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第3話
「東急20070系?」
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半年前『日比谷線20m車7両編成化』のための車輛置換えが始まった。
東武も東京メトロも既存の18m車8両編成を20m車7両編成に置換えるのだが、編成長だけを単純に比べれば4m短くなる。けれど連結面が7から6に減るため、編成定員はさほど減らない…。
「で、何が言いたいのかな?」
奈美さんが焦れた様に冷たい視線を向けた。
「前置きが長いのよ~。そのクセ直さないといつまでたってもまともに読んでもらえないわよ」
「すみません。興奮するとつい…」
「はいはい。もう良いから先続けてよ」
タブレットに使うペンをクルクル廻しながら、催促する」
「えーと、東急の車輛管理部の友人から聞いたんですが…『電車が無い。新車を作れるキャパシティのある会社がない。しかし、すぐに電車が必要だ。』って会議でもめて…」
事の発端は、池上線で駅直前の踏切に於いて、遮断機の降りた踏切を強引に渡ろうとする歩行者が増えたことによる。
池上線は上下線で別々の改札口が設置されている駅が多い(と言っても7駅だが)。
駆け込み乗車するために無理矢理渡るので、緊急停車する事案が頻発した(中には触車事故も起きていた)。
跨線橋はホームの幅が狭いため設置出来ず、踏切に警備員を配置してはいたが、それでも強引に横断してしまう。
そして、それが原因で急停車した車内において、スマホでゲームをしていたOLが転倒して(つり革や手すりに掴まっていないので転ぶのは当たり前だが…)、首の骨を折って死亡するという事故が発生した。同時に運転室/車掌室の前のドア付近に乗車していた数人の乗客が将棋倒しになり怪我を負っている。
死亡したOLの場合は不運な事故として処理されたが、将棋倒しになった方は簡単に処理されなかった。
「ああ、あの事故ね。覚えてるわ」
「俺も電車に乗るときは必ず手すりに掴まってますけど、確かにゲームしながら他人に寄っかかってるヤツが結構いますよね」
「ま、その人にとっては怪我するより、ゲームの方が大事なんじゃない?」
珍しく奈美さんが嫌味をいってるよぉ~。やっぱり今日は機嫌悪そうだなぁ。
「で、ここからが問題なんですよ」
事故にあった車輛は東急7700系3両編成。
この車輛は登場時には非冷房だったため、後年屋根にクーラーユニットを“無理矢理”乗せた(笑)。
そして、不運にも運転席直後のドア部分にはつり革どころか、天井からの手すりすら付けられなかった。
今回の将棋倒しはこの手すりがなかったことが一因とされ、省令によりドア付近には手すりつり革を規定数以上取り付けることとなった。
「そういうことね。大体わかったわ。で?」
「東急の車輛管理部では、最優先で田園都市線の6扉車を4扉車に置換えている。元東急車輛(現在の総合車輛製作所)では、山手線用E235系の新造が急ピッチで行われているので、今から発注しても年間1編成しか製造出来ない。ってことです」
「そう…、他の事業者も発注してるから余裕はないわよね」
「東急テクノシステムがありますが、そこも目一杯。しかも7700系に手すりを付けるのはほぼ不可能と判りました」
「どうして?」
「クーラーユニット乗せた時に屋根材の骨格を変更していたので、手すりを取り付ける強度がないそうです」
「……は? それって…クーラー落ちてきても不思議じゃない…ってこと?」
「…、!…あ、お答えできません。あしからず…」
「…こわ…」
しかし、東急池上/多摩川線用18m車を早急に5編成も確保しなくてはならなくなった。
喧々囂々の激論の末、車輛管理部は究極の策を考えついた。
「…そういうこと…」
「です。東京メトロはアルミ車の03系。でも東武20000系は東急車輛とアルナ工機で作られたステンレス製車体。20070系はVVVF制御なので、保安装置とTASCを取り付ければ1000系と同じ日比谷線を走っていたので、車体には特に加工が必要ありません」
「でもマスコンは2ハンドルだから、運転台機器は交換が必要よね?」
「そのくらいなら東急テクノシステムで対応できるそうです。要は新車の製造が無理というだけで…」
東急車輛製なので、図面や交換部品のストックもあるから総合車輛製作所から調達できるのだ。実際、東武6050系を634型(スカイツリートレイン)への改造は、総合車輛製作所で行われている。
「とりあえず20070系なら短時間で改造ができるので、まず譲渡を受けて7700系を置換え、残りは20000系を改造する。そっちは東急1000系1500番代と同じ手法で7000系の足回りと同等品にするそうです」
「へえ、じゃあ東武20070系は1500番代と同じ線路を再び走ることになるわけね」
「東急1000系1030番代として、東武20000系は1050番代になるそうです」
「ややこしいわね。東急ももう5桁以上使えるようにしてほしいわね(東急では車輛管理システムや運行システムの制約により、車輛番号は4桁しか使えません)」
「最初の譲渡が来月で、改造に2ヶ月かかるので雪が谷に来るのは3ヶ月後ですね」
「今度はどんなラッピングになるのか楽しみね。池上/多摩川線ならやっぱり“緑”がメインでしょうね」
奈美さんは“東武”が絡んだおかげで、機嫌が良くなってくれました。
よかったよかった…?
<第3話 終わり>
東武も東京メトロも既存の18m車8両編成を20m車7両編成に置換えるのだが、編成長だけを単純に比べれば4m短くなる。けれど連結面が7から6に減るため、編成定員はさほど減らない…。
「で、何が言いたいのかな?」
奈美さんが焦れた様に冷たい視線を向けた。
「前置きが長いのよ~。そのクセ直さないといつまでたってもまともに読んでもらえないわよ」
「すみません。興奮するとつい…」
「はいはい。もう良いから先続けてよ」
タブレットに使うペンをクルクル廻しながら、催促する」
「えーと、東急の車輛管理部の友人から聞いたんですが…『電車が無い。新車を作れるキャパシティのある会社がない。しかし、すぐに電車が必要だ。』って会議でもめて…」
事の発端は、池上線で駅直前の踏切に於いて、遮断機の降りた踏切を強引に渡ろうとする歩行者が増えたことによる。
池上線は上下線で別々の改札口が設置されている駅が多い(と言っても7駅だが)。
駆け込み乗車するために無理矢理渡るので、緊急停車する事案が頻発した(中には触車事故も起きていた)。
跨線橋はホームの幅が狭いため設置出来ず、踏切に警備員を配置してはいたが、それでも強引に横断してしまう。
そして、それが原因で急停車した車内において、スマホでゲームをしていたOLが転倒して(つり革や手すりに掴まっていないので転ぶのは当たり前だが…)、首の骨を折って死亡するという事故が発生した。同時に運転室/車掌室の前のドア付近に乗車していた数人の乗客が将棋倒しになり怪我を負っている。
死亡したOLの場合は不運な事故として処理されたが、将棋倒しになった方は簡単に処理されなかった。
「ああ、あの事故ね。覚えてるわ」
「俺も電車に乗るときは必ず手すりに掴まってますけど、確かにゲームしながら他人に寄っかかってるヤツが結構いますよね」
「ま、その人にとっては怪我するより、ゲームの方が大事なんじゃない?」
珍しく奈美さんが嫌味をいってるよぉ~。やっぱり今日は機嫌悪そうだなぁ。
「で、ここからが問題なんですよ」
事故にあった車輛は東急7700系3両編成。
この車輛は登場時には非冷房だったため、後年屋根にクーラーユニットを“無理矢理”乗せた(笑)。
そして、不運にも運転席直後のドア部分にはつり革どころか、天井からの手すりすら付けられなかった。
今回の将棋倒しはこの手すりがなかったことが一因とされ、省令によりドア付近には手すりつり革を規定数以上取り付けることとなった。
「そういうことね。大体わかったわ。で?」
「東急の車輛管理部では、最優先で田園都市線の6扉車を4扉車に置換えている。元東急車輛(現在の総合車輛製作所)では、山手線用E235系の新造が急ピッチで行われているので、今から発注しても年間1編成しか製造出来ない。ってことです」
「そう…、他の事業者も発注してるから余裕はないわよね」
「東急テクノシステムがありますが、そこも目一杯。しかも7700系に手すりを付けるのはほぼ不可能と判りました」
「どうして?」
「クーラーユニット乗せた時に屋根材の骨格を変更していたので、手すりを取り付ける強度がないそうです」
「……は? それって…クーラー落ちてきても不思議じゃない…ってこと?」
「…、!…あ、お答えできません。あしからず…」
「…こわ…」
しかし、東急池上/多摩川線用18m車を早急に5編成も確保しなくてはならなくなった。
喧々囂々の激論の末、車輛管理部は究極の策を考えついた。
「…そういうこと…」
「です。東京メトロはアルミ車の03系。でも東武20000系は東急車輛とアルナ工機で作られたステンレス製車体。20070系はVVVF制御なので、保安装置とTASCを取り付ければ1000系と同じ日比谷線を走っていたので、車体には特に加工が必要ありません」
「でもマスコンは2ハンドルだから、運転台機器は交換が必要よね?」
「そのくらいなら東急テクノシステムで対応できるそうです。要は新車の製造が無理というだけで…」
東急車輛製なので、図面や交換部品のストックもあるから総合車輛製作所から調達できるのだ。実際、東武6050系を634型(スカイツリートレイン)への改造は、総合車輛製作所で行われている。
「とりあえず20070系なら短時間で改造ができるので、まず譲渡を受けて7700系を置換え、残りは20000系を改造する。そっちは東急1000系1500番代と同じ手法で7000系の足回りと同等品にするそうです」
「へえ、じゃあ東武20070系は1500番代と同じ線路を再び走ることになるわけね」
「東急1000系1030番代として、東武20000系は1050番代になるそうです」
「ややこしいわね。東急ももう5桁以上使えるようにしてほしいわね(東急では車輛管理システムや運行システムの制約により、車輛番号は4桁しか使えません)」
「最初の譲渡が来月で、改造に2ヶ月かかるので雪が谷に来るのは3ヶ月後ですね」
「今度はどんなラッピングになるのか楽しみね。池上/多摩川線ならやっぱり“緑”がメインでしょうね」
奈美さんは“東武”が絡んだおかげで、機嫌が良くなってくれました。
よかったよかった…?
<第3話 終わり>
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