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第4話

「新座メトロ_02」

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 あの衝撃の走行写真から早3ヶ月。
 編集長から「新座メトロ」の報道記者会見に参加する様に命じられた。
 いよいよ「新座メトロ」が開通する! 何だかワクワクしてきた。今度こそ俺らしい記事に仕上げてみせるぞ! …と、意気込んでいたら…、
 「あれ? 路線名が? 変わってる??」
 「そうなんだよ。何でも関係者の間でもめにもめて、先月やっと正式に決定したのが…
 『彩の国ライン』
 …だそうだ」

 「…彩の国…ライン? 何ですかそりゃ?」
 あまりの変わり様に驚いていいのかすら判らない(汗)

 「まあ、そう言うな。推進委員会でも落としどころに苦労したんだよ」
 『彩の国』とういのは、埼玉県が何かにつけて使用する愛称で、とうとう路線名にまでなってしまった。
 「あ、ちなみにカメラマンは長津田くんが担当する。当日は早いから直行して、どこかで落ち合ってくれ。それから、池上! 早く脱稿しろよ! 印刷所だってCTP出力する時間がかかるんだよ!」
 編集長は言うだけ言うと、他の編集者に別の指示を行う。
 …あれ? 奈美さんじゃないのか…残念だなぁ~…などと、暗い顔してたら、
 「あからさまに嫌な顔するなよ! 奈美ちゃんは売れっ子カメラマン。数時間で終わる記者会見に、毎回の様には呼べないよ」
 「そりゃそうでしょう。でも…」
 「あのな、こっちの都合ばかりじゃ頼めないんだよ。既に予定が入ってたんだから仕方ないだろ」
 「ああ、そうだったんですか」
 あんなに走行写真うれしそうに見せてたから、絶対来るもんだと思ってた。
 考えたら、うち(会社)の社員じゃないから無理いえないよな…。
 ? でもうち(会社)の仕事って、時給にしたらいくらぐらい貰ってるんだろ? …などと、失礼な疑問が頭をよぎった。

 記者会見会場は「新座中央駅」だ。今回の開業区間では真ん中の駅なのに、色々ともめた「新座市」にある駅はここだけだからやむを得ないのだろう。しかも、終着駅の「東所沢駅」はまだ駅舎が完成していないらしい。
 …なのに、完成記者会見? というのがなおさら判らない。完成してないんでしょ?(笑)

 雑誌関連の報道関係者は、駅コンコースでは、建設の経緯やロケーションの解説と駅施設の説明。その後、ホームに移動して運行計画やホーム施設の説明が行われた。
 ホームでの解説が終わると、車輛が入ってきた。
 中には事業主の来賓が既に乗っていて、ドアの開閉は行わず、そのまま東所沢駅に向けて発車して行った。
 …あれ? 奈美さんがいる。
 なんと、来賓の中に奈美さんの姿があった。良くみれば他にも有名な写真家や鉄道評論家などの顔が…。
 なるほど、今回うち(会社)の依頼を受けられなかったのはこういう事か。
 本当に売れてるんですね…奈美さん(涙)。

 記者会見では、直前まで線名が変更されていることを知らされていなかったため、質疑応答では主にその経緯についての説明を、多くの記者から受けることになった。
 そもそも県央部から離れ過ぎているのに、『彩の国』と言えるのか?
 という意見が多かった。その時になって、追加発表という形で今後の延伸計画の資料が配布された。
 最初から配っていればいいものを…と思っていたら、今日はあくまで『暫定開業』なので、今後の延伸計画についての発表は後日行おうと考えていたらしい。
 もし、説明に窮するようなら簡潔な資料の配布でお茶を濁そうということらしい。
 …全く濁せなかったが(笑)

 東所沢から先は通称「浦所うらとこバイパス」直下を西進し、航空公園駅を通り、西武新宿線と平行して新所沢駅まで向かい、そこから北上して関越自動車道三芳パーキング付近に三芳駅(仮称)。北東に転進して川越街道(旧道)直下を東進し、新座団地、志木駅までの弓なりコースを辿る。
 第二期工事は取り敢えず志木駅までの開通が予定されていて、その後は県庁所在地の浦和まで延伸する計画があるそうだ。
 このような県営として大規模な鉄道建設の事業計画に発展した為、名称を『新座メトロ』から『彩の国ライン』に拡大したという説明だった。
 …大泉から東所沢までの建設に10年以上かかっている。一体全線開通まで何10年かかるのだろうか(笑)。
 まあ、どちらにしてもしばらくは都営車しか走らないそうなので、あまり興味がなかった。けどね。

 一般招待客は東所沢駅の完成が遅れていることを理由に、しかも車輛に関しては既存の都営車であることから試乗は見送られた。
 会見終了後は報道関係者が最寄りの駅まで移動しようにも、一度に移動出来る程のキャパシティある手段がない。
 そのため主催者は西武バスをチャーターして東大泉まで送ってくれた。
 来る時は各自バラバラだったので特に問題はなかったが、さすがに100人以上の報道関係者が一度に移動するとなると、近隣に迷惑がかかるからこの対応は助かった。
 それでも何か歯切れの悪い記者会見だった。と、皆思っていたようだ。

 『彩の国ライン』何だか妙な名前だね。やっぱり(笑)

 で、翌日。奈美さんが不機嫌オーラMAXで編集部にやってきた。
 「編集長。あの『彩の国ライン』ってなんでしょうね。いったい誰の為に作ったんでしょうね」
 奈美さんの剣幕に編集長がたじろいでいる。
 「だいたい、新座市が新座駅に繋げたいと言っていたのは、新宿駅などの都心部で『新座』行きという表示で、大江戸線が走ることに価値を見出していたんです」
 「そうだよね。だけど事業主が県なのに『新座』としたのがまずかったのかもね」
 いあ、編集長。多分奈美さんが言いたいのそんなことじゃないと思いますよ~。とは、絶対に横やり入れられないけどね(笑)
 奈美さんが言ってる『価値』とは、例えば東武東上線に地下鉄が乗り入れて来る接続駅は「和光市」だが、その少し前までは「大和町駅」という駅名で、島式ホームが1面の小さな駅だった。近隣には「ホンダ技研」の工場ぐらいしかなく、乗降客のほとんどはホンダ関係者だった。
 しかし、地下鉄乗入れの為に駅の全てを改良し、島式ホームが2面になって内側に地下鉄、外側に東武東上線が発着する巨大な駅に変身した。
 駅前は急速に整備されて、民間デベロッパーなどによる開発が進む。
 さらに急行停車駅となったために乗降客はうなぎ登り、地下鉄が有楽町線に加えて副都心線が開通した事により、現在の乗降客は東武全体で3位の16万人/日強となっている。
 だが、それ以上に銀座や新宿、渋谷、果ては横浜で『和光市』行きの電車が頻繁に走ることが重要なのだ。和光市は東上線の駅でも川越に並ぶ知名度を得たのだから。
 「新座メトロ」で新座市が本当に狙っていたのは、『新座』行き電車が都内を走ることだったのだ。
 しかし東所沢に固執した県や都交通局に対して、『新座中央駅』の設置を条件付けたのは、市内に駅を作る事が目的だっただけだ。
 線名で『新座』という名を付けようとした事とは全く別の理由なのである。
 行き先がだめなら、せめて各駅に『新座』という文字が入れば良しと考えたのだ。
 志木駅までの延伸を予測されていたが、それはあくまで末端部分での乗降客の確保と新座団地へのアクセスを兼ねようとしただけである。
 実際に志木まで延伸する運びになったら、駅名は『新座志木駅』になっていただろう。
 それほど行政にとっては、地名の知名度は重要なのである。

 けれど、新座団地から志木駅間が行く行くは建設されるかも。という状態であっても、最終的な終点が浦和では全く意味をなさないのだ。

 そして、奈美さんは県が全てをぶち壊した! とお怒りなのである。
 いあ~久しぶりに『鉄おた奈美さん』を拝見させていただきました。

 「あ~すっきりした!」
 と、机にダウンしてる編集長を放置して、奈美さんがやってきた。
 「もう『彩の国ライン』はいいわ。元から食指が湧かなかったけど…これでもう興味なくなったわ」
 「げ、奈美さんが鉄道を見放した?」
 「違うわよ~。電車自体に罪はないもの。ただ、今後どこに延伸していこうが対して興味がないということ」
 なんか晴れ晴れしてます。
 「?でも、そうなるといずれは『彩の国ラインA100系』とか言って、新型車輛がデビューするんですかね?」
 「(ぴくっ!)」奈美さんの見えない猫耳が動いた。
 「まあ、大江戸線と共通運用になるのであまりデザインとかは変えられないでしょうね」
 「そんなこと判んないじゃない!」
 奈美さんが擁護してる。
 「例えば埼玉高速2000系は東京メトロ9000系と共通化してるけど、かなりデザインが違うでしょ?」
 「はぁ、確かに…」
 「それに東武50070型も東京メトロ10000系と元は同じ日立のA-Trainがベースになってるけど、形もドアも窓も全然違うでしょ?」
 「なるほど」
 「だから、新車を作るまでは放置決定!」
 軽やかに宣言しちゃったよ。それほど嫌な目にあったんですね、あの後。
 俺が返答出来ずに苦笑いしてると…、
 「ところで! 新情報聞く?」
 奈美さんの邪悪な瞳が光った。…怖い…。
 「なんとね。新座市は志木駅とひばりケ丘を結ぶモノレールを模索してるんだって…さ」
 「え~、メトロがだめならモノレール? それガセネタじゃないんですか?」
 「ガセも何も“模索”中って言ったでしょ」
 新座市も奈美さんもこっちがだめならあっちって、展開早すぎるでしょ~(汗)。
    <第4話 終わり>
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