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第5話
「銚子ライトリンク_03」
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やはり一人での取材は、気分的に乗らない。
奈美さんとの取材は、ボコボコ叩かれるけどやっぱり楽しい。しかも、叩かれても痛いのは奈美さんの方だし。…などと、しょうもないことを考えていたら、奈美さんからメールが入った。
げ、どこかで見てるのかも(汗)…。
明後日の午前中に銚子入りするから、午前中に取材を終わらせる様に…とある。
へ? 着く前に取材終わらせたら、奈美さんは何の為に銚子に来るの?
…う~む。相変わらず…掴めない女だ…(汗)。
まあ、奈美さんに会えるなら何でも良いか(笑)。
俄然やる気が出て来た。…俺って単純で現金な性格してるねぇ。
二日目は曇り空だった。雨は降らなさそうだけど、気分を沈ませるには充分な重い色をしている。
まあ、俺には利かないけどねぇ~。スキップでもしたいくらいだよ(笑)。
さて、仕事仕事。
本日は『銚子ライトリンク線』の沿線を辿るつもりだ。
昨日と同じ様に銚子駅東の跨線橋を渡って『(仮)銚子駅』に向かう。
途中、あの『銚子電鉄』の間借りホームの小屋を何気なく見てみると…。
「あ、そうか! 風車小屋なんだ」
変な形だなとは思っていたものの、この銚子市は年間を通じて比較的風が強いため、風力発電所の大きな風車が34基も設置されている。その象徴として、風車小屋を模したらしい。
「銚子ライトリンク」普通なら富山みたいに「ライトレール」とするところを、敢えて「リンク(Link)」としたところに社長以下全社一丸となっての願いを強く感じる。
昨日の社長さんのお話しで、従来の『銚子電鉄』では、辛うじて犬吠埼灯台というメジャーなスポットがあったとはいえ、500mほど県道を歩かなくてはならず、電車で来ても灯台までバスで行く人も多い。ただ近隣の宿泊施設や犬吠埼マリンパークなどに行く人には、それほど不便ではない。乗降客が多いので、駅自体は銚子電鉄の中では一番豪華な造りになっている。
しかし車で来た場合は県道から50m程入った所にあるため、あまり目立たないのが残念だった。
その他に沿線で集客できるスポットからは微量に外れていて、ほとんどの観光客はバスを使う。
つまり「観光スポットとのリンケージが整っていなかった」と言っていた。
それが『銚子ライトリンク』では、七つ池周辺は勿論だがその他の観光スポットに積極的にアクセスできるようなルートを選定している。
ヒゲタ醤油の方の工場や、屏風ヶ浦付近のショッピングモール、『銚子ドーバーライン』、千葉科学大学、外川漁港など鉄道の方がアクセスし易くなるようにし、いずれは市内の自家用車の通行量を減らそうという目的もある。行政との足並みを揃えて、市内全般の改良を試みて行くのだ。
そういう諸々の「リンク」を実現することを目標とした。
『銚子ライトリンク線』はまだ本数が少ないものの、パターン化されたダイヤの効果からか、乗客が徐々に増えている。
最終的には5分サイクルでの運転が可能なので、ラッシュにも充分対応できるそうだ。
VVVF制御特有のノイズを奏でながら、電車が動き出した。
仮設の銚子駅を出ると、ヒゲタ醤油工場先まではJR総武本線の横を仮設線路で進む。JR線が高架された後は、直下に移設されることになっているそうだ。
醤油工場先で左にカーブして住宅地を縫う様に走って、畑に出る。
しばらくそのまま進んで行くと、大規模な造成地区に入る。ここがニュータウンの入口付近で、七つ池先まで続く。
一際背の高いフェンスで囲まれた部分を過ぎると、七つ池駅に到着した。
ニュータウンが完成した時はここがランドマークになるらしい。そのために駅も3面4線の緩急接続すら可能な大きな設備になっている。
特徴的なのが外回りと内回りの間に設置されているホームで、高さを1200mmにして旧型電車の乗降に対応している。
「銚子駅」と「外川漁港駅」も全線完成時には、3面4線の駅になるそうだ。
他にも「犬吠駅」と「千葉科学大学前駅」、「本銚子駅」、「屏風ヶ浦駅」は3面2線になり、外内線の間に高床ホームが設置されて、旧型車輛の停車が可能になるのだ。
駅周辺はまだまだ工事中で、県道に出る通路ぐらいしかないが、線路自体は完成していて軌道は芝で覆われているので、ヨーロッパのLRT風の景観だ。
この駅を出ると七つ池を大きく廻る様に左にカーブして行く。その先に車庫が建設されて、『銚子ライトリンク線』が全線開通した折には、ここが全ての車輛のメンテナンスも行う一大拠点になる。
車庫の横を通り過ぎると緩やかに左右にカーブしながら、林の中を通り過ぎる。
南下してすぐに屏風ヶ浦付近のショッピングモール近くに行き当たる。
国道124号線を渡ると「屏風ヶ浦駅」。ここからは再び左にカーブして、『銚子ドーバーライン』と並走する。
この『銚子ドーバーライン』というのは、屏風ヶ浦がフランスとイギリス国境のドーバー海峡に似ていて「東洋のドーバー」と呼ばれていたことから付けられた名称だ。
ただ、道路からは屏風ヶ浦の上を通るから見えないし、防風林で海がほとんど見えない。
ところが『銚子ライトリンク線』は道路の山側の一段高くなった、盛土の上を走っている。
これは脇道との交差で踏切を設置しないための措置で、車は盛土の下のトンネルを通って山側に入って行くのだ。
おかげで防風林の上から太平洋が一望できるため、沿線では一番の車窓を楽しめる。
ところで、さっきから電車はいくつかの電停を通過していた。
乗降客が少ない所は『電停』として、『駅』の扱いはされていないそうだ。
乗降客がいない場合はそのまま通過する。ちなみに乗車する場合は、ホーム入口の簡易改札機にICカードをタッチするか、ホームにある『乗車』ボタンを押すと列車に情報が届き、停車することになっている。
ここで親切なのが、待ち合わせの場合はタッチも『乗車』ボタンも押さなければ、ホームにいても列車は通過措置を取るのだ。
ただし、ダイヤより早くは通過する事ができないので、遅延が無い場合は大抵停車することになるが、その場合はドアの開閉は行われない。
右にカーブすると間もなく『千葉科学大学前駅』を通り、現在の終点である『外川漁港駅』に到着する。
駅舎は風に強い形状の幕式屋根になっていて、天井が高く、明るくて広々してる。今は半分しか使用していないが、全面的に使用開始されるときっと賑わうスポットになるだろう。
全線を通して、明るくてきれいで近代的な『銚子ライトリンク』は乗っているだけでも楽しかった。まもなく旧『銚子電鉄線』の改良工事が始まるが、同じ様に明るくてきれいな駅になれば利用者は激増すると思われる。
帰りは旧『銚子電鉄線』で銚子駅に戻った。やはり、線路自体の老朽化はいかんともしがたく、確かにこれでは「日常の足」にはできないだろうと思った。
その意味でも『銚子ライトリンク』との早い一体化が望まれる。
観光用の鉄道ならいざしらず、日常の足となる鉄道は『安全安定安心』輸送が使命だからだ。
……。
さて、これだけの草稿をどうやって一晩でまとめるか…。
午後一番に奈美さんと銚子駅で落ち合うことになっているので、朝のラッシュ直後に社長さんとのアポを取った。嫌な顔(電話なので見えないが…)せずに即決してくれたところが、偉大だと思う。ラッシュで疲れてるだろうに……、と俺が言える立場じゃないよね(笑)
「で? 感触は?」
奈美さんは開口一番、端折り過ぎの質問を繰り出して来た。
「え~と、せめて主語と述語を…」
「ざ~っと、目を通しただけだけど…。…」
(ごくりっ!)」俺はツバを飲み込んだ。さぁ~~来るぞ、くるぞぉ~。
「『銚子ライトリンク』の方はしつこいくらい細かく取材してるけど…、『銚子電鉄』の方はおざなりね…」
奈美さんの目が怖いぃ~。
「ま、いいかな? 後は写真で何とかなりそうね」
「俺の素人写真使うんですか?」
「あい? あなたは素人なんですか? 『鉄道ライフ』ってほんとは同人誌だったりして?」
「あ、そういう意味じゃなくて。プロカメラマンがいるのに俺の趣味に毛が生えた程度の写真でいいのかなぁ? …と」
「そうは言っても、あなたも学生時代からカメラ抱えて写真撮ってたんでしょ?」
「そりゃそうですけど…」
「それに雑誌の編集者ってプロよね? 遊びじゃないんだから…」
「はいぃ」
「だったら、それ使うの当たり前じゃない」
奈美さんはさも当たり前だというけど…、俺が言ってるのは技量の問題なんだけど(涙)。
「じゃあ、これで取材は完了ね」
「はい。社長さんにも軽く目を通して頂きましたので、今度は原稿が上がってからのチェックで良いそうです」
「そ? じゃあ急いで帰りましょ!!」
駅務室を出るなり、奈美さんはカメラバッグをしっかり抱えて走り出した。
「まだ発車まで20分くらいありますよぉ! そんなに慌てなくても…」
「何言ってんの! あと5分しかないわよ! 急いで!」
跨線橋の上を構わず走って行く。
「え? あの電車に乗るんですか? あれ、千葉止まりの電車ですよ?」
「だから急いでるのよ! いいから早くっ!」
訳判んないですよ~。15時10分発の成田線に乗るつもりだったのに…。
とにかく、何とか14時57分の総武本線の千葉行き普通電車に駆け込んだ。
「はあ、はあ。奈美さん~なんで、こんなに慌てて帰るんですか?」
「次の電車じゃ間に合わないじゃない!」
何の事??
「千葉からモノレールに乗って、千葉みなとまで行くからね」
「はい? 全く意味が判らないんですが…」
奈美さんが悲壮な表情で俺を睨む。器用ですね。
「いつでもいいって言ったよね。この前」
「は? 一体なんの…ええ? もしかして『ねずみ~シー』ですかぁ?」
「もちろんよ! この電車なら『アフター6』にギリギリ間に合うのよ」
…(あんぐり)…でも、奈美さんは屈託の無い笑顔で応えた。余程うれしいんだろう…。
「あ、でも編集部に戻らないと…」
「ああ、それはさっき編集長に帰りがけに港も取材してきます~時間的に遅くなるので、今日は直帰させてあげてね~って言っておいたわ」
「それで編集長はOKしたんですか? あの編集長が?」
泊まりの取材の場合は、最終日に必ず編集部に戻ることになっている。そんなに簡単にOKだすのかな?」
「言っといただけで、OKじゃないの?」
奈美さんシレッとそういうこと言わないでぇ~。明日の言い訳考えておかなきゃ…(涙)。
「とにかく! 『港』には行くんだからウソじゃないよね。しかもヨーロッパ(風)の…」
「……。」
「ほら、元気出して! あ、『アフター6』って行った事ないでしょ? 凄いのよ~色々と」
「はぁ…、確かに昼間しか行った事ありませんけど…」
奈美さんはもう完全に『ねずみ~シー』モードで、それ以外の事は受け付けてくれないでしょう。
まあ、いいや。奈美さんと一緒だしぃ(涙)。
こうして、『ねずみ~シー』に始まった『銚子ライトリンク』の取材は、『ねずみ~シー』で終わった。
<第5話 おわり>
奈美さんとの取材は、ボコボコ叩かれるけどやっぱり楽しい。しかも、叩かれても痛いのは奈美さんの方だし。…などと、しょうもないことを考えていたら、奈美さんからメールが入った。
げ、どこかで見てるのかも(汗)…。
明後日の午前中に銚子入りするから、午前中に取材を終わらせる様に…とある。
へ? 着く前に取材終わらせたら、奈美さんは何の為に銚子に来るの?
…う~む。相変わらず…掴めない女だ…(汗)。
まあ、奈美さんに会えるなら何でも良いか(笑)。
俄然やる気が出て来た。…俺って単純で現金な性格してるねぇ。
二日目は曇り空だった。雨は降らなさそうだけど、気分を沈ませるには充分な重い色をしている。
まあ、俺には利かないけどねぇ~。スキップでもしたいくらいだよ(笑)。
さて、仕事仕事。
本日は『銚子ライトリンク線』の沿線を辿るつもりだ。
昨日と同じ様に銚子駅東の跨線橋を渡って『(仮)銚子駅』に向かう。
途中、あの『銚子電鉄』の間借りホームの小屋を何気なく見てみると…。
「あ、そうか! 風車小屋なんだ」
変な形だなとは思っていたものの、この銚子市は年間を通じて比較的風が強いため、風力発電所の大きな風車が34基も設置されている。その象徴として、風車小屋を模したらしい。
「銚子ライトリンク」普通なら富山みたいに「ライトレール」とするところを、敢えて「リンク(Link)」としたところに社長以下全社一丸となっての願いを強く感じる。
昨日の社長さんのお話しで、従来の『銚子電鉄』では、辛うじて犬吠埼灯台というメジャーなスポットがあったとはいえ、500mほど県道を歩かなくてはならず、電車で来ても灯台までバスで行く人も多い。ただ近隣の宿泊施設や犬吠埼マリンパークなどに行く人には、それほど不便ではない。乗降客が多いので、駅自体は銚子電鉄の中では一番豪華な造りになっている。
しかし車で来た場合は県道から50m程入った所にあるため、あまり目立たないのが残念だった。
その他に沿線で集客できるスポットからは微量に外れていて、ほとんどの観光客はバスを使う。
つまり「観光スポットとのリンケージが整っていなかった」と言っていた。
それが『銚子ライトリンク』では、七つ池周辺は勿論だがその他の観光スポットに積極的にアクセスできるようなルートを選定している。
ヒゲタ醤油の方の工場や、屏風ヶ浦付近のショッピングモール、『銚子ドーバーライン』、千葉科学大学、外川漁港など鉄道の方がアクセスし易くなるようにし、いずれは市内の自家用車の通行量を減らそうという目的もある。行政との足並みを揃えて、市内全般の改良を試みて行くのだ。
そういう諸々の「リンク」を実現することを目標とした。
『銚子ライトリンク線』はまだ本数が少ないものの、パターン化されたダイヤの効果からか、乗客が徐々に増えている。
最終的には5分サイクルでの運転が可能なので、ラッシュにも充分対応できるそうだ。
VVVF制御特有のノイズを奏でながら、電車が動き出した。
仮設の銚子駅を出ると、ヒゲタ醤油工場先まではJR総武本線の横を仮設線路で進む。JR線が高架された後は、直下に移設されることになっているそうだ。
醤油工場先で左にカーブして住宅地を縫う様に走って、畑に出る。
しばらくそのまま進んで行くと、大規模な造成地区に入る。ここがニュータウンの入口付近で、七つ池先まで続く。
一際背の高いフェンスで囲まれた部分を過ぎると、七つ池駅に到着した。
ニュータウンが完成した時はここがランドマークになるらしい。そのために駅も3面4線の緩急接続すら可能な大きな設備になっている。
特徴的なのが外回りと内回りの間に設置されているホームで、高さを1200mmにして旧型電車の乗降に対応している。
「銚子駅」と「外川漁港駅」も全線完成時には、3面4線の駅になるそうだ。
他にも「犬吠駅」と「千葉科学大学前駅」、「本銚子駅」、「屏風ヶ浦駅」は3面2線になり、外内線の間に高床ホームが設置されて、旧型車輛の停車が可能になるのだ。
駅周辺はまだまだ工事中で、県道に出る通路ぐらいしかないが、線路自体は完成していて軌道は芝で覆われているので、ヨーロッパのLRT風の景観だ。
この駅を出ると七つ池を大きく廻る様に左にカーブして行く。その先に車庫が建設されて、『銚子ライトリンク線』が全線開通した折には、ここが全ての車輛のメンテナンスも行う一大拠点になる。
車庫の横を通り過ぎると緩やかに左右にカーブしながら、林の中を通り過ぎる。
南下してすぐに屏風ヶ浦付近のショッピングモール近くに行き当たる。
国道124号線を渡ると「屏風ヶ浦駅」。ここからは再び左にカーブして、『銚子ドーバーライン』と並走する。
この『銚子ドーバーライン』というのは、屏風ヶ浦がフランスとイギリス国境のドーバー海峡に似ていて「東洋のドーバー」と呼ばれていたことから付けられた名称だ。
ただ、道路からは屏風ヶ浦の上を通るから見えないし、防風林で海がほとんど見えない。
ところが『銚子ライトリンク線』は道路の山側の一段高くなった、盛土の上を走っている。
これは脇道との交差で踏切を設置しないための措置で、車は盛土の下のトンネルを通って山側に入って行くのだ。
おかげで防風林の上から太平洋が一望できるため、沿線では一番の車窓を楽しめる。
ところで、さっきから電車はいくつかの電停を通過していた。
乗降客が少ない所は『電停』として、『駅』の扱いはされていないそうだ。
乗降客がいない場合はそのまま通過する。ちなみに乗車する場合は、ホーム入口の簡易改札機にICカードをタッチするか、ホームにある『乗車』ボタンを押すと列車に情報が届き、停車することになっている。
ここで親切なのが、待ち合わせの場合はタッチも『乗車』ボタンも押さなければ、ホームにいても列車は通過措置を取るのだ。
ただし、ダイヤより早くは通過する事ができないので、遅延が無い場合は大抵停車することになるが、その場合はドアの開閉は行われない。
右にカーブすると間もなく『千葉科学大学前駅』を通り、現在の終点である『外川漁港駅』に到着する。
駅舎は風に強い形状の幕式屋根になっていて、天井が高く、明るくて広々してる。今は半分しか使用していないが、全面的に使用開始されるときっと賑わうスポットになるだろう。
全線を通して、明るくてきれいで近代的な『銚子ライトリンク』は乗っているだけでも楽しかった。まもなく旧『銚子電鉄線』の改良工事が始まるが、同じ様に明るくてきれいな駅になれば利用者は激増すると思われる。
帰りは旧『銚子電鉄線』で銚子駅に戻った。やはり、線路自体の老朽化はいかんともしがたく、確かにこれでは「日常の足」にはできないだろうと思った。
その意味でも『銚子ライトリンク』との早い一体化が望まれる。
観光用の鉄道ならいざしらず、日常の足となる鉄道は『安全安定安心』輸送が使命だからだ。
……。
さて、これだけの草稿をどうやって一晩でまとめるか…。
午後一番に奈美さんと銚子駅で落ち合うことになっているので、朝のラッシュ直後に社長さんとのアポを取った。嫌な顔(電話なので見えないが…)せずに即決してくれたところが、偉大だと思う。ラッシュで疲れてるだろうに……、と俺が言える立場じゃないよね(笑)
「で? 感触は?」
奈美さんは開口一番、端折り過ぎの質問を繰り出して来た。
「え~と、せめて主語と述語を…」
「ざ~っと、目を通しただけだけど…。…」
(ごくりっ!)」俺はツバを飲み込んだ。さぁ~~来るぞ、くるぞぉ~。
「『銚子ライトリンク』の方はしつこいくらい細かく取材してるけど…、『銚子電鉄』の方はおざなりね…」
奈美さんの目が怖いぃ~。
「ま、いいかな? 後は写真で何とかなりそうね」
「俺の素人写真使うんですか?」
「あい? あなたは素人なんですか? 『鉄道ライフ』ってほんとは同人誌だったりして?」
「あ、そういう意味じゃなくて。プロカメラマンがいるのに俺の趣味に毛が生えた程度の写真でいいのかなぁ? …と」
「そうは言っても、あなたも学生時代からカメラ抱えて写真撮ってたんでしょ?」
「そりゃそうですけど…」
「それに雑誌の編集者ってプロよね? 遊びじゃないんだから…」
「はいぃ」
「だったら、それ使うの当たり前じゃない」
奈美さんはさも当たり前だというけど…、俺が言ってるのは技量の問題なんだけど(涙)。
「じゃあ、これで取材は完了ね」
「はい。社長さんにも軽く目を通して頂きましたので、今度は原稿が上がってからのチェックで良いそうです」
「そ? じゃあ急いで帰りましょ!!」
駅務室を出るなり、奈美さんはカメラバッグをしっかり抱えて走り出した。
「まだ発車まで20分くらいありますよぉ! そんなに慌てなくても…」
「何言ってんの! あと5分しかないわよ! 急いで!」
跨線橋の上を構わず走って行く。
「え? あの電車に乗るんですか? あれ、千葉止まりの電車ですよ?」
「だから急いでるのよ! いいから早くっ!」
訳判んないですよ~。15時10分発の成田線に乗るつもりだったのに…。
とにかく、何とか14時57分の総武本線の千葉行き普通電車に駆け込んだ。
「はあ、はあ。奈美さん~なんで、こんなに慌てて帰るんですか?」
「次の電車じゃ間に合わないじゃない!」
何の事??
「千葉からモノレールに乗って、千葉みなとまで行くからね」
「はい? 全く意味が判らないんですが…」
奈美さんが悲壮な表情で俺を睨む。器用ですね。
「いつでもいいって言ったよね。この前」
「は? 一体なんの…ええ? もしかして『ねずみ~シー』ですかぁ?」
「もちろんよ! この電車なら『アフター6』にギリギリ間に合うのよ」
…(あんぐり)…でも、奈美さんは屈託の無い笑顔で応えた。余程うれしいんだろう…。
「あ、でも編集部に戻らないと…」
「ああ、それはさっき編集長に帰りがけに港も取材してきます~時間的に遅くなるので、今日は直帰させてあげてね~って言っておいたわ」
「それで編集長はOKしたんですか? あの編集長が?」
泊まりの取材の場合は、最終日に必ず編集部に戻ることになっている。そんなに簡単にOKだすのかな?」
「言っといただけで、OKじゃないの?」
奈美さんシレッとそういうこと言わないでぇ~。明日の言い訳考えておかなきゃ…(涙)。
「とにかく! 『港』には行くんだからウソじゃないよね。しかもヨーロッパ(風)の…」
「……。」
「ほら、元気出して! あ、『アフター6』って行った事ないでしょ? 凄いのよ~色々と」
「はぁ…、確かに昼間しか行った事ありませんけど…」
奈美さんはもう完全に『ねずみ~シー』モードで、それ以外の事は受け付けてくれないでしょう。
まあ、いいや。奈美さんと一緒だしぃ(涙)。
こうして、『ねずみ~シー』に始まった『銚子ライトリンク』の取材は、『ねずみ~シー』で終わった。
<第5話 おわり>
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