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第9話

「あの日の川越線_エピローグ」

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 奈美さんの人生に多大な影響を与えたのは俺だった。
 形にとらわれないアグレッシブな作品の根底は、俺が父親に反発するように滅茶苦茶に撮りまくった駄作の一枚だったのだ。
 「あなたが入社してきた時はびっくりしたわ。そりゃぁどこかで再会できることを期待してこの仕事を続けてきたんだけど…」
 「え? その時に気付いていたんですか?」
 そんな素振りは微塵も感じなかった。…と、思う。
 「あ~、ただねぇ。カメラやってないようなこと言ってたから、確証を持てなかったの」
 「俺、高校で文芸部に入ってたので、旅行に行ってもスナップ程度にしか撮ってなかったんです」
 「スナップ? 文芸部? 旅行記でも書いてたの?」
 「鉄道がらみの史跡巡りです」
 写真撮影から始まった俺の鉄道趣味は、やがて鉄道の歴史に興味が移っていった。
 鉄道の遺構や廃線跡巡り、静態保存されていた車両の現役時代の功績など、鉄道という文化の発展を調べ始めたらこれが結構面白かったのだ。
 「初めは個人的な資料としてまとめていたんですが、文芸部の部長にスカウトされて、本格的に文芸の道に入りました」
 「…ハァ~、それでかぁ~。あなたの文章って論文っていうか、書籍っぽいのは…」
 「書籍っぽい? どういう意味ですか? それ?」
 「早い話が、文章が硬い!」
 <グサッ!!>
 「ううっ~、言われると思いました」
 「それに主観的!」
 「はい? 主観的って?」
 「単行本みたいな文章なのよ。具体的には、著者の視点でまとめた情報を読者に理解してもらう以上は、著者がどういう風に感じたのかを伝える必要があるでしょ?」
 「はあ」
 「雑誌の記事だと“解説”と“通知”が必要だから、得られた情報を的確にまとめて伝えることと、印象をわかりやすく説明することが必要なの」
 「そうですね…」
 え~と、同じことじゃないの?
 と、考えてたら<パコン!>とハリセンで叩かれた。
 「え? 何も言ってないですよぉ~」
 「顔に書いてありました。“それって同じことでしょ”って(笑)」
 「でも、何かにたとえて解説することも多々ありますよね?」
 「例えば?」
 「今回のEV-E103系は烏山線のEV-E301系とは全く違ったイメージで、どちらかといえばJR西日本の103系体質改善車の雰囲気に似てる…とか。です」
 奈美さんは白い目になってしまった。これはあきれられていると思われる。
 「どういうところが似てるの? それをどう説明するの?」
 「オリジナルの103系の車体に比べてのっぺりしてるところとか…ライト周りの処理だとか…です」
 「似てた? 本当に? 私には塗色は違うけど男鹿線で活躍中のEV-E801系の方が近いと思うんだけど。まあ裾絞りとか前面の非常扉の有無とか各部品の配置は違うけどね」
 デザインやドアの数は違っても、車体の仕上げ方とか色艶が近いからかもしれない。
 そうなるとただ単に窓配置が…とか、前面の処理が同じとかで似てると言うのも、人によっては印象が違うのかもしれない。
 「だから図面や写真だけでなく、雰囲気も大事なのよ」
 「あ~そういう言い方されるとよく解ります。最近では東海道新幹線のN700A形とN700S形ってほとんど同じ塗り分けだけど、実車を見ると全く違って見えるんですよね。同じように見せてるのに違ってたり、違うのに同じように見えるって、見る人によりけりなんですね」
 「…そのたとえ方が既にわかりにくい…んだけど、ね」
 奈美さんは困った顔で言う。
 「ところで…さ。デジタルはやらないの?」
 目を大きく開けて、いかにも不思議そうに俺の顔を覗き込む奈美さん。
 あ~こんな顔されたら、すぐにでも始めたくなっちゃうじゃないですかぁ~~。
 「いえ、今から機材揃えるのも大変ですし、ちょっとしたスナップならスマホの方が画質が良かったりするんですよね。それに…」
 「それに?」
 「奈美さんの仕事取っちゃうかも…ですから」
 「あ~、大きく出たわねぇ。師匠さん(笑)」
 「え? 冗談ですってばぁ~、いじめないでください」
 奈美さんは本当に嬉しそうな笑顔で笑った。

 奈美さんとは今後どういう付き合い方をしたらいいのか? まだ全く予想できない。
 でも、できることなら今はまだ、恋愛関係よりも二人で色々な鉄道を旅したいと思う。
 それは奈美さんも同じようだ。一緒にいることを大切にしていきたい。
    <完>
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