……ねえ桜花、何かあたしに隠してるでしょ?」
「ほっ、本当に、なんでもないんです!」
京子は疑わしそうに口を尖らせる。
「本当かなぁー」
チクチクと痛む良心を抱えながら、桜花は心の中でごめんなさいと謝った。
桜花の現在の生活は、とても『大丈夫』と言えるような状況ではなかった。
しかし、京子にそれを話せば、きっとものすごく心配をかけてしまうし、協力できることはすべてしてくれるだろう。それは申し訳ない。
桜花が苦笑いしているのを見て、京子は目をじっとりと細め、すねたように言う。
「まあ桜花が言いたくないなら、無理に聞かないけど。で、その足の包帯はなんなの?」
彼女は桜花の左足にぐるぐると巻かれている包帯を指さした。
「これは昨日の帰り道、ちょっと転んでしまいまして」
「また? 包帯を巻くくらいなんだから、けっこうなケガなんじゃないの?」
「実は、転んだときに車に轢かれそうになってしまったのです」
「ええ⁉ 平気だったの⁉ っていうかそれ、車が悪いんじゃなくて⁉ 警察呼んだ⁉」
桜花はふるふると首を横に振った。
「いえ、運転手の方に『大丈夫?』って聞かれて、『はい』と答えたら走っていってしまいました」
「はああ⁉ 轢き逃げじゃない!」
「でも私がぼーっとしていたのが悪いので」
京子は怒ったように手を上下させる。
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