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第5話

「銚子ライトリンク_01」

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 「まるでヨーロッパの港みたいですね」
 俺は思った。本当にここがヨーロッパなら…と。
 「………。」
 「この石畳や桟橋なんか、日本とは全く雰囲気が違いますね」
 「………。」
 「舟の形もしゃれてるし…」
 「………。」
 …奈美さんはずっと無言だ。
 「どうかしましたか?」
 「…なのに、どうして…」
 低い声で何かを呟いた。
 「何か言いましたか? 奈美さん」
 「なんで久しぶりの休みなのに、どうしてあなたとこんなところで…」
 奈美さんは涙を流して喜ん<パッカァ~ン!>
 「喜んでいる様に見えるぅ? 私がぁ? しかも涙流してェ?」
 俺の心の中読まないでくださ~い。
 その上で怒るのやめてぇ~。

 ここは浦安にある「ねずみ~シー」
 そりゃぁヨーロッパの港町をテーマにしてるから、日本っぽくないのは当然だ。
 今,俺たちは大きな入り江を模した港の桟橋にいて、水面をすべるゴンドラと言われる舟を眺めていた。

 「今度の取材の予行練習になるからって言うから…来てみれば…ここだなんて…」
 「え~、だってこのゴチャついた感じ、港っぽくないですか?」
 「あのね、港の取材に行くんじゃないの。ライトレールなのよ!」
 「でも、ほら、今回のライトレールの舞台は港がメインだし…」
 「それなら富山にでも行ってくるわよ! ついでに金沢でのんびりできるし…」
 奈美さんは怒り心頭を通り越して、悔し涙まで流してる。
 そんなに俺と一緒の「ねずみ~シー」は嫌ですか(涙)。
 「富山だと予算的に無理なので、同じ千葉県、しかも近場なのでここがいいかなぁ…と思ったんですが…」
 「………。」
 奈美さん、半眼で睨まないでください~。
 「こ、ここだってメトロが走ってるし、港の風景と合わせて撮れば…」
 「………。」
 「奈美さん?」
 「バカにしてる? 私のこと…」
 やばっ! 奈美さん三白眼になった(汗)
 「そんな滅相も無い。俺は奈美さんを尊敬こそすれ、バカになんて出来るわけありませんよ!」
 「じゃぁ、今の“メトロが走ってる”とか、さっきの“ヨーロッパっぽい港”だとか…あれは何?」
 「だって今度の取材対象って、周りはまだまだ工事中でまともな写真撮れないかな? って思ったんですが…」
 「…ここの風景を勝手に撮って、イメージ写真とかで使えってこと?」
 「やっぱダメですか…ね?」
 奈美さんは呆れてアゴが落ちた。
 「ダメ以前の問題でしょ! 読者に『こんな感じです~』とか、記事に書くの?」
 「『いずれはこんなヨーロッパのような港町が日本にも誕生するかも知れません』とか、書こうと思ってたんですけど…」
 「あっきれた! 大体『ヨーロッパのような』って、あなたはヨーロッパ行った事あるの?」
 「いえ~、ないですけど。DVDや雑誌で見た感じでは…」
 <ボカッ! ボカッ!>
 「う~痛いぃ~、本当に石頭なんだからぁ~ 外も中味も!」
 奈美さん叩いておいてそれはないですよぉ~(涙)
 「DVDや本で紹介されているところなんか、ごく一部なのよ。行ってみれば判るけど、日本と違うのはゴミがないというぐらいで、寂れた感じは日本の比じゃないのよ」
 「え~、それは偏見では?」
 あ、目が凄く細くなってる。
 「そんなに言うなら行って来たら? 今からでも!」
 「ひぇ~そんな無茶な。偏見って言ったのは取り消します。ごめんなさい~」
 「とにかく! こんなところじゃロケハンにもロケトレにもなりません! だから今日はこれで終わり! 良いわね?」
 「はい~、失礼しました(涙)」
 「ということで!」
 あれ? 奈美さん声が心なしか…弾んでる?
 と、思っていたらスタスタ歩き出した。
 やっぱり相当怒ってるんじゃ?
 「何してんの! 早く!」
 「へ?」
 奈美さんがキョロキョロして、何か探し出した。
 「『へ?』じゃないでしょ! 何から乗る?」
 「………。は?」
 「もう! じれったいなぁ! じゃあ手近なとこからね!」
 と言って、俺の手を引っ張る。
 え? どういうこと?
 「あ、あの? 奈美さん?」
 「あ~、懐かしい~、最近すっかりご無沙汰だったから、お初のアトラクションも増えてて…」
 あれれ? 人格変わってない?
 「奈美さん。こういうところ…もしかして好きなんですか?」
 「当たり前じゃない。女の子はみんな遊園地が大好きよ!」
 女の“子”?
 「それに私は特にテーマパーク大好きっ娘だから、学生の時は月1で来てたわ」
 “娘”?
 「は、ははは…<ぺちっ!>」
 「今、なんかものすごく失礼な波動を感じたわ」
 と言って、俺のおでこをペチペチ叩く。
 「ごめんなさい。俺なんかよりずっと筋金入りだったんですね」
 「まぁその事はもういいわ。今日は休みだから仕事はやめにして、遊び倒すからね!」
 …奈美さん絶好調です。

 後で聞いたところ、卒業後は友達とのスケジュールが合わず、この2年程は「ねずみ~シー」どころか遊園地にすら行けず、相当ストレスが溜まっていたとのこと。
 当初の予定は果たせなかったけど、奈美さんの英気が養われたのなら良しとしよう。あ、でも当初の目的(奈美さんと「ねずみ~シー」で…)は、見事に叶ったのか…ハハハ。
 その上! 一休みで入ったカフェでは奈美さんの本音が聞けたし…
 「さすがに“ぼっち”で来る訳に行かないし…ね」
 とグチっていた。
 「アラサーになって、はしゃげなくもなったしね~」
 「そんなこと! 奈美さんはとてもアラサーに見えないし、バイタリティ溢れてるし…」
 「それって“ガキ”ってことじゃない」
 また半眼で睨む。
 「そうじゃなくて、たまにはストレス発散した方が良いですよ。俺で良ければ何時でも付き合いますから」
 奈美さんが瞳を一杯に開いて俺を見つめる。
 あれ? 今なんかとんでもない事言った?
 と、思っていたのも束の間。今度は蛇が蛙を狙っているようなジットリした邪悪な目付きで…
 「確かに聞いたわよ。何時でもいいのね。約束だからね」
 勝ち誇ったような、朗らかな笑顔で奈美さんが『約束』と言ってくれた。
 あ~、天にも昇る…?…あれ?
 “付き合う”がスッポリ抜けてる気が…まあ…いいか。

 結局、閉園まで全開で「ねずみ~シー」を満喫した奈美さんは、
 「明日は早いからタクシーで帰るね~。今日は楽しかったわ。ありがとう!」
 と、言って「ねずみ~シー」から東上線の志木までタクシーで帰って行きました。
 「………。」
 え~と。俺はどうしたらいいんだろう…。
 「せめて、有楽町ぐらいまで一緒に帰れると思っていたんだけど…」
 ところで、俺自宅まで帰れるの? 今から…。

 そして1日おいて、本日、取材に向かおうとしている俺に編集長が宣った。
 「あ、奈美ちゃんには急遽ライトレールの取材で、富山に行ってもらったから今日の取材は一人で行っていて」
 「え~、一人でですか?」
 「で、ですかじゃないだろ。もう一人でも取材できるよな」
 「そりゃそうですが…」
 不満げな俺の顔を見てニヤニヤしながら、
 「奈美ちゃんが言ってたぞ。そろそろソロで行っても大丈夫だ。ってね」
 「奈美さん、今日編集部に来たんですか?」
 時間の都合で直接東京駅に行くからって言って、総武快速線の地下ホームで待ち合わせることになってたんだけど…。
 「いあ、丁度ほくほく線の撮影で、犀潟にいるって聞いて、だったらそのまま富山行ってくれ~って頼んだ」
 あ~それでか。本当は朝一番の上越新幹線で東京に戻ってくるつもりだったんだ。
 そ、それを…。
 「それに北陸新幹線のカットも増やしたかったから、そのまま金沢2泊で手を打ってもらったよ」
 うらめしい顔つきで編集長を睨んでたら、付け足しやがった。
 おかげで気分はどん底。足取りは重く、編集部を後にした。

 こういう日に限って、すっきりと晴れ渡ってるんだよなぁ~。
    <つづく>
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