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第6話

「メトロミステリートレイン_01」

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 「なんだか“いまさら感”が強いんだけど…」
 奈美さんが全く興味なさそうに話すので、俺は意外に感じた。
 「そうは言っても、久しぶりに大規模なイベントですよ?」
 「そうねえ…」
 何が気に喰わないのか判らないけど、奈美さんは広報資料をつまらなそうにペラペラめくって呟いた。
 「奈美さんなら感激すると思ったんですけど?」
 「感激してるわよ。あの東京メトロがイベントに使える特別編成を造ったんだもん」
 奈美さんが言うのは、日比谷線用18m車03系8両編成を、20m車7両編成に置換える為に新造された13000系の特別編成のことだ。
 既に半数以上が13000系に置き換わっているが、ここにきて何故か東京メトロはわざわざ“イベントにも対応できる”と詠って、仕様の異なる編成を造った。
 そしてその記念すべき最初のイベントが!

 『ミステリートレイン』

 「だからね。その誰に説明してるのか判らないノリは、可哀想な人だと思われるよ」
 「…奈美さん…その冷静すぎるツッコミはとっても…痛いです(涙)」
 「で、なんでそんなありきたりなイベントやるのか判らないのよ…」
 「…奈美さん…その冷めた評論は主催者に言ってください(汗)」
 奈美さんが言いたい事は、実はよく理解してます。何故なら“ミステリー”と言っても、列車を走らせる以上は関係各省庁への届け出が必要だから、ルートは勿論のこと運行計画はキッチリと事前報告する必要があるのです。
 そこまで念入りに計画されたら、リークされない様にするのは事実上不可能。
 つまり、走る前には試験走行も行うので、ルートはちっともミステリーにならないのです。
 あ~、身もフタもないね。
 だから、奈美さんは「こんな使い古されたイベントなんて…」と言いたいのですよ。きっと。

 「あれ? でも今回は広報資料に、大まかなルートはおろか、集合時刻と解散時刻しか書いてないですね?」
 「どうせ後で通知されるんじゃない?」
 「でも巻末に申込書がついていて、報道関係は1社3人までって指定されてますよ?」
 「へえ。で?」
 「いあ、だからこの申込書を送った時点で参加になるらしいですよ」
 「追加資料はないってこと? だって日時や集合場所はどうするの?」
 奈美さんが不信感丸出しで、俺の肩越しに広報資料を覗き込んだ。
 ほのかに甘い香りが漂ってきて、俺は平常心を保てなくなりそうだ。
 もっとも奈美さんは全く気付いていない。その無防備さがとっても危険ですよぉ~奈美さん(汗汗汗)
 「ううむ」
 「いあ、探偵ドラマみたいにわざわざ声に出して言わなくても良いですけど…」
 「これは事件です」
 「……奈美さん…」
 「まあ良いわ、行ってみれば判るわよね」
 「へ? 行くんですか?」
 「もちろん。誰も行かないなんて言ってないでしょ。仕事だもん」
 うぉぉぉぉぉぉぉ~今までヤキモキしてた俺は何?
 奈美さんが行かないのかと意気消沈してたのにぃ~~
 やっぱり、このひと難しいです(涙)
 まあ、一緒に行かれるならいいか…(なんだか、毎回このノリだなぁ~)

 集合場所は東武の北千住駅(北千住は東武の他、JR常磐線、東京メトロ千代田線、東京メトロ日比谷線〔東武線の3階〕、筑波エクスプレスが通っている)地平ホームにある2番線だ。
 なんで東京メトロのイベントなのに東武のホームを使うのかというと、日比谷線と東武スカイツリーラインは共同使用駅になっているためなのだが、日比谷線用の3階ホームでは発着頻度が高過ぎてイベント用の車輛を停車させておけないのだろう。
 だからといって、地平ホームに日比谷線の車輛が入るのは滅多にないので、これだけでもサプライズになるだろう。
 とはいえ、このホームも平日は浅草~北千住間の区間運転される普通列車が頻繁に到着するのだが、休日の今日はダイヤにも余裕があるようだ。
 ホーム北端の特急専用ホーム入口そばに、イベント参加者用のカウンターが設置されていた。
 応募フォームの半券を渡して、乗車証を受け取る。IDカードになっていて、報道関係者と一般参加者でストラップの色が違っているが、イベント中は一切区別されないとのこと。
 ただし、各種ミニイベント時にグループ別けすることはあると説明された。
 俺と奈美さんのストラップは緑で、IDカードは俺が青の縁取り、奈美さんがピンクだった。
 一般参加者は事前応募の抽選で選ばれた親子30組60人。報道関係者は25組70人。他は特別招待客20人ほど。イベントの参加者は総勢150人ほどになる。
 ホームでは、決められたエリア内にいればOKなので、俺と奈美さんは多分先頭車だと思われる1号車付近でイベント開始を待っていた。
 「ここに到着するなら、反対側のホームの方が写真撮り易いわね」
 と、奈美さんがコンコースに向かって歩き出そうとする。
 「わ、わ、奈美さんどこ行く気ですか? 列車がきたらすぐ発車しちゃいますよぉ」
 俺が必死に引き止めると不承不承、
 「わかってるわよぉ~」
 といいつつ、全く判ってなかった様に口を尖らせた。
 『お待たせ致しました。ミステリートレインイベントを開催いたします。間もなく列車がまいりますので、係員の指示に従ってご乗車ください』
 ハンドマイクを持ったスタッフが参加者に告知すると、皆一様に浅草方向を覗き込む。
 そのリアクションはコメディっぽくて、思わず吹き出しそうになった。
 かくゆう俺もその一人だったけど(笑)
 果たしてやってきた列車は…
 「あれ? 03系? しかも初期の幕車??」
 (※“幕車”というのは、行先表示器が字幕の巻取式のことを指し、現在は管理や変更が容易なLED表示が主流となっている)
 「変ね。あれでイベントする気なの?」
 「おかしいですね。広報資料には03系のことなど全く書いてなかったのに…」
 そして、乗務員が車内から3箇所のドアコックを操作し、手で扉をこじ開けた。
 各扉から約50人ずつが乗り込み、すぐに発車した。
 「え? 越谷方面に向かいましたね」
 「そりゃあ、地平ホームからじゃ日比谷線に入れないもの。どこかで折り返すんじゃない?」
 奈美さんは特に驚いた様子も無く言うが、手が…というか、指がフルフルしてる。
 あ、そうか。写真撮りたいんだきっと(笑)
 「奈美さん。本当は写真撮りたくてウズウズしてないですか?」
 「フっ、ふふふ。ふはははは。だって、ね。この状況ぉ~、車内からじゃどうしようもないでしょぉぉぉ!」
 奈美さんが何を叫んでいるのか、やっと最近になって俺にも判る様になってきた。
 今、俺たちが乗っている03系は、普段なら走らない東武スカイツリーライン複々線区間の外側、いわゆる急行線を走っているのだ。
 日比谷線直通の地下鉄運用は東武スカイツリーライン内では各停(東武では“普通”と呼ぶ)運用で複々線では内側の緩行線しか走らない。
 外側の急行線は100系スペーシアや200系りょうもう、半蔵門線直通の地下鉄運用車輛の東京メトロ8000系・08系、東急5000系・8500系、東武50050型・30000系などが走る。
 沿線では休日とあって写真撮影のファンが多々見受けられたが、事前情報が流れていなかったこともあり、みんな目を見開いてこちらを眺めている。
 03系が外側を走っているだけでなく、途中では普通運用の03系との並走も実現。
 駅でこの光景を目にした人は、何事かと驚いている様子が伺えた。
 と、いうことで。その列車に乗っている奈美さんは写真が撮れなくてフルフルするしかなかったのだ。
 発車から約10分。車内にアナウンスが流れた。
 『間もなく竹ノ塚駅に到着いたします。けれど、駅では停まらずに引き込み線まで進行し、折り返して東京メトロ竹ノ塚車庫に入場いたします。折返しの準備に約5分程かかりますが、参加者の皆様は車内でそのままお待ちください』
 「竹ノ塚車庫に行くんですね。道理で…」
 「? 何? 道理でどうしたの?」
 「奈美さん判ってるくせに…そんなに俺を試したいんですか?」
 今までのお返しとばかりに、調子に乗って言ってから墓穴を掘った事に気付いた。
 あ~だからいつも奈美さんにやりこまれるんじゃん。俺。(涙)
 「ま、いいわ。言いたい事は多分同じだから」
 あれ? 奈美さんが意外と簡単に折れましたね。でもこういう時が一番注意が必要です。
 そして、03系は参加者を乗せたまま東京メトロ竹ノ塚車庫に入って行った。
    <つづく>
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